待機児童の問題だけじゃない! 保育士の劣悪労働な条件、人手不足で死亡事故が多発するブラック保育現場の実態

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『事故と事件が多発する ブラック保育園のリアル』(幻冬社)

「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログに端を発し、連日マスコミを賑わせている待機児童問題。しかし、「うざーい」などの予算委員会でのヤジにせよ、平沢勝栄氏の「これ、本当に女性が書いたものなんですかね」発言にせよ、安倍首相が「保育所」を「保健所」と言い間違えた件にせよ、政権がこのことを重く捉えているのか疑問を抱かざるを得ない対応ばかり目立つ。

 2013年4月に安倍首相が行った「成長戦略スピーチ」では、17年度までに40万人分の保育の受け皿を確保することで「待機児童ゼロ」を実現、成長戦略の中核である「女性の活躍」を高らかに宣言したが、現在その待機児童問題がどうなっているかはご承知の通りだ。

 厚生労働省の統計によると、15年4月の時点で待機児童の数は2万3167人もいるうえ、親が育休中の子どもや認可外の施設を利用している子どもなども含めた潜在的な待機児童数は80万人にもおよぶと指摘されている。

「成長戦略スピーチ」から約3年の時が経ってもなお待機児童問題は解決への糸口すら見出せていない状況だ。ただ、政権が状況の深刻さをようやく認識し、変革に手をつけたとしても、現在、保育士たちを取り巻く劣悪な労働環境を抜本的に改善することなく、ただいたずらに保育施設をつくり続けるだけだとしたら、それはさらに新たな問題を引き起こすことにもなりかねない。

 04年から14年の期間に保育園で死亡した子どもは163人におよぶ。安全を求めて子どもを預ける保育園でこれだけの数の死亡事故が起きているのも驚きだが、しかし、この数は氷山の一角。15年3月に「子ども・子育て支援新制度」ができるまではたとえ保育園で死亡事故が起きたとしても報告義務がなく、この163件の他にもっと多くの隠ぺいされた死亡事故や重大事故が起きていたと推察されている。

 このまま策を講じることなく保育園を増やし続ければ、状況は悪化の一途をたどるだろう。「ハコ」を用意して待機児童をそこに詰め込めば済むという問題ではない。保育園での危機対応を専門とする脇貴志氏は『事故と事件が多発する ブラック保育園のリアル』(幻冬社)のなかでこのように綴っている。

〈年々需要が高まる保育園ですが、子どもを預けてから先のこと──現在の保育園が抱えるさまざまな問題点──については、なかなかこれまで表に出てくることはありませんでした。待機児童を減らすための「詰め込み教育」、低賃金や高い離職率を背景にした「保育士の著しい質のバラつき」、いつ重大事故が起きてもおかしくない「危うい保育環境」、親の目が届かないところでの保育士による「虐待やネグレクト」──。大切なお子さんを預けるにはあまりにも危険すぎる「ブラック保育園」は、待機児童解消の名のもとに、近年ますます増えてきているのです〉

 保育士たちの待遇改善が叫ばれるようになって久しいが、彼らが置かれている状況は想像する以上に過酷だ。フルタイムで働く保育士たちの月収は2年目(24歳)で約11万4000円、6年目(28歳)で約14万円。過酷な労働に見合わず低賃金の結果、15年1月の保育士の有効求人倍率は東京都で5.13倍。日本保育士協会の調査では、「保育士の確保に困っている」と回答した保育園が8割、「求人を出しても応募すらない」と答える保育園が7割にもおよんだという。

 そのような深刻な人手不足の状況下でも、保育を望む子どもたちはひっきりなしにやって来る。結果、ブラック企業化した「ブラック保育園」は死亡事故がいつ起きても不思議ではない環境に置かれる。というのも、死亡事故が起きるのは、保育士による「見守り」が不足している時だからだ。

 その典型が「睡眠」の時間。13年から14年にかけての期間、保育中に死亡した36人のうち27人が睡眠中の死亡事故。そのうち、うつぶせの状態で発見されたのは13人だった。

 たとえば、09年に大阪市で起きた死亡事故では、当時生後4カ月の男児がうつぶせ寝のまま放置され心肺停止状態で発見されているが、この幼稚園は事故当時0歳児から5歳児まで17人の園児を新人スタッフ2名だけで保育をしており、犠牲となった男児は泣き出した後隣接する幼児室のベッドに寝かされ、睡眠中の状態で放置されていた。もしも十分な知識と経験をもつスタッフが複数名で保育していれば起きることはない事故だった。

 同じことは、水遊び中に起きた死亡事故にも言える。12年8月に茨城県で当時3歳の女児が家庭用ビニールプールで溺死した事例では、事故が起きた時、保育士が保護者対応のためプールから約8メートル離れており、そのことが発見を遅らせてしまった。同例の事故は多発しており、14年には消費者庁の再発防止策でプール遊びの際には指導役の他に監査役も置くことを定めているが、それでもなお見守り不足による死亡事故は起きている。

 そして、このようなブラック企業家した状況の保育園で起きるべくして起きるのが、虐待やネグレクトである。特に乳幼児であれば虐待を受けていたとしてもその被害を訴えることができず、また、保育の現場は外からはのぞくことのできないブラックボックス状態のため、問題が深刻化しやすい。

 14年7月、栃木県の認可外保育園で当時9カ月の女児が熱中症で死亡し、施設長が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された事例は、まさしく保育園内部がブラックボックスであるがゆえに起きた事件だった。死亡した女児は宿泊保育中に高熱と下痢が続いていたが、施設長は医師の診察を受けさせず放置。3日後に死亡した。この園では事故当時、30人近くの乳幼児を施設長含む2人のスタッフのみで見ており、さらには電気代節約のため冷房もつけていなかったという。深刻な人員不足と行く過ぎた効率主義が原因で起こってしまった事故だが、その保育現場を外から窺い知ることは難しかったため、事故を未然に防ぐことはできなかった。

 形だけ待機児童問題を解決させようと、肝心の受け入れ先である保育園が抱える問題を顧みることなく表面を取り繕うような対策をとれば、このような痛ましい事故はこれからも続くだろう。
(井川健二)

最終更新:2017.11.24 09:14

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