防衛大生の交通事故めぐり忖度疑惑!? 父親は安倍政権に近い右派軍事評論家、運転禁止の訓練中に死亡事故起こすも…

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安倍首相も出席する防衛大学校の卒業式(首相官邸HPより)

 安倍政権のもと、ありとあらゆる省庁・政府組織が“忖度”なしでは息もできなくなっているのだろうか。今度は、あの防衛大学校で “不祥事隠蔽疑惑”が浮上している。

 周知の通り、防衛大学校(神奈川県横須賀市、以下防衛大)は、防衛省の関連機関として幹部自衛官を育成する訓練施設。毎年3月の卒業式には総理大臣が出席し、「自衛隊の最高指揮官」として訓示を行う。安倍首相は昨年の防衛大卒業式で「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります」「最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯の強さが、我が国の安全に直結する」などと、まさしく“自衛隊の私兵化”の意識が著しい。

 その防衛大をめぐって、いま、安倍政権とも親和性が高い、自衛隊出身の右派軍事評論家の子弟が起こした死亡事故をめぐる疑惑が持ち上がっている。会員制情報誌「選択」(選択出版)9月号が報じた「もみ消された防衛大学生『交通死亡事故』 軍事評論家の子女を『特別扱い』」なる記事だ。

〈幹部自衛官を養成する防衛大学校でも「アベ友」への忖度が行われた疑いが浮上している。昨年七月の夏季定期訓練で北海道を訪れていたある女子学生が、相手が死亡するという重大な交通事故を休日に起こしたのだ。〉(「選択」より)

「選択」によると、書類送検後に示談が成立したというが、そもそも防衛大生の自動車運転は厳しく制限されており、申請が必要にも関わらず女子学生はその手続きをしていなかった。しかも〈相手が死亡しているという重大性に照らしても、退学などの厳しい処分が下されるはずだが、防大はお咎めなしでもみ消した〉として、このように続けている。

〈当該女子学生の父親は安倍政権とも近い某軍事評論家。その父親自身、航空自衛隊のOBだ。このため「政治的忖度」が働いたとの見方が広がっている。〉

 元航空自衛官で「安倍政権とも近い軍事評論家」と言えば、そう何人もいるものではない。実際、「選択」の記事について全国紙の防衛省担当記者に聞いてみると、あっさりこんな答えが返ってきた。

「ああ、潮匡人氏のことですね。潮氏は航空自衛隊出身で、当時の防衛庁長官官房でも勤務経験がある。潮氏には3人のお子さんがいますが、末っ子の娘さんはいま防大の4年生で、たしかに一年前に事故を起こしたという話を耳にしたことがあります。」

 あらためて過去の新聞報道を調べてみたところ、たしかに潮氏の娘・Aさんは、千歳基地で夏期定期訓練期間中の2017年7月15日に自動車での死亡事故を起こしていた。北海道新聞などによれば、ツーリング中に転倒したオートバイの男性が、対向車線を走行していたAさんの乗用車にひかれ、全身を強く打ち死亡。現場は夕張市登川のトンネルで、中央分離帯のない片側一車線の直線道路だったという。

 潮匡人氏といえば、いま大問題になっている「新潮45」(新潮社)の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」にも寄稿している右派の軍事評論家。「正論」(産経新聞社)、「WiLL」(ワック)などの極右論壇誌の常連で、集団的自衛権の行使や憲法9条改正を強く主張してきた論客として知られる。

 また、安倍首相の“ブレーン”である八木秀次・麗澤大教授の「日本教育再生機構」や、日本会議との関係が深い「美しい日本の憲法をつくる国民の会」「民間憲法臨調」などにも参加。2012年には「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人の一人に名を連ねている。最近は政権批判的な発言も散見されるが、安倍政権との親和性は高い。

退学になっていなかった軍事評論家の娘、防衛大学校に疑惑を直撃すると…

 さらに取材を進めていくと、Aさんは事故時に3年生だったが、少なくとも退学や長期停学などの厳しい処分にはなっておらず、現在も防衛大学校に在学中で、4年生に進級しているという情報も得られた。とすれば、前述の「選択」が書いていたように〈「政治的忖度」が働いたとの見方が広がっている〉のも無理もない話だろう。

 そこで、本サイトは事実確認のため、9月13日、防衛大学校に対してAさんの事故に関する防衛大の対応を質す質問状を送った。

  防衛大の担当者によれば「本省(=防衛省)との調整に時間を要する」とのことで、返答には少々の時間がかかったが、18日に総務部総務課社会連携推進室広報係名義での回答があった。それによれば、防衛大側は事故の当日にはAさんからの連絡で把握していたという。防衛大生の自動車運転に関する規約についても質問したが、学校外において車両を運行する場合は事前に防衛大の許可を得ねばならず、「誓約書」の提出や防衛大が計画し実施する交通安全講習の受講も義務付けられているとのことだった。

 一方で、夏季定期訓練期間中の学生の車の運転を許可しているか、あるいは当時、Aさんは防衛大に運転の届け出を行なっていたかという質問に対しては、〈昨年度の事故に関与した学生の所属においては、夏季定期訓練期間中の学生 の車の運転は届出があっても禁止しておりました〉との回答だった。やはり、潮氏の娘・Aさんは、防衛大が禁じている車の運転を行い、死亡事故を起こしていたのだ。

 しかし、不可解なのは、この事故をめぐる処分についての防衛大側の回答だ。

 というのも、防衛大は〈事故に関与した学生に対し懲戒処分を行っていますが、学生の懲戒処分については、原則として、従来から公表しておりません〉とするだけで、Aさんに対する処分の内容を一切、明かさなかったのである。

 言っておくが、防衛大学校の学生は特別職の国家公務員で、将来は幹部自衛官となる者がほとんどだ。在学中は学費が無料であるうえ、学生手当として給与をもらいながら訓練をしている(2018年現在、月給11万4300円に加え約37万7000円のボーナス)。つまり、防衛大生は一般的な大学生とはまったく立場が異なり、いわば「公人」に準ずる立場にあると言える。

 当然、防衛省という公的機関の一部である防衛大学校は、その学生への処分を公にする必要があるだろう。官僚などの国家公務員であれば、死亡事故に関する懲戒処分は必ず公開されるからだ。

具体的な懲戒内容は公表してないと言い張る防衛大学校のダブルスタンダード

 本サイトは、18日付の防衛大からの回答に対して、再度、質問状を送付した。

 内容は、防衛大学校の学生が“準公人”であることを確認したうえで、(1)Aさんへの懲戒処分の具体的内容に関する誠実な回答を求める、(2)Aさんを退学・停学にしなかった防衛大学校の処分は妥当なものであったとの認識か、(3)防衛大生が禁じられている車の運転を行い、なおかつ人身事故を起こしたとしても、防衛大学校は当該学生を停学や退学にしないと理解してよいか、という趣旨のものだ。

 これに対し、19日付の防衛大側による回答は以下のものだった。

〈1 学生に対する懲戒処分(退校、停学又は戒告)は、「学業に励む」という学生としての位置づけから、一般の隊員に対する懲戒処分(免職、降任、停職、減給、戒告)とは異なっており、懲戒処分を実施した際も、一般の隊員については原則として公表しているものの、学生については、教育上必要な配慮を行う観点から、従来から原則として公表していないことにつきご理解ください。
 2 当校としては、当該学生に対する懲戒処分は既に実施しており、その量定は適正なものと考えています。
 3 仮定のご質問にお答えすることは差し控えさせていただきますが、個別の事 案については事実関係を踏まえ厳正に対処します。〉

 見ての通り、防衛大はAさんへの処分内容の非公表を一歩も譲らなかった。だが、この回答は様々な点で矛盾する。

 そもそも、これまでの新聞報道などを見る限り、防衛大はAさんに対して「懲戒処分」を下したことについてすら公表してこなかった。しかも、防衛大は「学生については、教育上必要な配慮を行う観点から、従来から原則として公表していない」というが、過去には、学生に対する処分を公表したケースは少なくない。

 たとえば2001年には、大麻取締法違反(密輸入)の疑いで逮捕された防衛大学校生(2年生)を退校の懲戒処分に。2010年には知人女性にわいせつ行為を働いた学生3人(2年生)を退校。このときは現場にいながら犯行を止められなかったとして別の2年生の男子学生2人も停学30日の懲戒処分にした。また、同年には校内で携帯電話や衣類を盗んだ疑いで、2年生の学生と1年生の学生が退校に処されている。2014年には保険金の詐欺容疑で合計13名の防衛大学生を退校に。2016年にも、学生間で暴行や悪質な嫌がらせがあったとして、学生12人と当時の指導教官10人に停学や戒告などの処分を下した(うち2年生2人は停学、3年生2人は戒告の懲戒処分)。

 繰り返すが、これらの処分はすべて防衛大学校が発表し、新聞にも載ったものだ。一方、2017年の夏季定期訓練中に禁じられている自動車を運転し、相手が死亡する事故を起こしたAさんについては、防衛大は処分の事実すら公にせず、さらに本サイトの取材に対しても処分内容の公表を拒んだ。これはいったい、どういうことなのか。

 やはり、この防衛大による処分及び発表をめぐる不可解な扱いの差には、Aさんが、航空自衛隊のOBで「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人も務めた潮匡人氏の娘であることが、なんらかの影響を及ぼしているのだろうか。もしそうだとしたら、これは極めて由々しきことと言わざるを得ないだろう。

 周知の通り、安倍政権では森友・加計学園問題に象徴されるように“身内優遇”に官公庁が加担し、組織的な隠蔽にまで手を染めている事実がある。くだんの防衛省でも、安倍首相や防衛大臣を忖度したとしか思えない自衛隊の日報隠蔽問題などが明るみになった。

 今回の疑惑はそうした、安倍政権下で広がっている忖度体質の延長線上で出てきたものと言えるだろう。少なくとも、幹部自衛官を養成する防衛大学校が、国民からこうした疑念を持たれるようなことはあってはならない。最後にそう、念を押しておこう。

最終更新:2018.09.23 10:08

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