酩酊状態にさせ暴行して無罪! 甘い性犯罪判決の背景に司法界の男目線、刑法注釈書に「たやすく屈する貞操は保護に値しない」

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『逃げられない性犯罪被害者』

 今月12日、絶句するしかない判決が言い渡された。酒に酔って抵抗できない状態にあった女性を性的暴行した会社役員の男性に、福岡地裁久留米支部はなんと無罪判決を出したのだ。

 事件が起こったのは2017年2月。判決で西崎健児裁判長は「女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐して眠り込んでおり、抵抗できない状態だった」と認定しながらも、〈女性が目を開けたり、何度か声を出したりしたことなどから、「女性が許容していると被告が誤信してしまうような状況にあった」と判断〉(毎日新聞3月12日付)。西崎裁判長はこう述べたというのだ。

「女性が拒否できない状態にあったことは認められるが、被告がそのことを認識していたと認められない」

 え、どういうこと?と突っ込むしかない。テキーラを一気飲みさせられて嘔吐し眠り込んでいるというのは完全に抗拒不能状態で、それで性行為をおこなえば準強制性交等罪が成立する。そして、裁判長も「抵抗できない状態」だったことは認めている。にもかかわらず、目を開けたり声を出したことを理由に「女性が許容していると被告が誤信してしまうような状況」と認定するとは……。

 これでは、度数の強い酒を一気飲みさせられた挙げ句、嘔吐して、眠ってしまっても、女性は目を開けてしまっただけで「相手に合意していると感じさせた」ことになってしまう。

 ときに冤罪も生み出すほどに異常に高い有罪率を誇る日本の刑事裁判で、一体なぜこんな無罪判決がまかり通るのか。推定無罪の原則は当然だし、尊重すべきだが、この判決では重要な事実が認定されているのだ。あまりに不自然と言うほかないだろう。
 
 しかも、こうした不可解な無罪判決は、性犯罪に関しては、必ずしも珍しい例とは言えない。

 たとえば、「性暴力と刑法を考える当事者の会」が作成したブックレット『性暴力被害者からみた ここがヘンだよ 日本の刑法(性犯罪)』には、こんな判例が掲載されている。

 それは、〈24歳の男が中学生女子に声をかけ、性交した行為が、強姦罪として問われた〉裁判でのこと。大阪地方裁判所は〈少女が性交に同意していなかったことは認められる〉としながら、〈被告人が「犯行を著しく困難にする程度の暴行」を加えたとは認められず、また「男が少女が性交を受け入れたと誤信した」疑いは払しょくできない〉とし、無罪を言い渡したというのである。

 この判決は、中学生の女子に対して「あなたが抵抗しなかったから、男性も同意したと誤解するよね」と言っているようなものだ。普通に考えれば、成人男性を前にして、女子中学生が恐怖で身が固まってしまったり言われるがまま行動してしまうような状況は想像に容易い。だが、そうした力関係は無視され、むしろ男性が「性交を受け入れたと誤信した」ことが考慮されてしまう。つまり、〈成人男性が、女子中学生の態度を「性交を受け入れたと誤信」すれば、強姦罪に問われない〉ということになってしまうのだ。

18歳の女性を脅迫し踊り場で暴行「経験則」にもとづき無罪に

 こうした判決から見えてくることは、いかに司法が性暴力事件に対して“男性に甘く、女性に厳しい”かということだろう。

 その一例となる判決が、『逃げられない性犯罪被害者─無謀な最高裁判決』(杉田聡・編著/青弓社)で取り上げられている。それは、たまたま通りかかった当時18歳の女性が「ついてこないと殺すぞ」と男に脅迫され、ビルの踊り場で強かんされたという事件の判決だ。

 この裁判では、まず地裁が女性の供述の信用性を認めて被告人に懲役4年の有罪、高裁も一審判決を支持して控訴を棄却したのだが、最高裁は自判し、“女性が助けを求めていないのが不自然”“「無理やり犯された」のに膣などに傷もついていない”などとし、一審判決を「経験則に照らして不合理であり、是認することができない」としたうえで逆転無罪が言い渡されたのだという。

 ここでも被害者が恐怖で声をあげることさえできなくなる追い込まれた心理状態がまったく無視され、膣に傷がないことが理由のひとつにあげられている。ようするに、裁判所は脅され、さらなる暴力や死の恐怖を感じた被害者女性が加害者の言いなりになった可能性をまったく考慮していないのだ。

 だいたい、裁判官の言う「経験則」とは一体何なのか。この判決が考え方の論拠とした2009年判決(痴漢事件に関する最高裁判決)の補足意見では、那須弘平裁判官がこのように記しているという。

〈我々が社会生活の中で体得する広い意味での経験則ないし一般的なものの見方〉

 しかし、ここでいう「経験則」とは男性中心の社会でつくりあげられた男性に優位な原則にすぎない。「我々」という言葉の正体は、裁判官と同じ性の「男性」のことでしかないのだ。

警察官の90%以上、検察官、裁判官の80%以上が男性という男社会

 なぜ、こんな旧態依然とした“男性にとって都合のいい”見方が司法の世界ではまかり通っているのか。その理由のひとつを、同書はこのように述べている。

〈警察官の九〇%以上、検察官、裁判官の八〇%以上が男性であり、警察も検察も裁判所も圧倒的な男社会です。わずかに存在する女性も、圧倒的な男社会のなかで男性の感覚に染まってしまっていたり、違和感を感じながらも大勢に逆らえなかったりします。その結果、加害者と同じ男性の感覚で被害者の落ち度を責め、プライバシーを暴きたて、被害者を傷つけます(二次被害)。強かん裁判が、被告人ではなく、被害者を裁く裁判と言われるゆえんです〉

 しかも、司法試験受験生から法律実務家のあいだで長く定番とされてきた注釈書『注釈刑法』(初版は1960年代)などでも男性視点が見られると同書は指摘している。現に、この注釈書では“被害女性の意に反するか否かが唯一の標準になれば法的安定を損なう”“女心の微妙さを考慮に入れよ”“些細な暴行・脅迫にたやすく屈する貞操の如きは刑法の強かん規定の条文で保護されるに値しない”などという趣旨の信じがたい記述がなされているという。

 性犯罪への理解がまったくないばかりか、「貞操」という言葉が堂々と使われる男性中心的な司法界──。今回、問題になっている“目を開けたから男性が合意と誤信した”という判決も、このような司法界の“男性視点”が要因になっているのではないか。

 前掲の『逃げられない性犯罪被害者─無謀な最高裁判決』では、法科大学院および大学法学部で性犯罪についての十分な教育をおこなうことや、司法研修制度で性犯罪のカリキュラムを導入すること、性犯罪専担の警察官、検察官、裁判官配置の必要性などを訴えているが、一方、今回の判決を受けてネット上では「裁判官のジェンダー教育及び性犯罪の厳罰化を!」という署名活動がおこなわれている(外部リンク→http://bit.ly/2TDr10Y)。12日にスタートしたこの署名活動には、15日11時30分現在、約3万人もの署名が集まっている。

 性犯罪は社会に蔓延るジェンダーバイアスを排し、被害者の心理状態を念頭に置いて扱わなくてはならない事犯だ。そのことを、日本の司法界は一刻も早く認識するべきだろう。

最終更新:2019.03.15 01:23

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