室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第12回ゲスト 原田眞人(後編)

原田眞人監督と室井佑月が安倍首相の「政界引退したら、映画プロデューサー」発言に痛烈ツッコミ!

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原田眞人監督と室井佑月の刺激対談、第二弾!

『検察側の罪人』がヒット中の原田眞人監督をゲストに迎えた室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第12回。前編では、『検察側の罪人』に政権批判を織り込んだ理由から、安倍政権下での言論圧力、押し付け憲法論の欺瞞など、様々な角度から安倍政権の危険性が語られた。原田監督の博覧強記とも言うべき圧倒的な知識量に室井も感嘆。

 後編では、さらに映画と政治の距離についてお話しいただいた。木村拓哉と二宮和也は作品の社会風刺にどう反応したのか、『万引き家族』(監督・是枝裕和)や『焼肉ドラゴン』(監督・鄭義信)への炎上攻撃、安倍政権による映画の政治利用、そして対談直前に飛び出した安倍首相の「政界引退したら、映画プロデューサーになりたい」発言。もしも安倍首相が映画プロデューサーになったら……原田監督と室井の痛烈ツッコミをぜひ最後までお読みいただきたい。
(編集部)

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室井 「自民党の歴代総理たちの誰一人として、今の安倍さんがやっているようなことはやっていない」と監督おっしゃいましたけど、まさにその通り。とくにメディアコントロールとか言論弾圧なんて、ここまでヒドいのは初めて。しかも、ネトウヨや安倍応援団が乗っかって政権批判を「反日」と大バッシングする構造が完全にできあがってる。

原田 だから僕ら映画人がもう一度考えなきゃいけないのは、1940年代末から50年代にかけてアメリカに吹き荒れた、赤狩りのヒステリーですよね。映画人が表現の自由を押さえつけられ、逆らえばパージされる。エリア・カザンが自分が知っている共産主義者の連中の名前を挙げて、裏切り者扱いされているわけですけど、彼はそれを映画監督として、作品を“作る”か“作らないか”の選択をさせられたわけです。そのためには友人たちや仲間、11人の名前を売った。でも僕はそれを責められない。悪いのは国家であり、レッドパージであり、エリア・カザンは悪くない。そんなところに追い込まれないためにも、それ以前の段階で警告を発したい。そのために映画の中で自己主張したり風刺を入れたりする。そうしなければ、いずれ映画そのものができなくなる危惧さえあると思っています。

室井 『検察側の罪人』もネトウヨから攻撃されたということでしたが、『焼肉ドラゴン』も在日コリアンを描いているだけで「反日」と炎上したり、『万引き家族』が政権批判的だと攻撃されたり、最近そういうことがすごく増えていると思います。『焼肉ドラゴン』と『万引き家族』は国から助成金が出ているのに、政権批判するのはおかしいなんていう非難もありましたよね。

原田 助成金をもらったからといって、それが縛りになるのがそもそもおかしい考え方です。助成金は企画に対して出ているわけで。映画づくりって、不偏不党の精神じゃなきゃダメだと思う。権力にこびることはないし、お金をもらって権力批判しても全然かまわない。それを批判する方は、官僚の忖度の意識ですよね。これが一番怖いですよね。そういう人間が増えているということも怖いと思う。

室井 今度、政府が“明治期の国づくり”の映画にお金を出すなんて言ってるじゃないですか。日本会議とかも「文化の日を明治の日に変えろ」なんて主張もしたり、安倍さんも明治大好きでしょっちゅう賛美しています。それについてはどう思います? たとえば、国に金を出してもらっても、今回のように“こっそり”自分の主張を入れることはありですか?

原田 それはあると思います。しかも明治期に関してはいろんな解釈がありますよね。単純な明治バンザイではなく、さまざまな人間が存在した。負けた側の歴史上の人物も多い。そうした人間的魅力をいかに引き出すか。右でも左でもどこでもいいんです。その人間をかっちりと描かせてくれるのならね。ただ国が金を出すときに、どこまでアーティストに対しての表現を保証するのかが問題でしょう。

安倍首相が「よかった」と言っている映画は愚作ばかり

室井 でも彼らが思う“伝統”や“民主主義の否定”の映画に限定されちゃうんじゃないかと。審査だってあるだろうし、その人たちは安倍ちゃんとお友だちだったりするだろうし。でも明治と銘打ったら公平にお金出さなきゃおかしいです。そして物書きとしてのわたしの仕事は「この企画はなんで落ちたんだ」といったことを書いていくことです。

原田 そうです。それをそこで掘り起こしてくれないと、表現の自由のいい形には繋がっていきません。

室井 あっ、もうひとつどうしても聞きたいことがあったんです。安倍さんが「政治家にならなかったら映画監督になっていたかも」なんて言っているんです。最近では「首相を辞めたら映画プロデューサーになりたい」なんて言い出してますけど、本当になれると思いますか?

原田 なれるわけないじゃないですか!

室井 やっぱり(笑)。でも怖いもの見たさでどんな作品か観たい気持ちもあるんですが。

原田 そもそも彼がいままで「これ見た」「あれ見た」「よかった」と言っている作品は愚作ばかりですからね。でも本当になりたければうちの助監督として怒鳴りつけながら使ってやりますよ(笑)。

室井 映画っていうよりは、警察が作っている交通安全の啓蒙ビデオみたいになったりして(笑)。

原田 それは鋭い観察だと思います。免許証更新のたびにああいうところにいって、警察の広告が作っている作品を見せられて。どんなやつが作っているんだろうと思っていたけど、そうか。安倍さんみたいな人がつくっているんですね(笑)。しかも、もし安倍さんがプロデューサーになったとしたら、原作は誰を使うかもうわかっているじゃないですか。

室井 そうですよね〜。でも安倍さんてすごい巨額なお金を集めてきそう。でもそれでお友だちのお願いをすぐ聞くから、お友だち企業の商品がむやみやたらに置かれてそう(笑)。

原田 確かにプロデューサーはお金の面の担当ですからね。しかし監督は具体的なビジョンがないとダメだし、僕が信奉する監督は脚本も自分で書いている人なのでその段階から自分の作りたい世界をイメージできる人。それが本当の映画監督だと思うんです。自分でやりたい作品を考え、比喩隠喩も上手く入れつつ社会風刺も入る作品を作る監督はそう何人もいません。全体的に日本映画は落ちて来ていると思いますし。その中で、もうちょっとプロデューサーが頑張ってリスクのある企画を立てたりできるといいんですけど。おそらく安倍さんはどう考えても脚本を書けるとは思えないし。当初は監督とプロデューサーとの区別がつかなかったんじゃないですか? それで、「自分はいろんなところからお金を引き出してくるのが得意だから、プロデューサーだな」となったのかも。

安倍首相が映画プロデューサーになったら……原作もスポンサーもアベ友だらけ!?

室井 でも映画業界の人たちは、この発言になんで怒らないんですか? なんだか映画監督という職業を侮蔑された感じがするんです。

原田 別に映画監督は神聖な職業ではないし、「こんなやつが監督かよ」というのも大勢いますから(笑)。誰がやりたいと言ってきても全然腹が立たないです。

室井 映画って20年後とかにもう一度見直して、感じ方は違うかもしれないけど、別の感動を受けることができるものはいい作品だと思う。そんな作品を安倍さんが作れるとは思わない。

原田 そうですね。僕も映画はクラシックを見続けることが重要だと思うんです。日本なら黒澤監督の『七人の侍』(1954年)、小津監督なら『浮草』(1959年)とか。観ていると、年代によって自分のリアクションも変わってくる。1本の映画を中心とした自分の定点観測ができるというか、自分の成長の度合いが測れる。小津作品なんかは若い頃は嫌いだったんです。でも50歳を過ぎてから観ると、若い頃にはなかったいろいろな情報を持って観ることができる。情報を入れて観た方がいい映画は、小津作品とイングマール・ベルイマン作品なんです。情報は彼らの生き方です。たとえば小津作品の『浮草』の一番いいところは、京マチ子と中村鴈治郎さんのシャウティングマッチがあるんだけど、その当時の文献や小津さんの日記を読んだりして解釈をしていくと、小津さんと当時の愛人の森栄さんとの喧嘩をそのまま再現しているなあとか。そういったプライベートな部分が見えてくると、小津作品はすごく楽しいんです。

室井 すいません、わたし小津作品はなんか退屈っていうか(笑)。

原田 僕も退屈だと思っていたけど、たぶん68歳になると「小津作品いいなあ」と思うようになるかもしれない(笑)。いい映画って重層構造になっていると思うんです。Aコース、Bコース、Cコース、みたいなのがあって。わからない人はそれなりに、よくわかる人はよくわかるような。

室井 ということは観ている側も、作品をきちんと観る情報や感性が必要ってことなんですね。それによって解釈も変わってくると思います。

原田 作る側も圧倒的な情報量がないとダメですし、覚悟も必要です。イングマール・ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』(1982年)という自分が引退すると決めたときに作った作品がある。僕はこれが彼の最高傑作だと思っているんですが、自分の子どもの頃の話をもとにしている。自分の子どもの頃に彼には家が3つあって、その葛藤を描いているんですが、もし自分が子どもの頃に演劇の家、神の家、魔術師(映画)の家という三つの家の葛藤に巻き込まれていたならば、という発想です。その作品の何が素晴らしいかというと、ベルイマンは5回結婚しているんですけど、今までの自分が結婚したときのかつての妻や子どもたちに声をかけて、役者やスタッフとして参加しているんです。彼の映画のキャリアの集大成で。それをきちんと映画化して、引退した。これはすごいなあと思っているんです。

室井 嫌われない男だったんですね。うちには18歳の息子がいて、腹違いの兄弟が4人いるんです。元妻と現妻は5人。でもわたし、そこと付き合わせようとは全然思ってないですけどね。お父さんの器ですかね(笑)。

原田 映画監督の器かな(笑)。自分のパーソナルライフで、彼は結婚と離婚を繰り返すたびに愛の家を作っていった。

NHKスペシャルのインパール作戦を観た木村拓哉が、原田監督に…

室井 今回の対談でわかったんですけど、映画って、観た人から「よかった」と言われる評価だけでなく、すごい役割を果たしているんですね。現実社会とも深くコミットしている。それに映画って好きな人物やキャスト、好きな絵や音楽、全部自分の好きなもので合わせて、小さい地球を作るようなものですもんね。

原田 それが全部望むところにいけばいいんですが、いろいろみなさんスケジュールがあって、ほしいところがダメで、断られたり、いろいろあるんです。でも今回はほぼ理想のキャストにはなりましたけどね。

室井 そうなんだ。でも木村拓哉さんと二宮和也さんの共演は素敵でした。わたしはキムタクにあまり注目していなかったんですが、でも今まで観たもののなかで一番かっこよかった。

原田 彼は本当にいい形で年を重ねていると思う。関心したのは、映画のキャンペーンでいろんな取材も受けて、ものすごく引き出しがあるということ。インタビューでの言葉も、いい表現していました。

室井 わたしもそう思いました。パンフレットで木村さんが、「いまの社会にあって、ダメなことに目をつぶろうと思えばできますが、絶対そうしないぞという意志表示。それを脚本から感じましたね」と語っていました。舞台挨拶でも「時代ものとか太平洋戦争の事実とか、(メジャーな存在である)自分たちしかできない」って。確かにそうだなと共感しましたし、素敵だなと思いました。

原田 そうした部分に木村さんも二宮くんも共感してくれたのは大きかった。インパールは脚本の段階に入れましたが、撮影しているときにちょうどNHKでドキュメンタリー番組が放送されたんです。あれを木村さんが観て、「監督! 昨日見ました」と。僕は観ていなかったんですが、彼はDVDにコピーしてきてくれて。そもそも今回の映画は「木村拓哉×二宮和也でやりたいと思う」というオファーがあって、その題材として『検察側の罪人』があったんです。確かに彼らがメジャーじゃなきゃできなかったですよね。彼の存在が大きいから、社会風刺も“遊び”ということにもなる。

室井 それにすごく意味があると思います。政権批判を「赤旗」がしても、それは当然なことでニュースにならないですから(笑)。木村さんも色男役より、今回の映画でちょっと影になると皺が出てきている感じが魅力的だと思いました。

原田 一緒に仕事していて楽しかったし、また次もやりたいなと思っています。実際彼に言ったんです。「次は、今までやってこなかったような、それこそギトギトの悪役をやろう」と。そうしたら「ギットギトの悪役ですか。やりたいですね」と言っていました。暴力的で、ちょっと頭の足らないワル。そんな役もできると思います。

室井 スターってどうしても眩しすぎて。でも頭の悪いワルをやったらどんな感じになるんだろう。でもいいなあ、映画監督って。すごく楽しそうですね。女の人にもモテそうだし。それに今回の対談ですっごくわかったことがあります。映画って最強だということ。今わたしが週刊誌などで、いくら「今の政権がおかしい」と言っても、読者の多くは高齢者だし、誰も読んでくれない。でも映画は、年代性別問わず幅広い人に訴えられる。社会風刺を入れたフィクションとしての強みもある。広く訴えられるのは、素晴らしいなと思いました。そして今日は本当に勇気をもらいました。

原田 僕も室井さんからいつも勇気もらっています。
(前編はこちら)


原田眞人 映画監督、1949年生まれ。1979年『さらば映画の友よ』で監督デビュー。『KAMIKAZE TAXI』(1995年)でフランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。その後も『金融腐敗列島[呪縛]』『クライマーズハイ』『わが母の記』『初秋』『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』など作品多数。

室井佑月 作家、1970年生まれ。レースクイーン、銀座クラブホステスなどを経て1997年作家デビューし、その後テレビコメンテーターとしても活躍。現在『ひるおび!』『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)、『大竹まこと ゴールデンラジオ』(文化放送 金曜日)などに出演中。

最終更新:2018.10.04 10:09

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