告発に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
神社本庁の不正土地取引で東京地裁が最高幹部の「背任」の“真実相当性”を認定! 雑誌「皇室」、自販機利権など神社本庁は疑惑だらけ
神社本庁公式HPより
宗教法人「神社本庁」といえば、全国約8万社の神社を統括する一方、日本会議らと連携して、戦前回帰や憲法改正などの極右運動の中心をとなっている組織。3月18日、東京地裁でその神社本庁の不正を認定する注目の判決があった。
判決があったのは、神社本庁から懲戒解雇などの処分を受けた同庁の元総合研究部長・稲貴夫氏らが処分を不当として地位確認を求めた訴訟。地裁は懲戒処分を無効と判断し、神社本庁側に賃金相当額の支払いを命じた。
言っておくが、この裁判はただの労務トラブルをめぐるものではない。本サイトでも何度も取り上げてきたが、この訴訟の背景には、神社本庁のトップ・田中恆清総長やその盟友である神道政治連盟の打田文博会長による、不正土地取引の問題がある。
神社本庁は2015年、所有する土地を関係の深い不動産会社に異常な安値で売却、転売させて大儲けさせているのだが、この土地取引について、稲氏が抗議し、田中総長や内田会長らによる背任行為だとする文書を配布。これに対して、神社本庁が稲氏を懲戒解雇、教化広報部長の瀬尾芳也氏を降格処分としたのである。
ところが、今回、東京地裁の伊藤由紀子裁判長は、売却価格は相当低かったと指摘。田中総長や打田会長が背任を行ったと信じる相当の理由があったとし、稲氏の行為は「解雇に相当するとは言えない」と結論付け、瀬尾氏への処分も無効と判断した。
判決を受けて記者会見した稲氏は「主張が全面的に認められた」と話したが、実際、この判決は、神社本庁の土地取引が不正なものであり、背景に田中総長や打田会長による背任行為があったと認めたも同然の判決と言っていいだろう。
しかし、この土地取引問題は神社本庁とその幹部が抱える闇の氷山の一角でしかない。今回、改めて不正土地取引発覚の経緯と詳細を振り返りながら、神社本庁とその幹部たちの背後にちらつくさまざまな利権、疑惑を検証したい。
問題の不動産不正取引疑惑は、2015年、神奈川県川崎市にある神社本庁所有の職員用宿舎が、東京都新宿区の不動産会社「ディンプル・インターナショナル」(以下、ディンプル社)へ1億8400万円で売却されたことに端を発するものだ。
ディンプル社は売買契約日当日に職舎を別の不動産会社A社へ約2億1000万円で転売し、A社も翌年、大手ハウスメーカーB社にさらなる高額で転売。この“不動産転がし”によって職舎は最終的に3億円超の値がついた。つまり、神社本庁からしてみれば、全国の神社や氏子らの“浄財”からなるはずの不動産を、売れる値段のたった6割の値段で手放したわけだ。
神社本庁の不動産を異常な安値で購入し即日転売した会社と神社本庁の関係
しかも、この不動産取引をめぐっては、極めて不可解な事実と、きな臭い関係性が浮上した。
疑惑の中枢は、神社本庁の不動産を転売してその差額約3000万円を儲けたとみられるディンプル社の存在だ。
実は、神社本庁の内規では、「やむを得ない事情」により基本財産を売却する際、原則として3者以上の競争入札に付す必要があるなど、厳しい制約がある。ところが、問題の宿舎は入札にかけられず、ディンプル社に随意契約で売却され、買値を大きく上回る額で即日転売されていたのである。
また、ディンプル社は過去に神社本庁の別の不動産取引にも関わっており、その際もやはり即日転売で儲けを出していたという情報もあった。
どう見ても、神社本庁関係者と組んで転売ビジネスをやっていたとしか思えないのだが、調べていくと、案の定、本庁幹部との特別な関係が浮かび上がってきた。
ディンプル社は新宿の小さな会社で、社長の高橋恒雄氏は、「日本メディア・ミックス」(以下、メディアミックス社)という別会社も経営しており、2社は同じマンションの一室に同居している。メディアミックス社は、神社本庁の外郭団体「日本文化興隆財団」が手がける季刊誌「皇室 Our Imperial Family」の定期購読などを担当。その手数料などで利益を上げていた。
つまり、神社本庁の不動産取引の中抜きで3000万円の利益を上げた会社は、神社本庁の外郭団体が仕切っている雑誌の販売を請け負っている会社と事実上、一体だったというわけだ。
さらに調べていくと、この2社の社長である高橋氏は“神社界の大物”と20年来の付き合いがある昵懇の仲であったことがわかった。
その大物とは、今回の判決文で、神社本庁のトップ・田中恆清総長とともに“背任を行ったと信じる相当の理由があった”とされた、神道政治連盟会長の打田文博氏だった。打田会長は、閣僚や官邸幹部、自民党幹部なとどとも直接面会を重ねており、神社界と政界をつなげるキーマンの一人と目されている人物。現在は本庁の役職に就いていないが、前述の日本文化興隆財団の理事のひとりであり、か つて同財団が所有する渋谷の土地を売却し、ディンプル社を通じて代々木にビルを購入した際にも財団側から関わっていたとされる。
また、打田氏は「神社本庁総長・田中総長と“一心同体”」「本庁内で多大な影響力を持つ、事実上の2トップ」(神社関係者)といわれているのだが、その田中総長は2010年の就任以降、2期6年で退任するのが通例であるところを異例の4期目に入るなど、長らく実権を握ってきた存在。
こうしたことから、今回の安値売却も神社本庁の幹部がかかわった意図的な背任行為であり、ディンプル社に流れた巨額の金の一部が、還流しているのではないかという見方が浮上してきたのだ。
神社本庁幹部の背任行為を告発し、解雇された職員が裁判で立証したこと
そんななか、事態の深刻さを察知した神社本庁の元総合研究部長・稲貴夫氏が「神社本庁の正常化」を呼びかける檄文を当時の小串和夫副総長や理事に手渡すなど、不正疑惑を正す行動を始めた。そして、2017年6月にはこの不動産不正売却疑惑を「ダイヤモンド・オンライン」がスクープ。2億円近い資産が闇に消えた不可解な事実が明るみに出たのである。
ところが、これに対する神社本庁の姿勢は不誠実極まりないものだった。神社本庁理事の國分正明・元文部事務次官を委員長とする調査委員会を発足させたのだが、同年7月、“職舎の売却は妥当だった”と結論づける報告書を提出したのだ。
このすぐ後には、調査委員会の責任者である小串副総長が辞任。小串氏はこの件についてメディアの取材には応じない姿勢とされるが、「田中総長に対する“抗議”としての辞任ではないか」(複数の神社界関係者)との見方も強い。
しかし、これを受けた田中総長を中心とする役員会は「調査報告書で全てが片付いたと言わんばかり」(神社本庁関係者)に振る舞い、同年8月、疑惑の解明と神社界の信頼回復を訴えた前述の稲氏を「神社界全体の信用を著しく傷つけた」等の理由で懲戒免職に。また、田中総長らからディンプル社と契約するよう圧力をかけられたと主張している瀬尾芳也・元教化広報部長も減給降格に処したのである。
明らかに内部からの不正追及の動きに対する“報復”だが、稲・瀬尾両氏はこの処分を不服として、2017年10月、神社本庁を相手取り、処分無効を求めて東京地裁へ提訴した。
裁判のなかで、田中総長と打田会長の周辺が、ディンプル社への職舎売却をゴリ押ししていたことが明かされていく。
たとえば、瀬尾氏は問題の不動産取引に財務部長として関わっていたのだが、当初、職舎をできる限り高い値段で売ろうとの考えから、大手信託銀行に仲介を頼んで複数の買い手を見つける方針を検討していた。ところが、打田会長の“腹心”とされる当時の総務部長から「銀行や不動産屋が仲介する方法では2、3年先になる。別の方法を考えるように」と指示されていたことを明らかにした。
さらに、瀬尾氏は打田会長の元部下である当時の総務課長からも「ディンプルの高橋社長が怒っている。早くしてくださいよ」と急かされたこと、のちになってこの総務課長は、ディンプル社と契約させようとする発言は打田会長からの伝言であったことを、認めたということも明かされている。
“黒い人脈”報道の福田富昭レスリング協会会長も神社本庁の利権に関与か
つまり、今回の東京地裁による神社本庁の全面敗訴判決は、稲氏らが法廷でこうした不正土地取引の実態を証言し、田中総長、内田会長らの背任行為の立証を積み重ねてきた結果なのだ。
しかし、疑惑解明はこれで終わりではない。というのも、今回の判決はあくまで、稲氏らの不当解雇を無効とする根拠として、「背任行為があったと信じるに足る理由があった」とされただけで、その背任行為の全貌が明らかになったわけではないし、田中総長も打田会長もなんら責任をとっていないからだ。
実は、田中総長は、稲氏らが訴訟を起こした約10カ月後の2018年9月、神社本庁の役員会で、辞意を表明したと報道されたが、その後、すぐに撤回していまも総長の椅子に居座っている。
この辞意撤回は、辞任をきっかけに不動産問題だけでなく、数々の疑惑がドミノ式にクローズアップされ、責任が波及していくと周囲に説得されたからではないかといわれている。
実際、不動産不正取引は神社本庁をめぐる疑惑の氷山の一角でしかない。神社本庁の外郭団体・日本文化興隆財団をめぐる季刊「皇室」の販売利権もその一つ。前述したように、神社本庁の不動産を格安で購入して大儲けしたディンプル社の事務所には、同じ高橋氏が代表者をつとめるメディアミックス社が入っており、同社は、季刊「皇室」の販売を代行していた。販売代行といっても、神社関係への定期購読や直販を担当しているだけで、販売利益の一部がほぼ何の苦労もなく同社に流れる仕組みになっていたのである。
そして、問題なのは、このメディアミックス社の創業者で大株主だった人物が。2018年の2月まで、「皇室」の事実上の発行元・日本文化興隆財団の理事を務めていたことだった。
その人物とは、福田富昭氏。パワハラ問題で大揺れに揺れた日本レスリング協会の会長をつとめている“アマレスリング界のドン”として有名な人物で、2018年4月には「週刊文春」(文藝春秋)で山口組元最高幹部との“黒い人脈”を追及された。
こんな人物が神社本庁の外郭団体の理事を務めていたというだけでも驚きだが、福田氏はしかも、自分の息のかかった会社でその団体の発行する雑誌の直販を独占して利益をえていたのだ。これは、利益相反に当たらないのか。
外郭団体発行の「皇室」、自動販売機利権、さらには政治家の関与も?
福田氏の神社ビジネスへの関与疑惑はほかにもある。たとえば、日本文化興隆財団が近年力を入れている事業のひとつに「鎮守の森を守る自動販売機」なるものがあるのだが、財団のホームページで事業協力企業の筆頭に記されているのが、飲料自販機大手のジャパンビバレッジ。ジャパンビバレッジといえば、「クイズに不正解だと有給休暇を与えない」なるブラックパワハラメール問題で世間を騒がせたこともあったが、福田氏はジャパンビバレッジの前身会社時代から一時期まで社長を務めていた。
また、財団の別の自販機設置事業では、ジャパンビバレッジでなく、メディアミックス社が絡んで利益を上げているケースもあるようだ。
神社本庁の不動産取引もこうした福田氏と神社本庁の関係がはじまりではないかともいわれている。
「福田さんと、メディアミックス社の現社長で神社本庁の不動産を格安で購入したディンプル社の高橋社長は、日大レスリング部の先輩後輩の関係。高橋社長が神社本庁に食い込めたのも、福田氏がきっかけではないかといわれています」(財団関係者)
そして、この福田氏もまた、神道政治連盟の打田文博会長と非常に親しい間柄だったといわれているのだ。
「田中総長と打田さん、福田さん、高橋社長の四者は完全に“グループ”として見られていました。打田さんや田中総長に利益が還流していたとは考えたくありませんが、少なくともメディアミックス社やディンプル社のビジネスの後ろ盾になっていたのは間違いないのでは」(前出・財団関係者)
さらに気になるのは、打田会長の政界人脈だ。打田会長の率いる神道政治連盟の国会議員部門である神道政治連盟国会議員懇談会の会長を安倍晋三・前首相が務めているが、打田会長はほかにも政界に幅広い人脈を持っているとされる。
「財団は2018年の7月に悲願だった公益財団法人の認定を受けたのですが、その後ろ盾となったのが、その年、福田さんの後任として財団の新理事に就任した、元官房副長官の石原信雄さん。その石原さんを財団に引き込んだのが、やはり打田さんだったと言われていて、そこには現役政治家の関与もあったのではないかと噂されています」(前出・財団関係者)
いずれにしても、神社本庁をめぐる闇はまだまだ深く、疑惑や不正は何一つ解明されていない。今回の判決は評価すべきだが、これで疑惑を幕引きさせてはならない。元幹部職員と神社本庁との裁判の行方も含め、メディアはこの問題を徹底追及していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2021.03.21 10:31
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