自伝・エッセイに関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
毎日が“生存崖っぷち”難病女子・大野更紗を襲った東日本大震災
しかし、「難病おひとりさま」の日常は孤独だ。ツイッターで知り合った人がたまに訪ねて来てくれたり、出版社のWEB連載を始めたり(これが後にデビュー作となる)、評論家の荻上チキの取材を受けて励まされたりはするのだが、誰かと会って楽しかった後ほど孤独感は募る。入院中に知り合い、心の支えになったボーイフレンドらしき「彼」もいたのだが、やはり難病を抱えて遠方に住んでいる。しかも、彼女が徐々に社会性を取り戻していく中ですれ違い、彼女から連絡を絶ってしまうのだ。ある晩、ミャンマー研究時代の知人たちとなじみの店へ行き、ワイワイおしゃべりして戻ってきた部屋で彼女はひどい気分に襲われる。
《どうして、先の見えない苦痛に耐え続けなければならないんだろう、どうして、こんなに疲れて痛くて苦しいんだろう、どうして、わたしだけがこんな思いをしなければならないんだろう、どうして、どうして。誰にも、わかってもらえない。わかってもらえるはずがない。(中略)こんな気分を、あと何度やり過ごせるだろうか》
だが、ここに続く一文こそ、「弱者」ではあっても「可哀想な人」には決してならない大野更紗の真骨頂を語っている。
《「心が折れる」とか「正気を失う」というのは、薄氷一枚隔ててすぐそこにある。そのことはよくわかっている。わかっているから、「もう一日くらい、〝正気側〟にいてみるか」と踏みとどまる》
そして、最大のクライマックスが本書の後半に訪れる。2011年3月11日、東日本大震災。退院8カ月あまりで直面した危機に、彼女は「ああ、このまま死ぬんだろうなあ」と考える。《常時ですら「生存崖っぷち」な難病女子は、非常時には「生存はマジ先行き不透明」状態に》なるからだ。
そんな中、彼女はツイッターにつぶやき続けた。かつてスマトラ島の大津波被災地へ調査に入った時の光景を思い起こし、津波の恐ろしさをとにかく伝えたかった。誰かに伝えて、東北へ支援に行ってほしかった。被災地にも薬や透析を切らせない難病患者や高齢者がいる。《わたしは、自分も死にたくないが、ほかの人にも死んでほしくない》。
彼女が福島県出身だったことも大いに関係している。両親が暮らす実家は福島第一原発から34キロの地点。浪江町をはじめ浜通りのあちこちに祖母や親戚一族がいる。直後は当然、連絡が取れない。3日後に一瞬つながった母親とのノイズだらけの通話で、「爆発した」という単語が聞こえてきた。何かあったらしいが、詳しいことはわからない。
《もし、おかあさんとおとうさん、ばあちゃんやおじちゃんたちが、なんとか生き残ってくれたら、わたしに何を望むだろうかと考えた。正直、わからなかった。
生きのびて、後から、直接会って聞こう》
生存崖っぷちの彼女は、区の相談員や知り合いの編集者やツイッターで苦境を知った人たちに支えられて食料を確保し、なんとか事態を乗り切る。そしてこの体験によって思い出す。「人の役に立ちたい」という欲求、つまりは生きる意味のようなものを。それが、次なる道へとつながっていくのだ。
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