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菅義偉が国葬弔辞で美談に仕立てた「山縣有朋の歌」は使い回しだった! 当の安倍晋三がJR東海・葛西敬之会長の追悼で使ったネタを
自民党HPより
多くの国民が反対するなか、安倍晋三・元首相の国葬が9月27日に強行された。安倍元首相の業績とやらを振り返るフェイクだらけのPV、軍国趣味の式演出、男だらけの弔問客、ある意味安倍政権を象徴するグロテスクな葬儀だったと言えるだろう。
そんななか話題になっているのが、菅義偉・前首相の弔辞だ。菅前首相といえば、スピーチ下手で有名だったが、今回は、ワイドショーやニュース番組でも繰り返し流され、「葬儀にもかかわらず自然に拍手が湧き起こった」など絶賛の嵐。
田崎史郎氏が「菅氏の言葉には心を動かすものがありましたね。昭恵さんも涙ぐむ場面があり、国葬でのハイライトでした」と評すれば、恵俊彰も「菅さんの心の声を初めて聞いた気がする」「(岸田首相の弔辞は)申し訳ないが、あまり響かなかった」と岸田首相をくさして菅を持ち上げた。
橋下徹・元大阪市長は「菅さんと安倍さんは明らかに友人、友情…失礼な言い方かもしれませんけど純粋な小学校、中学校、高校生の友情関係を強く感じましたので、それが強く表れた最後の言葉だったと思います」と声を震わせた。
ほんこんも「心温まる、感動的な弔辞。新聞の記事で全文を読ませていただいて、凄いなと思ったところで、涙してしまうというところでございました」と絶賛。
さらには、菅本人も調子に乗って、御用メディアであるABEMAの独占インタビューに応じ、以下のように追悼の辞の執筆エピソードを開陳する始末だった。
「提案があったので、『大変だ』と思って一生懸命資料集めから。一気にではなくまず全体像を入れていくというか、“何をして、何をして…”という構想からした。それと、私自身が今まで発言したものを集めていき、(完成形になったのは)意外に早かった」
しかし、この弔辞、そんな絶賛を受けるようなご大層なシロモノなのか。菅前首相の弔辞をめぐっては、玉川徹氏が『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)で、「電通が演出した」という事実に反する発言をして、大炎上しているが、実際のところ、電通以外のスピーチライターがいようが菅前首相本人が書いていようが、薄っぺらなハリボテ的演出がされた駄文だったことに変わりはなかった。
「山縣有朋の歌」は安倍元首相自身がJR東海・葛西会長の追悼で引用したものだった
その象徴とも言えるのが、山縣有朋の歌を読み上げたくだりだろう。菅前首相は弔辞でこう語っていた。
〈衆議院第一議員会館、千二百十二号室の、あなたの机には、読みかけの本が一冊、ありました。岡義武著『山県有朋』です。
ここまで読んだ、という、最後のページは、端を折ってありました。
そしてそのページには、マーカーペンで、線を引いたところがありました。
しるしをつけた箇所にあったのは、いみじくも、山県有朋が、長年の盟友、伊藤博文に先立たれ、故人を偲んで詠んだ歌でありました。
総理、いま、この歌くらい、私自身の思いをよく詠んだ一首はありません。
かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ
かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ〉
ようするに、菅氏は、安倍氏の死後、倒れる直前まで読んでいた本を発見。その読みかけの最後のページに、暗殺された伊藤博文を偲ぶ山縣有朋の歌が載っており、それがいみじくも、自分の思いを表していると語ったのだ。
ほんとうなら、「運命を感じさせる秘話」「ぐっとくるいい話」ではあるが、実際はそんなドラマチックな話ではまったくない。
そもそも、この山縣有朋の歌を紹介すること自体、ある政治家が他の人を追悼するために使ったネタの使い回しにすぎなかった。
ある政治家とは、ほかでもない安倍元首相だ。安倍氏は今年6月17日、Facebookにこう投稿している。
〈一昨日故葛西敬之JR東海名誉会長の葬儀が執り行われました。
常に国家の行く末を案じておられた葛西さん。
国士という言葉が最も相応しい方でした。
失意の時も支えて頂きました。
葛西さんが最も評価する明治の元勲は山縣有朋。
好敵手伊藤博文の死に際して彼は次の歌を残しています。
「かたりあひて尽しゝ人は先だちぬ今より後の世をいかにせむ」
葛西さんのご高見に接することができないと思うと本当に寂しい思いです。
葛西名誉会長のご冥福を心からお祈りします。〉
葛西氏といえば、安倍元首相の最大のブレーンと言われていた極右財界人で、第一次安倍政権下の2006年には国家公安委員や教育再生会議委員に就任。その後の首相再登板も猛烈に後押しして、第二次安倍政権以降は、首相動静で確認できるだけでも何十回も顔を合わせるなど、べったりの関係を築いてきた。安倍政権の政策への影響力もすさまじく、NHK会長などさまざまな人事まで左右していたことはあまりに有名だ。
その最大のブレーンだった葛西氏が亡くなったとき、安倍元首相は葬儀で弔辞を述べたのはもちろん、さまざまなメディアで追悼の言葉を発したが、そのとき、持ち出していたのが、今回、菅氏が紹介した山縣の歌だった。
これは、安倍氏にその歌が載っている評伝『山縣有朋』を薦めたのが、葛西氏だったからだ。
安倍元首相は、首相在任中の2014年12月27日にホテルオークラの日本料理店「山里」で葛西敬之JR東海名誉会長(当時)、北村滋情報官(当時)と会食しているが、その席で正月休みの読書におすすめの本を葛西氏に尋ね、葛西氏から件の岡義武の『山縣有朋』を薦められたと報じられている。ちなみに、岡は葛西氏の東大時代の恩師で、『山縣有朋』や『明治政治史』についてさまざまなメディアで言及しているし、葛西氏が山縣有朋を信奉しているのも有名な話だ。
ようするに、極右国家主義政治の師匠とも言える葛西氏から“日本の軍国主義路線の大元”山縣の評伝を教えてもらった安倍氏が、その師匠の追悼に本に載っている山縣の歌を使ったのである。実際、安倍氏は6月24日発売の極右雑誌「WiLL」(ワック)8月号に掲載された櫻井よしこ氏との対談でも、葛西氏をしのび、葛西氏が山縣有朋を敬愛していたこと、葛西氏から岡義武の『山縣有朋』を薦められたことなどを語った上で、「まさに、私たちが葛西さんに贈りたい歌です」として、この歌を紹介していた。
ところが、菅前首相は今回、故人である安倍氏が他の人を偲ぶために使っていたその歌を、何の説明もないまま、今度は自分の心情の表現として借用してしまったのだ。これって、弔辞のマナーとしてありなのだろうか。
菅前首相が弔辞で語った「安倍元首相の最後の読みかけの本」は嘘! 7年半前に読了していた
もうひとつ、菅前首相の弔辞が問題なのは、安倍氏と山縣の短歌のほんとうのかかわりをネグって、インチキなドラマチック演出をしていたことだ。
菅氏は、安倍氏の議員会館の部屋の机に読みかけの『山縣有朋』があったと言い、山縣の歌が載っていたページの端が折られ、歌のところにマーカーが引かれていたことから、そのページが銃撃される前に安倍氏が「ここまで読んだ、という、最後のページ」だとしていた。まるで読みかけのまま銃弾に倒れた安倍に導かれ、自分の心情を表す短歌に出会ったとでも言いたげに。
だが、実際の安倍はこの『山縣有朋』を読みかけのまま倒れたわけではなく、とっくに読み終えていた。そもそも、前述したように、安倍氏が葛西氏からこの本を薦められたのが2014年末。いくら勉強嫌いで知られる安倍氏とはいえ、8年近く経つのにまだ読みかけということはないだろう。
実際、安倍元首相は2015年1月12日のFacebookで、週末三連休を河口湖の別荘で過ごしたことを報告した上で、岩波新書版の『山縣有朋 明治日本の象徴』の表紙の写真とともに、〈読みかけの「岡義武著・山縣有朋。明治日本の象徴」 を読了しました。〉と投稿。〈伊藤の死によって山縣は権力を一手に握りますが、伊藤暗殺に際し山縣は、「かたりあひて尽くしし人は先立ちぬ今より後の世をいかにせむ」と詠みその死を悼みました。〉とくだんの歌も全文を引用して紹介している。
それから7年半経って銃撃される前、議員会館の机の上にほんとうにこの『山縣有朋』があって、ページの端が折られ、歌のところにマーカーが引かれていたとしたら、それは「読みかけ」で「ここまで読んだ」という印ではなく、自分が銃弾に倒れる3週間前に葛西名誉会長が亡くなった際、葛西氏の「追悼」に使おうと、歌のところを“お勉強”し直したと考えるのが妥当だ。
「葛西さんが亡くなったし、追悼文、考えなきゃ。そういえば、葛西さんに薦めてもらった山縣有朋の評伝に、伊藤博文を偲んで詠んだ歌が載っていたな、あれ、使おう。ああ、ここここ」という感じだったのではないか。
ところが、菅氏はそれをあたかも、安倍氏が銃弾に倒れる前、最後に読んだ本、ちょうど読みかけの最後のページにということにしてしまったのだ。
菅前首相も、安倍元首相ほどではないが、葛西氏とは近く、安倍氏が自民党総裁に返り咲いた直後の葛西氏との会食にも同席している。普通に考えれば、安倍氏が葛西氏の追悼に山縣の歌を使っているのは知っていたはずだ。どう考えても事実を知りながら美談仕立てのためにしらばっくれたとしか思えない。
明治軍国主義の権化・山縣有朋を国葬の場で美談仕立てで持ち出すグロテスク
いずれにしても、巨額の税金を使って開いた国葬の弔辞で前総理が明かした「運命の秘話」が、当の故人が別の人の追悼に使っていたネタの使い回しだったとは、なんというハリボテぶり。
とはいえ、これだけなら、まさに“愛国者のハリボテ”だった無教養な安倍・菅コンビらしいオチというだけの話で済むかもしれない。
しかし、今回の菅前首相の弔辞の本当の問題は、「使い回し」かどうか以前にある。それは国葬の弔辞で山縣有朋を持ち出したことそのものだ。
そもそも山縣有朋といえば、明治政府の軍事拡大路線を指揮した日本軍閥の祖で、治安警察法などの国民弾圧体制を確立した人物。自由民権運動を潰し、天皇と国家神道支配の強化、富国強兵と中央集権体制の確立のため、自分の息のかかった地方長官会議に建議させ、井上毅内閣法制局長官や儒学者の元田永孚らに命じて、あの「天皇と国家のために命を捧げろ」と教える教育勅語をつくらせたことでも知られる。
そして、安倍元首相の“明治軍国主義の祖”山縣への傾倒ぶりは相当で、首相在任中の2017年に防衛大の卒業式で「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります」「最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯の強さが、我が国の安全に直結する」などと語って、自衛隊を私兵扱いしていると批判を浴びたスピーチも、山縣が発意した「軍人勅諭」を踏襲しているとも指摘されていた。
また、菅前首相も自身に抵抗する官僚を監視し干し上げてきた弾圧体質も、自由民権運動を弾圧したり、反長州の人間を徹底的に排除するなどした山縣有朋と通じるものがある。
しかし、税金を使った国葬の弔辞で、そんな軍国主義の権化のような人間の歌を、堂々と美談仕立てで紹介するというのは、連中が日本をグロテスクな軍国主義の国に引き戻そうとしていることの証明ではないか。〈今より後の 世をいかにせむ〉=これからの世の中をどうしていこうかって、その後、山縣が指揮した大日本帝国がどんな道を辿ったと思っているのか。
ところが、マスコミはその危険性を検証することも、「使い回し」を指摘することもせず、冒頭で指摘したように、この菅の弔辞を「泣けた」「素晴らしい」と絶賛している。
統一教会報道と国葬批判で少しはマシになったと思っていたが、この国のヤバさは相変わらず、というしかない。
(編集部)
最終更新:2022.10.01 06:50
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