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外務省が生長の家系トンデモ極右学者のいいなりに! 南京大虐殺否定に続き東京裁判見直しを世界に発信?
安倍首相とも昵懇のあのトンデモ学者が…(自由民主党HPより)
これを“恥さらし”と言わずして何と言おうか。──南京事件が世界記憶遺産に登録されたことに抗議する日本政府は、9月末、ユネスコに反論のための意見書を提出したが、いま、その意見書をめぐって、日本の歴史観に世界が呆れかえっているのだ。
先日6日の毎日新聞はこの問題を取り上げ、〈専門家意見書に南京事件否定派とみられている学者の著書が引用されるなどしたため、かえって日本の印象を悪くして逆効果になった恐れがある〉と報道。意見書では、「南京大虐殺はなかった」と主張する東中野修道・亜細亜大学教授の本などを引用し、「虐殺は物理的に不可能」と結論付けているという。
東中野氏といえば、著書で南京大虐殺の証拠資料や生き残った女性の証言を捏造と断定したことが名誉毀損裁判となり、東京地裁は「東中野の原資料の解釈はおよそ妥当なものとは言い難く、学問研究の成果というに値しないと言って過言ではない」として敗訴を言い渡している。東中野氏は控訴したが、東京高裁も最高裁も一審判決を支持し、全面敗訴となった。このような人物の著書を引用して南京事件の否定を行う外務省の知見を疑わざるを得ないが、そもそも問題なのは、この東中野氏の著書を引っ張り出して意見書を書いた作成者が、高橋史朗・明星大学教授だということだ。
外務省とユネスコ日本代表部はこの高橋氏に反論作成を全面的に委ね、しかも、10月4日にアブダビで開かれたユネスコ記憶遺産国際諮問委員会にもオブザーバーとして参加させているのだ。
毎日新聞では、外務省関係者が「(高橋氏は)保守派の中ではバランスの取れた研究者だ」などと主張しているが、これはとんでもない話。だいたい、高橋氏は教育学であって歴史学ではない。そんな専門家でもない人間が国際的な機関に提出する意見書で歴史検証を行う人物に値するとは到底思えないが、それ以前の問題として、高橋氏はおよそ「バランスの取れた研究者」とはまったく言えない、むしろ「著しくバランスに欠いた研究者」と言うべき極右思想の持ち主なのである。
高橋氏の思想がどんなものであるか、それは彼の経歴を振り返っただけで一目瞭然だ。高橋氏は早稲田大学在学中に「生長の家」の青年組織「学生会青年総連合」に所属し、さらに現在の日本会議の事務局となっている「日本青年協議会」と、その下部組織にあたる「日本教育研究所」の結成に大きく関わり、初代事務局長や副所長を務めている(岩波書店「世界」2005年3月号/俵義文「埼玉県・新教育委員高橋史朗氏とは何者か」)。
〈日本青年協議会は「天皇中心の新体制国家の形成を期することを目的にし、大日本帝国憲法体制に原点回帰を目指す」(『右翼・民族派事典』)という方針を掲げる正真正銘の右翼組織であり、高橋氏は青年教員や教育系学生を右翼活動に引き込む指導者だった〉(同前「世界」より引用)
高橋氏のこの“皇国史観”は、その後、さまざまな活動に発展していく。高橋氏は、統一教会と政界をつなぐ役割を果たした「国際勝共連合」が90年代初頭に展開した純潔教育運動にも関係し、「結婚前の純潔」などを強調、当時、学校で使用されていた性教育の副読本を燃やす場面がおさめられた性教育バッシングのビデオにも出演している。だが、その名が一気に注目を集めたのは、99年に「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長に就任し、南京大虐殺や従軍慰安婦といった戦争犯罪の記述を「自虐史観」として糾弾する運動を拡大させたことにある。
言ってみれば、高橋氏は現在のネトウヨに流れる歴史修正主義の源流をつくり出した張本人ともいえるが、当時、高橋氏は、日本の戦争責任を矮小化し、〈相手側の主張する論理や歴史観によって、わが国の「侵略戦争」の非だけが一方的に断罪される理由はない〉(徳間書店『新しい歴史教科書「つくる会」の主張』西尾幹二・編/2001年)と歴史修正を正当化。さらにこんなことまで言ってのけている。
〈歴史教育はどうあるべきか。古代史の始まりに、考古学的事実と並べて、それとは別に、神話や古代歌謡の世界をもう一つの歴史として子供たちに教える必要がある。歴史は神話でもなければ科学でもない。(略)
しかるにわが国では戦後、歴史は科学であるとして、普遍的客観的事実から成り立つ動かない世界という前提に固執した〉
〈歴史は科学であるよりも、むしろ文学に境を接している。歴史教育を社会経済史の奴隷にせず、人間のドラマとして自己回復させる必要がある。つまり、歴史教育には物語性が回復されなければならない〉(つくる会「教育過程審議会への要望書」1997年)
この“歴史は科学ではない”宣言は、学術的実証性の軽視、歴史修正上等の精神を象徴するものだが、よって慰安婦問題についても〈義務教育の教科書において自国の立場で史実を選択するのは当然のこと〉〈「歴史的事実」だから中学校教科書に記述すべきだという主張は根本的に間違っている〉(幻冬舎『新しい日本の歴史が始まる』新しい歴史教科書をつくる会・編/97年)と見事に開き直っている。
一体、この人物のどこが「バランスの取れた研究者」なのか、と頭が痛くなるが、高橋氏のファナティシズムが露わになっているのが、氏が提唱する「親学」なるものだ。
本サイトでも何度も言及しているが、「親学」とは「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」という教育理論。平たく言うと、母親に“子どもを産んだら傍にいて育てないと発達障害になる”と強要するトンデモ理論だ。たとえば、高橋氏は「親学」の必要性をこう訴える。
〈近年発達障害と非行や不登校、児童虐待との密接な関係が明らかになっているが、そうした二次障害の背景には「伝統的な家族の崩壊」「親性の解体」「親心の衰退」という根本的な問題がある〉(産経新聞社「正論」2014年2月号)
〈江戸時代には世界一礼儀正しいと外国人に絶賛された日本の子供が世界一礼儀の悪い子供になってしまったのは、親が子育て文化の伝統を継承していないからである〉(「正論」09年11月号)
親の愛情不足、すなわち伝統的な家族が崩壊したから発達障害は増加している──。こうした主張には、障害者団体をはじめ大きな批判が起こっているが、高橋氏は“発達障害予防”のために何をすればいいか、このように記述している。
〈何も難しいことではない。お金のいることでもない。発達障害児の割合が少なかったかつての日本の伝統的な子育てを取り戻せばいいのだ。
添い寝をして話しかける
子守唄を歌って聞かせる
話しながら離乳食を与える
多くの人に接触させる
…などを日々行うことで、発達障害の予防に十分な効果がある〉(同前「正論」09年11月号)
そして高橋氏は、母親は仕事で外には出ず家庭で子育てを行うべきだといい、一方、〈男性の正規雇用拡大〉を求めている。親学というのは、つまり「性別役割分担の強調」であり、「伝統的家族を取り戻す」という最初に結論ありきの考えを「最新の科学的知見によって証明」されているなどと触れ込んでいるに過ぎない。しかし、この考えは安倍首相の思想と合致しており、現に親学を推進する超党派議員団体「親学推進議員連盟」の会長を安倍首相が務め、下村博文・前文科相が事務局長に就任している。
皇国史観に基づいた右翼活動、歴史修正主義、伝統を振りかざした女性差別および人権の軽視……。今回、外務省は、こんなとんでもないネトウヨ思想の持ち主に反論意見を書かせ、世界に発信してしまったのである。
これでは「日本にはまともな学者はいないのか」と世界から呆れられてもおかしくはない。実際、ユネスコに提出された意見書について、歴史学者の剣持久木・静岡県立大学教授は「ナチスによるユダヤ人虐殺を否定するのと同様の印象を世界に与えかねない」(前出、毎日新聞)と懸念を示している。
それにしても、外務省はいったいなぜ、こんなトンデモ人物に反論作成を依頼してしまったのか。
高橋氏が今回の意見書に関わることになったのは、中山泰秀・外務副大臣に「説得力のある反論資料の作成」をはたらきかけたことが始まりのようだ。細田派の中山副大臣は安倍首相に近い極右思想の持ち主で、高橋氏の主張にすっかり賛同。外務官僚に「高橋先生に協力してもらえ」と指示をしたと言われている。
さらに高橋氏は、例の「我が国は南京大虐殺の存在自体を否定しようとしている」発言の原田義昭委員長率いる自民党・国際情報検討委員会にも同様の提案をしている。こうしたさまざまな政治的働きかけにより、自民党や官邸からも、外務省に「高橋氏を使え」という圧力がかかっていたようだ。
そして、高橋氏は7月9日にパリ・ユネスコ日本代表部を直接訪問し、公使に面談。いつのまにか、日本政府に代わって反論意見書を書くような存在になってしまったのだ。
しかし、これまでの外務省は自民党や右派団体から圧力がかかっても、国際社会の反応を考えて、ここまで鵜呑みにするということはありえなかった。それがなぜ今回、外務省は丸乗りに近いかたちで高橋氏に意見書を書かせたのだろうか。他でもない外務省関係者が、その裏事情をこう解説する。
「外交はいま、完全に官邸主導。外務省ではなく、官邸にいる2人の元外務官僚が牛耳っています。ひとりは元外務省事務次官で現在、国家安全保障局長である谷内正太郎氏。もうひとりは、元外務省国際法局長で、現在、内閣官房副長官補の兼原信克氏です。外務官僚たちは、いまやこの2人の顔色を伺って仕事をしている。そして、谷内氏と兼原氏は、これまでの外務官僚とは違い、安全保障政策で外務省の悲願を実現してくれた安倍首相や自民党の意向はなんでも聞いて、外務官僚たちを動かしている。今回の意見書も、安倍首相周辺から依頼を受けたこの2人の外務省OBが高橋氏をプッシュしたのではないかと噂されています」
実際、外務省内部では、「なんでこんな人物を」という声もあるようだが、とても高橋氏にさからえる空気ではないのだという。
調子に乗った高橋氏はアブダビから帰国後、自民党外交部会・文教部会などの合同会議に出席して、新たにトンデモな提言を行っている。高橋氏自身が「正論」12月号で明かしたところによると、その提言の中には、なんと、南京大虐殺と従軍慰安婦を否定するための首相主導の特命チーム設置、さらには特命委員会で東京裁判の再検証を行うことまで含まれている。
大恥どころか、日本が世界中から大ひんしゅくを買う事態もそう遠い先のことではなさそうだ。
(エンジョウトオル)
最終更新:2016.06.21 02:16
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