小泉純一郎「安倍政権批判」インタビューで明らかになった「原発ゼロ」への次の一手! やはり進次郎と…

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首相官邸HPより小泉純一郎プロフィール


 小泉純一郎元首相の“小泉節”がひさびさに炸裂した。12月10日発売の「文藝春秋」2016年1月号の巻頭でフリーランスの政治記者、常井健一の4時間半のインタビューに答えているのだ。題して〈小泉純一郎独白録 首相退任後初のロングインタビュー4時間半 安倍政権、進次郎、原発……すべてを語り尽くした〉。28ページにもおよぶ大特集で、文藝春秋としても、かなりの力の入れようだ。

 なにしろ首相退任後は各地で「原発即ゼロ」講演を精力的にこなす以外は、ゴルフと読書とクラシック、オペラに耽る日々で、メディアの単独取材に応じたのは15年9月13日付の朝日新聞(朝刊)に掲載された1回きり。その朝日の記事も各地の講演と同じ「原発即ゼロ」への思いを語ったもので、約90分の激白だった。今回の常井記者による「すべてを語り尽くした」4時間半もの超ロングインタビューは、文字通り首相退任後初めてになる。

 しかも、その内容がなかなか興味深い。原発問題に始まり、駆け出し雑巾掛け議員時代の思い出から、日中首脳会談にまつわる秘話、次男進次郎の恋愛問題まで縦横無尽だ。なかでも注目なのが〈「安倍総理は全部強引、先を急いでいる」「私なら原発即ゼロを総選挙の争点にするよ」〉(同誌の広告より)と、自ら“後継指名”した安倍晋三首相の政権運営に批判的な部分である。ほんのさわりだけ紹介すると、例えば息子の進次郎が「自民党に権力の驕りがある」と訴えていた安保法制の審議について、

〈私だったら民主党を味方につけたよ。中には賛成する勢力もいるんだからさ(中略)。俺が総理の時、有事法制で民主党は賛成したんだよ。一国会置いたよ。もめなかったじゃない。(中略)あと、学者が「違憲」と言った時点で一拍置くよ。自民党が衆議院に呼んだ参考人が言っちゃったんだから、あれは無理よ〉

 とバッサリだ。国の安全保障政策は政権が代わっても安定的に継続しなければならないという観点から、

〈(安倍首相は)全部強引に押し切っちゃう。なんか先急いでるね。ブレないところが俺を見習っていると言われてるけど、わからんな。(中略)安全保障は野党第一党を味方につけなければいけない、争点にしちゃいけないんだ。「どう思うか」って聞かれたら、俺はそう言うよ〉

 と、民主党と対立するばかりの安倍政権はなっちゃいないと言わんばかりだ。小泉政権時代に決定した米軍普天間飛行場の辺野古移設についても手厳しい。

〈あれは最初に総理が(翁長雄志県知事を)門前払したのがいけないよ。反対派が知事選で勝ったのに、応援したほうが負けたから会わないとか、わからんね。今頃会ったって遅いよ。あれじゃ普天間が困っちゃう〉

 だが、インタビュー全体から伝わってくるのは安倍批判というよりも、「原発即ゼロ」に向けたこの男のしたたかで計算づくのメディアと政治に対する戦略だ。

 小泉が前述の朝日新聞のインタビューに応じたのは今年9月9日のことだった(掲載は13日)。この日は、奇しくも安倍首相が自民党総裁に再選された翌日で、川内原発1号機が営業運転を再開する前日だった。このタイミングから「小泉がいよいよ勝負に出るぞ!」と解説する向きも少なくなかった。だが、今回の常井記者のインタビューでは、〈あれは別にただ日程が空いていたから。時期的にも夏休みが終わって丁度いいかなと思ってね〉と、はぐらかしている。しかし、これは額面通りに受け取れない。小泉のメディアに対する嗅覚は、まさに天性と言っていいほど鋭いものだからだ。

 そもそも、小泉の「原発即ゼロ」主張が“全国区”になったのは、毎日新聞の山田孝男・特別編集委員が13年8月26日付(朝刊)の連載コラム「風知草」で〈小泉純一郎の「原発ゼロ」〉という記事を書いたことだった。山田は、フィンランドの核廃棄物最終処分場を視察し、帰国した小泉の次のような言葉を紹介している。

〈──今すぐゼロは暴論という声が優勢ですが。
「逆だよ、逆。今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しいんだよ。野党はみんな原発ゼロに賛成だ。総理が決断すりゃできる。あとは知恵者が知恵を出す」
(中略)
「必要は発明の母って言うだろ? 敗戦、石油ショック、東日本大震災。ピンチはチャンス。自然を資源にする循環型社会を、日本がつくりゃいい」〉

 それまでも地元横須賀での講演会や選挙の応援演説などで脱原発を口にすることはあったが、「即ゼロ」という考えが明らかになったのはこのコラムが初めてだ。原発推進側だったはずの元首相が、ここまで過激に脱原発を主張するのか。この記事がきっかけとなり、小泉の脱原発姿勢が一気に世の中に広がった。旧知の新聞記者の筆を使ってブームを演出したと言ってもさしつかえない。

 その約1カ月後、小泉は東京・六本木ヒルズで行われたビジネス誌「プレジデント」50周年の記念フォーラムで講演をする。毎日新聞のコラムが出た直後だっただけに多くのマスコミが駆けつけた。その大きな舞台で改めて、すべての原発の即時廃止と自然エネルギーへの転換を訴え、ブームはさらに大きくなった。毎日のコラムとヒルズの講演、たまたま時期が重なっただけと思う人は少ないだろう。

 そして、その毎日新聞のコラムが話題となってちょうど2年目、ブームも下火になりつつあるタイミングで、今度は朝日新聞を使って06年の首相退任以来、実に9年ぶりの単独インタビューを掲載することになったわけだ。

 今年2015年は「原発再稼働元年」といわれ、小泉も精力的に動き回っていた。4年前に大地震のあった3月11日には福島県喜多方市で講演し、安倍首相が「アンダーコントロール」と発言していることについて、「全然(コントロール)されていない。よくもああいうことが言えるなと思う」と発言、6月には川内原発のお膝元の鹿児島市での講演で、安倍政権が原発依存度を維持しようとしていることに触れ、「選挙で(依存度を減らすと)言ったことを、もう忘れちゃったのか」と批判した。同月15日には反原発知事として知られる泉田裕彦新潟県知事を“激励”に訪れて、10月29日には大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を起こしている函館市に足を運び、市長に“応援”を約束した。

 こうした流れのなか、川内原発が再稼働したまさにそのタイミングで、朝日新聞に〈原発再稼働は間違っている 小泉元首相インタビュー〉が掲載される。当然、これもおおいに話題となった。どのタイミングで何を言えばメディアが食いついてくるか、小泉はそれを熟知している。そして、今回の文藝春秋でのロングインタビューだ。

 4時間半におよぶ小泉の独白は僚誌「週刊文春」にも一部転載された。発売日の12月10日には全国の新聞各紙に文藝春秋、週刊文春のそれぞれの広告が掲載される。そこには〈小泉純一郎〉の文字がデカデカと載り、健在ぶりがアピールされるという寸法である。

 この間、小泉は原発についての話はするが政局に関する発言は一切していない。なぜなのか。常井記者の質問に、小泉はこう答えている。

〈できるだけ政治に口出ししないというつもりでやってきたんだ。原発だけは例外。あちこちに口出ししたらきりがないんだ。そうすると、最優先事項の影が薄くなるんだよ。私が原発の講演をしても、もし安保法制とか消費税の話をしたら、今の報道は必ずそっちを取り上げる。それをわかっているから一切しゃべらない〉

 これも一種のメディア操縦といえるだろう。では、この小泉の「原発即ゼロ」運動が自民党にとって脅威となるかといえば、実は必ずしもそうではないのだ。小泉の戦略は、かつて「自民党ぶっ壊す」と言って、自民党を延命させ、その権力を使って郵政民営化の野望を遂げたときと同じ手法を考えている。あくまでも「自民党」がベースなのだ。

〈自民党が変われば全部変わっちゃうんだから、自民党を変えるのが一番早いんだ。俺も自民党を出なかったから郵政民営化ができた。原発ゼロもそう〉

 野党の関係者が脱原発を言うのは当たり前で新味がないが、自民党のしかも元首相の自分が言うから、みんながビックリするのだとも言う。だから、野党との連携も眼中にない。

 14年に脱原発の「志」を同じくする細川護熙元首相とタッグを組んで東京都知事選に打って出た。晴れの日も豪雪の日も、都内数十カ所の応援演説で小泉は「原発即ゼロ」と吠えまくった。結果は、共産党が推した宇都宮健児にも後塵を排する3位だったが、当時のマスコミの多くはこれをきっかけに小泉が政治の世界に戻ってくるのではないかと書きたてた。都知事選後も、山口県、滋賀県、福島県と知事選が控え、ここにも小泉&細川コンビが乗り込んで野党候補の応援に回るのでは、と。「脱原発新党」との声まであったが、小泉が動くことはなかった。

 今回の文藝春秋のインタビューでも〈選挙はもうしない。かかわらない〉と断言している。常井記者が、同じ脱原発を掲げる民主党の菅直人、鳩山由紀夫両元首相はどうかと水を向けるが、

〈でも、一緒にやると、元総理四人じゃおかしいから、どうなのかね。でもね、細川さんと私は保守政治家だからいいんじゃないの。やっぱり民主党の二人とは違うんだよ〉

 とそっけない。では、同じ保守の小沢一郎はどうかと問うと、

〈それはまた別だよ。別々にやったほうがいい。私の支持者には小沢アレルギーがある。小沢を支持する人には小泉アレルギーがある。プラスになるとは限らない〉
〈(小沢さんも)自分の党があんなに小さくなる前にやらなきゃ。脱原発にしても民主党政権時代にやらないと駄目だ〉

 と言う。やはり現実の政治を動かすにはリアルなチカラが必要だというのである。そこで小泉が繰り返し言及するのが“総理の権力”である。

〈安倍総理が原発ゼロやるって決断すれば、野党だって経産省だって反対できませんよ。国民の六、七割もついてくる。こんなチャンスない〉
〈日本の総理大臣が決断すれば米国は文句言いませんよ。日本のことなんだもん〉
〈総理が決断すれば、全英知結集できるんだ。郵政民営化の時だって、専門家の意見を聞いた。一人でできるわけないよ。(中略)様々な英知を結集したほうがいいじゃない。総理はそれができる権限があるんだよ。大きな時代転換、「変える」と言ってまず方針を決めればいいんです〉

 ただし、問題は誰が“総理”になって、原発政策を変えるかだ。安倍首相がその任にないことは明らかだ。2年前に小泉の「原発即ゼロ」の主張が明らかになって以来、安倍政権の反応は実に冷ややかなものだった。官房長官の菅義偉は会見(13年10月2日)で「まぁ、日本には言論の自由がありますから」と小バカにし、安倍首相自身もテレビ朝日の番組(同年10月24日)で「今の段階で(原発)ゼロを約束することは無責任」と批判している。

 今年3月12日に都内の料亭「福田屋」で行われた総理経験者の会で小泉は安倍首相に直接、持論を説いた。だが、安倍は苦笑いして「まあまあ」と言うだけで、まったく相手にされなかったという。安倍政権が原発ゼロに舵を切る可能性はゼロだ。それは小泉もよく理解している。

〈(安倍首相が脱原発になるのは)もうできないだろう。今変わったらブレたと言われ批判が出てくる。これで突き進むしかない。でも、困るよ。再稼働しなければならないし、東電旧経営陣の刑事裁判も始まるし、四月には電力の自由競争が始まって自然エネルギーが増えてくるでしょう。原発がいかに高くつくか、カネもかかるのか、推進論者の言うことがウソだっていうのがどんどんわかってくる〉

 そこで、小泉が期待をかけるのが、やはり息子の進次郎だ。

 自民党に原発ゼロを掲げるリーダーがいつ現れるか、という問いには「それはわからない」と答えながら、息子・小泉進次郎の政治家としての資質についてはベタ褒めなのだ。常井記者から「進次郎さんには総理になる資質はあるか」と問われ、

〈それは今見ればあるよね。他の議員に比べれば。勉強しているしね。私より慎重だしね〉

 と、相好を崩す。進次郎が原発ゼロを掲げて政権取りを目指して欲しいかという質問には、〈それは自分で考えるものだよ。他人が言うもんじゃない〉としつつ、同じ「志」を持って欲しいという気持ちが言葉の端々から滲み出てくる。

〈原発の話をしたら、ユーチューブで私が講演やってるのを見てるって言うんだ。やっぱりだんだんわかってきたんだな。俺からは何も言ってないんだけど〉
〈ただ、進次郎は俺より配慮があるね。原発政策をどうするか。進次郎は「将来ゼロの方向」、俺は「即ゼロにしろ」と答える。進次郎は私より慎重だよ、慎重〉

 「週刊現代」(講談社)10月28日号が新聞記者100人を対象にした「次の総理」アンケートでは、1位が石破茂、2位谷垣禎一……で、進次郎は野田聖子(6位)、稲田朋美(8位)よりも下の10位だった。だが、朝日新聞が自民党員を対象に行った直近の調査(12月1日掲載)では、1位が石破、2位が安倍の続投、そして3位がなんと進次郎という結果だった。

 はたして進次郎は、「原発ゼロ」を掲げて自民党の新たなリーダーに名乗りをあげるのか。父・純一郎ともども、その動きに注目する必要があるだろう。
(野尻民夫)

最終更新:2015.12.18 11:48

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