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元祖『問題のあるレストラン』? 70年代に中山千夏主演で超過激な“フェミドラマ”が
アイヌをとりあげた続編にしてもテーマは非常に政治的だった。ただし主演の中山千夏は昨年刊行された著書『芸能人の帽子』(講談社)のなかで、《主張もしくはプロパガンダというわけではなく、作者の政治的な関心がモチーフとしてちりばめられている風だった》と書いている。
中山によれば『お荷物小荷物』の筋書きはあってなきがごときものだったらしい。舞台もどこの街かは不明。運送業という設定も男社会を象徴するだけで、何ら筋書きに意味を持たなかった。一家が仕事に従事する姿もほとんどなく、日常の描写も食事シーン以外には皆無。ようするにこのドラマはリアリティというものを欠いた観念劇であったと、中山は振り返る。
「脱ドラマ」とも呼ばれたこのドラマはもともと、当時大ヒットしていたTBSの石井ふく子プロデューサーによる『肝っ玉かあさん』『ありがとう』といった東京の下町を舞台にしたホームドラマに対抗するべく、山内久司いわく「風土性を消して、現実から少し浮き上がった観念性のドラマ」として企画されたものだった。
観念劇、脱ドラマなどというと何だか難しいものをイメージしてしまうが、このドラマは先述のとおり高い視聴率を記録し、スタッフのあいだでは「3歳児から新左翼まで楽しめる番組」と冗談めかして言われるほど幅広い層から人気を集めた。じつはこの手の観念的な前衛劇はいまでもCMではおなじみで、《白犬を家長とするソフトバンクのCMは、その最高級品だろう》(前掲書)と言われると腑に落ちる。結局、観念的前衛劇の手法は基本的にテレビというメディアと相性が良く、視聴者にもウケがいいらしい。
中山にとって『お荷物小荷物』はもっともヒットした出演ドラマであり、あれほど楽しく収獲の大きかった番組はないという。共演者・スタッフとも毎回収録のたびに飲み会を開き、後年にいたっても付き合いは続いた。完全な男社会であった当時のテレビ業界に常に違和感を抱いていた中山だが、『お荷物小荷物』の制作現場や関係者との会合は例外的に男たちと対等に議論できる場であったようだ。
■異色の元芸能人による異色の自伝
さて、中山千夏といえば、30代以上であればアニメ『じゃりン子チエ』の主人公・チエの、50代以上であればNHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』のハカセの声優として記憶している人も多いだろう。だが若い世代には名前を言われてもピンと来ないかもしれない。それも無理からぬことで、中山は70年代後半以降、テレビを含め芸能活動から徐々にフェードアウトしている。その前後から文筆業あるいは政治活動に力を入れるようになり、作家としては小説やエッセイ、絵本など幅広い著作を手がけ、直木賞にも3度候補にのぼった。政治の世界にはウーマンリブ運動を手始めに政治団体「革新自由連合」に参加、1980年より参院議員を1期6年務めている。
先に引用した『芸能人の帽子』は、子役として出発し、舞台からテレビに進出してからはドラマ以外にもワイドショーの司会者・歌手としても人気を集めた中山の芸能人時代を振り返った自伝的著作である。本書が異色なのは、当時雑誌に掲載された自分についての記事を通して「芸能人・中山千夏」をできるかぎり客観的に振り返っていることだ。
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