声を捨てても言葉がある…つんく♂の歌詞の凄さを作家の朝井リョウが大絶賛!

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『HELLO! PROJECT COMPLETE ALBUM BOOK』(音楽出版社)

「いちばん大事にしてきた声を捨て、生きる道を選びました」──。つんく♂が公表した声帯摘出のニュースは、世間に大きな衝撃を与えた。喉頭がん治療のためとはいえ、つんく♂はボーカリスト。2009年に逝去した忌野清志郎は同じく喉頭がんを患いながらも、声帯摘出手術を選ばず、声を残すことを選んだ。つんく♂にとっても非常に重大な決断だったと思われるが、そんな彼の発表に、小室哲哉をはじめとするミュージシャン仲間やハロプロメンバーとそのOG、そして数多くのリスナーからエールが贈られている。

 そんななか、ぜひ多くの人に読んでほしいのが、つんく♂のアイドルプロデューサーとしての偉業がまとめられた『HELLO! PROJECT COMPLETE ALBUM BOOK』(音楽出版社)だ。ライター陣の並々ならぬ熱量が感じられる一冊だが、ひときわ、つんく♂への愛とリスペクトに溢れているのが、ふたりの人気小説家による、つんく♂の歌詞をめぐる対談である。

 その“ふたりの作家”とは、朝井リョウと柚木麻子。ご存じの通り、朝井は映画化もされた『桐島、部活やめるってよ』(小学館)で華々しくデビューを飾り、13年に『何者』(新潮社)で直木賞を史上最年少で受賞した人気作家。一方、柚木も『伊藤くん A to E』(幻冬舎)『本屋さんのダイアナ』(新潮社)が直木賞候補に挙がった実力派で、本日19時に発表される「本屋大賞2015」でも『本屋さんのダイアナ』がノミネートされている。じつはこのふたり、「青山ブックセンターでトーク・イベントがあった時に〈愛の軍団〉(モーニング娘。)を踊りながら入場したんです」(柚木)、「我々、カラオケに行くと必ず〈肉体は正直なEROS〉(メロン記念日)を歌うんです」(朝井)と話すほどの、筋金入りのハロヲタであるらしい。

 まず、小説家という言葉を生業にするふたりが絶賛するのは、つんく♂詞に見られる「瞬間最大風速ワード」というもの。ふたりはそれを「1曲に必ず“えっ、今の何だったの!?”みたいな言葉がある」(朝井)「引っかかり、ざらつきみたいな」(柚木)というのだが、たとえばこんなものだ。

“宇宙のどこにも見当たらないような 約束の口づけを原宿でしよう”(モーニング娘。「Do it! Now」)

 この歌詞に対し、朝井は「宇宙のどこにもないものが原宿にあんの!?」とツッコむが、決してバカにしているわけではないはずだ。これは筆者の考察だが、“約束の口づけ”という深刻で神聖さを湛えたそれを原宿で果たそうという思考回路は、恋愛を至上命題として捉え、地方者にとっては夢の街である原宿をその大舞台に選ぶという、多くの10代の女の子たちがもっているであろうアンバランスなリアリティを見事に表現しているのではないだろうか。

 実際、朝井はつんく♂の詞に「僕の理解力をはるかに超えた言葉の使い方に震える」と言う。例として挙げているのは、太陽とシスコムーンの「ガタメキラ」の歌詞だ。

「1番の“寝顔 汗 首筋”の羅列は、まだわかるんですよ、なんかセクシーな雰囲気だなって。だけど2番では“立場 水 流行言葉”になっていて、もう追いつけません。言葉の天才に突き放された瞬間ね」(朝井)

 直木賞作家をして「言葉の天才」と言わしめるつんく♂──しかも、驚くべきことに、この対談のなかで朝井はモー娘。のある曲が“直木賞のベースにある”とまで断言している。

「言葉の力があまりにも強い。十数年前、ちょうど僕が思春期で、ちょっと斜に構え始めて“運動会頑張るやつかっこ悪い”みたいな時期にさしかかった時に、つんく♂さんは〈恋のダンスサイト〉(モーニング娘。)で“そうよ 青春はカーニバル 踊る人に 見てる人 同じ人なら踊ろぜワイヤイ!”って言ったんです。その時“自分は踊る人になろう! 見てる人になりたくない!”って思った」(朝井)

 しかも朝井だけでなく、柚木もまた「次に大作書こうと思ってたんですけど、そこで言いたかったことが〈1億3千万総ダイエット王国〉で言われてることだって気がついて」と、Berryz工房の楽曲を挙げてつんく♂詞と自身の創作のつながりを言及。さらに柚木は、こうも述べている。

「Berryz工房の〈友達は友達なんだ!〉が、彼氏ができたら彼氏優先になっちゃったりして女の友情って儚いよね、みたいな歌じゃなくて、じゃあ彼氏のとこ行っといで、うちら待ってるよ、友達だから……っていう、常々私が小説で言いたかったことを一瞬で言っていて、ひーって思って」(柚木)

 友情、恋愛とはかくあるべしという使い古された常識を、つんく♂は描かない。たとえば、恋愛ではよくある“こんな風に人を スキになるのなんて”という常套句、普通なら“想像もしなかった”などとつづけるだろう。例として秋元康は“こんなに好きになるなんて とっても意外だった”と綴っている(NMB48・山本彩のソロ曲「ジャングルジム」)。しかし、つんく♂は、“もっと先だと思ってた”と書く。朝井はこの点を挙げ、つんく♂詞の特徴をこう指摘する。

「下手な作詞家だと“一生ないと思ってた”とかにすると思う。アイドルには恋愛感情はないってことにしないといけないから。でも、“もっと先だと思ってた”ってことは、いつかはあると思ってたってことですよね。そこにつんく♂さんのアイドル観が出てるなと思って」(朝井)

 他方、柚木は、ハロー!プロジェクトの歌詞に共通する点を“怒り”だと分析。これがハロプロの楽曲に惹かれる理由のひとつであり、ほかのアイドル楽曲に見られない傾向だという。

「どんなくだらない男でも、理解して受け入れてあげる都合のいい女を演じるのがアイドルなんですけど、ハロー!プロジェクトの子たちはむしゃくしゃしてるんですよね。“私の気持ち知ってて口説いたんでしょ?”(シャボン玉)、電話切ってよ、ってガチ切れしていく」
「“か弱き乙女を泣かしちゃならない”(モーニング娘。〈ブレインストーミング〉)って、おまえか弱くないじゃんっていう(笑)。抱きしめろ、優しくしろ、安心させろって、すごい矛盾を孕んでるんだけど、それは怒りなんですよね。男の人をざらつかせないのがいい女だって思われてる現状に、腹を立ててる女たちの歌なんですよ。『ゴーン・ガール』ですよ(笑)。だから、何もしてない弱い男の子に“そのままでいいよ”なんて絶対言わない。厳しいんですよ、つんく♂さんは」(柚木)

 朝井はつんく♂の歌詞を「言葉の奥に様々な背景が見える。女の子を記号として見てない。男子にとって都合よく理想化された女の子じゃないんです」と語るが、たしかに巷に溢れかえるアイドルソングのなかでもつんく♂詞は異彩を放っている。“ドルヲタの好みとはこういうもの”と決め付け、幻想の“ピュアで従順な女子像”を描いて男子リスナーを慰撫する……そのほうが「楽な勝負」だし、「弱者のふりをして、その層に媚びれば簡単にヒット出せるかもしれない」(朝井)。だが、つんく♂はそれを選ばない。そうしたつんく♂のありようを、柚木は「弱者を装わないことこそが弱者に寄り添うことなんですよ」と言う。

「リア充に見える人だってみんな弱者で、普通に見えてもじつはすごくつらかったりするわけだから。そういうことを今あんまりやってくれる人がいないんですよね」(柚木)

 女の子はみんながみんな、キラキラしてるわけじゃない。つんく♂はそんな女子の「どうでもいいこと」を掬いあげ、きちんと見届ける。恋愛してない女子が“今日も甘いアイスで癒やされ”“今日もネットで買い物”する日常を描写しながら、“こびたり出来ない”という心情を“わがままでいいじゃない”と肯定する「気まぐれプリンセス」(モー娘。)。痩身であることがモテの条件であると強迫的なまでに煽る世論に呑まれ“食べた後は走っとこ 食べる為に走っとこ”と追い詰められる女子を活写しながら、最後に“生きてる意味が知りたい 愛する意味が知りたい”と、つんく♂の特徴のひとつである「突然の哲学的問いかけ」(朝井)をはじめる「1億3千万総ダイエット王国」。ソニンの失恋ソング「国領」では、喫茶店で“エビピラフ食べたわ 残さず食べたわ ソースかけて食べたかったのよ”という詞があるが、ピラフにソースをかけて食べたかったという女の子はたぶん強いはずと思わせる、と朝井は言う。──そう、きっとつんく♂が詞で表現してきたのは、ささやか過ぎて埋もれそうになる、ひたむきな生のかがやき、なのではないだろうか。

 そんなつんく♂だから、当然、アイドルである歌い手たちへの視線もやさしい。朝井はアイドルグループのメンバーたちを主人公にした小説『武道館』(文藝春秋)を4月24日に発表するが、これは12年3月に行われた矢口真里らモー娘。OGの選抜メンバーによるユニット・ドリームモーニング娘。の武道館公演で彼女たちが披露した「シャイニング バタフライ」にインスパイアされて執筆したのだという。──夢だったスターになり、でもその分、傷ついてきた彼女たちが“だけど 上手に飛べるの”と歌う、この曲。朝井いわく、「“この人たち、解放されたんだ、やっと”って思ったんです。それまであったいろいろな縛りから解放された上でアイドルをやってる姿があまりに美しくて、泣いてしまって」。

 傷ついてきたのは、ドリームモーニング娘。のメンバーだけではない。母親の転落死、実弟の逮捕と不幸に襲われながら芸能界を引退し、昨年から活動を再開した後藤真希、さらに先日、離婚を発表した加護亜依……。だからこそ、朝井は彼女たちにいま、モー娘。黄金期の名曲「DANCEするのだ!」を歌ってほしい、と願う。

「“まだ 長い長い人生を少し 駆け出したばかり”って辻ちゃんが12歳ぐらいの時に言ってるんだよ。今はこんなに人気があって100%だけど、まだ始まったばかりなんだよ、ってつんく♂さんがあのタイミングで言ってあげてるのがすごく泣ける」(朝井)

 柚木が「ハロー!プロジェクトの歌に出てくる女の子たちって、みんな小さな野心家なんですよ。参加しようとするんですよね、世界に」と言うように、つんく♂は歌詞を通して、世界とかかわることを説き、生きることを肯定してきた。だから、声を失っても生きることを選んだ選択を、やはりつんく♂だ、と多くのファンは感じていると思う。

 ──生きることには意味がある。そう言葉にしてきたつんく♂は、きっとこれからも、詞によって、メロディによって、それを表現しつづけてくれると信じている。つんく♂だけが表現できる世界をもつ、その固有性は、失われていないのだから。
(大方 草)

最終更新:2018.10.18 04:06

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