TENGAが精子チェックのグッズ発売も…男性の不妊治療は広がらない? 妊活男性たちの本音とは

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TENGA公式サイトより


 アダルトグッズで有名な、あのTENGA社が男性不妊治療のための精子観察キットを発売し、話題を呼んでいる。オナホールのTENGAによる不妊治療グッズというと、なにか気持ちがよくなる類の道具なのかと邪推してしまうが、いやいや、これはあくまで真面目な商品である。

 その精子観察キットの名は「TENGA MEN’S LOUPE」という。精液をスポイトでプレートに垂らしルーペに乗せたら、そのルーペをスマートフォンのフロントカメラにセット。準備はこれだけ。あとは、スマホをビデオモードにすると、自分の精子の量や、精子が泳いでいる様子などを見ることができる観察キットだ。

 TENGAがこのような商品を世に出したのには理由がある。それは、女性の不妊治療と比して、男性側の不妊治療がまったく進んでいないという問題だ。不妊治療というと世間では女性が病院に通うものというイメージがまかり通っているが、実は、不妊の原因の48%は男性側にあると言われている(WHOの調査より)。しかし、男性が自ら進んで病院に行くことはほとんどない。この「TENGA MEN’S LOUPE」は、そんな男性たちに自分の精子の状態をチェックし、危機感をもってもらうために開発されたという。

 このように男性が不妊治療に乗り出すことはほとんどないという現状のなか、果敢にも自ら妻に不妊治療を提案し、実践し、それを本にしてしまった人物がいる。自称“どん底ライター”の村橋ゴロー氏だ。

 1972年生まれの村橋氏は2004年に津田塾卒のOL女性りえさんと結婚した。りえさんは結婚前借金まみれだった村橋氏の借金を肩代わりしただけではなく、こんな言葉で逆プロポーズしてくれた女性だった。

「あなたの子どもが産みたいの」

 が、結婚後7年経っても子どもができない。妻もとくに何も言わない。でももうすぐお互い40歳を迎える。そんなとき村橋氏は決意した。「もう時間がない。クリニックに行こう」と。

 そんな村橋夫妻の妊活を描いた奮闘記が『俺たち妊活部』(主婦の友社)だ。そこには軽妙ではあるが、男性側から見た不妊治療の実情、そして男側の“心情”が描かれている。

〈2012年、梅雨のころ、りえが不妊治療のクリニックに通い出した(略)ここでまず最初に施された治療が、タイミング法の指導だった。排卵日に合わせて決めうちをするという、最も基本となる治療法である〉

 決められた日にセックスする。もっともシンプルな方法だが、しかし男性側からすると、これは“萎えてしまう”らしい。村橋氏を担当している、不妊治療経験を持つ男性編集者の言葉はその代表たるものだろう。

「いや、決められたセックスというのがどうも苦手なんですよ。やっぱ、自分からいかんと。(略)そんな調子でやってると最後まで果てるのも難しかったですね。いかなきゃ、出さなきゃ、そう思ったら余計にしぼんできちゃう」

 悲しいかな、ある意味男のホンネだろう。情けない。

 しかし村橋氏は喜んだ。7年も子どもが出来ず、妻を誘うことが怖くなっていた村橋氏にとって、医師から「やれ」とお墨付きを与えられたからだ。

 だがタイミング療法も3回したが妊娠せず、次のステップとして人工受精にチャレンジすることに。

 そのために男がすること。それは精子を出すことだ。しかも2時間以内の新鮮なそれを。仕事部屋でひとりこもる村橋氏。お伴は麻美ゆまのDVDだった。

〈プラスチックの容器のなかに果てなければならないというのには多少戸惑い、てこずったが、何とかフィニッシュに成功。それよりも、元気な精子を多く採ってもらうためには、とにかく量は多いほうがいいだろうと、歯磨き粉のチューブから最後のひとひねりを絞りだすように、お総菜の餃子についているラー油を最後の一滴まで捻りだすように〉

 何とも切ない、そして切実な行為だ。だが人工授精でも妊娠しない。そして体外受精──。これはいろんな意味で格段に負担がかかる。

〈(女性は)排卵誘発剤の投与や麻酔を使っての採卵など、からだへの負担が増える。そして1打席50万円という高額な費用。年3回までの施術代なら国が割り引いてくれるとはいえ、50万円である。しかしお金はなんとかなるとしても、意外と一番きついのが通院だろう。いざ施術の段階になると、1週間に4〜5回も通院しなければならず、これはなかなかである〉

 また自宅で自ら注射を打つことも。こうして始まった“本格的治療”だが、思うような結果が出なければ妻の心身ともの負担はどんどん大きくなる。その姿に一緒に涙する村橋氏。

〈こんな辛い思いをりえにさせるなら、もういますぐにでも治療をやめようと思った。いますぐやめて、明日の何時に来い、明後日の何時に来いというクリニックを蹴飛ばして、ゆっくり旅行にでもいこう。禁止されている自転車に乗って、気の向くままにお出かけしよう。治療をはじめる前の、いつもくだらない冗談で笑い合っていた僕とりえに戻ろう〉

 しかし、そんな思いをぐっと抑える村橋氏。そして様々な葛藤を繰り返しながら、治療の詳細と夫の揺れ動く心、そして夫婦の絆が描かれていく。そんな村橋夫妻の“奮闘”の結果は──是非それは本書を読んでほしいが、本書では他にも不妊治療を経験した男性101人の妊活のホンネ、例えば夫婦関係の変化や子どもをもつことへの思い、両親など家族の問題が治療歴とともに記されている。

 以前に比べて不妊治療への理解は多少深まったとはいえ、未だに社会や会社、そして家族の無知、偏見という側面は否めない。さらに周囲から妻へのプレッシャー、自分の精子が問題なことを隠そうとする夫。とくに女性側には負担が大きいだけに心身ともに様々な問題や葛藤もある。そして経済的負担も。

 もちろん夫婦によって、考え方やその関係性はさまざまだろう。しかし不妊治療は決して女性だけのものではない。多くの男性がその経験を語ることは、これから不妊治療をしようと悩む人々にとって情報の面でも、夫婦関係を考える上でも有益だろう。
(林グンマ)

最終更新:2016.06.08 07:04

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