最高裁DNA判決は「“托卵”女性に甘い」は本当なのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
takuran_140730.jpg
『夫婦親子男女の法律知識』(自由国民社)

「托卵」というネットスラングがある。カッコウなどでよく見られる、自分の卵をほかの鳥に育てさせる行為だ。それを発展させていって人間にたとえると、ネットで言う「托卵」になる。
 
 夫ではない男の人の子どもを、夫の子どもと偽って育てること。つまり、婚姻中の不貞でできた子どもを、そうとは告白せずに育てることだ。インターネット上では、托卵した側の話も、托卵された側の話もよく出てくる。女叩きが激しいネット上では、たいてい托卵された男性側が事実を知り激怒、女性と浮気相手の男性に制裁をし、子どもとも関係を断つ。

 けれど、現実はそう簡単ではない。7月17日に最高裁で出された判決は、多くのメディアを騒がせた。

「DNA鑑定で血縁がないことが証明されていても、法律上の父子関係を認めるかどうか」──裁判官の意見は割れたが、3対2で「父子関係を認める」という結論が出されたのである。

 よくこの手の問題で話題になるのは、「生みの親か、育ての親か」という論点だ。けれど今回出された3件の判決のうち、1件の北海道のケースはひじょうにややこしいものだった。

 2009年、女性(元妻)は当時の夫以外の男性との子どもを出産。出産後に男性は事実を知らされた。10年、夫婦は離婚。女性はのちに子どもの本当の父と結婚。以後、元夫にあたる男性は子どもと約3年間会えていない。

 訴訟を起こしたのは妻側。DNA鑑定をもとに、元夫と子どもとの法律上の父子関係を取り消すように訴えていた。

 ここでポイントになるのは、夫婦は子どもが1歳半のときに離婚しているということ。約4年の年月、子どもは現在の父(血縁関係上の父)と一緒に生活し、親子関係を形成している。つまり現状、「生みの親」も「育ての親」も同じ、という状態なのだ。

 けれど判決は、「法律上の父子関係は否定されない」というものになった。なんだか直感的に不思議な感じがする。これはどういうことなのだろうか?

 このケースは複雑すぎるので、もっとわかりやすい例で説明したい。

 さまざまなケースをあげ法律や判例を詳しく説明している『夫婦親子男女の法律知識』(自由国民社)では、このようなケースが紹介されている。

 ──海外出張に行っているあいだに、妻が妊娠していた。生まれてくる子どもとの父子関係を否定したい──

 法律では、生まれてきた子どもの父親は「その当時結婚していた相手」になる(嫡出推定。離婚をしているともう少しややこしくなる)。そのため、どう考えても自分が父親ではない場合でも、結婚している妻が生んだ子どもであれば自分が父になってしまう。否認したいときには、2種類の方法がある。

【子どもが生まれたのを知ってから1年以内】
 家庭裁判所に申し立てをし、それが正当であれば否認される(嫡出否認)。

【子どもが生まれたのを知ってから1年以上】
 通常は、父子関係を否認することはできない。ただし、例外として、「親子関係不存在確認の訴え」が認められれば、父子関係を否認できるケースもある。親子関係不存在確認の訴えが認められるのは、「妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合」。たとえば、長期の海外出張や受刑、別居等で離れていると、この訴えが認められることがある。

 本で紹介されていたケースでは、このどちらを用いても父子関係を否定することができそうだ。では、今回問題になった北海道の訴訟ではどうだったのだろう。
 
 近年、親子関係不存在確認の訴えの根拠として、「DNA鑑定」が持ち出されることが増えてきた。確かに、「生物学的血縁関係がない」という結果は、客観的で説得力があるように見える。北海道の訴訟でも、妻側はDNA鑑定を根拠にして親子関係不存在確認の訴えをしていた。

 一審・二審では、妻側の勝訴。DNA鑑定を根拠に、父子関係が存在していないと認められた。それが覆されたのが最高裁。DNA鑑定は親子関係不存在確認の根拠にはならないという結論が出たのである。なぜ、このような結論になったのか。

 当たり前のことだが、法律ができたときにDNA鑑定なんてものは存在していないし、想定されてもいない。もし、最高裁で「親子関係不存在確認の訴えにおいて、DNA鑑定を根拠にしてもよい」という判例ができてしまうと、さまざまな問題が起きることが考えられる。個々の例外的なケースを考えるのではなく、法全体のことを考えたからこそ、今回の判決は出されたのだ。

『夫婦親子男女の法律知識』では、次のようなケースも紹介されている。

 ──夫とのあいだに子どもができず、第三者の男性の精子を使い、夫の同意のもとに人工授精を行い、出産した。けれど出産してから数年経って、夫が「この子は自分の子ではない。父子関係を否認したい」と言い出した。夫の訴えは認められてしまうのだろうか──

 現行の法では、夫の訴えは認められない。ただし、DNA鑑定が根拠として認められてしまったら、夫の訴えが通る可能性がある。

 ほかにも、性同一性障害で女性から男性に性別を変更した夫と妻のケースもある。妻は第三者の男性の精子による人工授精で出産。しかし、子が夫婦のあいだの子と認められなかったため、訴えを起こした。

 この裁判も最高裁までもつれこみ、13年に判決が出された。結果は「父と認める」。妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことは客観的に明白だが、法律上の父子関係が成立したのである。もしDNA鑑定を重視するのであれば、このケースは完全に否定されることになる。

 ほかにも、「精子バンクを使用した場合は?」「強姦被害にあって生まれた子どもの場合は?」などなど、さまざまなケースは思い浮かぶ。妻はまだいい。子どもが何も知らなかった場合、「DNAが違うから、お前は俺の子どもではない」とある日いきなり言われたとしたら、その子の生活はどうなってしまうのだろう。

 北海道の判決では、もしかすると父子関係を取り消されたほうが、その子にとっては幸せだったかもしれない。けれどその子1人の幸せのために、ほかの多くの子どもの利益が損なわれるのであれば、法律はそれを認めることはできない。

 今回の判決を受けて、インターネット上では「女性に甘すぎる」という声が大きいようだ。確かに、もし自分が「托卵」されていたとして、その子どもをどうしたって子どもでなくすことができないのは、心情的に納得がいかないかもしれない。

 しかし、DNA鑑定を全面的に認めるのには大きな問題があるのも事実だ。法律は女に甘いのではない。今まで生まれてきた、そしてこれから生まれてくる多くの子どものために作られ、運用されている。
(青柳美帆子)

最終更新:2014.07.30 01:45

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

最高裁DNA判決は「“托卵”女性に甘い」は本当なのか?のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。子ども家族托卵の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 つるの剛士が「桜を見る会」問題で台風被災者をダシに安倍政権擁護
2 安倍首相の総理在任最長でNHKが岩田明子解説でヨイショ特集
3 「桜を見る会」参院選に招待枠、選挙利用の証拠が次々と
4 安倍首相の強気の裏にニューオータニ幹部との関係
5 沢尻エリカMDMA逮捕を警視庁がTBS、文春に事前リーク!
6 韓国ベストセラー『反日種族主義』は日本のネトウヨ本そっくり
7 葵つかさが「松潤とは終わった」と
8 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(前編)
9 「桜を見る会」招待の基準は安倍応援団とワイドショー!
10 美智子皇后が誕生日談話で安倍にカウンター
11 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(後編)
12 「桜を見る会」ケータリングは安倍首相、昭恵夫人のお友達の会社
13 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
14 池上彰が朝日叩きとネトウヨを大批判
15 「桜を見る会」で田崎史郎と産経が失笑のスリカエ詐術で安倍擁護
16 即位礼に天皇の「安倍首相への抵抗」を示す招待客が
17 安倍の成蹊時代の恩師が涙ながらに批判
18 維新応援団・野村弁護士が懲戒、橋下徹にも請求が
19 報ステ後藤謙次の安倍批判がキレキレ!
20 即位祭典“エンドレス万歳”に「怖い」の声!「天皇陛下万歳」の戦前回帰
1 久米宏が「テレビが反韓国キャンペーンをやってる」と真っ向批判
2 安倍政権・厚労政務官が外国人在留申請で口利き「100人で200万円」
3 玉川徹がGSOMIA破棄で加熱するテレビの嫌韓煽動を批判
4 明石家さんまが吉本上層部と安倍首相の癒着に痛烈皮肉!
5 『ゴゴスマ』で今度は東国原英夫がヘイト丸出し、金慶珠を攻撃!
6 『報ステ』の“安倍忖度”チーフPがアナやスタッフへの“セクハラ”で更迭
7 『ゴゴスマ』で「日本男子も韓国女性が来たら暴行しなけりゃいかん」
8 文在寅側近の不正に大はしゃぎの一方、安倍政権が厚労政務官の口利きに無視
9 埼玉知事選で警察が柴山文科相への抗議を排除!柴山も表現の自由否定
10 安倍首相がトランプからトウモロコシ爆買い
11 菅官房長官「トウモロコシ大量購入は害虫被害対策」は嘘
12 GSOMIA破棄は安倍のせい 慰安婦合意から始まった韓国ヘイト政策
13 安倍が後に先送り財政検証の酷い中身
14 GSOMIA破棄で日本マスコミの「困るのは韓国だけ」の嘘
15 松本人志や吉本上層部批判の友近、近藤春菜にバッシング、報復か
16 『週刊ポスト』の下劣ヘイト記事は「小学館幹部の方針」の内部情報
17 GSOMIA破棄!八代・有本ら安倍応援団は「嫌なら来るな」
18 『モーニングショー』で「暑さに耐えるのが教育」元高校野球監督は右派論客
19 古市憲寿の芥川賞候補作「参考文献問題」に選考委員が猛批判
20 『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』のデマとトリックを暴く

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄