東京五輪ボランティアと同種の仕事に「時給1600円」求人の不可解! 派遣元はパソナ…五輪組織委に疑惑を直撃

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タウンワークに掲載された五輪求人(タウンワーク11月25日配布号)


 招致裏金疑惑や新国立競技場の見直し、最近ではマラソン競技開催地の札幌変更など、ゴタゴタ続きの2020年東京オリンピック・パラリンピックだが、ここにきて、またぞろきな臭い案件が浮かび上がってきた。いま、SNSで物議を醸しているのは、11月25日配布の求人情報誌「タウンワーク」に掲載された「東京2020組織委員会運営スタッフ」募集の告知だ。

〈東京2020で働く。〉
〈一緒に盛り上げてくれる組織委員会運営スタッフ大募集!! 皆で協力し合い、運営を支えましょう! 一生の思い出を一緒に作りませんか♪〉

 募集する仕事は競技会場や選手村の運営、輸送等の管理、医師のサポート、国際コミュニケーションなど多岐にわたる。勤務はシフト制だという。だが、驚くのはその報酬だ。なんと「時給1600円〜」というのである。

 もちろん、五輪関連のスタッフとして働く対価として「時給1600円」以上が払われることを批判しようというのではない。不可解なのは、東京五輪をめぐってはすでに大会組織委員会が無償ボランティアを募集し終え研修も始まっているが、東京五輪組織委ホームページに掲載された無償ボランティアの活動内容と今回「タウンワーク」で募集されている「時給1600円スタッフ」の仕事内容が、ほとんど同じとしか思えないことだ。

 たとえば「時給1600円スタッフ」の業務内容のひとつである「選手村運営」の項目では、〈選手村で、施設管理、ゲストパス管理、サービス(食事/清掃等)提供、輸送などを担うお仕事です〉と説明されている。一方、「無償ボランティア」の「運営サポート」の項目にも〈競技会場、選手村、車両運行等の様々な運営サポートを行います〉などと同じようなものがある。また、訪日関係者との英語でコミュニケーションをとる仕事には通訳のスキルが必要となるが、これも「時給1600円スタッフ」と「無償ボランティア」の仕事の両方にほぼ同じ内容で記載されていた。

 これは「選手村運営」だけに限った話ではない。「タウンワーク」では8種類の仕事を募集しているのに対し、東京五輪組織委HPのボランティアの活動内容は9種類あり、「メディカル」と「ヘルスケア」、「トランスポート」と「移動サポート(運転等)」、「国際コミュニケーション」と「アテンド」など(すべて、前がアルバイトでの呼称、後ろがボランティアでの呼称)、呼称こそ違うものの説明されている業務内容はほとんど同じのものばかり(あえて違いを探せば、「会場・施設管理」「バックオフィス」がアルバイト募集のみの記載、「式典(表彰式運営のサポート)」「メディア(記録写真や動画の編集制作サポート)」がボランティア募集のみの記載ということくらい)。大きな違いは、有償スタッフの勤務期間が〈2020年2月〜9月〉となっており、ボランティアの〈2020年4月以降〉より、開始時期が早いこと。

 ちなみに「時給1600円」求人記事に描かれているイメージイラストは、上下ともボランティアのユニフォームと酷似している。

 Twitterでも「どうしてかたや時給1600円でかたや無償なの?」「同じ仕事なのに待遇が違うのはおかしい」といった声が噴出しているが、当然の反応だろう。

組織委は有償スタッフを「即戦力として高い専門性」と主張するが、求人広告には「社会人経験があればOK!」

 なぜ同じ仕事内容なのに、一方は時給1600円で一方はタダ働きなのか。理不尽な待遇差について大会組織委員会戦略広報課に質問したところ、〈ボランティアは、資格要件を要せず(移動サポートを除く)、任意かつ無償で参加いただくことを前提〉に広く募集したのに対し、〈有償の職員は、即戦力として高い専門性を発揮し、職務を遂行することを前提〉などとし、〈両者は役割や職務(活動)に対する責任の有無など、スタッフとしての性質が大きく異なり、代替の関係にはないと考えております〉と回答した。

 ボランティアは〈資格要件を要せず〉、有償アルバイトは〈即戦力として高い専門性〉という主張は、とてもじゃないが額面通りに受け取れない。というのは、「タウンワーク」の求人情報には「即戦力として高い専門性」どころか、〈社会人経験があればOK!(アルバイトの場合はリーダー経験ある方)〉と書かれているのだ。「タウンワーク」には「歓迎されるスキル」として「英語力」などが挙げられているが、ボランティア募集でも「積極的に応募していただきたい方」として〈英語、その他言語及び手話のスキルを活かしたい方〉などが挙げられており、大差ない。

 しかも、たとえば「タウンワーク」に掲載された「メディカル」という項目には〈競技会場等で、アスリートや観客等へ医療サービスを行う医師のサポートを担うお仕事〉との説明があるのに対し、東京五輪組織委HPのボランティアの活動内容のひとつ「ヘルスケア」は〈選手にけが人が出た場合、医務室への搬送サポートを行います。「ファーストレスポンダー」は応急手当セットを所持して2人1組で会場内を巡回します。また、ドーピング検査のサポートは、対象選手への告知、検査室への誘導や受付を行います。(検体採取は有資格者が行います)〉と説明されている。むしろ「ファーストレスポンダー」とか「ドーピング検査のサポート」とかボランティアの活動内容のほうがよりスキルや責任を求められているようにすら思える。他のカテゴリーでも同様の傾向は見られる。

 そもそもボランティア募集の詳細が明らかになった時点で、空港や会場での海外要人の接遇、関係者が会場間を移動する際の車の運転、選手がメディアからインタビューを受ける際の外国語でのコミュニケーションの補助、ドーピング検査のサポート、大会を記録するための写真や動画の編集サポートといった業務内容について、タダ働き人員で補うレベルの仕事ではなく、プロの通訳やドライバーを有償で雇用すべき仕事ではないかとの指摘がされていたくらいだ。

 組織委は〈ボランティアと今回募集の大会スタッフは違います〉と強弁しているが、無償ボランティアと「時給1600円スタッフ」という、非常に大きな待遇差があるのは、どう考えてもおかしい。無償ボランティアにもそれなりの時給や日当を出すべきなのではないか。

 付言しておくと、ボランティアは「10日以上参加できること」が応募条件とされており、また「活動分野」や「活動場所」について「必ずしも希望に添えない」との注意書きもある。ボランティアの延べ人数は多いが、稼働日数が足りないため、あるいは、希望者が特定の活動に偏っており足りない分野があるため、それを有償バイトで補うという可能性も考えづらい。

「時給1600円以上」スタッフを新規募集する一方で、12万人のボランティア応募者を不採用に

 さらに、今回のバイト募集をめぐっては、もうひとつ不可解なことがある。バイト募集について「ボランティアが足りてなかったのか?」との声が上がっているが、実態はまったく逆ということだ。

 組織委は、8万人を目標にボランティアを募集し、その2.5倍にあたる20万4680人もの応募者があったと今年1月に発表していた。ところが今年10月はじめに、組織委は、面談などの結果、応募の半分を超える12万人を不採用にしたと明らかにしたのだ。10月に12万人の不採用を発表したばかりなのに、その直後に有償アルバイトを募集しているということになる。

 ようは、この不採用の12万人の「人材」があまっているわけで、どうして、いまこのタイミングで、あらためて有償アルバイトを募集しなければならないのか。
 しかも、無償ボランティアについては当初から待遇の“ブラック”ぶりが指摘されてきた。対策が不十分な「酷暑」の問題はもちろん、全国から集まるにもかかわらず、支給される「交通費」は一律、1日たったの1000円相当のプリペイドカードで、宿泊も各自で負担しなければならない。さらには通訳や医療関係などの専門性の高い業務さえ無償のボランティアに任せるという体制は、まさに「東京五輪で一丸となろう!」を合言葉にした“やりがい搾取”だ。

 組織委の回答によれば、有償バイトは2000名の募集だという。わざわざ派遣会社を通して有償バイトを新たに募集するのであれば、不採用の12万人から人員を補充しボランティア全体の待遇を改善するという予算の使い方もありえるだろう。

 いずれにしても、ボランティアでは人員が足りなくなったための緊急募集というのは考えづらい。どう考えても、最初から有償アルバイトの枠があってボランティアの多寡にかかわらず募集するつもりだったとしか思えない。

 実際、有償アルバイトの募集はもともと予定されたものだったのかとの質問に、組織委は〈職務を遂行していただく必要な期間やコストとのバランスを考慮して適切なタイミングで募集をかけることとを予定しておりました〉と有償バイト募集が予定されたものだったことを認めている。

 とすれば、無償ボランティアの研修も始まった後、実質同じような業務を、今度は有償バイトとして募集するという方法は、大きな問題がある。組織委はボランティアについて〈任意かつ無償で参加いただくことを前提〉と説明しているが、同じような業務に「時給1600円」と「無償」があるとわかったうえで無償ボランティアを選んで応募したわけではない。知っていたら有償バイトで参加したかったという人がいてもおかしくない。騙し討ちのような募集方法については、きちんと検証されるべきだろう。

時給1600円以上」スタッフの派遣を手がけるのは、竹中平蔵のパソナ

 しかも、この「時給1600円スタッフ」の新募集には、さらに大きな問題がある。というのも、この有償スタッフの募集を手がけているのは人材派遣大手のパソナだからだ。

 言うまでもなく、パソナグループの取締役会長といえばあの竹中平蔵氏。パソナグループは、安倍政権下でも国家戦略特区における神奈川県の家事支援外国人受入事業の事業者に選ばれたりと、政権に食い込んでいる。また、竹中氏は安倍首相が議長を務める「未来投資会議」の民間議員も務めている。いわば、安倍政権の“お友だち企業”なのだが、実は、パソナグループは人材派遣会社で唯一、東京オリンピック・パラリンピックの「オフィシャルサポーター」契約を結んでいる。

 だとすれば当然、無償ボランティア12万人の「余剰人材」があるのに、わざわざパソナを通じて高時給スタッフを新募集しているのも、一種の利益誘導ではないかとの疑いが生じるだろう。

 大会組織委戦略広報課によれば、有償アルバイト2000名をパソナからの派遣で募集するという。なぜパソナかというと〈「人材サービス」カテゴリにおけるオフィシャルスポンサーだからです〉の一点張り。パソナに支払われる金額についても質問したが、〈個別案件ごとの派遣契約〉とだけ回答し金額は明かさなかった。さらに事業者を選ぶための競争入札などは行われたのか、という質問にはこう回答した。

〈パソナに限らず、パートナーには、契約によって商品・サービスを供給する機会があり、今回は、競争入札は行っておりません〉

 つまり、競争入札にすらかけず、職員やボランティ以外の有償アルバイトは全部パソナとの契約になるということらしい。こんなアンフェアが「オフィシャルスポンサー」というだけで許されるのか。

 そもそも「オフィシャルスポンサー」というのは、言うまでもなく「スポンサー」なのだから、本来オリンピックやパラリンピックのためにお金を提供する側だと思うが、実のところ「一業種一社」の原則の「オフィシャルスポンサー」の名のもとに、むしろほぼ独占的に利権を享受しているという実態があらためて明らかになったと言えるだろう(東京五輪の場合、新聞社のように「特例共存」でスポンサーが膨れ上がっていることも大きな問題だが)。

 無償ボランティアは、その募集要綱には〈1日8時間程度、連続して5日以上で合計10日以上できる人、事前の研修にも参加できる人〉とあるように、「本人の希望」をいいことに、長期間拘束されたあげくタダ働きさせられる。一方で、安倍政権ともつながる“お友だち企業”には、まるで特別扱いかのような有償アルバイトの派遣契約を結んでいる。すでに招致をめぐるスキャンダルなどで、利権と汚職の温床であることが判明している東京五輪。このままでは本当に“負の遺産”になってしまうだろう。

最終更新:2019.11.29 03:38

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