古市憲寿の芥川賞候補作「無名の小説を参考」に山田詠美ら選考委員が「それってありな訳」と猛批判

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参考文献となった小説の作者は「盗作」を否定し古市を擁護

 しかし、審査員たちも選評でことわっているように、今回の古市の行為は「パクリ」や「盗作」とまでは言えないだろう。

 古市の「百の夜は跳ねて」と、参考文献の「天空の絵描きたち」を読み比べてみると、たしかに、同じ窓ガラス清掃員をモチーフとしており、清掃作業のディテール、作業ゴンドラのなかでの異性清掃員とのエロいやりとり、そして先輩清掃員の作業中の転落死など、似ているエピソードはいくつもある。

 しかし、その主題はまったく違う。参考文献の「天空の絵描きたち」は、窓ガラス清掃員の女性が主人公で、ストレートにガラス清掃員たちの労働そのものや搾取の実態を描いた、いわば現代のプロレタリア小説だが、古市の「百の夜は跳ねて」は窓ガラス清掃員の青年と彼がガラス清掃した高級タワーマンションに住む老女の交流が主軸で、タワマンの外と内という対比が強調されている。

 分量で言っても、似ている部分の割合はそう多くなく、その似ている部分も文章表現そのものが酷似しているわけではない。

 そして、何より参考文献となった「天空の絵描きたち」作者の木村友祐氏が、パクリを否定し、古市を擁護しているのだ。木村氏はツイッターで、「古市が人の小説を翻案した」という声にこう反応した。

〈違いますよう。古市さんが窓拭きに興味をもち、取材依頼があり、応じました。窓拭きの達人を紹介しました。古市さんはその取材をもとに書いてます。〉
〈窓拭きが落ちて死ぬ、というエピソードなどの細部が似るのは、同じその達人から取材したからだし、実際に死ぬ人がいるから、仕方ないのです〉

 つまり、古市は木村氏にネタ元である窓拭き作業員を紹介してもらっており、窓拭きのディテールが似ているのは取材源が同じだから、ということらしい。

 では、なぜ選考委員たちは古市の「参考文献」の使い方を問題にしたのか。選考委員たちが事情を知らず、「パクリ」と勘違いしたわけではない。

 前述したように、山田詠美も吉田修一も「盗作」や「剽窃」でないことは断っていたし、川上弘美はわざわざ「たとえ木村さんご自身が「参考」にすることを了解していたとしても」という注釈を加えていた。おそらく選考委員たちは、編集者から取材の経緯を教えてもらっていたはずだ。にもかかわらず、ここまで、選考委員が厳しい声をあげたのは、古市の行為が「小説家としての倫理」を著しく欠くものだったからだろう。

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