YouTube、ゲーム、スタバ…あらゆるものに「依存症」をつくりだす仕掛けが

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『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』(ダイヤモンド社)

 異物混入動画などを配信し、先日逮捕された19歳の少年。自分の動画が全国的に注目視されたことに何よりも興奮を覚え、日に日に増えていく再生回数を見届けては「俺は神以上の存在だ!」と叫びながら逃走を続けた。一度浴びた注目を維持し続けようとするためには手段を選ばず、「川崎のネカフェからです、捕まる前に10代で童貞喪失したいのでこれから堀之内にいってきます」などと異物混入以外にも頓珍漢な投稿を繰り返していた。

 一方、身柄が確保される前のワイドショーでは、心理学者が「社会との関係が希薄な人物では」と毎度のヌルい分析を続けていた。自分たちとは関係のない変わった人がこんなことをやっている、といういつもの筋書きで、視聴者に「(自分たちとは違う)アブナイ人が事件を起こしている」と実感してもらう手法が毎度のごとく繰り返されたし、逮捕された途端に「こんなおとなしい子が…」(産経新聞)と、犯人の意外な一面を見せるのも毎度の流れだった。

 注目を浴びることに快感を覚える少年、そして、視聴者の共感を浴びることに奮進するメディア、この2つはアプローチも目的も全く異なるけれど、デイミアン・トンプソン『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』(ダイヤモンド社)を読み、依存状態に陥らせるビジネスの実態を知ると、犯人もメディアもそのビジネスに絡めとられていたのではと疑いたくなる。注目を浴び続けたかった少年も、視聴率をとるためのテーゼを無節操に繰り返すメディアも、反復を重ねるうちに自分で自分の判断ができなくなる。とにかく、快感を数値(=再生回数・視聴率)で得ようとがむしゃらに突っ走るのだ。

 この本が指摘する依存症の例には、驚愕させられる。スマホを片時も手から離せない人が増えているが、スタンフォード大学が学生に向けて行なったアンケートではiPhoneを使用する44%がスマートフォン中毒に陥っているとの自覚を持っていると答え、さらに薄気味悪いことに、9%が「子どもやペットをあやすように、愛情を込めてiPhoneをそっと叩くことがある」という。iPhoneの電池の残量を気にする生活によって、iPhoneが「ある程度まで、1日の過ごし方を決めてしまう」「6時間以内にオフィスに戻りたがる」傾向が生まれているとする。

 買い物依存の快感は、もはや物欲というレベルではない。買い物依存の男性は、買い物の最たる興奮について「端末機がウィーンという音を立てるときだよ。本当にドキドキしてくる。正直言うと、その音を聞くと、勃起しそうになる」と語る。お店で服を見ている時に、レジから決済端末機の音が聞こえると、もうその服を買うことを心に決めている。カードで物を買いまくる興奮を、どうしたって抑えられなくなってしまったのだ。

 オンラインゲームの仕組みは「脳のハイジャック」。自分からゲームにハマるのではなく、依存性を知り尽くした作り手によって練り上げられた仕掛けに屈するようにゲームに没頭する。シリコンバレーに拠点を置くゲーム会社CEOの言葉が露骨だ。

「見えないところでシステムをいじって、ユーザーを惹きつけておくことができる。ぼくらは、負けが目立たないような環境、そして定期的にユーザーをやる気にさせるような環境をデザインする。そのあと、その環境に手を加えて、もっともユーザーを長くプレイさせる罰と励ましのコンビネーションを突き止めるんだ」

 フェイスブック、オンラインポルノ、危険ドラッグ、スターバックスのフラペチーノ……依存症を引っ張り上げるビジネスは、依存へと引きずりこむ方法を常に更新していく。シュールなのは、この依存症を脱するためのリバビリ施設や病院もまた、「依存症ビジネス」のひとつとして莫大な利益をあげ、中毒的ビジネスを展開しているということ。アメリカでは、アルコールや薬物などのリハビリ産業が約90億ドルの推定価値を叩き出しているが、その規模を更に大きくしようとするヘルスケア企業の各社は、「“リハビリ”という単語が検索エンジンに入力されたときに検索結果の上位に自社の名前が来るように、巨額を入札して競いあっている」という。依存症を打破させるための組織もまた、依存症にとらわれているのだ。

 19歳の少年は、自分の映像の再生回数に自分の興奮を司られていた。テレビ局に行けば、玄関付近には○○という番組が○○%の視聴率を取ったと騒ぎ立てているし、こういったWebサイトでもPV数やランキングが常に注視される。数値を稼ぐものに突き進む働きかけが止まらない中で、昨今、メンタリストを名乗る面々が人心掌握術を披露して人気を博している。私たちは、依存症の中にいることを諦めたかのようにも思える。

 この本を読むと、YouTubeもテレビもオンラインゲームもポルノもドラッグもフード業界も、同じ方法、つまり、依存体制を更新し続けて、人間の感性を蝕んでいることがわかる。どの媒体も「そんなあなたは異常ではないんですよ」と声をかけることを絶対に忘れない。19歳の少年に対する同情など微塵もないが、彼自身は「社会との関係が希薄な人物」でもないし、逆に「こんなおとなしい子が…」でもない。お決まりのパターンで事件が処理されていく一方で、欲望をかき立てられる装置はすくすくと育ち、或いは改良に改良を重ねて、ますます依存から抜け出せない装置に化けていく。著者が「史上最悪のビジネスモデル」と呼ぶ「依存症ビジネス」は、もはやそれぞれの中に忍び込んでいるのだ。
(武田砂鉄)

最終更新:2017.12.09 05:09

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