決算書にインフラ、住民サービス…イスラム国はテロ組織ではない、もはや国家だ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
isis_01_150122.jpg
『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(文藝春秋)

 本サイトの記事にもあったように、「イスラム国」が日本人2人の身代金要求と殺害予告を行うという衝撃的な事件のきっかけが、中東歴訪中だった安倍晋三首相の不用意な発言であることは明らかだろう。1月17日にエジプトで開かれた「日エジプト経済合同委員会」で、こう述べたのだ。

「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISIL(アイシル)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に総額で2億ドル程度、支援をお約束します」

 日本政府は2人の日本人が「イスラム国」に拘束されていることは知っていたはずである。それを考えると、あまりに不用意としか言いようがないが、いまはそんなことを言っている場合ではない。「イスラム国」が設定したタイムリミットが刻一刻と迫っているからだ。

《汝の敵を知れ》という格言がある。

「イスラム国」とはいったい何者なのか。日本のメディアは「イスラム国」の前に必ず“イスラム過激派組織”という枕をつける。欧米の専門家の多くは「イスラム国」をタリバンと同じ時代錯誤の過激派組織だと考えている。安倍首相やアメリカ政府が「イスラム国」(英語の略称はIS)という名称でなく、わざわざ旧名称の「ISIL」を使うのは、「イスラム国」があくまで武装組織だと強調したいからだという。だが、本当にそれでいいのだろうか。

 この疑問にいち早く応えたのが、『イスラム国  テロリストが国家をつくる時』(文藝春秋)だ。著者のロレッタ・ナポリオーニ氏はローマ生まれの女性ジャーナリストで、ハンガリー国営銀行に勤務していたという異色の経歴を持つ。ひょんなきっかけからテロ組織の資金調達に興味を持つようになり、研究を始めた。いまでは北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタントを務め、「イスラム国」には早くから警鐘を鳴らしていた。

 もう1冊、きわめてわかりやすい参考書がその名もズバリ『イスラム国の正体』(朝日新書)だ。こちらの著者は元日本外交官の国枝昌樹氏である。在エジプト大使館勤務を皮切りにイラク、ヨルダン、シリアを渡り歩いた中東のエキスパートだ。1990年の湾岸危機では十数人の治安軍兵士にカラシニコフ小銃を突きつけられながら司令官と交渉し、日本人人質の解放に当たった強者でもある。

 この2冊の本から浮かび上がる「イスラム国」の印象は、黒覆面の男たちが銃を掲げて跋扈する単なる野蛮な武装集団とはかなり違う。しっかりとした財政基盤を持ち、決算書も作成し、都市インフラを整備するなど、限りなく「国家」に近づきつつある。とはいえ、その手法はテロと暴力の連続だ。最高指導者のアル・バグダディを頂点に優秀な人材を集め、財政、捕虜、徴兵、法務、広報などの各大臣を配している。その意味では、成功したオウム真理教と言えなくもない。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

イスラム国の正体 (朝日新書)

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

決算書にインフラ、住民サービス…イスラム国はテロ組織ではない、もはや国家だのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。イスラム国人質事件安倍晋三宗教野尻民夫の記事ならリテラへ。

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄