スポンサー高須院長の恫喝に屈し全面謝罪した『ミヤネ屋』読売テレビは「表現の自由」を捨てるつもりなのか!

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高須クリニックHPより


 マスコミの弱腰は重々承知していたつもりだったが、いやはやここまでだらしないとは……。

「読売テレビとしても、高須院長、および視聴者の皆さまに誤解を与える放送をしましたことをお詫び申し上げます」

 26日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)で、林マオアナウンサーが神妙な面持ちで高須クリニック院長・高須克弥氏にこんな生謝罪を行った。

 すでに報道されているように、これは、高須院長が例の民進党・大西健介議員を名誉毀損で訴えた裁判について、25日の同番組でコメンテーターの浅野史郎・元宮城県知事が“大西議委員の発言は名誉毀損に当たらない”旨の発言をしたことが発端だ。

「(大西議員は)国会で言ったかは別として、普通の平場で言ったとしても、これは真実を言った。この正直者と怒るようなもの」
「(○○クリニックと匿名でなく)高須クリニックと言ったとしても構いませんよ」

 これに対し、番組放送後、高須氏がツイッターで〈明確な名誉毀損です。いまミヤネ屋さんに顧問弁護士から警告しました。浅野史郎様から明日中にお詫びがなければ提訴します〉と書き込み、ネット上では大きな話題になったのだが、翌日、本当に謝罪してしまったのだ。しかも番組のみならず、読売テレビが社をあげての全面謝罪。浅野氏も番組を通し「裁判の内容を誤解していた。高須院長にお詫びする」と謝罪した。

 だが、浅野氏の発言は、読売テレビがひれ伏すように謝罪しなければならないものなのか。

 というのも、浅野氏の言うように、大西議員の発言は名誉毀損に当たらない可能性が極めて高いからだ。

 これもすでにさんざん報道されているが、大西議員が高須院長に訴えられたのは今年5月17日に行われた衆院厚生労働委員会での質問だ。この日、大西議員は美容業界の実態に言及、そのなかでこう発言した。

「医療分野においては原則広告が禁止で非常に限定的な事項しか広告することが認められていない。医療機関名であったり連絡先であったりと。だから非常にCMも陳腐なものが多いんですね。みなさんよくご存じのように、たとえば“イエス!○○”と、クリニック名を連呼するだけのCMとか、0120で始まる電話番号とクリニックの名前を言いながら若い女性がゴロゴロゴロゴロ転がっているCMをみなさん見たことがあると思います」

 この発言に対し高須氏は“イエス!○○クリニック”とは高須クリニックであるとして〈明日、顧問弁護士に連絡しておとしまえをつけます。ただでは済まさせません〉などと大激怒。実際、大西議員だけでなく民進党、そして党代表の蓮舫氏、さらには国を相手取って、1000万円の損害賠償と謝罪広告掲載を求める民事訴訟を起こした。

浅野の「大西議員の質問は名誉毀損じゃない」発言は間違っていない

 しかし、議員には憲法第51条に定められた「国会議員の免責特権」がある。それは「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」というもので、国会などでの自由な言論、討議を促すものだ。もし責任を問われるべき事由があった場合、それは次の選挙で選挙民によって裁かれるという考えである。

 さらに損害賠償についても、当時衆議院議員が国会で医師のセクハラや薬物使用を指摘、その翌日医師が自殺した事由について、平成9年9月9日、最高裁では以下のような判決が出されている。

「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする」

 国会議員が職務遂行のためにおこなったものであれば、セクハラや薬物使用を指摘した発言ですら名誉毀損に当たらないとされているのだ。国会の美容業界の広告問題を取り上げた質問のなかで出てきた、「高須」の名前すら出していない発言が名誉毀損になるはずがない。

 また、浅野氏は「国会でなく普通の平場で言ったとしても名誉毀損でない」という趣旨のことを言っていたが、これも間違ってはいない。

 仮に大西議員が議員ではなく、「国会議員の免責特権」がなかったとしても、この件で名誉毀損が成立する可能性はきわめて低い。なぜなら、大西議員の“陳腐”発言は、大西議員の感想であり、憲法が保障している意見、論評の表明の自由の範囲内だからだ。

 名誉毀損には大きく分けて「事実適示」と「意見・論評の表明」がある。今回の“陳腐”発言は後者の「意見・論評の表明」だが、これについても1989年12月、長崎での“教師批判ビラ事件”に関する最高裁判決でその枠組みが示されている。それを『名誉毀損─表現の自由をめぐる攻防』(山田隆司/岩波新書)では、こう整理し記されている。

〈①公共の利害に関する事項について、②その目的がもっぱら公益を図るもので、かつ、③その前提事実が主要な点において事実であることの証明があったときは、④人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものではない限り、批判・論評は名誉侵害の不法行為の違法性を欠く〉

「陳腐」の意見表明が名誉毀損なら、パートナー・西原理恵子の漫画も

 つまり表現が公共の利害に関わり、共益を図る目的で、事実を前提としていて、人身攻撃でない限り、「意見・論評の表明」は表現の自由であり、名誉毀損の対象にならないということだ(なお“ロス疑惑「夕刊フジ」事件”の97年最高裁判例を踏まえ、事実の真実性を証明できない場合も信じるに足る相当性が認められれば免責されると解されている)。

 今回ももちろんこれに当てはまる。「公共の電波」を使って放送されている高須クリニックのCMをめぐる評価は公共の利害、公益性に関わる問題であり、“イエス!○○クリニック”という言葉が放送されているのも事実。“陳腐”という表現も、明らかに感想、意見、価値観の表明の域だから、名誉毀損が成立するとは考えにくい。

 もちろん、浅野氏の言うように、「高須クリニック」と実名を言ったとしても、その原則は変わらない。

 実際、このレベルの感想や論評が名誉毀損となってしまえば、個人の多様な“感想や意見”は封じられ、テレビコメンテーターなんて意見を言うことができなくなってしまうだろう。それどころか、文学や芸術、映画などの批評も一切できなくなる。何しろ、高須氏の主張通りなら、「この映画は陳腐だ」と言っただけで、名誉毀損になってしまうのだから。

 高須氏は公判で、「キャッチコピーは亡くなった妻の遺産で、私の大切な宝だ」などと主張したらしいが、そんなことが理由で公共の電波を使ったCMへの批判が許されず、名誉毀損が成立するなら、もはやこの国に表現の自由はなくなってしまうだろう。

 この訴訟を、高須氏のパートナーである漫画家・西原理恵子氏は表現者としていったいどう考えているのか。と思っていたら、なんと“法廷画家”として裁判に同行するなど、高須氏を支援しているようだ。西原氏は、高須氏の主張通りなら、自分の毒舌漫画も名誉毀損だらけになってしまう、ということがわかっているのか。

 いずれにしても、大西議員の発言で名誉毀損が成立するというのはほぼありえないし、むしろ、高須氏の提訴は、表現の自由への重大な挑戦であり、訴訟による威嚇行為だと批判する意見があってもおかしくないものなのだ。

 浅野氏の『ミヤネ屋』でのコメントも言い回しは稚拙だったが、そういうことを主張しているものであり、その批判姿勢は正しい。また、浅野氏は大西発言を「真実を言った。この正直者と怒るようなもの」と発言していたが、これも、「陳腐」を真実だと評価しただけで、批評・意見の表明の範囲内、やはり名誉毀損に当たる可能性は低い。少なくとも、訴訟を起こされても十分に闘うことはできたはずだ。

 というか、報道番組、メディアとしては、今後の表現の自由、論評・意見表明の自由を守るためにも、絶対に闘わなければいけなかった案件だろう。

 ところが、『ミヤネ屋』、読売テレビはいとも簡単に高須氏に屈してしまった。なぜか。

 それは、高須クリニックがマスコミにとって、大スポンサーだからだろう。しかも、高須氏はそのスポンサーであることを利用して、メディアに圧力をかけている。

『ミヤネ屋』、読売テレビが高須院長に屈した理由

 たとえば、2015年に起こった、『報道ステーション』(テレビ朝日)のCMスポンサー打ち切り問題だ。当時、安倍政権による安保法制の強行採決が大きな問題となっていたが、高須氏は『報ステ』が安保法制反対派の意見ばかりを報じているなどとし、その報道姿勢を疑問視、スポンサー契約を打ち切った。

 また、今回の『ミヤネ屋』での浅野氏に関しても、高須氏は“番組スポンサー”という立場をフルに活用している。25日のツイッターには浅野氏への提訴予告だけでなく、『ミヤネ屋』、そして読売テレビに対しこんな通告さえしていた。

〈とりあえずミヤネ屋の提供降りるか。詫びを急いだほうがいいと思うけど…〉

 だが、悲しいかな、読売テレビ、そして『ミヤネ屋』はそれに抗する気などさらさらないらしい。番組では司会の宮根誠司が「大変申し訳ございませんでした。高須院長、これからも仲良くしていただけますでしょうか。ぜひイエス!とおっしゃっていただけたらと思います」と高須氏に媚びへつらうようなコメントを出し、番組途中には、ピコ太郎と派手な衣装で踊る高須氏が登場する高須クリニックのコマーシャル映像がこれ見よがしに流されるという醜悪なシーンが繰り広げられていた。

 さらに、こうしたメディアの弱腰の背景には、高須氏に熱狂的な“ネトウヨファン”がくっついていることも関係しているかもしれない。高須氏のツイッターのフォロワー数は26万を超えるが、高須氏が『ミヤネ屋』への提訴予告をすると、ネットの反応は『ミヤネ屋』、浅野氏への批判と高須氏を賞賛するコメントで溢れた。こうした熱狂的ファンに、読売テレビは電凸攻撃を仕掛られることを恐れた可能性もある。

 金を持っているためいくらでも裁判でも起こすことができるうえ、大スポンサーで、ネトウヨのファンもついている高須氏は、テレビにとっては一種のタブーになってしまっているということなのだろう。

 だが、高須氏に屈するというのは、どういう意味があるか、メディアは本当にわかっているのか。意見・論評について謝罪してしまうことがこれからの表現・報道の自由を制限することになるのはもちろん、高須氏は、ただの美容クリニック経営者ではなく、ここ数年顕著にネトウヨ化し、歴史修正主義、安倍政権支持を盛んに発信しているきわめて政治的な存在なのだ。

 これを許したら、金の力にあかせてCMを流し、気に入らない報道を訴訟するような人間や企業がタブーになっているいまのメディア状況をさらにエスカレートさせ、この国は本当に一部の金持ちだけがマスコミを支配し、世論を誘導できることになってしまうだろう。マスコミはそのことをもっと強く自覚すべきである。

最終更新:2017.12.06 04:28

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