決算書にインフラ、住民サービス…イスラム国はテロ組織ではない、もはや国家だ

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 過去の武装集団は、制圧地域の住人は搾取の対象であり、政治に参加させるなどもってのほかだった。だが、「イスラム国」はそれでは「国家」にならないことをよく知っている。支配地域の女性と兵士を結婚させることにも余念がない。それほど目的意識が明確なのだ。

 では、「イスラム国」に支配された地域の住民はみんなが幸せかというと、もちろんそんなことがあるはずはない。イスラム教スンニ派の中でもとくに厳格なサラフィー主義による「国家運営」を目指しているので、まるでタリバン時代のアフガンと同じだという証言もある。飲酒はもちろん厳禁で、喫煙やカメラの使用も禁じられている。女性は男性の親族の付き添いなしで外出してはならず、当然、肌を見せてはいけない。

 報復や刑罰は極めて冷酷で、イスラム法廷と移動警察を備え、処刑は広場などで公開される。さらに怖いのは、強力な布教・改宗活動による宗教的浄化活動を行っていることだ。制圧地域に残る住民は過激なサラフィー主義に改宗するか、でなければ処刑される。アメとムチを巧妙に使い分けた強権支配を行っているのである。

「イスラム国」の戦略でもうひとつ特徴的なのは、アルカイダのように遠くの敵を相手にするのではなく、近くに敵を設定したことだ。アル・バグダディの夢は近い敵との征服戦争に勝利し、バグダッドを中心とするカリフ国家を再興することだ。ここでいう「近い敵」とは、シリアとイラクを支配する腐敗し切った一握りのエリート、つまりシーア派のことを意味している。かつてのイスラム帝国の領土をシーア派という「暴君」から解放しようとしているとも言える。初期の「イスラム国」はシーア派に対して執拗に自爆テロを繰り返した。

 これによって、それまでシーア派に虐げられていたスンニ派イスラム教徒が続々と「イスラム国」を支持するようになったという。カリフ制国家の再興を唱える新カリフ(バグダディのこと)の登場を、多くのスンニ派の人々は武装集団の出現とは受け止めていない、と前出のロレッタ氏は指摘する。数十年に及ぶ戦争と破壊の末にとうとう頼もしい政治主体が誕生したと。その意味で、「イスラム国」の目的は、〈スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人にとってのイスラエルになることである〉とも言っている。衝撃的な例えではないか。

 国際社会のある意味“知らぬ間”にここまでの国家もどきを創り上げたアル・バグディとはどういう人物なのか。

 1971年にイラクの古都サマラで生まれ、自らを預言者ムハマンドの末裔だと称している。バグダッドの大学でイスラム関係の学位を取得し、イスラム教の指導者として活動していたこともある。テロリスト集団のリーダーには珍しくそれなりの教養はありそうだ。学生時代は物静かでサッカー部のエースだった。90年代の終わりにアルカイダ系グループと行動を共にしていたとの情報もある。他の武装集団の指導者がよくやるように、自分の動画を公表したり、声明を発表したりすることはめったにない。2014年7月にインターネット上に演説映像を公開して以来、いっさいその姿を現していないのだ。謎の存在というか、謎めいた存在であることを演出しているという説もある。指導者になったのはほんの4年前だが、「イスラム国」が台頭し始めたのもその頃からだ。

 前出のロレッタ氏は、「イスラム国」が先行する他の過激派武装集団と決定的に違うのは、その近代性と現実主義(プラグマティズム)にあるという。それを体現しているのが、バグダディなのかもしれない。彼自身のみならず、周辺には相当に優秀な人材を集めている。

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