120作目『北の桜守』でも…吉永小百合が戦争に向き合う理由!「戦後70年を過ぎた頃から戦争の足音が近づいてきた」

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吉永小百合主演映画『北の桜守』

 吉永小百合120本目の出演作ということでも話題となっている映画『北の桜守』が今月10日に公開された。

 1959年の映画初出演から59年の時を経て到達した120本目の節目となる『北の桜守』。その舞台は北海道。この作品は、『北の零年』(2005年公開)、『北のカナリアたち』(2012年公開)に連なる、北海道を舞台にした「北の三部作」の最終作として企画されており、彼女自身、企画段階から「東映さんが120本目の映画を作ってくださるというので、できれば北海道を舞台にしていただければ」(「キネマ旬報」2018年3月上旬号/キネマ旬報社)とリクエストを出していたという。

 そして、吉永には120本目の節目の作品でどうしても描きたいものがあった。それは、戦争で起きる悲劇である。「キネマ旬報」2018年3月下旬号掲載のインタビューでこのように語っている。

「私は以前、対馬丸という沖縄の学童疎開の船がアメリカの潜水艦の攻撃を受け、多くのお子さんが亡くなった太平洋戦争中の史実を映画にできないかと考えたことがありましたが、南と北の違いはあっても、語るべき歴史の一端にアプローチできて良かったです。それも単にメッセージを打ち出すのではなく、映画的な潤いとともに大切な史実を物語に溶け込ませることができて」

 この『北の桜守』という作品は、江蓮てつ(吉永小百合)を主人公に、二人の子どもを連れたうえでの樺太からの壮絶な引き揚げを経た1945年の記憶と、外資系企業の日本支社社長にまで上り詰めた息子・修二郎(堺雅人)の住む札幌でだんだんと認知症の進行していく1971年のことが交互に描かれる。

 江蓮家は樺太の恵須取で製材所を営んでいたが、ソ連軍の侵攻により国民義勇隊に召集される夫・徳次郎(阿部寛)と網走での再会を約束した後に急いで引き揚げを開始。ソ連軍による空襲をかいくぐり、飢えに耐え忍びながら76kmにもおよぶ長い道のりを徒歩で移動し、大泊までつながる駅を目指して行く。

 樺太から北海道への引き揚げの道のりは険しく、途中で命を落とした人も多いと実際の記録が残っているが、『北の桜守』でも、ソ連軍の飛行機に狙い撃ちされ血しぶきをあげながら絶命する民間人や、引き揚げ途中で餓死する老人に周囲の人々が群がって金になる物や食べ物を強奪する場面が生々しく描かれている。また、この一連のシーンでは、ソ連軍に包囲されたと判断した看護師23人が集団自決を図り6人が亡くなった実際の悲劇(大平炭鉱病院事件)も織り込まれた。

 さらに、てつと二人の子どもは、命からがら大泊まで辿り着き、引き揚げ船・小笠原丸に乗り込むのだが、この小笠原丸も実際に、国籍不明の潜水艦の攻撃を受け沈没した船だ。乗船していた人のほとんどが避難民の女性と子どもだったが、702人のうち641人が死亡したと記録が残っている。

吉永小百合「戦争の時代が再び来ないように、「戦後」という言葉を大切にしたい」

『北の桜守』は戦争映画ではないが、1945年から1971年までのひとりの女性の歩みを描くことで、戦争がいかに市井の人々の幸せな生活を蹂躙し、そして、本来あり得たはずの幸せな人生を破壊してしまうかが物語を通して語られる。

 吉永小百合は『北の桜守』に出演するのにあたって、滝田洋二郎監督らとともに、網走、樺太へ取材に出向き、引き揚げの体験者から実際に話を聞いているが、彼女が120本目の節目に『北の桜守』を選び、また、役づくりにここまで力を尽くしたのは、彼女のこれまでの女優人生を振り返ると必然とも言える。

 彼女が原爆詩の朗読会を各地で開き、広島・長崎で起きた悲劇や核廃絶の重要性を訴える活動をライフワークにしていることはよく知られている。平和への彼女の思いは強く、1966年公開『愛と死の記録』に出演した際、被爆者のケロイドの場面や原爆ドームを象徴的に映した場面を日活の上層部が問題視して、該当する場面をカットするよう命じられた際には、スタッフとともに撮影所で座り込みを行ったエピソードも映画好きにはよく知られた逸話である。

 吉永小百合は1945年3月13日に東京・代々木で生まれた。つまり、東京大空襲の3日後に誕生しており、彼女の母は、おなかに子どもを抱えた状態で空襲を生き延びたことになる。その縁は彼女に少なくない影響をおよぼしたようだ。『私が愛した映画たち』(集英社)のなかで彼女は「私は一九四五年、日本が敗戦した年に生まれ、戦後とともに年を重ねてきました。私の中には、戦争の時代が再び来ないように、「戦後」という言葉を大切にしたいという思いが強くあります」と、自分の生まれた年と終戦の符号について語っている。

 だからこそ、安倍政権が進める国づくりには危機感を募らせてきた。前掲『私が愛した映画たち』のなかで彼女はその恐れを、このように具体的に述べている。

「二度と日本が主導権を持って戦争を起こすことがないように、とずっと願ってきましたが、戦後七〇年を過ぎるあたりから、戦争の足音がどんどん近づいてきているようで、とても怖い気がします」

吉永小百合「戦争は人を殺すことなんだという事実を絶対に忘れちゃいけない」

 そんな社会状況を反映するかのように、昨今の彼女は近づきつつある戦争の足音に警鐘を鳴らす姿勢を強めている。その背景には、いま声をあげなければ、そう遠くない未来、平和を祈願する言葉を口にすることができないような社会が訪れるかもしれないからだ。それは、歴史が証明していることでもある。「女性自身」(光文社)2016年8月23・30日合併号に掲載された姜尚中氏との対談のなかで、彼女はこのように語っている。

「私は若いころ、母に『なぜ戦争は起こったの? 反対はできなかったの?』と質問したことがあるのです。
 そしたら母は、ひと言『言えなかったのよ……』って。言えないってどういうことなんだろうと、その時には理解できなかった。けれど最近、母の言っていた意味がわかります。今の世の中を見ていると息苦しい感じがして」

 彼女にとっては『北の桜守』の前の出演作となる、2015年公開『母と暮せば』(監督:山田洋次)も、二宮和也演じる原爆で亡くなった息子の幽霊と、吉永小百合演じる母との交流を描いた、「戦争と家族」にまつわる物語だった。

 二作続けてそうしたテーマの作品への出演を決めた背景には、映画こそが、過去に起きた悲劇を伝え、また、平和の儚さと大切さを学ばせるのに最適なものだという思いもあるのかもしれない。「女性自身」(光文社)2018年3月27日号のインタビューで彼女は『北の桜守』についてこのように語っている。

「映画全体はもちろんフィクションなんですが、いろんな史実を取り入れて物語が作られています。戦争って、どこが勝った、負けたじゃなくて、要は人を殺すことなんだという事実を、絶対に忘れちゃいけない。
 映画を通じて現代の人にも、わかりやすくこうしたメッセージを伝えることは大事なことなんだと思います」

 安倍政権とその応援団たちは、先の戦争を肯定し、「戦争で国のために死ぬこと」を美化する教育とプロパガンダを全面的に展開している。そして、朝鮮半島情勢が対話ムードへと進むなか、国際的に孤立しながらもなお圧力強化を口にし続けている。

 だからこそ、私たちは安倍政権が改ざんする歴史とは違う、本当の歴史に向き合い、戦争の悲惨さをしっかり胸に刻みつけなければならない。

最終更新:2018.03.18 07:19

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