“第二の又吉”との呼び声も高い紗倉まな、最新小説の中身とは? 中3のとき不倫で家を出た父、家族を失った苦しみ…

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
sakuramana02_20170404.png
『凹凸』(KADOKAWA)

 人気AV女優として活動する一方、昨年には小説家デビューも果たした紗倉まな。昨年2月に出版された処女作『最低。』(KADOKAWA)は、『64-ロクヨン-前編』で第40回アカデミー賞監督賞にノミネートされた瀬々敬久監督により映画化が決定したニュースを報じられたばかりだが、そんな彼女が早くも2作目となる小説『凹凸』(KADOKAWA)を今月18日に出版した。

 前著『最低。』は、年齢も環境も違う4人のAV女優を主人公にした短編集で、作中には現役のAV女優として活動する彼女だからこそ書くことのできる「仕事観」や「人生観」といったものが色濃く反映されていた。

 紗倉はエッセイやインタビューのなかで、14歳のときに父の書斎に隠されていたAVを見たのがきっかけでAV女優に憧れ、18歳の誕生日の翌日に自らプロダクションに応募メールを送ったことで、高専在学中からAVデビューしたとの経緯をあっけらかんと告白している。

 しかし、AV業界最大手メーカーのひとつ、ソフト・オン・デマンドの専属女優として5年近く仕事をし続けていれば、そんな経緯で業界に入った彼女であっても心に抱えるものはたくさんある。親バレ問題、恋人とAV女優としての仕事との軋轢……彼女自身も抱いているのであろう、AV女優たちがもつそんな複雑な内面を仔細かつ冷静に描写した物語で、『最低。』は深い文学性を得ることに成功し、高い評価を得たわけだが、そんな心から血を流しながら生んだ前作の後で、果たして彼女に書くべきテーマがあるのだろうか? そう思いつつ『凹凸』を読んでみると、今作は『最低。』以上に心の傷をさらけ出す、壮絶な小説だった。

『凹凸』のテーマは「父」である。

『凹凸』は、紗倉自身を投影していると思われる24歳のフリーター・栞を中心に、その母・絹子の物語も挟みつつ、母娘がそれぞれ父と別離することになった過程(栞の父・正幸は不倫で家から出て行き、絹子の父・辰夫は自殺する)、そして、そのことを受け入れ、乗り越えていく過程を描いていく。

 では、なぜそのストーリーが、彼女の心の傷と関わりがあるのか?

 図らずも彼女がAV女優になるきっかけをつくることになった紗倉の父だが、実は、彼女が中学3年生のとき、不倫の果てに家から出て行っている。エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)のなかで、〈父とは離婚して以来会っていないので、私がAV女優になったことを知っているのかどうかも不明なままです〉と綴っているが(後のインタビューでは、いまでは連絡は取っており、誕生日にプレゼントが届いたりすると語っている)、『凹凸』は父娘の別離の瞬間を切り取ったこんなモノローグから始まる。

〈あなたから、かぎ慣れない匂いがした。
 それは得体のしれない女のもので、いつしか突き放される日が来るのだという気配を感じ、そして十四歳の夏の夜、わたしはついに“失恋”した。
(中略)
「ごめん」と大きな背中が揺れ、あなたの唇が情けなく震えて謝罪の言葉があふれ出し、次第に言い訳も取り留めも、何もかもが宙に舞うように昇華されていった。
(中略)
 第二の人生を歩みたいんだ、とあなたは、申し訳なさそうに呟いてみせた。なぁ、栞。俺、憎まれてもいいんだ。嫌われてもいい。だけど第二の人生を歩みたいんだよわかってくれよ頼む、もうね疲れてしまったんだ。俺についてこないでほしい。頼むから。そう言って、うつむいた。
 頼むからだなんて、ずいぶんと図々しいことで。
(中略)
 家族が崩壊する瞬間はドラマや映画でいくつか見たことがあったものの、自分がいまそのような状況に直面していることにあまり現実味を感じていないわたしは、言葉よりも先に家の外できらめく夜の街に思いを馳せるばかりで、なかなか飲み込むことができない。
(中略)
 そっか。あなたは。
 父にまだ女を愛したいなどといった欲情があったことを、わたしはその時初めて知ったのだった〉

 作中では、不倫相手からの連絡が入っている父の携帯電話をめぐって両親がケンカしているのを栞が見つめるシーンが出てくる。ケンカの果てに携帯電話は床に落ちて折れ、父はいままで見たことがないような剣幕で激怒するのだが、これもまた彼女自身の体験を投影しているものと思われる。というのも、フォトエッセイ本『MANA』(サイゾー)におさめられている吉田豪との対談のなかで彼女はこんなエピソードを語っているからだ。

「父が携帯電話でその女性と連絡を取ってて、通話料金がすごくなっちゃってて。気付いた母親が父親の携帯を取り上げようとしたんですよ、母「あんた、こんな払えもしないような金額の電話して! 貸しなさい」父「やめろぉぉぉ」って取り合いになり。あまりにもくだらないというか、携帯ひとつで家庭をこんなに振り回されるなんてってすごいイライラして、取り合ってる2人の間に割って入って、父の携帯を折りました(あっさりと)。(中略)携帯が悪いんだ! って。父親は好きな女性と連絡できないからショボ〜ンとして、母親は証拠隠滅されたとか言って怒りました」

 物語のなかで栞は母に向かって「……お父さんって、わたしのこと、愛していたと思う?」と泣きながら聞くのだが、彼女自身の実体験に即した描写がこれだけあることを考えると、この切実な台詞も紗倉自身の思いを投影しているのだろう。

 このように、前作以上に身を切るようにして物語を紡ぎ出している『凹凸』だが、実は、彼女のつくる物語のなかに父の存在が出てくるのはこれが初めてではない。そもそも『最低。』にも父の存在は色濃く影響を与えていた。

『最低。』の2章「桃子」では病に倒れて死期の近い父が登場し、3章「美穂」では死んだ父の葬式で妹と会話するシーンがあり(そこでの会話は物語の核となる)、4章「あやこ」は自分を捨てた父(肺がんに冒されもう先は長くない)と大人になってから再会するシーンで終わっている。1章「彩乃」も父こそ出てこないものの、AV出演がバレたことで母と対立し、AVの仕事を選んだことで家族を捨てる物語であり、そういった背景を鑑みれば、紗倉まなは作家性として「家族の喪失」という一貫したテーマをもった小説家であるとも言える。

『凹凸』発売記念イベントの壇上で彼女は「本当に今回は絞り出して書いたので、次は明確な目的がある訳ではありません。ですが、とりあえず書き続けることが今後の目標です」と語っていた。

『最低。』と『凹凸』を読むことで、紗倉まなには作家として書くべき核となるモチーフがあることがよくわかった。しかも彼女はそれを、いわゆる紋切り型の“赤裸々な自分語り”ではなく、冷静な批評眼をもって細やかに描写してゆく。その筆力に、“AV女優が書いた”という冠は不要だ。そう遠くないうちに3作目の小説が届けられるだろうが、今後の作品も注目したい。

最終更新:2017.11.22 01:28

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

“第二の又吉”との呼び声も高い紗倉まな、最新小説の中身とは? 中3のとき不倫で家を出た父、家族を失った苦しみ…のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。新田 樹紗倉まなの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 韓国ヘイト叫んだ厚労官僚はアベノミクスの旗振り役
2 安倍首相が防衛大卒業式でも自衛隊を道具に改憲を宣言
3 指原莉乃がウーマン村本を「政治語るな」批判
4 NZモスクテロ事件容疑者が日本の「多様性のなさ」を賞賛!
5 百田尚樹『日本国紀』に“Yahoo!知恵袋コピペ疑惑”
6 NGT48暴行問題で山口真帆が謝罪強要を訴えるも運営は無視
7 グッディ!土田マジギレ真の原因
8 ピエール瀧逮捕報道で炎上した深澤真紀は間違ってない
9 安倍首相にマッチョ批判
10 フジ『バイキング』で金美齢が部落差別
11 ネトウヨ高須院長に息子が苦言!
12 マララは社会主義者だった!
13 田崎スシローが望月衣塑子記者を「トンチンカン」と攻撃
14 高須院長〈アウシュビッツは捏造〉問題をマスコミはなぜ報じない?
15 『報ステ』がまた政権批判アナ排除
16 沖縄2紙の記者を警察が拘束する暴挙
17 東山紀之が“反ヘイト本”を出版
18 AKBと電通のシークレット飲み会
19 在日差別に怯え続けた芸能人の苦悩
20 五輪汚職のJOC竹田会長居座りを許すマスコミの電通タブー
1 安倍首相が隠した原発事故の責任
2 震災から8年、安倍政権の被災者切捨て
3 指原莉乃がウーマン村本を「政治語るな」批判
4 田崎スシローが望月衣塑子記者を「トンチンカン」と攻撃
5 電力会社の原発広告復活! 関西電力、九州電力は3倍増に
6 ピエール瀧逮捕報道で炎上した深澤真紀は間違ってない
7 安倍自民党「公約の9割成果」の嘘を検証
8 高須院長〈アウシュビッツは捏造〉問題をマスコミはなぜ報じない?
9 『報ステ』がまた政権批判アナ排除
10 安倍政権が米ジャパンハンドラーに3億円の寄付
11 安倍が再びバノンから「偉大なヒーロー」と
12 4人のヘイトデモを大量の警察官が守る異様な過剰警備!
13 NZモスクテロ事件容疑者が日本の「多様性のなさ」を賞賛!
14 韓国ヘイト叫んだ厚労官僚はアベノミクスの旗振り役
15 防衛省元幹部が新基地建設事業投資ファンドの広告塔に
16 酩酊状態にさせ暴行して無罪!甘い性犯罪判決の背景
17 参院選出馬説の貴乃花が危険な極右オカルト発言!
18 ピエール瀧めぐり松本とたけしが無教養丸出し発言
19 安倍首相が防衛大卒業式でも自衛隊を道具に改憲を宣言
20 五輪汚職のJOC竹田会長居座りを許すマスコミの電通タブー

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄