福島・南相馬で「書店」を開店…芥川賞作家・柳美里の無責任マスコミとは真逆な被災地への姿勢

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柳美里が共有しようとした「原発事故で毀損された暮らしの痛み」

 フルハウスには著名作家などが選んだオリジナルの選書コーナーが設置されるなど読書家の注目も集まっているが、柳美里氏が南相馬で本屋を開業するのは、ビジネスというよりもむしろ、地元の人たちの文化的な憩いのサロンのような存在になることを目指しているという側面のほうが強い。

 柳美里氏が被災地に初めて足を踏み入れたのは、11年4月21日。22日午前0時をもって原発から半径20km圏内が「警戒区域」に指定される直前のことであった。彼女の母の郷里は福島県只見町の田子倉集落。いまは田子倉ダムの水の底に沈んでいる集落だ。国によっていままさに故郷を奪われようとする状況が、母にとっての田子倉とかぶって見えた。だから、柳美里氏はいてもたってもいられなくなり、当時住んでいた鎌倉から福島の浜通りへと向かわずにはいられなかったのだ。

 その後、彼女と被災地との関わりはどんどんと濃いものになっていく。12年3月からは南相馬市にある臨時災害事故放送局・南相馬ひばりFMで『柳美里のふたりとひとり』という、南相馬に住む市井の人々と語り合うラジオ番組を開始。この番組はノーギャラで、それどころか、福島への交通費や宿泊費なども完全に自腹であるらしく、著書『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』(双葉社)でも書かれているように困窮状態にあった彼女は、借金をしてまでも滞在費を工面していたという。

 そして、15年4月からは家族そろって南相馬市に移住。南相馬には周辺の地域から避難している人や、復興作業に関わる業者の人たちが大勢いるので住宅に空きがない。そのため、リフォーム業者ですら匙を投げるような古い家に住むことになるのだが、それでも南相馬への移住の決意はいささかも揺るがなかった。このあたりの苦労や、福島での生活の片鱗は、昨年12月に出版された短編集『飼う人』(文藝春秋)に収録されている小説「イエアメガエル」に反映されている。

 しかし、なぜ柳美里氏はそうまでして南相馬に移住しようとしたのか。「文學界」(文藝春秋)18年2月号では、その理由をふたつ挙げている。ひとつは、前述した『柳美里のふたりとひとり』を続けるため。そしてもうひとつは、ラジオ番組などで地元の人々と関わるうち、南相馬という場所に魅了されたからだ。彼女は「文學界」のなかで、「南相馬という土地、風土、歴史、それらが育んだ人々の気質や暮らしに魅力を感じたということはあります。その人々が営んでいた暮らしが原発事故によって取り返しがつかないほど大きく毀損されてしまった。その痛みは、同じ場所で暮らしてみなければわからないのではないか、と思いました」とも語っている。

 ただ、彼女の移住の理由はそれだけではない。もっと、作家として、いや、人間としての矜持に関わるようなものだったのではないだろうか。

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