指原莉乃「過呼吸になってから卒業したい」発言が話題…アイドルはなぜ過呼吸になるのか?

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 先日、AKB48 49thシングル選抜総選挙で史上初の3連覇を達成しセンターを務めたシングル「#好きなんだ」が発売されたばかりの指原莉乃。

 そんな彼女がウェブサイト「音楽ナタリー」にて、吉田豪によるインタビューを受けているのだが、そのなかでの「1度、過呼吸になってから卒業したいですね(笑)」という発言が話題を呼んでいる。彼女はインタビューでこのように語っていた。

「私、倒れたことないんですよ。(中略)メンバーが突然、過呼吸になって倒れるのとかも見てて、「どういう仕組みでああなってんだ?」って。こじはるさんとかと「あれ、どうやってやってるんだろうね。うちらもやりたいね」みたいなこと言ってて(笑)」

 AKB48全盛期ど真ん中の2012年に公開された映画『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』におさめられた真夏の西武ドームコンサートの模様はあまりにも有名だ。前田敦子や大島優子らが次々に過呼吸を起こし倒れていく様子はアイドルファンならずとも知るところとなった。

 先に引用した「音楽ナタリー」での指原の発言にもある通り、今年4月にAKB48を卒業した小嶋陽菜も、そういった過呼吸に疑問をもっていたメンバーのひとり。実際に公の場でそれに対する疑問を語ったこともある。

 それは「SPA!」(扶桑社)15年6月9日号のインタビューでのこと。彼女はSNSを通して悩みをあからさまにさらけ出してしまう後輩たちについて、「AKB48の後輩からのLINEとかを読むと、ビックリします。病んでるコが多いなぁって」としたうえで、「今って、病んでることがおしゃれな時代なのかなと思うんです(笑)。だからなのか、「疲れた」とか、「もう無理」とか平気で書けちゃうし、みんなでコメントしたり共有し合ってて。その感覚がギリ昭の私からすると考えられないんです」と語った。そして、「過呼吸」についても、このように話すのであった。

「あれもよくわからない」「過呼吸のなり方(笑)」

指原莉乃が揶揄する通り過呼吸はアピールかもしれないが、それだけが原因ではない

 指原や小嶋がこのように過呼吸に対し皮肉めいた発言をする背景には、いわゆる「病み」アピールをアイドルとしての自身のブランディングに使う同業者が多くいるという背景があるのだろう。

 その成功例がAKB48の佐々木優佳里だ。彼女はSNSアプリ755で「可愛くなりたい可愛くなりたい可愛くなりたい」「めんどくさいのはじぶんでわかってます。すぐ不安な気持ちになる」といった言葉を連続で投下。また、誕生日に「おばあちゃんになっていくねー」と冗談でコメントしてきた同じグループのメンバーに対し、ジョークを真に受けて激怒。そのあまりにもネガティブなキャラクターがウケ、『有吉AKB共和国』(TBS)では彼女の特集も組まれた。

 面倒くさいながらも、そのキャラクターを愛するファンは信者化し、「ハピネス教」(「ハピネス」はネガティブな自分を奮い立たせるために使う彼女の口癖)と呼ばれている。そのファンベースは強固で、14年の選抜総選挙で47位に選ばれて以降、毎年50位以内をキープ。今年の総選挙でも43位にランクインしている。若手メンバーが多く台頭するなかでも決して順位を落とさないのは、そういったキャラクターが、ファンの「支えたい」という思いを喚起しているからだろう。

 そういったブランディングをしているのは彼女だけではないし、また、それは個人個人のタレントとしての戦略であって悪いことでもなんでもない。

 ただ、それがある種の「あざとさ」を感じさせるということも、またひとつの事実だ。だから、指原と小嶋は、その象徴としての過呼吸を皮肉ったのだろう。

 しかし、この過呼吸は単に「ブランディング」と言い切ってしまっていいという問題でもない。アイドルグループのメンバーたちが過酷な競争にさらされ、過大なストレスを抱えていることも事実だからだ。なかでもAKB48をはじめとする48グループは、総選挙はもちろんのこと、握手会の人気、選抜メンバーに選ばれるか否かやポジション争いといったグループ内部での序列が常に可視化され、日常的に競争にさらされ続けている。しかもそこで競われているのはたとえば「スキル」のような客観的な基準でなく、「人気」や「キャラ」という曖昧かつ自らの実存に直結しやすいもの。こうした過剰な競争にさらされながら、さらに運営から過大なプレッシャーや過密スケジュールを課されれば、心身ともに疲弊し、ときに過呼吸などの症状に襲われることはあり得る話だ。

 競争にさらされてきたのは指原やこじはるも同じだと思う人もいるかもしれないが、忘れてはいけないのは、彼女たちはAKB48グループ内において、競争を生き残った勝者だということだ。生き残った者の体験談が、すべてのメンバーに当てはまるわけではない(だいたい、指原だって初期は「ヘタレ」を売りにしていたではないか)。

 しかも、二人がグループ内で確固たる立場を築いた時期とは違い、現在はグループの総人数が激増しているうえ、アイドルブームの終焉によりグループ自体の勢いはかつてほどではないため、結果としてのグループ内部での競争はより苛烈なものになっている。メンバーたちの心的負荷もますます大きなものになっているだろう。

 たとえば、それはいま最も勢いがあるといわれている欅坂46にしても同じである。

 8月2日の神戸ワールド記念公演を皮切りに、同月30日の幕張メッセ公演まで全国6カ所をまわる全国アリーナツアー「真っ白なものは汚したくなる」にて、センターの平手友梨奈が相次いで公演途中での退場や、公演自体を欠席するといった状況に追い込まれ話題となったのは記憶に新しい。この夏の欅坂46は、この全国アリーナツアーに加え、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017、SUMMER SONIC 2017、TOKYO IDOL FESTIVAL 2017といった各種フェスにも出演しており、そういった過密スケジュールに無理をして合わせたことが原因のひとつなのではないかと言われている。

 また、ご存知の通り、6月24日には、幕張メッセで行われていた握手会の最中にファンの男から発煙筒を投げつけられるという事件も起きた。このとき、イベントスタッフに取り押さえられた男はナイフを所持していたため銃刀法違反で現行犯逮捕。犯人の男は具体的な名前を出したうえで「思い描くイメージが崩れていくのが許せなかった。イメージを守りたくて刺して殺そうと思った」と供述。明確な殺意をほのめかしており、状況が状況なら最悪の事態に発展していた可能性もあった。

「助けてください」とスタッフに助けを求めて休業した欅坂46の今泉佑唯

 しかし、このような事件があったのにも関わらず、運営は握手会を強行。翌25日の握手会も、平手を含めた数名の欠席を認めたものの握手会自体は中止せず、多くの批判が寄せられた。しかし、その後も握手会の開催そのものを考え直すような行動はとっていない。また、秋元康氏からこの件に関するコメントは特に出されていない。

 こういった、運営、ファン、メディアなどから猛烈な勢いで迫り来るプレッシャーに押し潰され、途中離脱を余儀なくされたメンバーは平手だけではない。同じく欅坂46のメンバーである今泉佑唯は今年4月から活動を休止し、8月29日の全国ツアー幕張メッセ公演でグループ復帰している。

 彼女の休業理由について具体的な病名などは明らかにされていないが、休業発表直後の4月13日に更新されたブログには、〈数ヶ月前から体調が優れないことがあり〉〈心身のバランスがうまくとれない日が続いていました〉といった文言があり、活動を通して精神的になんらかの問題を抱えたのではと推察されている。

「blt glaph. vol.22」(東京ニュース通信社)に掲載された休業明け初インタビューでは、休業にいたるまでの過程についてこのように語っている。ここから読みとれることは、もっと早い段階から何らかのケアを施していれば4カ月もの長期間離脱することはなかったかもしれないということである。

「それまでにも何度か『ちょっとお休みしたいです』って言ったことがあったんですけど、タイミング的に難しかったこともあって、もう少しがんばってみようと続けてきたんですね。でも、ライブ3日前にスタッフさんに言ったときは、何かもう必死だったというか……。『助けてください』みたいな感じで。それで、ライブ後にお休みすることは決まったんです」

 過度な精神的負荷の果てに過呼吸のような症状に陥ってしまうのは起こりうる身体反応であり、それを強者が簡単に「あざとい」と喝破してしまうのはいささか間違っているだろう。

 前述した通り、アイドルブームのバブルが完全に弾けた現状では、ブームの影響でプレイヤーの数が増えたのと反比例するように、生き残るためのイスの数は減少し続けており、右肩上がりだったかつて以上に確実に競争は厳しくなっている。そのなかで生き残るため、肉体的にも精神的にも、多少の無理をしてでも仕事をこなそうとすることは恒常的にあるだろうし、その結果として心身に異常をきたすほどのストレスや負荷を抱え込むことは少なくないはずだ。過呼吸を揶揄する前に、そのことは認識しておく必要があるだろう。

最終更新:2017.09.15 01:08

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