宮崎駿の引退を「傲慢」とバッサリ! 毒舌冴える押井守監督だが、性差別への無理解も

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
sekainohanbunwo_01_150616.jpg
『世界の半分を怒らせる』(幻冬舎)

『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』などの作品で知られ、いまや押しも押されぬ日本のアニメ映画界を代表する監督・押井守。

 このほど、2012年以降約2年分の有料メルマガをまとめた彼の新刊『世界の半分を怒らせる』(幻冬舎)を手に取ってみた。

 本書は、その時期ごとに話題になったニュースに関する時事評論集である。「映画監督に人格者はいない」が、「そういう勝手な人間でなければ、映画は(優れた映画は)作れない」という宣言から本書は始まる。「勝手な人間」の怒り・正義・欲望のなかにこそ「真実」は含まれるが、それらが放言や悪口である限りはパブリックな媒体に相応しくない。だからこそ「メルマガという形式で言いたいことを言い、書きたいことを書いてみようと考えた」のだそうだ。

 なるほど、取り上げる素材のなかには中国反日デモ激化、北朝鮮ミサイル発射事件、安倍晋三首相靖国参拝問題……などなど「よくここまで踏み込んだな」と思わせるテーマがちらほら。

 全体として、歯に衣着せぬ物言いで議論が展開される。当代きってのジブリ批判者として知られる押井だが、13年9月の宮崎駿監督引退会見にあたっても、「映画監督にとって、映画は『撮らせて貰えなくなる』という事態はあり得ても、『撮らない』という事態は存在しない」「監督を引退する、などと声明を発したりするのは傲慢の極み」とバッサリ。こうした前人未到の批評域に踏み込めるのは、まさに押井ならではだ。

 しかし──本書を読みながら、ひとつどうにも気になってしまったことがある。ジブリ批判にあたってはあれだけ威勢がいい論を展開しておきながら、女性絡みの話題となると筆が迷走し、おかしな方向へと話が進んでしまっているのだ。

 例えば、12年11月のオバマ大統領再選というテーマがそうだ。基本的にはオバマに懐疑的なスタンスで議論が進んでいくが、その途中、弁護士であると同時にアメリカ合衆国国務長官・上院議員をもつとめた対立候補のヒラリー・クリントンに言及が及ぶ。

〈なにしろあのヒラリーさんだからね。「このオバさんで本当に大丈夫か」って、カンケイない日本人の私でも思ったくらいだもん。アメリカの有権者だって「遣り手の女弁護士」なんか好きなわけないじゃない。自分のヨメにしたくない女の典型〉

 ……これ、ヒラリー評でもなんでもない。単に「結婚する女は学歴も才能も男より劣っているのが一番」という女性観の披歴に過ぎないのではないか? 本文ではこのあと「アメリカの警察ドラマに登場する弁護士って、演出の悪意にまみれてる(略)女弁護士なんて、ほぼ最低の人間あつかい」という文章が続く。「アメリカ社会における女弁護士のイメージ」のせいということになってはいるものの、それをタネに垣間見える自身の「本心」こそを自覚せい、という気がしてならない。

 もっとも、押井のような女性観は日本男性の平均的感覚とも言える。6月9日の毎日新聞では「東大女子 なぜ増えない」という見出しのもと、東大生の女子比率が未だ20%の壁を越えられない現状が報じられていた。背景として、東大女子学生から挙がっていたのが「男は自分より学歴が高い女を敬遠する」ので東大自体が進学先として避けられる傾向にあるという意見だ。高学歴の女性は「ヨメにしたくない女の典型」であることが私的な好みを越えて「社会の感覚」にすり替わった際、女性の社会進出を阻害する一因となってしまうことはわきまえてほしいところだ。

 もうひとつ気になったのが、東京都議会のセクハラ野次騒動評。14年6月、都議会の最中、塩村文夏都議会議員に対し、男性都議から「自分が結婚すりゃいいじゃないか」「産めないのか」とヤジが飛んできたという一件だ。直後、一瞬強張った表情を見せ苦笑いしながらも話を続けた塩村議員の振る舞いについて、押井は以下のように評する。

〈『喧しい、この種無し』『もう勃たねんだろインポ親父』くらいは喚いて欲しかった。不正規発言には不正規発言で、罵詈雑言には罵詈雑言を以て応酬することが正しいのです。(略)公然と侮辱されたのですから、侮辱し返すのがスジというものです〉

「やれやれ、これだから若い女性は」と肩をすくめる押井の姿が目に浮かぶようだ。しかし、実際はそう言う側のほうがアウトなのである。文芸評論家の斎藤美奈子は、性暴力事件の特徴はまさに「なぜ抵抗しなかったのか」というようなかたちで被害者に追及の目が向けられることだと指摘する。こうした言葉は被害者をもう一度傷つける「『セカンド・レイプ』『セカンド・セクハラ』の典型的な発言」にあたるのだそうだ(斎藤美奈子『物は言いよう』平凡社)。

 押井は、以下のようにも続ける。

〈セクハラ発言を許しておいて、後になってそれを政治問題化するのでは時機に失するというものです。政治はタイミングが重要なのですから、敵失は見逃さずに速攻で応酬すべきです〉

 ……その場で応酬できなかったことが、いったいなぜ相手方を「許した」ことになるのだろう? 塩村がなぜ野次に言い返せなかったのかという地点から考えてみたい。ヘイトスピーチ(差別煽動表現)をめぐる議論のなかで知られた言葉に「沈黙効果」がある。もとは批判的人種理論という学問分野から生まれた専門用語で、差別的な効果をもつ言葉を投げられたとき、被害者は「顔面に平手打ちをくらうような」衝撃を受け、一瞬にして沈黙を強いられるというものだ。「レイシストをしばき隊」(現・C.R.A.C.)主宰者の野間易通は、次のように言う。

〈マイノリティの出自や性的指向、あるいは障害などを、それらの属性を持たない者に攻撃されて、有効な対抗言論を繰り出すことは原理的に不可能だ。彼らを諌めたり諭したりすることはできるだろうが、それは本来被害者が担うべき役割ではないだろう〉(野間易通『「在日特権」の虚構 増補版 ネット空間が生み出したヘイト・スピーチ』河出書房新社)

 性別という属性への攻撃となるセクハラ発言を行った人物を「諌めたり諭したり」するのが被害者の役割ではないということもまた然り。ここから考えれば、塩村の強張った表情も典型的な「沈黙効果」の一種と言えそうだ。

 総じて、押井の「不正規発言には不正規発言を」「セクハラ発言を許しておいて」という指摘はトンチンカンとしか言いようがなく、セクハラを受けた側をまったく誤ったかたちで貶めるものなのだ。

 本書の冒頭では「僕が人格者なんぞであるわけがありません」と宣言した直後に、「まあ女性と動物には、ごく優しい男なのですが」という但し書きが入っている。先手をわざわざ打つのは自分自身が抗議対象になりえる自覚があるからではないか? という予感を抱いてはいたのだが、やはりそうだったとは……。日本を代表するアニメ監督の「怒り・正義・欲望」は、セクシズムへの無理解と背中合わせで成り立っていることがよくわかる一冊であった。
(明松 結)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

「在日特権」の虚構 増補版: ネット空間が生み出したヘイト・スピーチ

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

宮崎駿の引退を「傲慢」とバッサリ! 毒舌冴える押井守監督だが、性差別への無理解ものページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。ハラスメント明松 結の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 外務省が日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正
2 古市憲寿「平成くん、さようなら」と「終末期医療打ち切れ」論
3 日露外相会談の大失態を必死で隠す安倍政権
4 松本人志が指原莉乃に悪質セクハラ差別発言! 
5 つんく♂が秋元のメンバー差別に
6 追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
7 NGT48問題でも秋元康の“無責任”
8 産経と菅官房長官が「辺野古赤土投入問題」追及の望月記者を攻撃
9 封印されたAKB48盗撮事件
10 東京五輪が日中戦争でなくなる?
11 JOC竹田会長が女性死なせる交通事故
12 純烈・友井報道で芸能マスコミジャニーズ御用体質 
13 文春が東京五輪を!電通元専務に金
14 収賄疑惑の甘利大臣がバンダイとも
15 元旦朝生のウーマン村本は間違ってない
16 仏司法当局が東京五輪誘致汚職で竹田恒和JOC会長の捜査開始!
17 DA PUMPがEXILEに挑戦状
18 安倍政権の反韓煽動が酷い!「韓国へ渡航禁止」まで主張
19 古舘の後任に浮上!安住紳一郎の悪評
20 古市憲寿と落合陽一「終末医療やめろ」論の酷さ
1 安倍首相が辺野古の土砂投入で「サンゴを移した」と大嘘
2 安室、上田、芸能人よく言った大賞前編
3 追悼!市原悦子が生前語った安倍政権への怒り、反戦の思い
4 クイーンのB・メイ辺野古署名に『ボヘラプ』鑑賞の安倍首相は…
5 元日『相棒』が今年も安倍政権批判!
6 ローラ、村本、りゅうちぇる芸能人よく言った大賞後編
7 所ジョージが沖縄米軍基地反対ソング! 
8 ウーマン村本、ローラ…権力批判芸能人を排除する醜悪メディア
9 安倍首相の“サンゴ移植した”嘘を追及しない本土メディア
10 早野龍五・被曝論文に重大誤り!お墨付き与えた糸井重里の責任
11 たけしの性差別発言はなぜ問題にならない?
12 産経と菅官房長官が「辺野古赤土投入問題」追及の望月記者を攻撃
13 安倍首相の改憲キャンペーンに松本人志、小藪千豊らが協力?
14 仏司法当局が東京五輪誘致汚職で竹田恒和JOC会長の捜査開始!
15 ゴーン前会長出廷で露呈した特捜部の無理スジ国策捜査
16 バカリズム、指原莉乃が外国人労働者問題で差別丸出し
17 日露外相会談の大失態を必死で隠す安倍政権
18 安倍政権の反韓煽動が酷い!「韓国へ渡航禁止」まで主張
19 平沢勝栄だけじゃない自民党の性差別 
20 落合陽一は反省表明したが…古市憲寿と落合の無自覚

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄