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『ワイドナ』で松本人志を前にゲス極・川谷絵音が「ちゃかし、嘲笑の文化」を批判! そのとき松本は不機嫌そうに…
『ワイドナショー』で新幹線殺傷事件について発言した川谷絵音
12月22日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)で、伊藤詩織さんが全面勝訴した安倍御用ジャーナリストの山口敬之氏の裁判について、松本人志が「山口さん、カッコよくない」と発言し、批判を浴びている。
この松本の発言は、「まちがいなく言えることは、女性の方が後日、納得してない、思い出すのがイヤになるということだけは間違いないですよね。そうなると、男は謝るしかないんですよね」と話した後に、続けて「控訴したところで、逆転で勝ったとしても、山口さんカッコよくないですよね」と話したもの。
あらためて言っておくが、今回の判決では、「酩酊状態にあって意識のない原告に対し、合意のないまま本件行為に及んだ事実、意識を回復して性行為を拒絶したあとも体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる」として、「合意なき性行為」が事実認定されている。
にもかかわらず、松本はその重大事実を完全に無視。「密室のことですし、どういうやりとりがあってどういう流れだったかわかりませんが」と言い募り、「後日、女性が納得していない、思い出すのがイヤとなったら、男は謝るしかない」などと、「性的合意がなかった」という重要なポイントをうやむやにし、まるで伊藤さんが後日態度を翻しイヤと言い出したかのような印象操作までしている。
おそらく空気を読むことに長けた松本は、世間の空気的に山口氏を擁護するのは得策じゃないと考え、でも本心では伊藤さんや「合意なき性行為」を認定した判決を支持したくないことから、性的合意の有無が問われる性暴力事件を、「カッコよくない」と男気か何かの問題に論点ずらしをしたのだろう。
単に「わかってない」というレベルではなく、「合意なき性行為」という重大な事実認定をないことにする、非常に狡猾で悪質な発言だ。
しかし、この日の『ワイドナショー』には、これとは逆に評価すべき発言もあった。発言の主はもちろん松本であるはずはなく、ゲスト出演していた「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音だ。山口裁判のニュースの前に取り上げられた、新幹線殺傷事件の一審判決についてのコメントだった。
この判決では、裁判長が無期懲役の判決を読み上げると同時に、被告が法廷内で万歳三唱。多くのワイドショーがその行動を一斉に非難していたが、『ワイドナショー』も例に漏れず、泉谷しげるが「死刑でしょ」と口火を切ると、神田愛花も同調。スタジオがただただ「けしからん」という空気に包まれた。
ところが、そんななかで川谷はこんなことを語り始める。
「2ちゃんのひろゆきさんが、昔言ってた『無敵の人』っていう『もう後がない人』たちが、ネット文化でいっぱい出てくるだろうっていうことを言っていて。最近、こういう殺人とか事件とか多いじゃないですか。もう後がないんで、『無敵』って意味がアレですけど、『無敵の人』が出てくるっていう、これも、もしかしたらそうなのかなって思って」
「無敵の人」というのは、「社会的地位や財産がなく失うものがないことから大量殺人など犯罪を犯すことに躊躇がない人」などの主旨のネットスラングだが、社会的に阻害された者を犯罪者予備軍かのように異常視し排除する文脈で語られることが多い。しかし、川谷はこう話を続けた。
「昔NHKかなんかの番組で、帰国子女の子が、『オーレンジ』って『オレンジ』のことを発音良く言ったら、まわりから笑われて、『オーレンジ』『オーレンジ』って言われて、家に帰っておかあさんに『僕、明日から、「オレンジ」って言う』みたいな。いじめられたっていうのがあって。日本の嘲笑文化、茶化したりとか、SNSで過熱しちゃって。彼(被告)もいじめられてたとか言ってましたし」
「そういう人がどんどん増えてきて、こういう犯罪増えるんじゃないのかなとか思って。それをどう止めるのかっていう。感情論で言えば、そりゃもう死刑にしてほしいとかありますけど、もちろん。こういう犯罪がもう起きないようにするには、ちっちゃいところからやってかないといけないんじゃないかと思います」
このあと、松本が川谷の発言を一切無視して「シンプルな話、我々がこんだけ納得していない時点でおかしい」「万歳三唱の時点で、裁判官は、ちょっと待ったっていうのが一発欲しい」と、被告や判決を批判。最後には「この事件以降、新幹線に乗ってもリラックスできない」などと川谷以外の出演者で言い合ってこの話題は終わり、川谷の発言が掘り下げられることはなかった。
新幹線殺傷事件で死刑を望む声を「感情論」と言い切った川谷絵音
しかし、川谷の指摘はとても貴重だった。泉谷しげるらが「死刑でしょ」と主張したすぐ後に、「死刑にしてほしい」という意見を感情論と言い切るだけでもなかなかたいしたものだが、川谷がもっとも評価に値するのは『ワイドナショー』という場で、被告の断罪という安全な態度に逃げることなく、本質的なことを語ろうとしたことだ。
「無敵の人」というワードを使いながら、被告の犯行がいじめなど(実親によるネグレクトの可能性なども指摘されている)による社会的疎外の結果である可能性を指摘し、「こういう犯罪がもう起きないようにするには、ちっちゃいところからやってかないといけない」という言葉で、厳罰では防止できないことを示唆した。
さらには、「オーレンジ」と発音してからかわれた帰国子女の例を出して、日本の同調圧力と嘲笑文化の問題にまで踏み込んだ。
この川谷の主張は極めて真っ当だ。今回の事件に限らず、「嘲笑」や「いじり」が社会からの疎外を生み、追い詰め、最終的に若者を自殺や無差別犯罪に走らせてしまうケースも少なくない。
メディアなどでそうした「嘲笑」「いじり」は「いじめとは違う」、「愛のある“いじり”はいい」という議論もあるが、それは加害者の意見であって、「いじり」も本質的にはいじめと変わらない。
たとえば、タレントのりゅうちぇるが「Seventeen」(集英社)2016年12月号で「私はいじられキャラで、イヤだ」という中学生の悩みに答えるかたちで、この「いじり」の問題を語ったことがある。
パートナーのぺこが「いじられたら、「それは嫌や」と言っちゃえば……」とアドバイスすると、りゅうちぇるは「そしたらめっちゃ空気が悪くなるんだよね。権力がすべてみたいな学校ではいじられるコは弱いコなんだよ」「僕の学校はカッコいいコとかわいいコしか権力がなくて、それ以外は弱くて、いじられる感じだった」と、回答したのだ。
いじめ加害者がよく口にする、「いじめじゃなくて、ただの"いじり"」というのは詐術にすぎず、いじりの背後には、結局強い者と弱い者の権力関係がベースにあり、いじられる者はマジョリティによる空気を悪くしてはいけないという同調圧力に従わされているだけ。それをりゅうちぇるは見抜いていた。
そして、この日の川谷もまた、その「いじり」「嘲笑」が日本社会で人を追い詰める大きな要因になっていることをきちんと指摘したのだ。
しかも、川谷がすごかったのは、それを松本人志の前で言ったことだ。言うまでもないが、この「いじり文化」「嘲笑文化」を助長しているのは、お笑い芸人であり、松本人志こそがその代表的存在だからだ。バラエティで「笑い」「いじり」という名目で、差別やセクハラ、いじめネタを連発し、さらにはコメンテーターとして「いじりといじめの違いは笑えるかどうか」などといじり(=いじめ)を正当化するかのような意見を垂れ流す。
意図していたかどうかはわからないが、川谷は嘲笑文化の中心にいる芸人のすぐ隣で、事件の根底に嘲笑文化があると指摘したのである。
川谷がこの話をしているとき、松本は顔を川谷から背け、上方を睨みつけるような、不機嫌そうな表情を浮かべていた。川谷の意見に同意していないのは明らかだった。『ワイドナショー』では、こうした松本の醸す威圧的な空気に気圧されて、ほとんどの出演者は、松本と異なる自分の意見を言えなくなることが多いのだが、しかし川谷は、松本の不機嫌な様子を気にすることなく、自分の主張を語り続けた。
さすがベッキーとの不倫騒動のときに、世間の「謝れ」という道徳ファシズムに簡単に屈しなかっただけのことはある。川谷が『ワイドナショー』やバラエティに出演する機会はそこまで多いわけではないが、せっかく出るなら、この“空気を読まずに本質に踏み込む”姿勢をぜひ貫いてもらいたいものである。
(本田コッペ)
最終更新:2019.12.27 08:09
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