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山口敬之レイプ疑惑はどうなったのか? 詩織さんに相談されていた記者が証言! 作家の中村文則も不起訴の経緯に鋭い分析
不起訴処分の1カ月以上前に出版された『総理』(幻冬舎)
都議選の自民党大惨敗を受け、改めて加計学園疑惑追及の動きが盛り上がってきた。首相不在ではあるが、閉会中審査や前川前文科省事務次官の参考人招致が決まり、森友学園と同じような補助金や政治献金がらみの疑惑も報じられ始めている。
しかし、同じ安倍政権にまつわる疑惑でも、まったく放置されているのが、“安倍官邸御用達”ジャーナリスト・山口敬之氏の「準強姦」もみ消し問題だ。周知のように、この疑惑は5月、「週刊新潮」(新潮社)が報じたあと、被害者の詩織さんが強い決意のもと、異例の実名顔出しで記者会見に臨み、真相究明を訴え、検察審査会に不服申し立てを行なった。
しかし、新聞やテレビは会見の直後に、一瞬、報道したものの、そのままフェイドアウト。ネットでは逆に、安倍応援団やネトウヨたちによる、詩織さんのプライバシー暴きや〈ジャーナリストになりたい女の売名行為だろう〉〈詩織の証言には何の証拠もない〉〈山口敬之氏を貶めるための左翼のまわしものだ〉〈民進党がバックについている〉といった悪質な人格攻撃やデマが展開された。
さらに当の山口氏自身も雲隠れしたまま、フェイスブックで〈法に触れる事は一切していません〉とレイプを否定し、〈当該女性がもし、純粋に不起訴という結論に不満だったなら時をおかず不服申立していたと考えます〉〈なぜ私がメディアに露出するようになってから行動が起こされたのか〉などと卑劣な“セカンドレイプ”的反論を行った。
それこそ加害者や加害者を守った当局は疑惑に頬被りしたまま逃げ切り、被害者が叩かれるという理不尽な状況になってしまったのだ。
しかし、ここにきて、詩織さんに対するこうした卑劣なバッシングを真っ向から否定する重要な証言が、第三者から飛び出した。
相談を受けていた清水潔記者が「詩織さんの主張は2年前から変わらない」
7月3日放送の『大竹まことゴールデンラジオ』(文化放送)にゲスト生出演したジャーナリストの清水潔氏が、山口氏によるレイプ事件発生からすぐの2015年7月の段階で、詩織さんから直接相談を受けていたことを、初めて明かしたのである。
清水氏といえば、公式発表に頼らない独自の調査報道を重ね、桶川ストーカー殺人事件、北関東連続幼女誘拐殺人事件など、何度も警察や司法の嘘・欺瞞を暴いてきたジャーナリスト。その清水氏は、生放送のなかでこう切り出した。
「この事件について、私はお伝えしなければいけないことがあるなと前から思っていたので、今日、ちょっとお話させていただきたい。詩織さんが、記者会見などでいろいろ話をされたときに、ネットなどでは、『これは政権に対する攻撃なんじゃないか?』『政治利用してんじゃないの?』『本当の話なのか?』みたいな非常に誹謗中傷、無責任な声があがったんですね。これについて、否定しておきたいと思います。実は私はこの事件、2年前からですね、詩織さんから直接相談を受けていたんです」
さらに清水氏はこう続けた。
「私が詩織さんから相談を受けたのはその年の7月の末なんです。本当に(山口氏が)逮捕されなかったというときから、ひと月ぐらい後だったんですね。相談に来られたのはまったく個人的なルートで、私のところに訪ねてきてくれたということなんですけど、そのときの彼女の説明、こんな被害があるんですということと、今彼女が言っていることは、まったく同じなんですよ」
この清水氏の証言は極めて重要だ。つまり、詩織さんの発言内容が事件発生から約3カ月後の段階と、それから2年だった現在とで首尾一貫していることを、当時から相談されていた人間として証明したのである。
そもそも、山口氏がレイプ事件を起こしたのはまだTBSワシントン支局長だった時代の2015年4月。アメリカでジャーナリズムを学んでいた詩織さんは、帰国中、山口氏から仕事のためのビザ取得について話をしようと誘われて、食事に行った。しかし、2軒目の寿司屋で突然目眩を起こし、記憶が途絶える。そして明け方、身体に痛みを感じて目がさめると、ホテルの一室で、裸にされた仰向けの自分の体のうえに、山口氏がまたがっていた。しかも山口氏は避妊具すらつけていなかった。
詩織さんがすぐに被害を警察に訴えたところ、警察は当初協力的ではなかったが、ホテルの防犯カメラに山口氏が詩織さんを抱えて引きずる模様が収められていたこともあり、本格的に事件として捜査が始まる。所轄は山口氏の逮捕状をとり、15年6月8日には、複数の捜査員がアメリカから成田空港に帰国する山口氏を準強姦容疑で逮捕するため、空港で待ち構えていた。
ところが、そこに警視庁から逮捕ストップの指示が入り山口氏は寸前で逮捕を逃れた。
詩織さんの告発が「売名」「政治目的」というのはありえない
清水氏も、逮捕状が発布されたにもかかわらず逮捕されなかったことについて、今回のラジオで「まずない。ほとんどないです。ゼロとは言いませんが、よっぽどおかしいんですよ」「警察官はなんとかして逮捕したいわけですから」と強調していたが、確かにこれは異例中の異例のことだった。
清水氏によれば、山口氏のレイプ事件がすぐにマスコミに報じられなかったのも、詩織さんの告発に信憑性がなかったわけではなく、「逮捕されなかった」ことが大きいという。
「私も結構くどいですから、散々聞いたんですけども、そこ(詩織さんの話は)はまったく変わらない。だから、信頼性はもともと高いなというふうに思っていたんだけれども、すぐにこれが報じられなかったというのは、だいたい『逮捕されました』というのが本来のニュースのスタンダードなスタイルなんですよ。ですが『逮捕されなかった』となると、『ん?』ってことになるんですね。その(逮捕できなかった)理由がまずわからない。そうすると、相当取材をしないとこれは難しいぞ、と。本当に誰か捜査の妨害をした、あるいは捻じ曲げたみたいなことがあったのかどうかってことを、(取材)やっていかなきゃいけないわけです」
しかも、今回の「週刊新潮」の記事も詩織さんが売り込んだものではなかった。その後、山口氏が安倍首相のヨイショ本『総理』(幻冬舎)を出版したり、首相に近いコメンテーターとしてテレビに盛んに登場するようになっていったなかで、この事件を聞きつけた「週刊新潮」から清水氏にアプローチがあったのだという。
「取材がしたいということで、僕のほうに紹介があったんですね。それで、詩織さん本人とも相談をして、ご本人も、ぜひきちんと私はこれを世に出したいんだ、という。私もそこは同じだったので、じゃあ週刊誌の記者と会ってみますか? ということで、紹介をして、そして『週刊新潮』が取材に入ったんですね」
そして、「週刊新潮」は、詩織さんの証言を裏付ける様々な証拠をつかむ。そのなかでも決定的だったのが、くだんの15年6月に山口氏が逮捕直前の空港で逃れることができた内幕をめぐる“一級の証言”だ。「週刊新潮」の直撃に対して、菅義偉官房長官の右腕といわれるエリート警察官僚・中村格刑事部長(事件当時)が「私が決裁した」と認めたのである。ここで初めて、山口氏の逮捕取りやめが、官邸と近い警察官僚の指示だったという紛れもない証拠が出揃ったのだ。
「DNA鑑定なんかも行われていて、そういう意味で元TBSジャーナリストと性的関係があったのは、もう科学的にも証明されているんですけども、そのうえでとった逮捕状が逮捕直前、成田空港で容疑者が戻ってくるときに逮捕を待ち構えていたら(捜査員に)電話が入って『やめだ』という話になった、と。全然わからないままね、事態が進んでいったわけですね。その状態が明らかになっていくのに、この2年の月日がかかったんですよ。ようやく、形が見えてきたわけですね」
つまり、こうした裏どり取材によって初めて、山口氏の「準強姦疑惑」は記事として世に出ることとなり、それを受けて、詩織さんは記者会見を開くことになった。それがこの間の経緯に他ならない。詩織さんの告発が、ネット右翼たちが言うような「売名」や「政治利用」などということはありえないのだ。
中村文則が見抜いた山口レイプもみ消しの不可解な経緯
清水氏は放送後、ツイッターで〈生番組なので舌足らず、説明不足もあります。今回の放送は事前に詩織さんと相談のうえでの事です。そのうえで彼女が2年前から被害を訴えていたこと、しかし逮捕中止の闇が明らかになるには時間がかかったことを伝えたかったからです〉と述べている。
実際、詩織さん自身も会見で、検察審査会への不服申し立てに時間がかかったことについては、ホテルの防犯カメラやDNA鑑定、タクシー運転手やベルボーイなどの証言等の証拠申請の準備が必要だったからだときちんと説明したが、第三者である清水氏の証言によって、それも事実であることが明白になった。
だとすれば、やはり言うまでもなく、この間トンズラを決め込み、ましてやフェイスブックで詩織さんの「売名」だと印象づけようとデタラメを吹いた山口氏は、改めて公の場で説明する必要があるだろう。
いや、山口氏だけではない。逮捕をつぶした警視庁の中村格氏やその背後にいるといわれる菅官房長官らもきちんと説明責任を果たすべきだ。
実は、この山口氏の準強姦事件がもみ消された経緯について、意外な人物が鋭い分析をしている。それは、作家の中村文則氏だ。中村氏といえば、売れっ子小説家には珍しく、安倍政権批判をはじめ、踏み込んだ社会的発言をすることで知られているが、毎日新聞7月1日付愛知版で、「疑問に思う出来事があった」としてこの事件に言及している。
それは、山口氏の不起訴決定時期と『総理』の刊行時期の関係についてだ。
山口氏は前出のフェイスブックの反論で、〈不起訴処分はすでに昨年7月に全ての関係者に伝えられています。私はこの結論を得て、本格的な記者活動を開始しました〉などと言っているが、これは大嘘だった。逮捕を免れ、書類送検となった山口氏に不起訴の決定が下ったのは確かに2016年7月だったが、フリーになった山口氏が処女作『総理』を出版し、同時に「週刊文春」(文藝春秋)で集中連載を始めたのは、それよりも前の、2016年6月9日。つまり、山口氏は不起訴より1カ月も早く、記者活動を開始していたのだ。
中村氏が疑問に感じたのは、まさにそのことだった。中村氏はこう指摘する。
〈そもそも、首相の写真が大きく表紙に使われており、写真の使用許可が必要なので、少なくとも首相周辺は確実にこの出版を知っている(しかも選挙直前)。首相を礼賛する本が選挙前に出て、もしその著者が強姦で起訴されたとなれば、目前の選挙に影響が出る。〉
〈でも、山口氏の「総理」という本が16年6月9日に刊行されているのは事実で、これは奇妙なのだ。なぜなら、このとき彼はまだ書類送検中だから。
しかもその(『総理』発売日の)13日後は、参議院選挙の公示日だった。だからこの「総理」という本は、選挙を意識した出版で、首相と山口氏の関係を考えれば、応援も兼ねていたはず。そんなデリケートな本を、なぜ山口氏は、書類送検中で、自分が起訴されるかもしれない状態で刊行することができたのか。〉
『総理』が不起訴決定より早く出版された意味
そして、それは、山口氏がなんらかのルートを使って、起訴がないことを事前に把握していたからではないか、と中村氏は分析するのだ。
〈山口氏が、絶対に自分は起訴されないと、なぜか前もって確実に知っていたように思えてならない。それとも、起訴にならない自信があった、ということだろうか。でも冤罪で起訴されることもあるから、一度は所轄が逮捕状まで取った事案なのだから、少なくとも、自分の不起訴処分が決定するまで、この種の本の刊行は普通できないのではないだろうか。〉
中村氏はこれ以上、具体的なことを書いていないが、この間、出てきた中村格氏や、内閣情報調査室トップの北村滋情報官との関係を考えると、裏で官邸が動き、首相のお友だちである山口氏にいち早く不起訴を知らせていた(あるいは不起訴になるようにもっていった)可能性は十分あるだろう。
そして、山口氏の前述のフェイスブックの反論は、嘘をついたわけではなく、事前に知らされていたため、不起訴決定後に本格的な記者活動を開始したと自分で錯覚してしまったということなのかもしれない。
いずれにせよ、この山口氏によるレイプ事件は、普通は考えられないような不自然なことや不可解なことがいくつもある。山口氏や官邸はこのまま逃げ通そうとするだろうが、そんなことは決して許してはいけない。清水氏は「司法が歪められているとしたならば、とてつもない問題。他人の問題でなく自分の問題として考えなければいけないと思いますね」と語っていたが、これは、ひとりの女性の問題ではなく、すべての国民にふりかかる可能性がある重大な不正だ。今後も、徹底的に追及する必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.07.06 03:56
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