新年特別企画●嫌韓ヘイト・歴史修正事件簿(後編)

「あいトリ」「主戦場」攻撃、「旭日旗」肯定…政治家とメディアの扇動で高まる歴史修正主義圧力、破壊される「表現の自由」

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「あいトリ」「主戦場」攻撃、「旭日旗」肯定…政治家とメディアの扇動で高まる歴史修正主義圧力、破壊される「表現の自由」の画像1
左・河村たかし/右・杉田水脈(公式HPより)


 リテラの新年特別企画としてお届けしている「嫌韓ヘイト・歴史修正事件簿」。前編は安倍首相の“嫌韓キャンペーン”にまる乗っかりし、嫌韓ヘイトを拡散し続けたマスコミやコメンテーターの言動を検証したが、後編では、その大元にもなっている歴史修正主義が引き起こした事件を中心に振り返っておきたい。慰安婦や徴用工など日本の戦争犯罪をなかったことにして、先の戦争を肯定しようとするゆがんだ極右思想はいま、政界のみならず、マスコミ、言論界のすみずみに広がっている。さらに政治的中立であるべき公務員までが安倍政権への過剰な忖度から“ネトウヨ化”している現象も起きている。その結果、この国から「まっとうな歴史観」「表現の自由」が失われようとしているのだ。日本の民主主義がいかに危機に陥っているかを再認識してほしい。

●事件簿その6
あいトリ「表現の不自由展」で、河村たかし、松井一郎らが“慰安婦はデマ”というデマ発言! 安倍政権は補助金取り消しで事実上の芸術検閲に乗り出し

 2019年は「表現の自由」に大きくスポットが当たった年だった。その最たるものが戦中の日本軍による慰安婦問題だ。たとえば、あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」をめぐっては、脅迫やテロ予告を含む電凸(とFAX攻撃)によって一時展示中止に追い込まれた。周知のように、慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」(キム・ソギョン氏とキム・ウンソン氏による作品)が“反日バッシング”の標的となり、大浦信行氏の作品「遠近を抱えて PartⅡ」が「昭和天皇の肖像を燃やしている」などとして右派・ネトウヨの標的にされたのである。
 こうした歴史修正の電凸攻撃を扇動したのが、安倍政権に近い右派政治家たちだった。

「慰安婦問題は完全なデマなんだから。軍が関与した強制連行はなかったわけだから。それは一報を報じた朝日新聞自体が誤報と謝罪しているわけだから」「事実ではないデマの象徴の慰安婦像は行政が主催する展示会で展示するべきものではない」(松井一郎・大阪市長)
「名古屋市と愛知県は認めたのかと、国の補助金も入っているような(芸術祭で)国も韓国の主張を認めたのかと。やっぱり従軍慰安婦ってあったのかと、そういうふうに見られるじゃないかと」(河村たかし・名古屋市長)
 言っておくが、「慰安婦はデマ」「慰安婦はなかった」という発言こそ、はっきりとしたデマである。そもそも、2014年に朝日新聞が訂正・謝罪したのは「慰安婦狩り」を創作した吉田清治証言にかんするもののみ。戦中の日本軍がアジア各地に慰安所をつくり、女性たちを「慰安婦」にして、兵士の性暴力の相手にしたのは事実であり、そのことは当時の公文書や史料、証言からも証明されている。
 だが、安倍政権はこうしたトンデモ歴史修正主義に同調し、あいちトリエンナーレに対してすでに採択されていた約7800万円の補助金を全額取り止めるという、異例の決定を下した。「補助金」をタテに、政権の立場と異なる事実の摘示や表現を狙い撃ちにしたわけだ。
 当然、表現者を中心に、補助金取り消しに対して大きな批判の声が上がったが、その一方で、安倍応援団や極右文化人たちは「ヘイト」の意味を取り違えた無茶苦茶な“表現の不自由展バッシング”をまくし立てた。
〈津田大介氏は、昭和天皇の写真を焼く動画について、芸術性があるというが、ではヘイト性は無いのか?〉(竹田恒泰)
〈そんなことが「表現の自由」として認められるなら、アート作品と銘打って、人種差別や民族ヘイトなど、なんでも可能になります〉(百田尚樹)
 さんざん韓国・北朝鮮や在日コリアンへのヘイトを垂れ流してきた輩たちが、何をほざいているのかと呆れるが、そもそも「ヘイトスピーチ」というのは、人種、性別、民族、性的指向などの属性を一括りにして「犯罪を犯す」だの「病気」だのとレッテル貼りをし、差別を扇動する言説だ。単なる罵倒や暴言のことではないし、国の権力や権威の象徴の写真を焼くというのは政治的表現であって「ヘイト」でもなんでもない。当然、慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」の展示も「ヘイト」には当たらない。しかも連中は、自分たちのヘイト言説が批判されると「表現の自由の弾圧だ!」などと喚き立てる。ようするに、グロテスクな差別を正当化する時にだけ「表現の自由」が出てきて、逆に権力や権威への批判を「ヘイト」にすり替えて攻撃するのだ。
 この「日本の権力(安倍政権)への批判=韓国の反日=日本人へのヘイトスピーチ」なる倒錯的なロジックは極右やネトウヨ界隈で定番になっているが、それは“嫌韓差別の正当化と増幅”をはかるためのものだ。そして、この構図にお墨付きを与えヘイトを加速させているのが、「慰安婦問題はなかった」などの歴史修正主義に他ならないのである。

●事件簿その7
慰安婦問題検証映画『主戦場』が炙り出した極右論客らの“歴史修正主義=差別”の実態 杉田水脈、櫻井よしこ、ケント・ギルバート、テキサス親父…

 その一例として、映画『主戦場』をあげよう。2019年4月に封切りされ話題になった同作は、日系アメリカ人のミキ・デザキ監督が、戦中日本軍による慰安婦問題をめぐる“否定派”と“リベラル派”双方の主張を対比させ、一次資料を分析しつつ検証するドキュメンタリーだ。“否定派”からは自民党・杉田水脈衆院議員やケント・ギルバート氏、藤岡信勝氏、テキサス親父ことトニー・マラーノ氏、テキサス親父日本事務局の藤木俊一氏、櫻井よしこ氏などといった極右ネトウヨ論客が勢揃いし、むき出しの歴史修正や差別主義を披露している。
「フェミニズムを始めたのはブサイクな人たちなんですよ。ようするに誰にも相手されないような女性。心も汚い、見た目も汚い。こういう人たちなんですよ」(藤木俊一)
「日本が特殊なんだと思います。日本人は子どものころから嘘をついちゃいけませんよと(教えられてきた)」「嘘は当たり前っていう社会と、嘘はダメなのでほとんど嘘がない社会とのギャップだというふうに私は思っています」(杉田水脈)
 いかに歴史修正主義と差別主義が結びついているかがよくわかるというものだが、映画が公開されると、カメラの前で嬉々として持論をぶっていた“否定派”出演者たちが「リビジョニストと呼ばれて名誉を侵害された」などと訳のわからないことを喚き始め、監督と配給会社を提訴するというトンデモ事態に発展した。
 そして、この『主戦場』をめぐっても、予定されていた川崎市の市民映画祭「しんゆり映画祭」での上映が一度中止にされる(その後、映画関係者らからの抗議を経て上映された)など、まるで「表現の不自由展・その後」を彷彿とさせるような状況になったのである。騒動をめぐる背景には、共催の川崎市が主催者側へ「訴訟になっているようなものを上映するのはどうなのか」との「懸念」を伝えたことがわかっており、映画祭代表も本サイトの取材に「そうなったら(市からの共催取り消しや補助金減額が)あると思うよね、普通は」などと忖度したことを認めている。また、映画祭事務局は「(右派からの電凸など)安全対策を講じきれない」ことを「上映中止」の理由の一つとしてあげていた。
 結果として、映画人の働きかけや市民ボランティアの協力で『主戦場』は映画祭最終日に上映されたが、この騒動からわかることは「慰安婦はなかった」などと主張する歴史修正主義者と、それに同調する者たちの攻撃が、想像以上に市民を萎縮させているということだ。慰安婦問題を扱ったドキュメンタリーひとつとっても、こうした異常な状況に追いやられているのである。訪日する韓国人や生活している在日コリアンの人たちが受けているプレッシャーは相当のものだろう。まさしく、歴史修正主義は差別問題と地続きなのである。
 実際、人権意識の進んでいる欧州では、歴史修正主義がヘイトスピーチと同格で法的に禁じられているケースもある。たとえば戦後ドイツは「民衆扇動罪」を設け、ヘイトスピーチはもちろん、ホロコーストの事実否定やハーケンクロイツの掲揚などナチ礼賛行為をも刑事罰の対象にした。欧州にはナチスによるユダヤ人虐殺などを否認するリビジョニズムが、ヘイトスピーチやヘイトクライムに繋がるという認識がある。一方で、日本では安倍政権=政治側が歴史修正主義を牽引しているのが現状だ。

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