安倍政権批判本が書棚から消える? ジュンク堂ブックフェアのネトウヨ攻撃・撤去事件で奪われた書店の良心と自由

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「MARUZEN&ジュンク堂ネットストア」より。「当該フェアにおいて、弊社方針のもとフェア自体は継続してまいりますが、本来のフェアタイトルの趣旨にそぐわない選書内容であったため、現在その内容について精査し選書を見直して再開する予定です」と続けられている


 恐ろしい事態が起きてしまった。ネトウヨたちの攻撃により、MARUZEN&ジュンク堂渋谷店の、「自由と民主主義のための必読書50」というフェアが撤去されてしまったのだ。

 ジュンク堂渋谷店の「自由と民主主義フェア」を告知した「ジュンク堂渋谷店非公式」というツイッターアカウントが、フェアを応援するユーザーに、〈夏の参院選まではうちも闘うと決めましたので!〉などと返信したことで、ネトウヨたちからの批判を受け、アカウント削除に追い込まれたことは、先日本サイトでもお伝えした
 
 アカウントの削除は過剰反応としか思えなかったが、その時点では「自由と民主主義フェア」はかろうじて撤去されず継続されていた。しかし、10月21日夕方、フェアの書棚そのものまでが撤去されてしまったのだ。

 朝日新聞の報道によると、ジュンク堂の広報担当者は「フェアのタイトルに対して、陳列されている本が偏っているという批判を受けて、店側が自主的に棚を一時撤去した」と説明し、渋谷店の店長も「素晴らしいという声も、偏りを指摘する声もあった。いずれも真摯に受け止めている。批判があった以上、内容を改めて検討する必要があると考えた」と述べたという。

 しかし、実はこの撤去、本部からの指示だったといわれている。

「先日のアカウントの削除も本部の判断だったそうですが、削除後も抗議が止まず、本部がフェアそのものも中止しろと通告してきたらしいです」(出版関係者)

 ネット上での批判だけでなく、ネトウヨから嫌がらせの電話がひっきりなしにかかってくる状態で、渋谷店だけでなくジュンク堂本部にも抗議が殺到したという。その結果、面倒を嫌がった本部がフェアの撤去を決めたのだというのだ。

 それにしても、書店がフェアを止めるとは一体どういうことなのか。広報担当者も渋谷店店長も「偏り」うんぬんと言っているが、いつから書店は中立が義務になったのか。フェアというのはそもそも、あるテーマの本を集中的に紹介したり、特色を打ち出すもの。書店がどんな本を選びどのように陳列しようが、それは書店の表現の自由で、偏向といわれるような類のことではない。ましてや、今回のように書店全体で見れば安倍政権を擁護するようなちがう意見の本だって置いてあるなかで、フェアといういちコーナーにどういう本を置こうが、偏向などという批判はまったくあたらない。

 そんなことを言うのであれば、限られたベストセラーばかりをプッシュしたり、本屋大賞などといって書店員の好みでランク付けしたりすることも偏向になる。これではフェアや手書きポップでの推薦、棚づくりそのものができなくなってしまうではないか。

 こういうと決まって、持ち出されるのが、昨年、在特会の桜井会長の著書『大嫌韓時代』をプッシュした東京神保町・書泉グランデに批判が殺到し、書泉グランデが謝罪した一件だ。「ヘイト本をプッシュした書泉グランデが問題にされたんだから、自由と民主主義の本をフェアにしたジュンク堂が問題にされるのは当然」というのである。

 実際、ジュンク堂渋谷店の「自由と民主主義フェア」を支持した本サイトの記事にも、同種の批判が多数寄せられた。ネトウヨだけではない。「右も左も、どっちもどっち」という“中立厨”たちも、したり顔で同様の解説をする。いわく「今回の件を問題にするなら、書泉グランデがしばき隊に嫌韓本を置くなとねじこまれて謝罪した件も同じように問題にしろ」と。

 ネトウヨも中立厨もまったくわかっていないようなので言っておくが、差別を助長するヘイト本と政権批判の本は同列に語られるようなものではない。たとえば、書泉グランデで問題になったのがヘイト本でなく政権擁護本だったのであれば、どちらの言論も守られるべきだと主張する必要がある。しかし、ヘイト本はあからさまな差別ではないか。「差別するな」というのはイデオロギーや政治的主張ではない。民主主義や人権を守るための最低限のルールだ。

 それをしたり顔で「どっちもどっち」などという連中は、自分たちが「テレビやラジオでも、政権批判が許されるんだから、出自で差別するのも、差別用語を連発するのも許されるべきだ」と言っているのと同じだということに気がつかないのか。それとも気がつきながらそれを主張する差別主義者なのか。

 それにしても心配なのは、今後の書店への影響である。

 これまで書店は、出版物を思想や政治性といったもので排除せず流通させることを原則としてきた。

 だが、今回のことでこの大原則が崩れてしまうかもしれない。最後に残っていた書店の社会的公益性が、資本の論理に押し流されてしまう可能性があるのだ。

 町の書店が軒並み姿を消し、なんとか生き残っているのは大手チェーンの書店ばかり。その大手チェーンも近年大企業の資本が入っている。たとえば、リブロは日販の100%子会社、TSUTAYAは日販と資本提携、ジュンク堂も大日本印刷の傘下だ。表現や文化の多様性を下支えするはずの書店も、資本の波に飲み込まれてしまっているのが現状である。

 資本の論理の前に売れる本だけが売れ、それ以外の大多数の本は見向きもされないという現象は加速し、各書店の独自性はもちろん、出版の多様性すらも失われる一方だ。

 そんななか、かろうじて、言論の多様性を担保してきたのは、書店員の良心だった。仕入れで、棚づくりで、フェアで、ひとりひとりの書店員が、個人の良心にのっとって、自分のできる範囲で、かろうじて言論の自由と書物の持つ多様性、教養主義を担保してきたのだ。

 だが、ひとたびこうしたトラブルが起きると、大資本はそうした書店員の自由を許さなくなる。書店の良心や公益性よりも利益を優先する大資本は、その営利追求を邪魔するものとしてトラブルの種を徹底的に避けようとし始める。

 おそらく、これから先、大手書店では政治的なことをツイートするのはもちろん、ちょっとでも政治色のあるフェアをやること自体がタブー化してしまうだろう。

 いや、今回の件で味をしめたネトウヨたちが、調子に乗って、安倍政権を批判する本を置いてあるだけで、抗議や嫌がらせを行い、自由に本を選び置くことすらできなくなる可能性さえある。

 この「自由と民主主義フェア」撤去問題は、決してジュンク堂だけの小さな問題ではないのだ。その意味で今回のジュンク堂本部の撤去という対応は、非常に罪が重い。
(酒井まど)

最終更新:2015.10.24 10:52

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