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山田孝之が「ウシジマくん」の役に乗っ取られた!? インタビューで「努力は格差で埋まる」「闇金の客はバカ」と自己責任論連発
『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』公式サイトより
実写『闇金ウシジマくん』シリーズとなる『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』が現在公開中の山田孝之。同時期公開の『何者』では主人公の心の醜さを深い洞察力で見抜く先輩役を好演していたのも記憶に新しい彼だが、「PICT-UP」(ピクトアップ)2016年12月号のインタビューで「格差問題」について質問されると、まるで「自己責任論」を肯定するかのごとき、大変残念な発言を繰り出していた。
「格差ってなんで広がるんですかね? 努力じゃ埋められないものがあるってことかな。でも、一番トップまではいけないにしても、努力すればある程度までは絶対誰でもいけるはず」
そして、インタビュアーが「努力」に煮詰まっている読者へ助言をお願いすると山田はこう返す。
「まず、今日から毎日1時間、課題について考える時間を増やせばいいんじゃないですか? 30分でもいいですよ」
しかし、ブラック企業でこき使われていたりと、なかなかそんな心の余裕すらもてない人もいる。そのことをインタビュアーが指摘すると、そんな会社は辞めたらいいと切り捨てたうえ、彼はこう断罪するのであった。
「そんなの言い訳でしかない! 絶対に!! 1日24時間あるんですよ?」
「ここをやめたら、次採用してくれるところがあるか不安でやめられないんですよね。だったら自分で起業してもいいし、自営業をやったっていい。これでもいいかとあきらめているからその状況に陥ってしまうわけで。結局失敗を恐れていたら何もできないですよ。失敗だと思わず、いい勉強になった、次から気を付けようって思えばいい」
まるで、劇中で彼が演じる、10日5割の違法金利で貸し出す消費者金融「カウカウファイナンス」社長・丑嶋馨が乗り移ったかのごとき厳しい発言だが、映画やドラマのなかに出てくる消費者金融の客たちに対しても彼は容赦なく吐き捨てる。
「でもこの作品に出てくる人、考えなさすぎじゃないですか? 全員、もっと考えて行動しろよ!と。そんな人たちをどうしたらって言われても……バカだなあ!としか言えない。考えずに行動して文句ばかり言われても、知らねえよって話ですよね(笑)」
確かに、作中で登場する「カウカウファイナンス」の客たちは、ギャンブルに依存していたり、どう考えても怪しい詐欺にまんまとはまって借金を背負っていたりと、必ずしも100%同情しきれない人物も多いのは間違いないが、しかし、これって、自民党の政治家や企業経営者が好んで語りたがる「自己責任論」そのものじゃないだろうか。
格差の下層にいる人間は努力が足りないからだといった論理に、無自覚に乗っかることがいかに危険か、北海道大学名誉教授である吉崎祥司氏は『「自己責任論」をのりこえる 連帯と「社会的責任」の哲学』(学習の友社)のなかでこのように述べている。
〈自己責任論は、「社会的責任」と「個人的責任」とを意図的に混同し、支配層にとっての不都合なことすべてを個人の「自己責任」に解消することで、社会的・公共的責任を放棄し、あるいは隠蔽しようとするもの〉
つまり、「自己責任論」とは、格差や貧困による苦しみを社会システムのせいではなく個人の責任に押し付けることで、政治や社会に対する不満につながらないようにする、権力者にとって大変都合のいい考え方だということだ。
吉崎教授は前掲書のなかで「自己責任論」が生まれ、為政者によって利用されていく流れを以下のように説明している。
1.競争を当然のこととし
2.競争での敗北を自己責任として受容させ(自らの貧困や不遇を納得させ)
3.社会的な問題の責任をすべて個人に押しつけ(苦境に立たされた“お前が悪い”)
4.しかもそうした押しつけには理由がある(不当なものではない)と人びとに思い込ませることによって
5.抗議の意思と行動を封殺する(“だまらせる”)
我が国おいて「自己責任論」が跋扈するようになった契機は、周知の通り「新自由主義」思想に基づいて小泉政権が断行した構造改革にある。
新自由主義とは〈景気を回復し、グローバル競争にうち勝つためには、長期不況の原因となっていた過剰な「規制」と「保護」を構造改革によって打破し、競争主義を徹底する必要がある〉というもの。この構造改革は大量の失業者を生み、非正規雇用労働者を増大させた大きな要因となったが、同時に、「すべては自己責任」という風潮もつくりあげた。
若者が仕事に就けない、仕事があったとしても非正規でしか働けない。こうした問題を解決するための責任を追うのは、無論、若者でも非正規雇用者でもなく、〈何よりもまず産業(企業)と国家(政治)〉にある。20世紀初頭にイギリスの社会保障制度づくりを主導したL.T.ホブハウスの理論でいえば、〈まっとうな仕事と賃金を保障するのは社会的・公的責任であり、失業や低賃金による生活困難は、企業や国家の「社会的責任」において解決すべきもの〉なのだ。
だが、新自由主義(ネオリベラリズム)はこれを許さない。たとえば、「社会などというものは存在しない」と言い放ち、福祉国家を解体しようとしたのは、安倍晋三首相も信奉するイギリスのサッチャー元首相。福祉や保障に頼るな、家族で助け合って生活しろ、国家や企業にたてつく運動などあってはならない。その考え方は、社会を否定し、社会と個人を切り離し、個人にすべての責任を押しつけるものだ。言うまでもなく、この流れは現在の安倍政権においても強く共有されている。山田孝之が語った「努力で格差は埋まる」という考え方は、この危険な流れに丸乗りし、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなっていく世界をつくることに加担してしまうことになる。
それにしても、山田孝之といえば、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京)のようなコメディから『凶悪』のような実録物の社会派映画まで幅広く演じるのみならず、近年では自ら作品のプロデュース業なども手がけるなど、メインストリームから外れた人間にも寄り添う目線をもった俳優である。そんな彼がなぜこんな発言をしたのだろうか。
もしかしたら、「格差は努力で埋まる」との無慈悲で無理解な発言は、山田が、憑依型の俳優であることと無関係ではないのかもしれない。
山田が主演を務める実写『闇金ウシジマくん』シリーズが始まったのは、いまから6年前にさかのぼるが、当時のインタビューで彼は、典型的な悪役である丑嶋馨役を敢えて引き受けた理由を、この作品がドラマ化されることで闇金被害に遭う弱者を減らすことができるかもしれないと語っているのだ。
「利息がトゴ(10日で5割)って、超暴利過ぎるでしょ。でも実際にこういうエグい世界がある以上、目を背けるワケにはいかない。誰かが演じて闇金の怖さを伝える必要があるんじゃないかって」
「演じる方も見る方もしんどいけど、それでいいんじゃないかって思う。エンターテインメントとしても、救いのないドラマがあってもいいんじゃないかって。後味悪いけど、そっち(闇金)に行く人がいなくなればいいんだから、ね(苦笑)」(「ザテレビジョン」10年9月24日・10月1日合併号/KADOKAWA)
ところが、そんな彼が今回の「PICT-UP」2インタビューでは、前述のように自己責任論を連発。闇金被害者のことを「クズ」と呼んで、こう突き放すようになってしまった。
「クズはクズ、とことん追い込む。追い込まれても機転を利かせて切り替えたら、復活できるわけですよ」
この変化はどう考えても、「憑依型役者」の山田が長年シリーズが続いていくうちに丑嶋馨的な思考に乗っ取られてしまったとしか思えない。山田ファンとしては、次は「大逆事件」の幸徳秋水役でも演じて、この間違った勝ち組思考から脱却してほしいと願わずにはいられない。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.12 02:12
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