「AV撮影で人権侵害」の国連報告書に紗倉まな、天使もえ、川奈まり子らAV女優が一斉反論! その是非は…

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報告書を公表したHRNとそれに反論する紗倉まなをはじめとするAV女優(左「認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ Human Rights Now」公式サイト/右・紗倉まな『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』宝島社より)


 AVをめぐる女性の人権問題が論争になっている。2カ月ほど前、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウから「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」が公表され、大々的に報道された。ところが、この報告書の内容をめぐって、AV業界から批判の声が次々にあがっているのだ。

 調査報告書に関してどんな騒動が起きているのかご紹介する前に、まず、ヒューマンライツ・ナウがどういった報告書を公表したのかについて簡単にまとめていきたい。

 ヒューマンライツ・ナウは、AV業界の人間が「モデルにならない?」「タレントにならない?」という嘘の誘い文句で若い女性を集めたうえ、AVに出演するという意志のないままプロダクションと契約を締結させ、その後にアダルトビデオへの出演を渋ったら「仕事を断れば違約金」「親にばらす」などと脅し、無理やり出演を余儀なくさせているケースが後を絶たないと問題視。

 報告書では、2012年から2015年9月までの間にPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)に、「AV出演を強要された」「騙されてAVに出演することになった」といった相談件数が93件あるとし、さらに、その具体的な内容についてもいくつか紹介されている。

 まずは、「グラビアモデル」としてスカウトされたものの、どんどん露出度の高い仕事を強要されていったA子さんのケース。タレントに興味をもっていた彼女はグラビアモデルをすることを承諾しX社と契約するが、実際の仕事は極めて露出度の高い着エロの仕事だった。想像していた仕事と異なっていたA子さんは仕事を断りたいと会社側に頼んだものの、辞めるのなら違約金100万円が必要と脅され、その着エロ撮影を余儀なくされた。その後、二十歳になったA子さんのもとにX社から次の仕事の話が告げられる。今度の仕事はなんとAVだと言う。何度も出演したくないと懇願したが、前述の違約金の話もあり、やむなくAVに出演。撮影後、A子さんはもうAVには出ないとX社に告げるが、会社側は、すでにメーカーと10本契約を締結しており、あと9本出演しなければ1000万円の違約金が発生すると告げてきたと言う。

 B子さんの事例はもっと衝撃的だ。彼女もA子さんと同じく「グラビアモデル」という名目で事務所と契約を締結したのだが、仕事内容に関しての詳しい説明もないまま、撮影開始直前にAVの撮影だと知らされた。当然B子さんは拒否したが、違約金が発生すると脅され、止むなく出演。このケースでは「違約金が払えないなら親に請求する」とまで脅迫されたと言う。その後も違約金の脅しは続き、彼女はAVへの出演を余儀なくされるが、撮影内容は過激化の一途をたどる。それは「避妊具もつけないまま複数人の精液を無理やり膣内に注入される」「膣内に男性器に見立てた管を通し大量の卵白等の液体を何時間も続けて流し込まれる」といった残虐なものだったと報告書には綴られている。

 このような、スカウトマンなどによる虚偽の誘い文句に騙されてアダルトビデオへの出演を強要されるというケースが報告書では多数あげられている。なかには、自分のAVが販売されていることにより精神的に追いつめられ、首吊り自殺してしまった事例まで書かれていた。

 もしもこれが事実なら由々しき事態だが、しかし、この報告書が公表された直後から、AV業界で働く人々からその内容について疑問の声が多数寄せられた。まず一番最初に声をあげたのが、被害にあっているとされているAV女優たちである。

 恵比寿マスカッツのメンバーでもある大人気女優の天使もえはツイッターに〈大抵のスカウトさんって断ればスーッと消えていくものなのに、そんな怖い人たちとまずどこで出会っているのかが不思議です〉と書き込み、また、河西あみは同じくツイッターに〈無理やり出されてる人一人も見た事ない〉〈いつの時代の話してるのこの人たちは…〉と綴った。ベテラン女優のみづなれいも〈読んだけど意味わかんなかった。なんだこれ?〉とツイッターで発言するなど、現役で業界にいる人間からは、報告書の内容と現状があまりにもかけ離れているとの主張が多く寄せられた。

「SPA!」(扶桑社)16年4月5日号では、紗倉まなもインタビューでこのように答えている。

「確かに90年代のAV業界では、スカウトマンに声をかけられた女のコが、よくわからないままカメラの前で裸にさせられることがあったようです。いまの所属事務所のマネージャーや社長は、昔話として聞かせてくれたし、私もそう思っています。
 私が見ているAV業界と、被害を訴えているコたちが見ている業界は違うのでしょうか。この問題は痴漢冤罪と似ていて、「言った者勝ち」の部分があります。もともと世間からのイメージがよくないAV業界だから、なおさらです。」

 そんななかでも、最もこの問題に深く関わっていったのが、元AV女優で、現在は作家として活動している川奈まり子だ。

 彼女は実際にヒューマンライツ・ナウ側とも直接コミュニケーションをとり、監督官庁を設置すべきだとしたり、プロダクションやメーカーと女優との間の契約内容の改善を促すなど、その報告書内には有益な提言もあるとしながらも、制作会社とメーカーと流通の役割について混同していたり、撮影前に面接の段階で女優には撮影内容の説明があり、その際に女優のNG項目は尊重されるのが普通であるなど、報告書には実際のAV撮影現場の状況から考えて誤り・偏りと目される部分があると自身のフェイスブックにて指摘している。

 また、「実話ナックルズ」(ミリオン出版)16年5月号のインタビューでは、このようにも発言している。

「HRN(引用者注: ヒューマンライツ・ナウの略称)は4年間での被害件数を93件としていますが、現役AV女優は約4000人とも8000人とも言われAVの年間発売タイトル約2万件という数字のなかでは、非常に低い数字です」

 たしかに、アダルトビデオというメディアが誕生してから35年近くたち、業界は以前よりもずっと近代化された。かつては珍しくなかった、騙して出演させる、撮影でNGの行為を無理やりさせるといったような話もあまり聞かなくなった。

 そういう意味では、アダルトビデオ業界全体で人権侵害が横行しているようなヒューマンライツ・ナウの調査報告書は過剰に感じるというのもわからなくはないが、しかし、ではそういう騙しや強制による撮影が皆無なのか、というとけっしてそうではないだろう。

 今回の件について発言している女優たちは、いずれも、単体女優やキカタン(企画単体)女優が多いが、SMなどのハードな企画女優たちの中には、半ば強制的に過酷な撮影を強いられているケースはけっこうあるし、そもそも、ひどい撮影には交渉能力のない女性を選んでいる傾向もある。

 たとえば、鈴木大介氏の著作『最貧困女子』(幻冬舎)でも、ハードなAV出演者には知的障害の女性が多いとして、「いわゆる三大NG現場(ハード SM、アナル、スカトロ)にいる。特にスカトロのAVに出ている女優の半数は知的障害だ」というAV関係者の証言を掲載している。

 また、約10年前ではあるが、撮影で女優に対して強姦や暴行をはたらいたとして、10人以上のAV関係者が強姦致傷や傷害罪の容疑で逮捕され、10年以上の実刑判決をくだされた「バッキー事件」という事件が起きている。

 AVメーカーのバッキー・ビジュアル・プランニングは、女優に対して事前に撮影内容を伝えないまま撮影を強行。合法ドラッグを摂取させたうえ意識が飛んだところを狙ってレイプしたり、殴る蹴るの暴行を加えたり、女優を水槽やプールに沈めてパニック状態にしたり意識を失わせたりする「水責め」を行うなど、残忍な撮影を繰り返していた。そのような行為により、直腸穿孔や肛門裂傷などの大けがを負った女優もいる。

 そういう意味では、AV業界サイドもヒューマンライツ・ナウの報告書を頭から「ありえない」「昔の話」と否定してかかるののではなく、AV業界が自主的に、騙しや強制、非人道的な撮影が行われていないかをチェックし、それをゼロに近づけるような対策を講じるべきだろう。

 紗倉まなは前述のインタビューで、ヒューマンライツ・ナウの報告書を疑いつつも、「メーカーもプロダクションも、そういう被害を訴える女のコが現れるのが前提の体制をつくっていけば、結果的に被害の声も減っていくんじゃないでしょうか」と提案していたが、今のところ、これがもっとも現実的な解決策かもしれない。
(田中 教)

最終更新:2016.05.01 11:47

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