失言・炎上に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
橋下徹が日本学術会議デマの説明求める取材に「無償のインタビューに応じていない」 望月衣塑子記者にスリカエ攻撃も
橋下徹Twitter
『グッとラック!』『ゴゴスマ』『情報ライブ ミヤネ屋』『バイキングMORE』……このところ、ワイドショーや報道番組に出ずっぱりで、菅政権を擁護しまくっている元大阪市長・橋下徹氏。ところが、その中身は、田崎スシローもびっくりの屁理屈やスリカエのオンパレード、さらにはデマまで吹聴していたことが判明した。
それが、日本学術会議の任命拒否問題をめぐる発言だ。本サイトでもお伝えしたとおり、10月6日に〈学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ。学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ〉などとツイートしたが、これがまったくのデマだった。実際は、米国科学アカデミーには約160億円以上、英・王立学会にも約65億円、政府から補助金が出ており、日本学術会議の10億円よりはるかに多額の税金が投入されている。
当然、このツイートには事実誤認を指摘する声が相次いだのだが、11日になって、橋下氏はツイッターでこう釈明した。
〈これは説明不足だった。アメリカやイギリスでは、日本のように税金で学者団体を丸抱えすることはないが、学者団体に仕事を発注して税金を投入する。日本の学術会議も同じく早く非政府組織となって政府から仕事を受ける団体になるべき。〉
アメリカでもイギリスでも日本よりはるかに大きな公金が投入されており明らかなデマなのに、謝罪も撤回もせず、「説明不足」などとごまかし。さらに「税金で丸抱えすることはない」「学者団体に仕事を発注」などと話をすり替えたのだ。
この釈明ツイートだけでもひどいが、橋下氏はこのデマをめぐって、さらなるとんでもない対応をしていた。
それは、東京新聞が10月15日に報じた「「デマです」と橋下徹氏のツイートに批判 学術会議問題で誤情報が拡散」という記事にあった。
それは、橋下氏のデマとフジテレビの平井文夫・上席解説委員の「学術会議に入ったら250万円の年金がもらえる」「欧米は全部民間。日本だけが税金」などというデマを検証し、学術会議問題で量産されているフェイク情報について警鐘を鳴らす記事で、取材したのは望月衣塑子記者。
記事では、学術会議や日本学士院の担当者、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」理事の立岩陽一郎氏らのコメントを掲載したほか、平井氏の所属するフジテレビ広報室、橋下氏にも取材をし、それぞれが発信したデマ情報の根拠などを質していた。
ところが、橋下氏の事務所からの回答は信じがたいものだった。
「現在は一私人としての立場なので、無償でのインタビューには応じていない」
無責任コメントを掲載された橋下氏がもちだした望月衣塑子記者へのいちゃもん
デマ発言の説明を求められて「一私人」だから「無償でのインタビューに応じていない」って、いったいどういう倫理観をしているのか。タレントだろうが元政治家だろうが弁護士コメンテーターだろうが、自身の失言について釈明する会見やインタビューを有料でおこなう人間が、どこにいるというのか。
メディアで発言する者、ましてや橋下氏のように報道番組・情報番組で政治問題や社会問題について発言するジャーナリストや評論家、タレントなどコメンテーターは、社会的影響力が大きく、政治家などの公人に匹敵する立場であり、高い倫理性や公正性、社会的責任が求められる。実際、橋下氏のデマツイートは1800以上リツイートされ、広く拡散。橋下氏のツイートを根拠に、学術会議叩きをしている者も多数いた。
自身の発信したデマについて、その謝罪や撤回はもとより、なぜそうした誤情報を発信するに至ったのか、その根拠や背景などをきちんと説明するのは、東京新聞に取材されるまでもなく、言論人として当然の社会的責務だ。また、橋下氏がその後もメディアで言論活動を続けており、今後の発言の信憑性に関わる重大な問題でもある。東京新聞が、デマを検証する上で、発信源である橋下氏に根拠などを問いただすのも、社会の公器としてごく当たり前の行為だ。
もっとも、「現在無償でのインタビューには答えていない」はさすがにまずいと思ったのか、あるいは自身のデマ拡散に対する批判を封じ込めたかったのか、実はこの東京新聞の記事に先回りして、橋下氏は10月13日にこんなツイートを連投していた。
〈東京新聞 望月衣塑子様
10月13日、貴殿からのインタビュー依頼書が当事務所に届きました。過日、私が出演しているインターネット番組「NewsBar橋下」(Abema TV)より東京新聞広報宛に貴殿の出演依頼をしたところ無回答のままだと番組スタッフより聞いております。〉
〈自分たちへの依頼に対しては無回答のまま、私には依頼するという姿勢はあまりにも不合理ではないでしょうか?また貴殿は明日の夕方までの回答を求めておりますが、我々弁護士が人様に回答を求める場合の期限は通常1から2週間です。〉
〈自分たちの都合に合わせて1日の回答期限を設けるというのはあまりにも非常識で横暴極まりない態度です。しかも、新聞社のインタビューに答えてもそちらの都合のいいように編集されてしまいます。今回もPDFでしっかりと回答をお送りしましたが、貴殿の上司から次の部分だけ使うという連絡がありました。〉
〈「私は現在無償でのインタビューには答えていない」との部分だけを使い、貴社の態度の問題点の指摘はバッサリ落とすという酷い編集です。再度番組から貴殿に出演依頼をします。1時間の生放送で僕にインタビューを思う存分して下さい。僕も貴殿に聞きたいことが山ほどあります。〉
〈当事務所から連絡がありました。望月氏への回答はPDFではなくメールで行ったとのこと。それにしても東京新聞の編集は酷い。自分たちへの批判はバッサリ削除。こんなんだったら無償でインタビューに応じる価値は全くなし。皆さんも東京新聞からの取材は無視した方がいいですよ。〉
そう、逆に東京新聞と望月衣塑子記者がまるでフェアでない取材方法をとったかのように攻撃してみせたのだ。
「望月記者が『NewsBAR橋下』の出演依頼に無回答」を理由にした取材拒否はスリカエだ
しかし、これらはすべて話のスリカエでしかない。『NewsBAR橋下』が東京新聞の望月記者に出演依頼していたのが事実だとしても、東京新聞が橋下氏の回答を全文を載せなかったとしても、橋下氏が発信したデマに関する説明責任とは、なんの関係もないからだ。
しかも、スリカエ攻撃のために橋下氏が持ち出してきた話もお粗末すぎる。望月記者が『NewsBAR橋下』への出演依頼に無回答だというが、『NewsBAR橋下』というのはABEMAの橋下氏の冠レギュラー番組で、橋下氏がホストとして、ゲストと時事問題を対談するという番組。今年6月20日には、コロナの渦中に逃げるように国会を閉会してしまった安倍首相をゲスト出演させ、アシストとヨイショを連発していた、あの番組だ(https://lite-ra.com/2020/06/post-5489.html)。
そんな自分の冠対談番組への出演依頼と、東京新聞・望月記者が橋下氏に質したデマの根拠の説明とは、まったく次元の異なる話だ。対談番組への出演はゲスト当人が自由に選べばいいが、上述したように自身のデマ発信については説明する責務がある。先に返事をしてからなどと交換条件になるような話ではない。むしろ橋下氏のほうこそ、他人に出演依頼するまえに、言論に関わる者として、まず自身のデマについてきちんと説明しろという話だろう。
橋下氏は「現在無償でのインタビューには応じていない」という部分だけを掲載したことについて、〈都合のいい編集〉〈貴社の態度の問題点の指摘はバッサリ落とすという酷い編集〉と批判しているが、全文ではなく要旨だけを掲載すること自体は紙面や番組時間に限りのある新聞でも雑誌でもテレビでもよくあることだ。もちろん言ってもいないことを捏造されたり、編集によって意図が変わってしまっているのであれば大問題だが、「無償でのインタビューには答えていない」は橋下氏の回答の核になっている部分だ。実際、橋下氏は反論ツイートでも〈こんなんだったら無償でインタビューに応じる価値は全くなし〉と同様の主張を繰り返している。
削除されたと喚いている〈貴社の態度の問題点の指摘〉とやらも、今回のデマ問題に関係ない話であれば、掲載しなくて当たり前だ。ツイートを見る限り、自身の番組への出演依頼に無回答ということくらいしか問題点が具体的に指摘されていないうえ、それ以外に世に問うべき東京新聞の問題点があるというのなら、自身の番組なりツイッターなりで全文公表すればいいではないか。
あげく〈再度番組から貴殿に出演依頼をします。1時間の生放送で僕にインタビューを思う存分して下さい〉と来た。堀江貴文擁護発言について、本サイトに取材しろと言ってきたロンドンブーツ1号2号の田村淳もそうだったが(https://lite-ra.com/2020/10/post-5667.html)、彼らが自分を批判された際、テレビやYouTubeなどの動画に出演しろなどと言ってくるのは、テレビ慣れ(あるいは法廷慣れ)している彼らにとって、ライブや映像のほうが議論に勝っている印象を演出しやすいからだ。
市長会見で正しい事実関係を述べた毎日放送記者を「不勉強」と恫喝
テレビや動画、ライブでの討論は、主張の中身よりも、瞬発的な反応の巧みさや声の大きさ、口調の強さに左右される。そして、橋下氏はそのメリットを生かしている典型と言っていい。
記者会見やインタビュー、テレビで、鮮やかな正論を語り、相手を言い負かしているように受け止められている橋下氏だが、その発言を文字起こしすると、詭弁、すり替え、事実誤認が多数含まれていることも少なくない。
そのことがよくわかるのが、大阪市長時代、会見で教員に対する君が代の起立斉唱強制に関して質問しようとした毎日放送の斉加尚代記者に対して行なった恫喝だろう。
斉加記者はこのとき、君が代斉唱強制で口元までチェックすることが妥当かどうかを質問しようとしたのだが、橋下氏は「(起立斉唱)命令は誰が出したんですか?」などと逆質問。斉加記者は「市長がご存知のことを、私に尋ねていらっしゃるだけですよね。それはおかしなことじゃ……」と反論したが、橋下氏は「答えないと僕も質問に答えない」などと言い張った。
それで、斉加記者がしかたなく「(府の)教育長」と質問に答えると、橋下氏は「とんでもないですよ。もっと調べて下さいよ。教育長が、命令を出せるんですか」と全否定。鬼の首を取ったように「誰が教育行政の決定機関なんですか。そんなことも知らずに、取材なんかくるんじゃないですよ。何を取材しに来てるんですか。命令の主体くらい知らないのにね、なんでこんな取材ができるんですか」などとまくしたてたのだ。
しかし、実はこの君が代起立斉唱強制の命令通達は、「平成24年1月17日」付で「教育長」名で、府立高校校長と教職員宛に通達が出されていた。つまり、斉加記者の回答は正解で、間違っていたのは「行政の長」である橋下氏だったのである。にもかかわらず、橋下氏はそのあとも質問には答えず、「勉強不足」などと罵倒し続けた。
そもそも市長の記者会見というのは行政チェックのために行なっているもので、記者が知識不足だろうが勘違いしていようが、市長には質問に答える義務がある。それを「勉強不足の記者には答えない」などというのは行政の長としてありえない態度だ。しかも、橋下氏は記者が逆質問に正しい回答をしているのに「そんなことも知らないのか」「勉強不足」だと言い張って、質問に答えるのを拒否し続けたのだ。
めちゃくちゃな話だが、しかし、このやりとりが映像でネットやテレビに流された結果、橋下氏が勉強不足の記者のイチャモンを正論で負かしたというイメージだけが広がり、いまでもそう信じている人は少なくない。
菅首相について聞かれ「食事も一緒にさせてもらってますけど」
橋下氏が今回、望月記者にABEMAの番組に出ろと言ってきているのも、この斉加記者に逆質問を繰り返したのと同じ手法と言っていい。新聞でじっくり検証されてしまうと、すり替えや詭弁がばれてしまうため、自分の土俵である冠番組に引っ張り込んで、逆質問を連発し、デマへの批判を封じ込めてしまおうと考えたのではないか。
しかし、橋下氏がどうごまかそうと、橋下氏がデマの説明責任から逃げたのは明らかな事実だ。しかも、橋下氏は政治という公の問題についてデマを発信しながら、その説明を求められると「現在は一私人としての立場なので、無償でのインタビューには応じていない」と私的なビジネスのルールをもちだして取材を拒否した。
ご都合主義としか言いようがないが、この「公」と「私」を都合よく使い分けるダブルスタンダードこそ、橋下氏の最大の問題と言っていい。
周知のように、橋下氏は大阪市長辞職後も、「おおさか維新の会」の法律顧問を務め、その政策に大きな影響力を持ってきた。また、安倍政権時代から安倍前首相や菅義偉首相とも太いパイプを持ち続けてきた。とくに、維新の政策に全面協力してきた菅首相との関係は非常に緊密だといわれている。
ところが、橋下氏はそうした政界への影響力を持ち続ける一方で、「市長を辞めたんだから私人」であると強調して、自分に対する批判を封殺。さらにここのところ報道番組やワイドショーに連日のように出演し始め、政治からは距離を置いたかのように振る舞いながら、維新擁護、さらには安倍・菅政権擁護を口にしてきた。
そして、菅首相が誕生し、任命拒否問題が起きると、「菅首相は理由を説明する必要がある」としながらも、日本学術会議を攻撃し、最終的には菅政権をかばう発言を連発している。今回のデマツイートもその延長線上で出てきたものだ。
実際、橋下氏は、『グッとラック!』(TBS)で、9月の菅政権誕生時に、「橋下さんだけが知る“菅首相”ってどんな人?」と質問された際、「食事も一緒にさせてもらってますけど、その時の話の内容とかもしゃべっちゃうと、田崎史郎さんグループに入っちゃうじゃないですか。それは絶対に言えないので」などと答えていたが、橋下氏のやっていることは田崎史郎氏よりもっと悪質だろう。
だが、橋下氏のこうした表と裏の使い分け、ダブルスタンダードについて、メディアもネットもほとんど批判しない。今回のデマについても、同じく日本学術会議をデマ攻撃したことが発覚したフジの平井文夫氏はテレビに出なくなったが、橋下氏は批判されず、相変わらずテレビに出まくって世論を誘導している。この状況は想像以上に危険なことではないだろうか。
(編集部)
最終更新:2020.10.26 08:11
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