上官の結婚式介入、披露宴で軍艦マーチ…自衛隊雑誌が煽る“J婚”の現実

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「MAMOR(マモル)」2月号(扶桑社)

 今年の流行語大賞にノミネートした「J婚」、自衛隊員との結婚を希望する女性が増えており、各地で自衛隊員とのお見合いパーティーが行なわれていることから名付けられたネーミングだ。

 お見合いに参加した自衛官はアピールタイムで「普段は隊長に服従していますが、私生活で服従できる女性を探しに来ました」(毎日新聞/2014年6月12日)と言ったそう。この薄ら寒いジョークを投げられた時点で私が女性ならドン引きしそうだが、お見合いにきた女性の「公務員で収入も安定して、性格もまじめ。結婚相手にはぴったり」とのコメントを見つければ、この錆び付いたギャグも、安定やまじめという言葉に変換されていくのだろう。

 この自衛隊との婚活を仕掛けたのは、防衛省が編集協力するわが国唯一の自衛隊オフィシャルマガジン「MAMOR(マモル)」(扶桑社)。一般的にはあまり知られていない雑誌だが、公表されている広告用の媒体資料を覗くと「全国200カ所以上の基地・駐屯地を始め、世界40カ国近くの日本大使館に派遣されている防衛駐在官のもとへ配本」「自衛官、事務官、技官などを含めた自衛隊員約30万人の目に触れる場所に毎月配本」されているという。

 つまり、自衛隊の日頃の活動・情報を広く国民に発信し、自衛隊員の士気を高めるための雑誌ということらしい。

 しかし、その「MAMOR」、雑誌のつくりは堅苦しさとは程遠い柔らかいつくり。表紙は毎号必ずアイドルがコスプレをして敬礼する写真。新年号には「壇蜜、おのののか、橋本マナミetc 女神たちが続々登場」のカレンダー。中学校の運動部の部室のように、自衛官の寮にでもカレンダーを飾るのだろうか。

 それはともかく、この雑誌の連載企画「マモルの婚活」が好評を博し、13年2月号には「自衛官と結婚しました!」という巻頭特集が組まれ、この「J婚」という言葉の誕生に繋がった。

 その特集記事を読んでみると、ひたすら「自衛隊との結婚は素晴らしい」PRが繰り返される。一般人に「自衛隊員との結婚はアリかナシか」を問うと86%の人が「アリ」と回答。「国を守っているなんてすごいです!(制作会社)」「収入も安定しているイメージ(大学生)」「男らしくて頼りがいがありそう(販売員)」とのコメントが並ぶ。この結果を受けて、結婚紹介サービス業の女性が分析、「自衛官の方は国を守りたいという使命感がありますし、能力を生かした仕事をされています。そういう人柄は女性の心を引きつけますね」と畳み掛ける。

 しかしながら、続く「自衛官の披露宴・面白エピソード」を読んでいると、自衛官との結婚の現実が少し垣間見えてくる。

「新郎が最後のスピーチで、『私はこれからも日本を守ります!』と絶叫。すると会場から『妻も守れよ〜!』とヤジが飛んで、会場がドッと湧きました」。
「新郎によるあいさつがありましたが、内容は大半が仕事の抱負で、最後の言葉は『頑張ろうニッポン!』」。
「新郎新婦が退場、という場面で流れた音楽は、軍艦マーチ。ロマンチックというより、勇ましい退場シーンになっていました」。
「(披露宴に)参加予定の自衛官は、みんな激務明けで、家に帰れず職場から駆けつけた先輩もいるほどでした。(中略)感謝の言葉を贈る場面では、結構な数の先輩たちが寝ていました」

 また、同号の別企画、自衛官と結婚した妻たちの覆面座談会では「今、結婚式の計画をしているんですけど、一番口を出してくるのが彼の上司」だと紹介される。

 これらは雑誌では笑い話として語られているが、本当にそれで済ませられる話なのだろうか。

 斎藤貴男『強いられる死──自殺者三万人超の実相』(河出書房新社)では、閉鎖空間での激務で多発するイジメによる自衛隊員の自殺をルポしている。若き海上自衛官は、上官たちから「バカ、バカ」と罵られ、事故死したと噂される先輩隊員のベッドを割り当てられ、酒を買ってこい、宮崎産の「百年の孤独」だ、おまえは「百年の孤独要員だ」とイジられ続けるなど、ひたすら虐げられる生活に耐えられず、自ら命を絶ってしまった。自殺した別の航空自衛隊員は、先輩隊員から叩く蹴るなどの暴行に加え、講義中の居眠りを咎められ「反省文を100枚書くか、辞表を出せ」と詰問されていたという。

 自衛隊員の自殺率は、公務員全体の自殺率と比べて2倍と言われている。しかし、斎藤氏が最も懸念するのはその自殺理由だ。07年までの調査で自衛隊員の自殺理由として最も多かったのが「その他・不明」の52%。警視庁の自殺統計から内閣府が作成した「各年齢階級の合計に占める自殺の各原因・動機の割合」を見ても、「その他」にカウントされる自殺は各世代10%にも満たない。つまり、自衛隊には原因不明で処理される自殺がやたらと多いのだ。

 上下関係/先輩後輩の範囲を逸脱していることにすら気づかない根からのマッチョ体質。そして、結婚式にまで職場から駆け込まざるをえない激務、これらを無関係だと言い切るのは難しい。しかも、遺族が裁判に持ち込んでも、彼らはなかなかイジメの事実を認めたがらない。国を守るための結束が、ただただ組織を守るために使われる。

 実は、自衛隊という組織にとっては、隊員の結婚も同じような意味をもっているようだ。先の新聞記事に、お見合いイベントを自ら企画した一等陸佐のコメントが載っている。

「女性比率が5%だけで、男性にとって出会いが少ないのが自衛隊。国民の生命と財産を守るために、結婚して心の支えを持つことは大きい」

 隊員の結婚がどうの、ではなく、正しい自衛隊隊員の務めとして結婚くらいしておきなさい、というお考えが見える。

 自衛隊OBが運営し、自衛隊専門の婚活パーティーや合コンを企画・運営する「自衛隊プレミアムクラブ」は、女性が「20代中心」というのが売りだ。女性の登録資格は35歳までとなっているが、年齢が高くなると会費が上がっていくシステムの裏には、とにかく若い女性を隊員のために調達しようという意図が透けて見える。

 産経新聞(14年10月11日)はこの「自衛隊プレミアムクラブ」の担当者の弁を借りつつ、「災害時など困ったときに不在にすることの多い自衛官。精神的に強い女性の方が結婚相手には向いている」「どこへ行っても対応できる女性」と、女性に求める条件を補足してみせた。「『守られたい』と自衛官との結婚を希望する女性に対して、浮かび上がったのは自立した女性像。国を守る夫に変わって、家庭を“自衛”する姿勢が必要なのかもしれない。」とはいかにも産経新聞らしい帰結だろう。

 自衛官は女性に人気だ。この5月には写真集&DVD『国防男子』『国防女子』が発売されたが、海上自衛隊の広報担当者はこの写真集の刊行について「必ず私達のメッセージが若い世代に届けられるのに役立つ」と嬉しそうに話した(NewSphere)。

 しかし、集団的自衛権の行使容認が伝えられたときには、一部のメディアからJ婚した妻たちからの困惑した声も伝えられている。

 彼らがどこで何をマモルことになるのかは、現時点では分からない。最前線で国をマモルことになるかもしれない。その可能性はどこまでも強まっている現在、「結婚相手にはぴったり」とは、なかなか言えないと思うのだが、さて、みなさんはどうお考えになるだろうか。
(武田砂鉄)

最終更新:2014.12.21 09:02

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強いられる死 ---自殺者三万人超の実相 (河出文庫)

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