室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第12回ゲスト 原田眞人(後編)

原田眞人監督と室井佑月が安倍首相の「政界引退したら、映画プロデューサー」発言に痛烈ツッコミ!

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安倍首相が映画プロデューサーになったら……原作もスポンサーもアベ友だらけ!?

室井 でも映画業界の人たちは、この発言になんで怒らないんですか? なんだか映画監督という職業を侮蔑された感じがするんです。

原田 別に映画監督は神聖な職業ではないし、「こんなやつが監督かよ」というのも大勢いますから(笑)。誰がやりたいと言ってきても全然腹が立たないです。

室井 映画って20年後とかにもう一度見直して、感じ方は違うかもしれないけど、別の感動を受けることができるものはいい作品だと思う。そんな作品を安倍さんが作れるとは思わない。

原田 そうですね。僕も映画はクラシックを見続けることが重要だと思うんです。日本なら黒澤監督の『七人の侍』(1954年)、小津監督なら『浮草』(1959年)とか。観ていると、年代によって自分のリアクションも変わってくる。1本の映画を中心とした自分の定点観測ができるというか、自分の成長の度合いが測れる。小津作品なんかは若い頃は嫌いだったんです。でも50歳を過ぎてから観ると、若い頃にはなかったいろいろな情報を持って観ることができる。情報を入れて観た方がいい映画は、小津作品とイングマール・ベルイマン作品なんです。情報は彼らの生き方です。たとえば小津作品の『浮草』の一番いいところは、京マチ子と中村鴈治郎さんのシャウティングマッチがあるんだけど、その当時の文献や小津さんの日記を読んだりして解釈をしていくと、小津さんと当時の愛人の森栄さんとの喧嘩をそのまま再現しているなあとか。そういったプライベートな部分が見えてくると、小津作品はすごく楽しいんです。

室井 すいません、わたし小津作品はなんか退屈っていうか(笑)。

原田 僕も退屈だと思っていたけど、たぶん68歳になると「小津作品いいなあ」と思うようになるかもしれない(笑)。いい映画って重層構造になっていると思うんです。Aコース、Bコース、Cコース、みたいなのがあって。わからない人はそれなりに、よくわかる人はよくわかるような。

室井 ということは観ている側も、作品をきちんと観る情報や感性が必要ってことなんですね。それによって解釈も変わってくると思います。

原田 作る側も圧倒的な情報量がないとダメですし、覚悟も必要です。イングマール・ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』(1982年)という自分が引退すると決めたときに作った作品がある。僕はこれが彼の最高傑作だと思っているんですが、自分の子どもの頃の話をもとにしている。自分の子どもの頃に彼には家が3つあって、その葛藤を描いているんですが、もし自分が子どもの頃に演劇の家、神の家、魔術師(映画)の家という三つの家の葛藤に巻き込まれていたならば、という発想です。その作品の何が素晴らしいかというと、ベルイマンは5回結婚しているんですけど、今までの自分が結婚したときのかつての妻や子どもたちに声をかけて、役者やスタッフとして参加しているんです。彼の映画のキャリアの集大成で。それをきちんと映画化して、引退した。これはすごいなあと思っているんです。

室井 嫌われない男だったんですね。うちには18歳の息子がいて、腹違いの兄弟が4人いるんです。元妻と現妻は5人。でもわたし、そこと付き合わせようとは全然思ってないですけどね。お父さんの器ですかね(笑)。

原田 映画監督の器かな(笑)。自分のパーソナルライフで、彼は結婚と離婚を繰り返すたびに愛の家を作っていった。

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