安田純平「日本政府が動いたと思われるのは避けたかった」の真意! 安倍政権は本当に救出に動いていたのか

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安田純平 著『囚われのイラク』現代人文社 刊

解放されたジャーナリストの安田純平氏に対する自己責任論バッシング。そのグロテスクな発想や意識の低さについては先日の記事でも批判したが、安田氏がトルコ南部からイスタンブールに向かう機内のインタビューで、日本政府の不作為を示唆したことをめぐって、さらにバッシングがエスカレートしている。

 安田氏はNHKの直撃に「トルコ政府側に引き渡されるとすぐに日本大使館に引き渡されると。そうなると、あたかも日本政府が何か動いて解放されたかのように思う人がおそらくいるんじゃないかと。それだけは避けたかったので、ああいう形の解放のされ方というのは望まない解放のされ方だったということがありまして」と語ったのだが、この発言について、ネトウヨ連中がまたぞろ「この人、本当に恩知らず」「何様のつもり? 呆れ果てました」「日本に帰ってくるんじゃない」などと噛み付いているのだ。

 いや、ネトウヨだけではない。キャスターの安藤優子も26日の『直撃LIVE グッディ!』 (フジテレビ)で、「これはいま、安田さんの言葉でおっしゃるべきことなのかなって私は疑問に思います。実際に政府が動いたわけですから。救出の全体のシナリオは日本政府が情報入手した上で立てて、そこにカタールやトルコが協力した見方もある」と批判した。さらに、自民党の和田政宗参院議員も今朝Twitterとブログで安田氏のこのコメントを引用し「皆様はどう思われるだろうか」などと安田氏へのバッシングを扇動している。

 しかし、「日本政府が動いて解放されたと思われたくない」というこの安田氏のコメントは、本当に「恩知らず」で「言うべきことではなかった」のか。安藤の言うように、救出は「日本政府が動いた」結果で、「全体のシナリオは日本政府が立てた」ものだったのか。

 たしかに、安田氏が解放された直後から、日本政府はやたら自分たちの手柄であることを強調している。安田氏解放の一報が入ると、安倍首相は24日、「事案が発生以来、政府としてもあらゆる努力を尽くしてまいりました」とさっそくアピールに勤しみ、2回も会見を開催した。また、菅義偉官房長官も同日の会見で「官邸を司令塔とする『国際テロ情報収集ユニット』を中心にトルコやカタールなど関係国に働き掛けた結果だ」と説明。産経新聞の取材に政府関係者が「情報を入念に収集、分析して協力要請国を選定、独特の駆け引きもしながら進めた成果だ」と述べているほか、テレビや新聞でも首相官邸直轄の「国際テロ情報収集ユニット」が活躍した結果だとしきりに喧伝されている。

 だが、この間、漏れ伝わってきた実際の日本政府の姿勢は、まったく逆のものだった。全国紙の外信部記者もこう首をひねる。

「安田さんが解放されて『日本政府が動いた結果』という話になっているが、とても信じられない。解放の情報が入ってきた政府の反応は『寝耳に水』というもので、とても事前に動いていたとは思えない。実際、中東に詳しい専門家からは、むしろ日本政府が安田さん救出にまったく動いていないことに批判の声が上がっていた」

 事実、2017年4月に開かれた「危険地報道を考えるジャーナリストの会」の集会では、中央大学講師の水谷尚子氏が「解放に向けた鍵となるトルコの機関などに日本政府が働き掛けた痕跡がなく、積極的に動いているとは思えない」と批判(毎日新聞 2017年5月2日付)。

 さらに、今年8月には、中東ジャーナリストの川上泰徳氏も、「ニューズウィーク日本版」において同様の指摘をおこなっている。

「官邸を司令塔に働きかけた」と宣伝も、解放情報さえ把握できず

 川上氏によれば、安田氏を拘束したとされているのと同じ組織が、安田氏のあとに拘束した3人のスペイン人ジャーナリストやドイツ人の女性ジャーナリストは、それぞれの政府が動いた結果、10カ月で解放されている。〈報道を見るかぎり、単純な身代金交渉ではなく、人質が引き渡されるトルコや、シリア反体制組織に影響力を持つアラブ・湾岸諸国と連携した上で人質の解放が実現している〉という。 他方、日本政府の動きはどうなのか。川上氏はこう述べている。

〈日本政府が安田さん解放のために動くとすれば、基本的な情報の確認が必要なはずだが、主要な情報確認先で、日本政府が接触してきたという感触は得られなかった〉
〈拘束されたスペインやドイツのジャーナリストが1年以内に解放されているのに、安田さんが3年を過ぎても解放されず、解放に向けた手がかりもない最大の理由は、政府がこの問題で真剣に動いていないことだと考えるしかない。本来ならとっくに解決しているはずの問題であろう〉

少なくとも、日本政府の不作為によって、安田氏の解放が長引いていたのは事実なのだ。

 そして、今回、安田氏救出にいたったのも、日本政府がカタールやトルコを動かしたということでなく、ただの「棚ぼた」だった可能性が高い。安田氏はシリア北西部のイドリブ県の反体制派武装勢力に拘束されていたが、アサド政権の攻勢をうけ、そのイドリブ県の反体制派拠点も危うくなっていた。

 そして、交渉に乗り出したカタールも、同国が中東で孤立している状況を改善するため、トルコと協力してジャーナリストの救出に尽力、ジャーナリストを殺害したサウジアラビアとの違いをアピールする狙いがあった。

 つまり、こうしたシリアをとりまく情勢の変化がたまたま、救出という方向につながったというのが、多くの中東の専門家の分析なのだ。

 だいたい、菅官房長官の言うように「官邸を司令塔にして働きかけた結果」だったのなら、なぜ、日本政府は安田氏解放の情報を把握することさえできていなかったのか。

 菅官房長官によると、安田氏の解放情報を日本政府がカタールから得たのは23日午後9時ごろだというが、このときすでに安田氏はトルコの入管施設にいた。また、在英のシリア人権監視団は〈4日ほど前にシリア領内でトルコの仲介により、トルコと関係の深い非シリア人武装組織に引き渡された〉(時事通信10月24日付)と述べてており、数日前から、「安田氏解放か」という情報は流れていた。ところが、日本政府はまったくそれを把握しておらず、23日夜になってからようやくバタバタと動き始めているのだ。

 政権関係者も一部のメディアで、「カタールやトルコと連携を密に取り始めたのは、解放の情報をつかんだ23日から」とこれを認めるような発言をしていたが、この解放前後の情報の蚊帳の外状態をみていると、日本がこの安田氏解放交渉を主導していたとはとても思えないのである。

「実際、官邸も外務省も日本が積極的に動いた結果だとしきりに喧伝しているわりに、何をやったのかというディテールがまったく出てこない。菅官房長官も具体的な話を聞かれると、言いよどんでしまう。これはたいしたことをやってなかったからでしょう。おそらく、日本政府がこの間、やっていたことといえば、カタールの動きを情報収集して、定期的に連絡を入れていたくらいのことじゃないでしょうか。しかも、やっていたのは外務省で、官邸が主導したというのはありえない」(全国紙政治部記者)

解放の報を受けて動き始め、自分たちの手柄話に仕立てた安倍政権

 実際、「イスラム国」(IS)に後藤健二さんと湯川遥菜さんが拘束された際も、安倍政権の対応は冷淡そのものだった。人質の解放交渉はもっぱら後藤さんの妻によるメールのやり取りに頼りきり。しかも政府は、後藤さんの妻のメール交渉には、文面も含めて関わっていなかったことが政府関係者らの証言により判明している(朝日新聞2015年4月16日付)。

 それどころか、「イスラム国」とパイプをもつイスラム法学者の中田考氏やジャーナリストの常岡浩介氏が湯川さん解放に向けて動いていた最中にも、公安に「イスラム国」の関係先として家宅捜査させるなどの妨害をおこない、中田氏が「イスラム国」の司令官であるウマル・グラバー氏から得た情報をつぶさに報告するも、それを無視していた。こうした点を考えても、今回、安倍政権が安田氏解放に積極的に動いたとは到底考えられない。

 にもかかわらず、今回、安田氏が解放されたと見るや、安倍首相や菅官房長官は自分たちの手柄話のように喧伝し始めたのだ。

「後藤さん殺害のときの対応が批判を受けたこともあって、官邸は今回、『自己責任』論を封印、逆に、政権浮揚のために解放に動いたことをアピールする作戦に出たようです」(前出・全国紙政治部記者)

 ようするに、安田氏が「日本政府が何か動いて解放されたかのように思われることを避けたかった」と言った背景には、こうした状況があったということだ。おそらく安田氏は自分を拘束していた武装勢力、カタールやトルコ関係者から日本政府が何もしてこなかったことを聞かされていたのだろう。しかし安倍政権の体質を考えると、自分の解放が政権の宣伝に利用されかねない、そう危惧しての発言だったのではないか。

 ところが、この国のメディアは政府の言うことを鵜呑みにして「日本政府が動いたのにこんなことは言うべきじゃない」など非難している。メディアがやるべきなのは、安易な安田氏バッシングに乗っかることではなく、安倍政権が国民を救出のために本当に何かをやってきたのか、そのことをきちんと検証することだろう。

最終更新:2018.11.02 11:28

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