放射脳といわれる人の心の中は? 芥川賞作家が原発事故の自主避難体験を小説に

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「すばる」(集英社)2015年1月号

 福島第一原発の事故は、多くの人生を狂わせた。放射能汚染によって避難区域に指定された人たちだけではなく、汚染が深刻であるにもかかわらず区域外であるために、保障も受けられないまま自主避難している人々も数多い。さらには、避難先で孤立したり、避難した人と避難しない人のあいだに軋轢が生まれるなど、問題は深刻さを増している。

 だが、こうした避難をめぐる問題は福島県だけではなく、放射能汚染が心配される、あらゆる地域で起こっている。そして、ここでも自主避難を決めた人たちは「無闇に怖がるだけの放射脳だ」「被災地に住んでるわけでもないのに被災者ぶっている」などと中傷されることも多い。

 そんななか、自主避難者にスポットを当てた作品が発表された。著者は、『蛇にピアス』(集英社)で芥川賞を最年少受賞した金原ひとみだ。

 その作品は、「すばる」(集英社)1月号に掲載された長編小説「持たざる者」。金原自身、震災発生時は妊娠中で、1号機が水素爆発を起こしたすぐ後に娘を連れて東京から岡山県に避難。岡山で出産した後はフランスに移住している。「持たざる者」は、そんな彼女の経験が反映された作品である。

 物語は、デザイナーの修人と、その友人・千鶴、千鶴の妹・エリナ、エリナの知人・朱里と、4人の語り部によって綴られていく。まず最初に登場する修人は、久々に再会した千鶴に、原発事故後、いかに自分の生活が変容していったかを語り出す。

 修人はあらゆる分野のデザインやディレクションを手がけ、テレビの密着取材の依頼が入るほどの売れっ子デザイナーで、〈結婚一年目、妻は妊娠中、仕事もバブル、とにかく毎日が充実していた〉。やがて妻・香奈は娘の遥を出産するが、そんなときに地震が起こる。当初は原発が電源喪失したと聞いても、東京に住む自分たちは大丈夫だろうと構えていたが、そこに東京電力に勤める友人から電話がかかってくる。

「二か月の娘だけでも西に逃がしたほうがいい」「一週間でも、二週間でも、数日だけでも、とにかく逃げられるだけ逃げた方がいい」

 この忠告を受けて、修人は香奈と遥だけは避難させようと決め、新幹線のチケットと神戸のホテルを予約する。が、香奈は頑として首を縦に振らず、自分ひとりで赤ん坊を連れて知らない場所に行くのは無理だと言い張る。このときはじめて、これまでうまくいってきたはずの修人と香奈との関係にひびが生じる。

〈香奈は遥が被曝する事が怖くないんだろうかという疑問がぐるぐると胸に渦巻き始める。被曝の危険性なんて僕にも分からない。どんな被害が出るのかも、はっきりとは分からない。(中略)何故彼女は、遥と二人でホテルに泊まる事をそこまで嫌がるのだろう。話しながら僕は、香奈の事が理解できないもやもやとした気持ちが肥大していくのを感じていた〉

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