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町山智浩がシャマラン監督最新作のネタバレをしたと炎上…ネタバレを過剰に責める風潮は「批評の自由」を奪う!
映画『スプリット』公式サイトより
映画でも漫画でも小説でも、メディア上での作品紹介が少しでも踏み込んだところに言及すると、すぐに「ネタバレだ!」と鬼の首を取ったかのように炎上を焚き付けられる状況が定着して久しい。
そんな風潮に一石を投じた映画評論家・町山智浩氏の発言が話題を呼んでいる。
きっかけは、現在公開中のM・ナイト・シャマラン監督最新作『スプリット』に関する解説だった。
この作品はラストで唐突な展開を見せるのだが、その伏線はこの映画のなかにはなく、監督の過去作品のなかにあるため、町山氏はこのようなツイートを投稿。ヒントとして監督の代表作三つを挙げ、それらを鑑賞前に予習しておくことを勧めていた。
〈シャマランの新作『スプリット』は彼のある過去作品を観ていないとまったく意味がわからない映画なんですが、その作品を特定するとネタバレになるので『シックス・センス』『アンブレイカブル』『サイン』のうちどれか、とまでしか言えないのです。〉
〈シャマランの『スプリット』は15年以上も前の彼の初期作品を観ていないとまるで意味不明な映画になっているので、現在25歳くらいより若い人たちが楽しむために、シャマランの初期作品を観ておいたほうがいいと薦めているのです。〉
ようは、『スプリット』の作中で突如、01年日本公開のシャマラン監督作品『アンブレイカブル』 に登場したデイヴィッド・ダン(ブルース・ウィルス)が現れ、この作品は『アンブレイカブル』と同じ世界線の物語であることが明らかになるということなのだが、表立って「続編」といったかたちでプロモーションしているわけではないため、『アンブレイカブル』を事前に見ていない観客も多くいるであろうことが予想され、そして、『アンブレイカブル』を見ていないとその展開が何のことなのかさっぱりわからないまま劇場を後にすることになる。
町山氏のツイートはそのことを危惧してのもので、しかも、上記のことをズバリ指摘したわけではなく、『シックス・センス』と『サイン』という囮も組み込んだ、かなり気を使った文言だった。ところが、それに対しネット上ではこのような書き込みがなされ炎上した(余談だが、この話はシャマラン監督自身もツイッターで明かしており、『アンブレイカブル』と『スプリット』の続編となる『Glass(原題)』を19年に公開予定だということも自身のツイッターアカウントで書いていた)。
〈町山智浩さんがなぜかスプリットの超絶ネタバレツイートをぶっこんでいるので皆さまお気をつけて。〉
〈町山さんの意図自体は理解できるのですが、それはPodcastなりラジオなり、自発的に話を聞きたくて来てる人に対して与えてあげるべき情報であり、相手のスタンスに関係なく不特定多数の拡散により情報が行き渡る仕組みのツイッターで公開直後に投下すべき話じゃないでしょう。〉
ネタバレ警察は映画評論の場を奪う、町山智浩の主張は正しい
これに対し町山氏は激怒。反論のツイートを書き込んだ。
〈いつも映画の最初の30分くらいの展開以上の話はしないのにネタバレネタバレうるさくて映画については俳優のゴシップとかどうでもいいこと以外にもう何も言えない。〉
〈料理の食材や調理法、隠し味、つまりネタを解くように映画を分析するのが映画評論家の仕事なのでネタバレ警察ははっきり言って営業妨害だから戦うしかないんだよ〉
町山氏の映画評論のスタイルは、映画の背景を噛み砕いて説明し、重層的な物語を理解しやすくするものだ。
たとえば、映画の舞台となっている時代背景や当時の社会風俗を説明したり、その映画のなかに過去の映画や文学から引用されているシーンがあればそのオマージュのネタ明かしをしたり、作中で使われている音楽を解説してその歌詞と物語の共通点を指摘したりすることで、ただ漫然と映画を見ているだけでは絶対にわからなかった、映画に隠された裏の意味が理解できるようにしている。
それは映画評論として至極まっとうな姿であり、そのためには必然的に映画の中身に触れる必要がある。しかし、もしそれが許されないのであれば、映画評論はおろか、映画紹介すら不可能になってしまう。映画製作者が作品にまぶした裏の意味をプロの目で解説することはできなくなり、町山氏が言う通り、映画評論家や映画ライターは出演する俳優のゴシップネタを伝えるだけの職業になってしまうだろう。それは、映画界にとっても、映画ファンにとっても不利益でしかない。
それに、そもそも、「ネタバレ」というものはそこまで忌避されるべきことなのだろうか? 話のオチがわかっていても面白い作品は面白いし、むしろ、「結末に向けての道程」を楽しむものこそ「物語を味わう」ということなのではないだろうか? 一連のツイートのなかで町山氏は、こんな皮肉をつぶやいている。
〈「『荒野の用心棒』は最後に宿敵と決闘しますが…」「ネタバレだ! 結末を明かされた!」〉
〈「クリスティの『オリエント急行殺人事件』は意外な犯人が……」「ネタバレだ! 意外な犯人というだけで察しがついてしまう!」〉
また、行き過ぎたネタバレ恐怖は、別の問題も引き起こす。ネタバレを避けようとするがあまり、物語をねじ曲げたかたちでプロモーションすることにより、あたかも結末や謎にしか価値がないかのように誤読されるという憂き目にあう作品もあるのだ。
行き過ぎたネタバレ忌避の風潮は作品の誤読という悲劇を生む
その一例が、カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』(早川書房)。これは、人間の臓器移植のために作られたクローン人間を描いた近未来SFなのだが、日本でのプロモーションにあたってそういう紹介のされ方はなかった。ネタバレになると思われていたからだ。
確かに、物語の主人公であり語り手がクローン人間であることは作品冒頭では明かされておらず、読み進めるうちに徐々にそのことがわかってくる構造にはなっているが、それは明らかに『わたしを離さないで』という物語の核心ではない。
にも関わらず、ネタバレ恐怖という風潮のためなのか、主人公たちがクローン人間であるということは、口外禁止のネタバレであるかのようにレビューなどでは触れられず、どころか、その事実に驚くことが物語上最大のポイントであるかのように、流通消費されていった。
ただ、先般から述べている通り、この作品は近未来SFの形をとってはいるが、「実は主人公はクローンだった!」ということに驚くのが主題のエンタテインメント作品ではない。
この作品におけるクローン人間は「いずれ必ず死ぬことが決まっている生を生きる存在」であり、そういった「諦念のなかで生きる」ということを描くのがこの小説の主題だ。「いずれ必ず死ぬことが決まっている生を生きる存在」……そう、これはつまりふつうの人間だって同じなのだ。諦念のなかで生きるということは、老執事を描いた『日の名残り』をはじめカズオ・イシグロが繰り返し描いてきたテーマでもある。
作者のカズオ・イシグロ自身も、出版当初のインタビューで、クローン人間であることは前提で作品について語っているし、書評などで隠す必要もないと語っている。また、2010年にキャリー・マリガン主演で映画化された際は、映画の冒頭でクローン人間であることはあらかじめ明かされている。こういったプロモーションや評論のせいで作品が誤った受け取られ方をしたというのはネタバレ忌避という風潮が生み出した害悪でしかない。
これは『スプリット』で起こっていることと非常によく似ている。この作品が『アンブレイカブル』との連作であるというタネ明かしは、あくまでも最後の最後に出てくるサプライズであって、『スプリット』という作品の根幹ではなく、そのオチを知っていようといまいと十分に楽しめる作品だからだ。
行き過ぎたネタバレ忌避は、我々から映画や小説や漫画について語る機会を奪い、評論の土壌をも枯らせていく。それは作家にとっても、観客にとっても不幸なことである。
(新田 樹)
最終更新:2017.12.04 03:55
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