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『文豪とアルケミスト』ファンが「赤旗」紹介記事に「小林多喜二を政治利用するな」! 君たち、多喜二のこと知ってる?
上・DMM「文豪とアルケミスト」公式ページより/下・しんぶん赤旗公式ページより
昨夏、フジロックをめぐって、ネット上でおきた「音楽に政治をもちこむな」論争。ネット世論の見識の低さを露呈させる炎上事件だったが、それから1年、「カルチャー」と「政治」をめぐり、またもや頭の痛くなるような炎上が発生した。今度はなんと「小林多喜二を政治利用するな」である。
「はぁ!? 何のこと?」状態の人も多いと思うので、順を追って説明したい。現在、『文豪とアルケミスト』というブラウザゲームが大ヒット中だ。これは、イケメンの二次元キャラになった近代文学の文豪たちを戦わせるゲームで、登場人物には、太宰治、芥川龍之介、宮沢賢治といった超有名作家から、佐藤春夫、中野重治、徳田秋声といった渋いラインナップまで取り揃えているのだが、そのなかでも人気キャラなのが小林多喜二である。
スマートな体型にフード付きのロングコートが映え、ロン毛をなびかせながら剣を操る姿も格好いい。キャラの性格設定も、一見ひねくれ者だが、心を許した人には優しさを見せるといった、少年マンガの王道パターンを踏襲しているキャラクターである。
そんな『文豪とアルケミスト』の小林多喜二を3月17日付「しんぶん赤旗」が特集。記事では、インターネットのゲームを通じて小林多喜二に興味をもち、その作品に触れる若者が増えていると伝えられていた(ただし、『文豪とアルケミスト』という固有名詞は一切登場せず、イラストも正規のものではなく、ファンによる二次創作の絵を載せている)。なにか特定の政治主張を猛烈にプッシュするような記事というよりは、「最近、ゲームの影響で小林多喜二の文学に興味をもっている若者が増えているらしい」といったライトなものだ。
しかし、これに対し、ネット上では「小林多喜二を政治利用するな」と大炎上。ツイッターなどにこんな書き込みが溢れた。
〈今回の某新聞多喜二の炎上ドン引きだわ。政治色濃い物と絡ませるとろくなこと無いから本当にやめて。別に誰がどの政党を応援してようが勝手だけど、キャラクター巻き込まないで。〉
〈とにかくキャラクターと政治を近づけないでほしい。飲み会で政治の話がNGなのと一緒のかんじ〉
〈文アル政治的に全く関係ない普通の文豪ゲームなのでそういう方たちが寄ってこられても困る 多喜二のことがああいう新聞に載って、そういう政治的思想の人たちに文アル利用とかされたら嫌だな。〉
〈私達が楽しんでたところ邪魔しに来たのは左翼側なんだから不愉快になるわ〉
〈多喜二が左翼だって知ってるのは左翼だけでしょ?〉
わざわざ書き記す必要もないと思うが、小林多喜二という作家は『蟹工船』や『党生活者』などの著作で知られるプロレタリア文学の作家。作品を通じて権力者の横暴や抑圧を告発したというだけでなく、当時は非合法であった日本共産党に入党し、地下活動も展開。そして、特高警察に逮捕され、拷問の果てに29歳の若さで殺された人物だ。言うまでなく、小林多喜二という作家と政治性は切り離しようがない。彼の作品群はその政治思想と活動のなかから生み出されたものであり、その政治性は、どう考えても作品群、そして多喜二自身のコアの部分だ。そこを取り上げたから「政治利用だ」などというのは、逆に小林多喜二という作家を愚弄する言動だろう。
「フジロックに政治をもちこむな」と同じく、真面目に反論するのもアホらしくなるような炎上騒動だが、この話はまだここでは終わらない。
この炎上騒動で「しんぶん赤旗」の記事のなかで小林多喜二の生き方についてコメントを寄せ、記事に『文豪とアルケミスト』小林多喜二のイラストをもととした二次創作の絵を提供した人物もネットで攻撃を受けて、謝罪に追い込まれたのだが、その人物が、ツイッター上の釈明の中でこんな話を書き込んでいた。記事作成にあたり、『文豪とアルケミスト』の配信元であるDMMから「しんぶん赤旗」に対し、掲載NGが出ていたというのである。
〈取材終了後にゲーム公式の方へ記事掲載の許可を求めたところ、政治色の強い媒体へのゲーム・名称・個人のイラスト等の掲載はいかなる場合も許諾しないとの返信がありました。〉
〈改めてその法的根拠の提示を求めましたが期限までに回答が無かったため、個人への取材を報じることは報道という立場に則り法的に問題は無いと判断し、掲載されたようです。〉
おそらく「しんぶん赤旗」側は、DMMとコンタクトを取ることにより、本家のイラストの使用許諾をもらい、さらに可能なら、小林多喜二という作家をゲームキャラクターに取り上げたこと、およびその反響についてDMMからコメントをもらおうとしたのだと思われるが、DMMはそれを拒否した。結果的に、「しんぶん赤旗」は、ゲームの名前を伏せ(報道である以上、固有名詞ぐらい出しても問題ないように思うが)、二次創作の絵のみを使ういささか歪な記事となったわけだ。
政治性云々の話とはまた別の話になるが、自分たちの意に沿うメディアにしか素材を貸さず特集もさせない、批評も許さないという昨今の風潮には疑問を感じる(しかも、取材NGならまだしも、報道記事に関して掲載NGを出す権利はない)。さらに今回のケースの場合、DMMが主張する「政治色の強い媒体へのゲーム・名称・個人のイラスト等の掲載はいかなる場合も許諾しない」という主張は筋が通らない。というのも、DMMは現在、靖国神社が関わるイベントと『刀剣乱舞』をコラボさせ問題となっているからだ。
DMMは、『文豪とアルケミスト』と同じく自社が運営しているブラウザゲーム『刀剣乱舞』を、千代田区近辺の神社が参加したスタンプラリーに「千代田のさくらまつり×「刀剣乱舞-ONLINE-」江戸城下さくらめぐり」と題してコラボさせている。このスタンプラリーは、神田神社、日枝神社、東京大神宮、楠公レストハウス、そして靖国神社の5カ所に設置されたスタンプを3個以上集めると、このコラボイベントのオリジナル缶バッジがもらえるというもの。
日本刀を擬人化させたゲームである『刀剣乱舞』と靖国神社の組み合わせに政治性を感じるなというほうが難しい。事実、今月25日から始まるこのスタンプラリー期間を前に千代田区観光協会には多くの批判の声が寄せられている。「政治色の強い媒体へのゲーム・名称・個人のイラスト等の掲載はいかなる場合も許諾しない」といった理由で「しんぶん赤旗」に取材NGどころか掲載NGという不可解に強い姿勢を示すなら、このスタンプラリーから靖国神社を外すのが筋だろう。
しかし、批判を浴びたことで、このスタンプラリーの開催箇所に若干の変更が入っているが、それでも靖国神社は入ったままだ。この二枚舌の対応にDMMの主張のすべてが詰まっている。彼らのいう「政治利用」というのは、ようするに、安倍政権や権力の暴走に反対する動きのことであって、逆のもの、つまり、歴史修正主義や軍国主義思想を主張「安倍首相がんばれ」と叫ぶ勢力は含まれていないのだ。
おそらく、こうした背景には、ゲームファンの中でネトウヨと地続きの心性をもった連中が数多く存在しているということがあるのだろう。DMMはこういうファンへのマーケティング的な配慮でダブルスタンダード的な対応をとっている、つまり、小林多喜二を実際の思想と真逆の形に歪めて「商売利用」しているのだ。こっちのほうが赤旗の政治利用よりはるかにタチが悪いと思われるが……。
いずれにしても、世に出た表現物を政治的主張や学術研究や批評のために紹介することは「表現の自由」の範囲内であり、著作権法違反でもなんでもない。右だろうが、左だろうが、自由に紹介していいのである。「赤旗」に歴史的事実を無視した頭の悪い絡み方をしている連中も、自社ゲームについて恣意的な運用をしているDMMも、日本国憲法をきちんと読み直してみたらどうか。あ、ついでに、『蟹工船』以上に多喜二の思想がよくわかる『党生活者』もぜひ(笑)。
(宮島みつや)
最終更新:2017.11.21 04:57
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