妻へのDV容疑で逮捕された作家・冲方丁が、自白強要へ追い込む警察の卑劣な手口と留置場の実態を暴露!

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警察の自白強要手口を暴露した冲方丁氏(『偶然を生きる』角川新書より)

 昨年8月23日、作家・冲方丁氏が逮捕されたことをご記憶だろうか。『天地明察』(角川書店)で本屋大賞も受賞した、ベストセラー小説家であり売れっ子アニメ脚本家、そしてイケメン作家として名を馳せた冲方氏のまさかの逮捕劇、しかも、その容疑は妻に対するDVということで当時多くのマスコミで驚きをもって報じられた。

 一体、冲方氏に何が起こったのか。そしてDV容疑の真相は――。

「週刊プレイボーイ」(集英社)の冲方氏自身の手記「冲方丁のこちら渋谷警察署留置場」(2015年12月14日号から16年3月21日号まで連載)には、その逮捕から抑留生活そして意外な事の顛末が描かれている。

 ことの発端は8月22日、東京・秋葉原で冲方氏が仕事の打ち上げをしていた時のことだった。その店に警察が現れ、こう告げたという。

「冲方丁さんですね。奥様のことでお聞きしたいことがあるので、署までご同行願えませんか」

 冲方氏は妻の身に何かあったのかと、事情も分からないままパトカーに乗せられ、渋谷署で翌未明に逮捕状を執行された。その容疑は21日午後7時頃、事務所マンションのエントランスで妻と口論となり、顔を右手拳で一発殴り、前歯を破損させたというものだ。

 容疑を否定する冲方氏に対し、警察の取調べの様子が描かれていくのだが、これは容疑者に対する警察の態度を考える上でも興味深いものだ。なぜか深夜に逮捕され、取調べはそのまま翌23日朝まで続いたという。

〈きっと向こうにしてみれば、ほろ酔いかつ疲労困憊の私が相手ですから、あっさり自白すると高をくくっていたのでしょう。どれだけ事情を話そうとしても「うんうん」と聞き流すか、あるいは「ちゃんと話は聞くからさ、先に手続きを進めさせてよ」などと相手にしてくれません。(略)とにかく逮捕状の内容を認めさせたい警察としては、あの手この手を講じてきます。例えば、私に妻の愚痴をしゃべらせようとします。「わかるよ、その気持ち」などと同情してみせたかと思えば、突然、「今さら後悔しても遅いんだよ」と厳しくなったりする。
 かと思えば、聴取中に留置場担当の警察官が手錠をかけるなどして屈服させようとする。きっとこうやって、こちらのスタミナや精神力を削り、心を折ろうとするのが彼らの常套手段なのでしょう〉

 自白偏重が批判される日本の警察だが、その様子が作家の目を通して語られていく。

 しかも、後に判明するのだが警察は自白を強要する一方、肝心の物証については無頓着だった。留置3日目の8月25日、潔白を訴える冲方氏は取調べでこう主張した。

「マンションの監視カメラを調べてくださいよ。DVがあったというマンションのエントランスも撮影されているはずですから」

 警察は冲方氏のこの証言から早速この日に監視カメラを押収したというが、これはつまり冲方氏が指摘するまで警察は監視カメラという“決定的物証”の存在を把握することなく、そして押収、捜査さえしていなかったということだ。

 だが、これは冲方氏にとっても失策だった。冲方氏は弁護士に「なぜ私に先に言ってくれなかったのか」と叱責されてしまう。警察がこの証拠を握って、冲方氏に無罪主張をさせない可能性があるからだ。結局、弁護士の言葉のようにこのカメラの存在は最後までうやむやになってしまったようだ。

 冲方氏が理不尽と感じるのは当然だが、だからといって釈放されるわけではない。冲方氏は9日間に渡り留置場に入れられてしまうのだが、ここも“自白装置”として機能する場所であることが手記に綴られている。

〈(留置5日目)この頃になると、連日の栄養不足がてきめんに影響を及ぼし、頭は常にぼーっとした状態で、あからさまな倦怠感に苛まれました。夜間も証明を消してもらえない留置場内では、睡眠も不足しがちで、もはた気力も集中力も皆無〉
〈(留置8日目)ぼーっと座っていることが最もツラくなってきますから、意味もなく室内を歩き回ったり、『何時間たったかな?』と鉄格子の隙間から廊下の向こうの時計を見ようとしたり、異常なくらい落ち着きを失います。『2時間はたっただろう』と思って、うかつに廊下の時計をのぞくのは危険で、実際にはほんの30分程度しか針がすすんでいなかった場合などは、いよいよポキリと心が折れそうになったものです〉

 既に拘禁反応とも思える症状が現れてきた様子が描かれるが、これは代用監獄とも揶揄され、自白強要と冤罪の温床と批判される留置所の実態でもある。冲方氏は警察に対する不条理な行為に対し怒りを記す一方、留置場で生活を共にした人々と交流や助けでそれを乗り切る様を“作家らしく”綴る。

 しかし、最大の疑問は、なぜ冲方氏が逮捕され、留置されたのかだ。

 手記には冲方氏が一貫して容疑を否認する一方、その真相が全て描かれているかというと、そうではない。というのも冲方氏本人にも理解できないという不可思議な状況があったからだ。

 暴行があったとされる21日晩、会食の予定のため仕事場を出た冲方氏は、確かに妻とは会っていたという。その状況は以下のようなものだった。

〈エントランスに降りると、ガラス戸の向こうに、電動自転車に乗った妻がいるのが見えました。妻は保育園へ子供を迎えに行く途中だったと記憶しています。
 私はひと言、ふた言、言葉を交わして、タクシーに乗って出かけました〉

 それ以前の関係にしても、夫婦喧嘩もあったが、ごく一般的なことだったと冲方氏は認識している。

〈いったい私の妻は、起きてもいないDVを訴えることで、何をしたいのか? (略)真相はわかりません〉

 しかも、留置中に弁護士から送られてきた妻の言い分の書類には「私は夫を訴えていません」となっている一方、和解の金額3000万円を要求してきたという。

 冲方氏は「わからない」というが、しかし夫婦間で何らかのトラブルが存在した。少なくとも妻側はそう認識している。そう考えないとあまりに不自然だ。

 冲方氏は逮捕から9日後、釈放され不起訴処分となっている。事実上、妻や子どもとは接触しないよう言い渡されて。

 もし本人さえも本当にわからないなら、改めて周囲を取材し、真相に迫ってほしい。妻に接触が無理でも、警察に押収された監視カメラの映像を入手するなり、周囲から話を聞くなりしてある程度可能だろう。そうした末に、真実を明らかにしてもらいたい。物書きを生業としているなら尚更だと思うのだが。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.11.24 09:38

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