『夫のちんぽが入らない』著者が告白…本がヒットすればするほど恐怖に震えるその理由とは?

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 実は、こだま氏は、本の出版当時から周囲、特に夫や親に自分の書いている文章を知られることに関して恐れを表明していた。「SPA!」(扶桑社)2017年1月31日号に掲載された松尾スズキ氏との対談でもこのように語っている。

「実はあんまり売れてほしくなくて。このタイトルにしたのも、下ネタが許されない厳格な家庭に育ったので、これなら親は絶対に手に取らないからバレないだろうという算段があったんです」

 また、自身のブログ『塩で揉む』には、発売直後に近所の本屋で起きたエピソードをこのように書き綴っている。

〈発売から1週間後、近所の書店に2冊だけ入荷していた。「こんな田舎じゃ当然置いてないだろう」と試しに覗いた程度だったので、高倉健さんの御本の隣で申し訳なさそうにうっすら光る「ちんぽ」を発見したときは変な声が出た。そして、手に取り「よくこんな僻地の潰れそうな本屋まで来たね」とねぎらった。地元の人間には読んでもらいたくなかったので、その2冊を買い占めようと思ったが、「すぐ売り切れたら、売れる本だと思われてもっと入荷してしまう」という話を聞いた覚えがあり、変に手を出さず流れに任せることにした。都会でだけ売れてくれ。そう願いながら棚に戻した。〉

 しかし、幸か不幸か、『夫のちんぽが入らない』は大ヒット。こだま氏は大きな注目を浴びることになった。そう遠くない未来、執筆業のことを知られる日が来るかもしれない。

 ただ、こだま氏は少しずつそういった煩悶を乗り越えつつあるようだ。「クイック・ジャパン」で連載している自伝エッセイ「Orphans」にてこだま氏は、こんな決意を綴っている。

〈私小説を出したことで私の人生が大きく変わってしまうのかもしれないし、今まで通りひっそりと続くのかもしれない。だけど、これから迎える春は、何もしてこなかった過去の春とは違う。
 自分のしてきたことを悔いたり、押し潰されたりするだろう。夫や両親を傷つけることになってしまうかもしれない。でも、私の今できることをした。ずっと言えなかった気持ちを一冊のどうしようもないタイトルの本に詰め込んだ〉
〈いつか家族に打ち明けたい。逃げずに手渡したい。口も心も閉ざしていた日々のこと、誠心誠意、同人誌、夫婦の性、私小説。これまでに放った自分の言葉の球が一気に跳ね返ってくるに違いない。
 すべてを知ったあとでも私と家族のままでいてくれるだろうか〉(前掲「クイック・ジャパン」vol.130)

 本を読んだ人ならわかる通り、『夫のちんぽが入らない』という作品は、夫婦の性的な問題、仕事に関する挫折、病、子どもができなかったこと、親に対する複雑な思い、といったものを正直に書き綴ることで、主人公=作者が、知らず知らずのうちに抱え込んでいた思い込みや偏見を捨て去り、多様な生き方を肯定することができるようになるという物語だった。

 執筆の過程で得た、固定観念を打破し、色々な価値観を受け入れる力は、彼女の人生を確実に前に押し進めつつある。

「Orphans」にせよ、「SPA!」連載エッセイ「こだまの不協和音家族」にせよ、彼女の文章は自分の周囲で起こったことを一歩引いた目線で観察し、そこで芽生えた自分の感情をこれまた第三者的な視点で表現するところにおもしろみがある。「ライターとしての仕事がバレる」という危機を彼女はどんな筆致で書き続けていくのか。ただ、たとえバレたとしても、エッセイから受ける印象で見る限り、夫は案外あっさり執筆業のことを受け入れてくれそうな気がするのだけれど、どうだろうか。
(新田 樹)

最終更新:2020.07.01 05:59

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