タレントに関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
つるの剛士が”母親は家にいろ”強要の「親学」イベントに参加!「保育園落ちた日本死ね」非難の背景にあるもの
つるの剛士オフィシャルサイトより
タレントのつるの剛士が「保育園落ちた日本死ね」の流行語大賞トップ10入りに「こんな汚い言葉」「日本人としても親としても悲しい」と噛みついた一件で、本サイトがつるののことを「問題を矮小化している」「国家の誇りを強要する危険思考だ」と批判したところ、非難のツイートや抗議メールが殺到する事態となっている。
まあ、「反日クソサイトのリテラこそ死ね」とか「チョーセン人リテラはこの国から出て行け」などとわめくネトウヨのみなさんの攻撃はいつものことなので「ご苦労様」としか言いようがないが、気になったのは「つるのさんは『死ね』という言葉遣いを批判しただけなのにリテラの記事はレッテル張りだ」とか、「個人の意見を封じ込めようとするリテラこそ言論弾圧だ」などという意見が多数見られたことだ。これについては、一言いっておく必要があるだろう。
●つるのが沖縄基地反対派叩きに「いいね」、トランプ暴言も擁護
まず、つるのがたんに「死ね」という言葉遣いを批判しただけだという主張。たしかにつるのは後になってそういう言い訳をしている。自分は「ただ、死ねが流行語??と」いう個人的感想をつぶやいただけ、「ウチの子供が『◯ね』なんて言葉を吐いたら」ぶっとばす、と。
しかし、「死ね」がたんに汚い言葉で子どもに聞かせられないというだけなら、やはり流行語にノミネートされた「ゲス不倫」だって同じはずだが、つるのは、そのことは触れていない。なぜか。それは、つるのが反応した理由が「死ね」という言葉自体でなく、その言葉が「日本」に向けられたことだったからだ。「親として」だけでなく「日本人として悲しい」とわざわざ述べたのもそのためだろう。
実際、つるのはこれまで、同じ「汚い言葉」でも、国家の政策に反対する人たちやマイノリティをなじるものについては否定するどころか、それを積極的に支持してきた。たとえば、沖縄基地反対運動の住民への機動隊員による「土人」発言の後、安倍応援団やネトウヨが一斉に反対運動を攻撃。報道圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」の理事でもある経済評論家・上念司がツイッターで、警官と基地反対派のこぜりあい動画を貼り付けて、〈曲さ暴力集団のリーダーによる警官への暴行動画。これもひどい。こんなの逮捕でいいよ。〉(原文ママ)とコメントしたことがあったのだが、つるのは、これに「いいね」を押している。機動隊員の「土人」発言のことは一切「差別だ」などとは言わず、自分たちの生活拠点を守ろうとする反対派の体を張った抵抗を「暴行」だと切って捨て、「逮捕しろ」という発言に同意していたのだ。
さらには、トランプの差別発言に擁護的な姿勢を見せたこともある。例のネトウヨCSテレビ番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』(DHCシアター)がトランプ擁護の論陣を張ったのを受け、あるユーザーが投稿した〈メディアのトランプ「暴言」批判の世論誘導に全体主義が垣間見える〉というツイートに、つるのはやはり「いいね」を押しているのだ。
機動隊員やトランプの差別発言にはこれだけ理解を示しながら、なぜ「日本死ね」となると一転して、「汚い言葉」「日本人として恥ずかしい」となるのか。これは明らかに、つるのが権力者や為政者はマイノリティに暴言を吐く自由があるが、国民が日本という国家に対し「死ね」と批判するなんて許せない、と考えているからだろう。
そして、本サイトがつるののことを危険だと指摘したのは、まさにこの思考に対してだった。なぜなら、自分の国に対して「死ね」と言うことのできる自由こそ、私たちがもっとも守らなければならないものだからだ。
「日本死ね」を長谷川豊の「人工透析患者を殺せ」発言と同じだなどとぬかしていたバカがいるが、まったくちがう。社会的弱者やマイノリティ、特定の人種・民族に対して「死ね」などという発言をすることは、その生存権すらも脅かすヘイトスピーチであり、絶対に許されないが、圧倒的な力をもつ国家に対して激しい批判をするのは当然の行為だ。むしろ、こうした激烈な批判こそが国民の権利と生活を守り、民主主義を機能させることにつながる。
しかも、国家を批判することは個人を守るだけではない。イギリスの作家ジュリアン・バーンズが「最高の愛国心とは、あなたの国が不徳で、悪辣で、馬鹿みたいなことをしている時に、それを言ってやることだ」と語ったように、国家に対してものを言うことは、それこそ国家から不平等や抑圧、政治の腐敗をなくし、自分の国をよりよくしていく行為でもある。
ところが、いま、日本の社会はこの民主主義の原則が完全に逆転して、弱者だけをいたぶり、権力批判には一切口をつぐむというグロテスクな空気が支配するようになった。それは、安倍政権とその応援団が、国家や政権の不当な行為や不正を批判する者に対して、「非国民」「在日」「そんなに日本が嫌いなら出て行け」といった攻撃を浴びせ、民主主義を担保する政権批判を封じ込めようとしてきたからだ。
●日本会議幹部の提唱する「親学」イベントにも参加
「保育園落ちた日本死ね」についても同様だ。母親が直面した切実な状況から発せられたこの言葉は激しいものであったがゆえに世論を動かし、待機児童問題に消極的だった政府・自民党も対策に乗り出さざるをえなくなった。しかし、国家に対する批判を許さない、女性の社会進出を認めたくない安倍政権の応援団はこの言葉とそれが状況を動かしたことに「憎悪」にも近い感情を抱いており、ことあるごとに攻撃を繰り返していた。
そして、今回、流行語に選定されたのを機に、再びこの言葉を封じ込めるべく、「流行語大賞は反日」「韓国人が選んでいる」などと大合唱を始めたのだ。今回のつるののツイートはまさに、そうした動きに乗っかって出てきたものだ。
しかも、つるのは「保育園落ちた日本死ね」という言葉の背景にある問題を知らずにこれを非難したわけではない。
つるのは、2014年4月に西尾青年会議所主催の「親学のススメ」なるイベントに親学ディスカッションのパネリストとして参加。今年5月にも松本青年会議所主催の親学をテーマとした「子育てフォーラム」というイベントでもパネリストをつとめているのだ。
親学とは本サイトでも繰り返し指摘している通り、日本会議の中心メンバーである高橋史朗が提唱する教育理論で、「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」などと主張するもの。“子どもを産んだら母親が傍にいて育てないと発達障害になる。だから仕事をせずに家にいろ”という科学的にはなんの根拠もないトンデモ理論だ。
要するに、つるのは母親が保育園に子どもを預けることよしとしない「親学」の広告塔的役割を果たしていたわけだ。「保育園落ちた日本死ね」を非難したのも、言葉遣い以前にそのことと無関係とは思えない。
いずれにしても、つるのは一般視聴者が考えているような「日本が大好きなだけのあんちゃん」ではけっしてない。百田尚樹や竹田恒泰、櫻井よしこ、ケント・ギルバート、池田信夫、「WiLL」編集部、さらには日本会議の別働隊「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などのツイッターもフォローしており、歴史修正主義や国家主義についてもきちんと理解しているはずだ。
しかも、つるのは毎日のようにテレビに出演し、ツイッターでは約54万人のフォロワーをもつ売れっ子タレントであり、意図的か無意識かはわからないが、明らかに百田や竹田の主張と地続きにあるような内容を、彼らのような極端なトーンでなく、“よき誠実な父親”というキャラクターのままで拡散していく。ある意味、ネトウヨにしか言葉が届かない百田や竹田よりもはるかに影響力が高いともいえるわけで、その発言の本質を見抜いて批判しようとするのは当然の行為だろう。
ところが、冒頭で述べたように、こうした点を指摘・批判したリテラに対してなぜか、ネットユーザーから「言論弾圧だ」などという非難が殺到しているのだ。
●リテラ攻撃の和田政宗議員は“育児母親押し付け論者”
改めていっておくが、リテラは何か言論を規制しようとしているわけでもないし、発言の機会を奪えと主張しているわけでもない。テレビに出すな、とテレビ局に圧力もかけていない。親学イベントなどにも参加し、ツイッターで政治発言をしているタレントの政治性を見抜き、その主張を批判しただけだ。なぜそれが「言論弾圧」ということになるのか。ようするに、つるのに便乗して「落ちた日本死ね」の流行語選定を叩きたい自分たちにとって、リテラが邪魔だから、「言論弾圧」などといっているだけなのだ。
こうした典型ともいえるのが、和田政宗なる自民党会派の参議院議員だ。和田はウェブメディア「BLOGOS」に「つるの剛士さんの批判を許さないリテラのほうが危険」なるブログ記事を投稿し、この記事の中でつるのの主張を擁護したうえ、リテラをこう攻撃してきた。
〈「リテラ」は自分たちが許容できない発言を恣意的に解釈し、“独裁国家的”として潰してしまおうという、とてもジャーナリズムとは呼べない批判をしている〉
「天に唾する」というのはこういう文章のことをいうのだろう。そもそも「恣意的解釈」などといっているが、それは和田自身のことではないか。たとえば、和田は「日本を誇ることが北朝鮮につながるという、リテラのほうこそ北朝鮮的論理だ」などと書いているが、リテラの記事はそんなことは書いていない。日本を誇ることを「強要」し、「自国に対して汚い言葉を使うな」と空気をつくり出すことが、北朝鮮のような独裁国家化を招く、と言っているだけだ。それを微妙に歪めて紹介し、「北朝鮮的論理」などと攻撃するのだから卑劣きわまりない。
あげくは、つるのの思考の危険性に警鐘を鳴らしているだけの記事を「(つるのを)潰してしまおう」という意図があると決め付ける陰謀論丸出しの展開である。
秘密結社じゃあるまいし、リテラにそんな目論見があるわけもないが、それよりなによりワイドショーをみれば明らかなように、いまは芸能人が政権寄りの保守的な考えを表明したら、逆にコメンテーターとして引っ張りだこになる時代なのだ。そんな状況で、つるのの右翼性を指摘した程度で「潰せる」わけもない。
だいたいテレビ局に圧力をかけ、言論の自由や政権批判をする出演者や番組を「潰してしまえ」と動いているのは、お前ら自民党まわりの政治家だろう。「表現の自由」を制限できる憲法につくりかえようとしている日本会議に賛同している人間がよくもまあ、こんなことを言えたものである。
和田はまるで自分が中立的な立場であるかのようにふるまっているが、2014年から今年11月まではあの「次世代の党」(15年末に「日本のこころを大切にする党」に改名)に参加していた政治家なのだ。次世代の党は2014年当時、「男女平等は絶対に実現しえない反道徳の妄想」と主張し、女性の社会進出にも真っ向から反対していた。和田が入党した直後の解散総選挙では、「タブーブタ」というブタのキャラクターのPRアニメーション動画を作成、こんな歌をつくって党の考えを主張していた。
〈なぜだブー!なぜタブー?
子育て犠牲にしてまでなぜ働けと言うの?
子育てがんばるママさんも輝く女性のはずなのになぜだブー!
なぜタブー?なぜだブー!なぜタブー?〉
和田自身も今年の4月に、自分の育児問題に対する姿勢を露わにするような発言をしている。それこそ「保育園落ちた日本死ね」について、元次世代の党幹事長で、現自民党参議院議員の山田宏が「私にしてみれば『産んだのはあなたでしょう』と、『親の責任でしょう、まずは』と言いたいところだ」と発言して炎上したときのことだ。和田は子育てをテーマにしたWebマガジンの記事が山田批判をしたうえ、「誰が好き好んで可愛い我が子の寝顔しか見られない生活を送るもんか」と書いたことに対して、こんないちゃもんをつけているのだ。
〈「誰が好き好んで可愛い我が子の寝顔しか見られない生活を送るもんか」という発言を聞くと、親はそれで良いのですか?、子育てとはそういうものですか?と問いたくなる。
子供はそれを望んでいますか?ということをさらに問いたいし、もし困難な状況にあっても我が子をまず責任持って育てていくのは、親の責任であることは当たり前である。〉
夜遅くまで働かなければ生活が成り立たないから困っているのに、なんら具体的な対策を示さず「それでいいのか」「子供はそれを望んでいるのか」と恫喝する。あげく、困難な状況にあっても親の責任。これが政治家の言葉なのか。表向き子育て支援は必要というようなポーズをとっている和田だが、根っこのところでは、親が自己責任で育てろ! としか考えていないことの証明だろう。
今回のブログ記事でも、和田は〈「日本死ね」という言葉は行き過ぎだと思う。切実な声だとしても、何かが実現しない時に相手に「死ね」と言うだろうか?〉と「保育園落ちた日本死ね」を攻撃していたが、結局、リテラ批判にかこつけて、育児の自己責任、母親への押し付けを主張し、母親があげた不満の声を封殺したかっただけなのではないか。
●政権批判を「言論弾圧」という言葉で封じ込める手口
実際は自分たちが政権批判を封殺しようとしているのに、メディアの批判をあたかも言論弾圧であるかのように仕立てる卑劣。しかし、これは和田に限ったことではない。安倍政権や自民党、そして安倍応援団に共通するやり口なのだ。連中は、自分たちが権力を使って圧力をかけたり、組織的な電凸を仕掛けて、メディアの政権批判を潰そうとしている一方で、自分たちの発言が批判されると、とたんに被害者ヅラして「言論弾圧だ」とがなりたて始める。
たとえば、百田尚樹が自民党の会合で「沖縄の二つの新聞社は潰さなあかん」と発言したときもそうだった。マスコミが百田の発言を批判すると、百田や安倍応援団は一斉にその批判が「言論弾圧」だといい、「我々にも言論の自由がある」と大合唱を繰り広げた。
政党交付金を受ける公党、しかも自民党という権力をもった政権与党の会合という場での「新聞を潰せ」という発言と、それに対してマスコミが「おかしい」と声をあげたことの、どっちが言論弾圧かは普通の頭で考えれば明らかだが、平気でこんな無茶苦茶な話のすり替えを仕掛けてくるのが連中の手口なのだ。
しかし、残念なからこの国の善意に満ちた国民は、こうした権力側の論点のすり替えに気がつかず、その扇動にいとも簡単に乗せられてしまっている。そしてこの国には、いつのまにか、国家を批判することがまるで犯罪であるかのような空気に覆われてしまった。「保育園落ちた日本死ね」問題でも日本の子育て政策ではなく「日本死ね」という言葉への非難だけが盛り上がり続けている。
『火垂るの墓』の高畑勲監督はかつて、先の戦争についてこう語っていた。
「いやいや戦争に協力させられたのだと思っている人も多いけれど、大多数が戦勝を祝うちょうちん行列に進んで参加した。」
私たちはいま、まさにあの時代のように、善意で敷き詰められた地獄への道を前へ前へと歩いているのだろうか。
(編集部)
最終更新:2016.12.08 02:09
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