組み体操でまた事故! 事故の背後に安倍政権と文科省の「正義」「感動」押し付け教育が

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 本書を読みながら、「ジャスティス・ハイ」という言葉を思い出した。「創作時事用語コンテスト2014」で優秀賞を獲った言葉なのだが、そのネーミングセンスに膝を打った記憶がある。その意味は「不祥事を起こした人を徹底的に叩くことで気持ち良くなり、歯止めが効かなくなっている状態」。今の世相を巧妙に掬いとったこの「ハイ」に、もう一つのベクトルを加えたくなる。つまり、自分達が行なっている行為が「ジャスティス」だと信じ込んで「ハイ」になっている状態において、そこで生じるネガティブな事象についてどこまでも鈍感になる、という意味だ。

「『感動』や『子どものため』という眩い教育目標は、そこに潜む多大なリスクを見えなくさせる」と内田氏は言う。教育課程での事故は「非教育的だからこそ生じるのではなく、まさに教育的だから生じるものである」と指摘するが、「感動」「気合」「我慢」「涙」という不安定な言葉を自信満々に連呼することで気付かないようにしてきた面々は「何でもかんでも危険視するな」と避ける。教育社会学者である内田氏は、ジャスティスでハイになるのではなく、エビデンス(科学的根拠)をクールに指し示し、問い質す。

「感動」を高め合うように巨大化・高層化が進む組体操、なんと人間ピラミッドは中学校で最大10段、高校で最大11段という記録が出ているというから驚く。組体操は、文科省が定める学習指導要領に記載がないが、記載がないからこそ、「感動」の巨大化に歯止めがかからない。人間が組んだ不安定な土台に、教師や親からの勢い任せの不安定な言葉が飛び交う。例えば12年度には、後遺症が残るほどの事故が小学校で3件ほど生じているし、過去には「8段ピラミッドの最下段にいた生徒が、ピラミッドの崩壊により頸髄損傷を負い全身不随に至ったケース」すらあったというのに、その規模は年々膨らんでいく。

 内田氏の分析によれば、10段ピラミッド(約151人)で、最も負担の大きい生徒では約200キロもの負荷がかかることになる。これは「歪みのない基本形にしたがって算出したものであり、ピラミッドが歪みをもった瞬間」にはその値はもっと大きくなるという。仲間と一緒にひとつのことをやり遂げたくなる(やり遂げさせたくなる)気持ちも分かるが、誰か一人でもバランスを崩せば、その仲間たち全員がとてつもない危機に晒されるのである。

 厚生労働省「労働安全衛生規則」を引っ張り出しているのが切実だ。2メートル以上の場所で労働作業を行う場合には、安全確保のために「囲い、手すり、覆い等」を設ける規則が定められている。大人に対してこのような規則が強固に設けられているというのに、子どもの組体操は、体一つで自分の背丈の数倍もの高さに立たされるのである。組体操の成功法を指南する書籍を出している関西体育授業研究会の事務局担当者は、あるウェブマガジンのインタビューに「何度も失敗を重ねながら、何度も練習を積んでいくからこそ、その信頼がうまれていくのです。保護者たちも、子どもたちのその努力を知っているからこそ、感動してくれるのです。そして、私たち教員も、その過程を知っているからこそ、ピラミッドが完成したとき目に涙を浮かべるのです」と、事故のリスクを感動で乗り越えるのが組体操である、とその狙いを明かしてしまっている。

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