「障がい者を殺せば税金が浮く」植松容疑者の狂気は自民党政権の障がい者切り捨て、新自由主主義政策と地続きだ

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YouTube「ANNnewsCH」より


 神奈川県相模原市の障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」での 大量殺傷事件をめぐっては、容疑者の犯行予告を把握しながら事件を防げなかった警察の不手際ではないかという声のほか、措置入院を解除した指定医と自治体に判断ミスはなかったのか、そもそも植松聖容疑者に責任能力はあるのかなど、さまざまな指摘がなされている。

 だが、今回の事件では、特異なひとりの人物の狂気ということだけでは語れない問題がある。それは、植松容疑者に、障がい者をターゲットにすることの正当性を与えた思想だ。

 植松容疑者は通っていた理容室の店員に「(障がい者)ひとりにつき税金がこれだけ使われている」「何人殺せばいくら税金が浮く」というようなことを語っていたことがわかっている。

「身障者のせいで税金が」かかる──。これは、実は小泉政権から始まり、安倍政権でエスカレートした新自由主義的身障者政策と完全にシンクロするものだ。

 そもそも以前は、サービスを利用した場合の費用負担は障がい者の支払い能力に応じた「応能負担」だった。ところが、2005年、小泉政権下で障害者自立支援法が成立すると、サービスにかかる費用の1割を当事者が負担する「応益負担」となった。そのため、障がいをもつ人やその家族は急激な負担増を強いられ、なかにはサービスを受けられなくなるケースもあり、障がい者の尊厳と生存権さえ奪うものだと大きな批判を受けた。

 その後、障害者自立支援法は民主党の野田政権で廃止が閣議決定されたものの、骨格はほぼ同じままに障害者総合支援法へと名称を変更。そして問題は今年5月、この障害者総合支援法を安倍政権がさらに「改悪」させたことだ。法改正では新サービスの提供の一方でグループホームに入所している軽度障がい者が追い出しの対象になる懸念や、批判の強かった65歳になった障がい者には半強制的に自己負担が発生する介護保険に移行させられる制度がそのままになるなど、給付の削減を押し進めるものとなった。

 他方、障がい者施設のほうは、こうした支援法のもとで競争原理や営利主義に走らざるを得ず、入所する障がい者に早期退所を迫るなど“間違った福祉”への傾向を強めた。同時に、補助金や支援金が削られるなどの減収によって厳しい施設運営を強いられ、現場のヘルパーの報酬も大幅に引き下げられた。そのため慢性的な人手不足に陥ったり、財政難で人員がギリギリといった施設は増加。しかも、安倍政権は昨年4月、介護報酬を9年ぶりに引き下げた。その結果、人手不足に拍車がかかり、介護事業所の倒産が相次いだ。職員はどんどんと過酷な労働環境へと追い込まれていったのだ。

 当然、職員の賃金はまったく上がらない。2014年には全国平均で介護職員の給料は常勤で21万9700円であり、全産業平均の32万9600円より11万円も低い。今回、事件が起きた「津久井やまゆり園」でも、ハローワークのパート募集情報によると、入所者の生活支援員の時給は夜勤でも905円。これは神奈川県の最低賃金と同じ金額だ。

 厳しい労働環境にくわえて、働いても働いても給与が上がらない現実──。知的障がい者施設では、職員や介護ヘルパーによる障がい者への虐待、暴行が相次いでいるが、こうしたストレスのはけ口になっている部分はあるだろう。

 人手不足による劣悪な労働と、労働にまったく見合わない給料。そうして生まれた過度なストレスが罪のない入所者にぶつけられる──。このような問題を防ぐためには、介護職の労働問題をすみやかに是正するべきだが、しかし、今回の植松容疑者には、もっと深いゆがみが見え隠れする。

 それは、植松容疑者の場合、自分の置かれた劣悪な労働環境を生み出した側の論理に憑依し、自分の狂気を正当化していったきらいがあるからだ。

 前述した「(障がい者)ひとりにつき税金がこれだけ使われている」「何人殺せばいくら税金が浮く」といった植松容疑者の発想は明らかに、この十数年にわたる政治家たちの発言から影響を受けたものだ。

 現に、石原慎太郎元東京都知事は、1999年に障がい者施設を訪れ、「ああいう人ってのは人格があるのかね」「絶対よくならない、自分が誰だか分からない、人間として生まれてきたけれどああいう障害で、ああいう状況になって……」「おそらく西洋人なんか切り捨てちゃうんじゃないかと思う」「ああいう問題って安楽死なんかにつながるんじゃないかという気がする」と、到底、都知事とは思えない暴言を吐いている。

 また、慎太郎の息子である石原伸晃・経済再生担当相は、12年9月に出演した『報道ステーション』(テレビ朝日)で社会保障費削減について問われた際、生活保護をネット上の蔑称である「ナマポ」という言葉で表現し、社会保障費の話の最中に“私なら延命治療などせずに尊厳死を選択する”という趣旨の発言を行った。さらに、麻生太郎元首相は今年6月、老後を心配する高齢者について「いつまで生きているつもりだよ」と発言している。

 これらの政治家たちは一様に、障がい者、生活保護受給者、高齢者といった社会福祉の当然の対象である弱者を差別的な視点から俎上に載せた上で、“生きる価値がない”と烙印を押しているに等しい。そして、彼らの共通点は、公的な責任を個人の責任へと転嫁する「自己責任論」を振りかざし、人の価値をコストで推し量る新自由主義を信奉していることだ。

 社会福祉は人の命にかかわる問題であり、本来はひとりひとりが生きやすい世の中をつくることが政府や行政には求められる。しかし、弱肉強食が基本となる新自由主義政策の前では、そうした社会保障にかかる費用も「個人の責任」にすり替えられる。事実、安倍首相が信奉し、新自由主義に基づく政治を断行したイギリスのサッチャー元首相は「福祉国家の縮小」を掲げて社会保障費を削減、経済格差を拡大させた。安倍首相が目指すのも同じかたちの社会だ。

 そして、市場原理優先の新自由主義の考え方は、障がい者をコストのかかる存在と見なす優生思想が深く結び付き、社会に広く共有されるようになってしまった。障がいをもった子はコストがかかるから産まないほうがいい──そう考える人が現在、圧倒的であるという事実は、新型出生前診断で“異常”が判明したときに約96パーセントの人が中絶を選択しているというデータが指し示しているだろう。

 自身も障がいをもっているという学者・野崎泰伸氏は、著書『「共倒れ」社会を超えて 生の無条件の肯定へ!』(筑摩書房)のなかで、〈より多くのコストをかけて育てなければいけない生は、資源を無駄遣いする劣った生であると捉えられている〉という現実を指摘し、命を選別したり、障がい者に生きる苦労を強いて〈かわいそうな存在〉にしてしまう社会の構造そのものに疑問を投げかける。さらに、その社会のあり方に踏み込むかたちで、〈現安倍政権は、異質な人間を排除し、同質な人間をのみ成員とする社会を作ろうとしているように思えてなりません〉と言及している。

〈この社会において私たちは、「生そのもの」を一般化・抽象化していく圧倒的な権力に巻きこまれています。しかも、その状況は、「どうせこの社会は、すぐには変わらない」「そんなことをしても仕方ない」と口にしてしまいたくなるほど、深刻なところまできています。福島第一原発が起きても原発がなくならないのは「仕方ない」、ヘイトスピーチがあるのは「仕方がない」、この社会の役に立たない人間に社会保障なんて必要ないし、死んでいったとしても「仕方がない」……。こうした風潮が、「生そのもの」を一般化・抽象化し、私たちに「犠牲」を強いたり、自ら率先して「犠牲」を受け入れるよう仕向けたりするのです〉(前掲書より)

 役に立たない人間は死んでも仕方がない。こうした弱者排除の思想によって得をする人間は、一部の支配層だけだ。だが、そうした「強者」の論理を、ほんとうはその社会システムのなかで「弱者」という同じ境遇に立たされている植松容疑者のような人間が、なぜか熱烈に支持をする。それは新自由主義者たちが社会保障をことさらに「特権」などという言葉を用いて、“もっと楽をし、得をして生きている人間がいる”と強調してきたからだろう。前述したように障がい者に対して、石原慎太郎などは生きる価値さえ認めようとはしていないのだ。

 今回の相模原市における事件は「狂気の犯行」と呼ぶべきものだが、障がい者を「金がかかる存在」として狂気の矛先を向けた事実は、けっして無視することはできない。この狂気は、新自由主義と排他主義のなれの果て。そう捉えることもできるからだ。

 そして、この国ではすでに、平然と弱者排除を口にする政治家たちが幅をきかせ、それにより「障がい者は金がかかる」という“狂気的な”価値観が広がっていることを、看過してはいけない。
(編集部)

最終更新:2016.08.05 06:40

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