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240万部の又吉直樹、「テレビのほうが稼げる」発言の羽田圭介の収入は? ミステリ作家が小説家の金銭事情を暴露!
文藝春秋公式サイト芥川賞紹介ページより
トーハンと日本出版販売(日販)が今月1日、2015年「年間ベストセラー」を発表。今年はもちろん、又吉直樹『火花』(文藝春秋)が240万部もの驚異的な売り上げを記録し1位に輝いた。
なんとも景気のいい話だが、一方、又吉と芥川賞をダブル受賞した羽田圭介は、12月3日放送の『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)のなかで「苦労して小説の原稿用紙200枚分くらい書いて80万円くらい。テレビだと3、4本収録すればそれくらい稼げちゃう」「本業の効率悪いなってちょっと思っている」と作家がいかに金にならないかを暴露。そのぶっちゃけぶりが話題になった。
いったい作家というのはどれくらい稼いでいるのか。その内実を羽田以上にぶっちゃけた『作家の収支』(幻冬舎)という本が最近出版された。
作者は、武井咲・綾野剛出演でドラマ化された『すべてがFになる』(講談社)、押井守監督によって映画化された『スカイ・クロラ』(中央公論新社)などで知られる人気ミステリ作家の森博嗣。これまで19年におよぶ作家生活で278冊を上梓、総部数1400万部を売り上げてきた彼はどれぐらい収入を得てきたのか。森はこの本のなかでそのすべてを明かしている。
まずは、作家にとって最も大切な収入源、「印税」から説明していきたい。印税率は一般的に本の価格の10%と言われている。実際、森も10%〜14%の印税率で契約しており、圧倒的に10%のものが多かったという。ちなみに、この印税額は「本の価格×印刷される部数×印税」といった式で算出される。
なので、これを又吉の『火花』にあてはめて計算すると、『火花』の価格1000円×刷り部数240万×印税10%となり、その額なんと、2億4000万円! ただ、実際には、ここから税金が引かれるうえ、又吉の場合は所属事務所である「よしもとクリエイティブ・エージェンシー」にもかなりの額を引かれるだろうから、この金額がそっくりそのまま又吉の懐に入るわけではないだろうが、それでもかなりの金額だ。
また、羽田圭介もくだんの『ダウンタウンDX』で受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)で得た印税額を「今のところ2200万円とか」と告白。これまた、一般庶民からすると、作家は金にならないと愚痴るような金額でもない気がする。
しかし、又吉や羽田はあくまでレアケースだ。『火花』のような240万部なんて部数が出る本がめったに存在しないのはもちろん、羽田の『スクラップ・アンド・ビルド』くらい売れる小説もそうそうない。
では、一般的な小説はどれくらい売れるものなのだろうか? 作家の松久淳は『中流作家入門』(KADOKAWA)でこう綴っている。
〈正確な数字は知らないけど、小説の新刊なんて1万部に届かない本が全体の90%とも95%とも言われている。5000部切ってる本の割合もそうとうなもの。つまり君たちはほとんどの本のタイトルすら知らないということになる。
じゃあいま本屋さんに並んでる君たちが読んだことがない1500円の新刊小説、仮に部数を5000部と推測すると作家自身にいくら入るか、計算してみてごらん。きっとその作家が1年くらいかけて書いた渾身の1冊、その印税。結論は簡単。
「食えないじゃん」
食えないんだよ。
だからみんな、会社勤めを辞めなかったり、講師とかのバイトをしなくちゃいけないんだよ〉
実際に、1500円の小説を5000部刷って印税率10%もらう計算をしてみると……、たった75万円である。大半の「普通」の作家は、血の滲むような苦労をして1冊の本を書き上げても100万ももらえないのである。
そこで専業作家の生計を助けてくれるのが、講演・テレビ出演など本業以外の雑収入だ。芥川賞受賞以降、今どき珍しい無頼なキャラクターが受け、テレビで見る機会の増えた西村賢太は「宝島」(宝島社)15年10月号でこう語っている。
〈受賞したことによって、それ以前はまず依頼のなかった随筆や対談、他者著作物への解説文など小説以外の仕事も増えました。(中略)
随筆も月3本書けば「塵も積もれば」で、それなりの収入になりますからね。
このほか、テレビ出演なんかのアルバイト仕事にも、ポツポツありついていますし〉
この「テレビ出演なんかのアルバイト仕事」に代表される本業以外の雑収入が作家の生活を支える肝となる。森も『作家の収支』のなかで〈作家の中にはこちらの方が割合が多いという人もけっこういるようだ(作家だけでは生計が成り立たない、という例を含めれば、大半といっても良いかもしれない)〉と綴っている。
そんな作家の雑収入で最も代表的なのが「講演料」。森は〈僕は1時間40万円の講演料で依頼を受けている。1時間半であれば60万円だ〉と語っている。テレビなどにも頻繁に出演する有名作家であれば100万円以上の講演料を取る作家もいるそうだが、一般的な作家が1冊で稼ぎだす印税とほぼ同額がたった1回の講演会で稼げてしまうとは……。〈作家の中にはこちらの方が割合が多いという人もけっこういるようだ〉という状況になるのもうなずける。
さて、講演会でそれだけ儲かるということは、テレビに出た時の出演料などはどれぐらいもらえるのだろうか? さぞかし稼げるのかと思いきや、1時間の番組でコメンテーターとして出演してもらえるのは10万円から20万円ほどだという。「文化人枠」のギャラは安いという噂があるが、それは事実だったようだ。ただ、それでも文筆業よりは稼ぐことができる。羽田圭介は前述したように『ダウンタウンDX』のなかで「苦労して小説を書いて。200枚書いて僕の原稿料で80万円ぐらい。3、4本テレビで収録すればそのくらい稼げる」「本業の効率悪いなってちょっと思っている」といった言葉を残している。
また、これらテレビへの出演は、そのテレビ番組を見て本業である本に興味をもってもらうための「宣伝」としても大きな役割を果たす。同じことが、アニメ・映画・ドラマ化された時の「原作使用料」にも同じことが言える。例えば、映画化される際に作家に支払われる使用料は〈まあまあな公開規模だったときが200万円、単館クラスのときは150万円〉(前掲『中流作家入門』)と、決して高くない。だが、その公開作品が話題となることにより、原作本もかなりの量が動く。森は『作家の収支』のなかで、押井守監督によってアニメ映画化された『スカイ・クロラ』を例に、映画化された時の本の売り上げの推移を説明している。
『スカイ・クロラ』が出版されたのは、2001年。そして、映画化が告知されたのはそれから6年後の2007年だった。映画化が決まる前と決まった後の部数の推移は以下の通り。
〈その6年間で売れた13万4000部に対して、その後の部数は22万部と圧倒的に多い〉
映画化される前よりも、された後の方がはるかに本が売れている。さらに、『スカイ・クロラ』はシリーズものの小説だったため、こんなボーナスもついてきたと言う。
〈この『スカイ・クロラ』もシリーズものの第1作で、ほかに5作の続編がある。これらも販売数が伸び、映画の影響と思われるセールスで、シリーズは合計100万部を突破した。特に、値段の高い単行本で数が出ているため、映画化で得られた印税は、ほぼ1億円になった〉
森がこれまで19年の作家生活で稼ぎだした金額は、15億円にものぼると言う。特に、『すべてがFになる』から始まるシリーズ10作の合計発行部数は385万部にもおよぶ。彼はなぜそこまでの成功をおさめることができたのか? 森はその成功の秘訣をこう振り返っている。
〈デビュー作の『F』(引用者注:『すべてがFになる』のこと)が20年にわたってコンスタントに売れているのは、この作品が特に面白いからというわけではなく、森博嗣が次々に本を出したからだ。新しい作品を常に世に送り出していれば、いつも新作が書店にあるし、広告などに名前も登場する。そして、どうせなら1作目から読もうという人も出てくる〉
〈1作出して、それが売れるまで放っておくというマーケッティングではまず成功しない。やはり、常に新作を出すことが作家の仕事の基本といって良いだろう〉
〈普通の製品だったら、最初に売れて、しだいにじり貧になっていくのが常であるけれど、書籍などでは、なにかの切っ掛けで突然売れだすことがある。(中略)したがって、本を出し続けていれば、どれかが当って、ほかの作品も売れ始めることだってある。シリーズものを書いていれば、1つが当れば、シリーズ全体が売れるようになる〉
ただ、これはあくまで彼がミステリ作家、エンタテインメント分野の作家だから実践できるビジネス理論だ。構造上シリーズものなどは生み出しようのない純文学の作家であればそうはいかない。
だから、たとえ芥川賞を受賞した作家であっても、その後食うや食わずやの状況に陥ることは決して珍しくない。その顕著な例が、1997年、『家族シネマ』で第116回芥川賞を受賞した柳美里である。
彼女は受賞後時を経て大変な困窮状態に突入。2015年に出版した『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』(双葉社)では、全財産が3万円しかなく、息子の貯金箱から小銭をネコババして何とか生活を成り立たせていることなどを赤裸々に告白し、世間に衝撃を与えた。彼女は同書のなかで、純文学でご飯を食べていくことの難しさをこう綴っている。
〈いったい、書くことだけで食えている作家って、何人いるんでしょうか?
シリーズで売れるミステリーとか時代小説はさておき、純文学に限定すると、10人? 20人? どんな生活をするかにもよるけど、どんなに多く見積もっても、30人は超えないんじゃないでしょうか?〉
〈やはり、芥川賞まで受賞した著名な作家が食うや食わずであるわけがない、という先入観を持っている方が多いのです。
小説家が、筆一本で食べていくのは奇跡みたいなものです。
扶養家族がいる場合は、副業に精を出さない限り難しいでしょうね〉
『火花』では大ヒットに恵まれた又吉も、今後「芸人」から「小説家」に本業を移すのであれば、このような現状を認識しておく必要がありそうだ。
(新田 樹)
最終更新:2015.12.06 11:19
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