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小籔だけじゃない、吉本興業が政府PRで荒稼ぎ! ケンコバ、おかずクラブや尼神インターも 背景に安倍首相の意向
公開が中止された小藪ポスター
吉本芸人・小籔千豊を起用した厚生労働省の「人生会議」ポスターががん患者の団体などから抗議を受け、HP上での公開とポスター配布、関連動画公開の中止を決定した問題。
しかし、Twitterでは現在も、「ふざけている」「グロテスク」「死や終末期医療を茶化している」「恐怖や不安を煽っている」と批判が相次つぐ一方で、「なぜダメなのかわからない」「これくらいインパクトがないと誰も見ない」といった擁護論が広がっている。
また、小籔自身がコメンテーターとして出演している『ミント』(MBS)で謝罪する際、「“グロテスクなポスター”という批判は、僕の顔面がキモいと言われているようなもの。僕じゃなかったら、もう少し燃え上がらなかったんかなと思う」「ここまで“男前やったらよかったな”と思ったことはない」と言い訳したことで、小籔に対して、「小籔さんは何も悪くない」などの同情論も集まっている。
しかし、ほんとうにそうなのか。そもそも問題になっているのは、小籔の容姿の問題でなく、明らかにわざと“変顔”をして、死の瞬間を戯画化し、コピーでは患者が家族をディスる……死を目前にした患者や家族をいじるネタにしていることだ。
官公庁のPRポスターでわざわざ高い税金を注ぎ込んで、芸人を使ってこういう悪ノリなギャグをやる必要がどこにあるのか。
「表現のひとつ」「これくらいセンセーショナルじゃないと、誰も見ない」という擁護論もあるが、民間企業のCMなら一定数の人が眉をひそめる表現でインパクトを持たせる悪ノリ炎上商法も(好き嫌いは別として)自由にやればいい。しかし、官公庁のPRは言うまでもなく国民の税金でつくられており公平性が求められる。バラエティのいじめ芸やワイドショー芸人の露悪コメントのような悪ノリは、国民全体がおもしろいと楽しめるものではない。今回のような一定層のネガティブ感情を織り込んだ悪ノリ炎上商法は、官公庁のPRがやるべきことではないだろう。
今回の、終末期医療・ケアにおける自らの希望をあらかじめ家族や医療者と話し合っておくという「ACP:アドバンス・ケア・プランニング」は、個々人の死生観や家族観にかかわる極めてセンシティブなテーマ。死、とりわけ家族の死に対する感情や信念はさまざまで、今回のポスターのように死の瞬間をギャグ化したり、患者家族をディスることを、ネタとして楽しめない人がいるのは当然だ。
実際、抗議を受けた厚労省は、たった1日で、このポスターをはじめとしたPRを中止してしまった。抗議で中止でするくらいなら、最初からやるな、という話だろう。
しかし今回の厚労省の小籔ポスターをめぐっては、もっと根本的な大きな問題がある。それは、このポスターが小籔の言う「母親との思い出から」などという美談が出発点になったボランティアでもなんでもなく、またぞろ吉本興業への巨額の税金投入が明らかになったということだ。
国交省はおかずクラブ、消費者庁はロバート秋山、防衛省は尼神インター
すでに大きく報道されているが、このポスターはたんに小籔が出演したというだけでなく、制作そのものを吉本興業が請け負っており、その契約価格はなんと4070万円だった。
11月28日の参院厚労委員会で立憲民主党・田島麻衣子議員の質問に答えた吉田学・厚労省医政局長によれば、このポスターの制作は、吉本興業に一括して業務委託したもので、今年5月に「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)国民向け普及啓発事業一式」として総合評価落札方式の一般競争入札にかけられ、申し込んだ2社のうち吉本が4070万円で落札したのだという。
官公庁PRに4070万円という金額は明らかに高額すぎるし、異常だが、実は今回の厚労省による小籔ポスターは氷山の一角でしかない。
本サイトで何度も取り上げているように、近年の吉本は、安倍政権や日本維新の会との“蜜月”を背景として、政府や地方自治体関係の仕事をどんどん増やしている。
大阪市との包括連携協定、ダウンタウンの大阪万博誘致のアンバサダー就任、吉本芸人を大量投入した法務省のPR、さらに、吉本興業がNTTと共同でおこなう教育コンテンツなどを国内外に発信するプラットフォーム事業に、経産省が作った官民ファンド「クールジャパン機構」が最大100億円を出資することも明らかになった。
そして、今回の小籔ポスターの一件であらためてわかったのは、吉本興業が想像以上に行政のありとあらゆるところに入り込み、細かいものまで、行政仕事を受注しまくっていることだ。
実際、調べてみると、中央省庁だけでも、あるわあるわ。国土交通省は「建設業界における女性活躍推進施策」などで吉本と業務委託契約し、おかずクラブを起用。外務省は海外安全情報サービス「たびレジ」の登録推進大使にケンドーコバヤシを就任させている。
また、内閣府は男女共同参画のキャンペーンのひとつとしてイシバシハザマの石橋尊久を「おとう飯」大使に任命。消費者庁はロバート・秋山竜次らを起用した“政策の中身をほぼ説明しない”ことを売りにしたナンセンスな政策PR動画を公開している。
防衛省も自衛官募集キャンペーンにNON STYLEやフルーツポンチ、尼神インターらを投入した「ジェイTube」なる動画をつくっている。吉本芸人が現役自衛官と「銃剣道対決」をしたり「女性自衛官私服チェック」をしたりといった内容で、完全にバラエティ番組的なノリだ。
吉本重用は「安倍首相当人が吉本を気に入っているから、どうしようもない」と政府関係者
タレントを使った官公庁PRじたい大いに疑問だが、タレントを使うにしても、どの企画も別にその吉本芸人じゃなくてもいいものばかり。そして、どれもたいして話題になっていない。小籔ポスターが4070万円だったことを考えると、別に公のための仕事だからと格安で引き受けているわけでもないだろう。
いったいなぜ、ここまで吉本興業ばかりが行政仕事を受注しているのか。
前述のクールジャパン事業など吉本興業への税金投入を批判検証した「現代ビジネス」7月27日付記事に、政府関係者がこんなコメントを寄せている。
「安倍首相当人が吉本を気に入っているから、どうしようもない」
つまり、政府関係の仕事が数多く吉本に流れているのは、吉本好きの安倍首相に気に入られようと、各省庁が忖度してこぞって吉本芸人を使っている結果だというのだ。
たしかに、安倍首相と吉本興業への入れ込みは、誰の目にも明らかだ。2016年、衆院北海道補選のさなかに松本人志の『ワイドナショー』(フジテレビ)に出演した(熊本地震の影響で放送休止になり結果的に実際の放送は選挙後に延期された)あたりから、その傾向は顕著になり、今年の大阪ダブル選のさなかの4月20日には、安倍首相がなんばグランド花月で吉本新喜劇に出演。吉本が闇営業問題で揺れていた6月6日には、今度は西川きよしら吉本興業所属芸人らを首相公邸に招いたこともある。さらに、今年6月には、大崎洋会長を沖縄県の普天間基地や那覇軍港など返還が見込まれる米軍施設・区域の跡地利用に関する政府の有識者懇談会メンバーに選んだ。
第一次政権の頃から安倍首相をウォッチしているベテラン政治ジャーナリストが安倍首相の吉本好きの理由をこう解説する。
「安倍首相は育ちがいい、気品があるなんて言われていますが、実際は、応援団や取り巻きの顔触れを見てもわかるように、わかりやすくて下品なものが大好きですからね。そういう意味で、吉本とは非常に相性がよかったんでしょう。ただ、それ以上に大きいのは、吉本芸人たちがワイドショーにMCやコメンテーターにこぞって出演し、世論に影響力を持っていること。松本人志のように、政権を擁護してくれる芸人も多い。吉本に利権を与え、関係を深めておけば、もっと自分を擁護してくれる、改憲などでも世論形成に使えると考えているのは間違いない」
一方、各省庁の官僚たちは森友加計や「桜を見る会」問題でも顕著なように、人事を一元的に官邸に握られているため、官邸を忖度し、施策はもちろん、審議会やPRの人選まで安倍首相の好みにあわせようと先回りする。吉本芸人ばかりが増えているのはその結果なのだ。
小籔はただの出演者ではなく、「人生会議」選定委委員会のメンバー
実際、今回の厚労省の小籔起用などはその典型だろう。というのも、ネットではまるで被害者のように擁護されている小籔だが、今回のただの“アイコン”として起用されたわけでなく、もともと「人生会議」という愛称を決める選定委委員会のメンバー。まるで政府機関の「有識者」扱いを受けているのだ。この重用は小籔が、たんに吉本芸人というだけでなく、常に安倍政権を擁護してきた安倍応援団であり、「教育勅語は悪くない」と発言するなど、そのスタンスが安倍首相好みであることと無関係ではないだろう。
「なかでも、厚労省は政権忖度の傾向が強いかもしれません。最近も、エイズ啓発イベントに村西とおる氏を出演させようとして批判を浴び、結局出演中止になるという騒動もあった。お役所の常識で考えればあり得ないキャスティングだったが、村西氏もやはり安倍応援団・ネトウヨ的発言を繰り返していることは有名ですから」(全国紙政治部記者)
いずれにしても、安倍首相と吉本の関係は税金を使った「癒着」としか言いようがないが、こうした安倍首相忖度の吉本芸人起用というのは、もうひとつ大きな問題がある。それは、吉本芸人のきようによって、各省庁の発するメッセージが本来、官公庁としてありうべき姿勢からどんどん遠ざかり、歪められてしまうという問題だ。
言うまでもなく、PRや広告というのは普通、依頼主が打ち出したいメッセージに沿ってタレントを選ぶ。しかし、吉本が一括して制作を請け負えば、当然のように自社タレントを起用する。つまり、本来伝えるべきメッセージにタレントを合わせるのではなく、タレントのキャラクター性を優先させてしまうのである。しかも、そこで持ち込まれるキャラクター性は、バラエティに蔓延する反知性・反ポリコレ芸の延長線上にあるもの。吉本タレントありきの結果、メッセージがねじ曲がったり、表現が稚拙になったり、それこそ、公共性への配慮がおざなりにされてしまうのだ。
そう考えると、小籔起用で4070万円もの血税をパーにした今回の事態は起こるべくして起きたとも言えるだろう。
ただでさえ、費用対効果が見えづらい広告の世界は、税金の使い道の“ブラックボックス”にされやすい。今回の“小籔ポスター”炎上問題は氷山の一角だ。政府と吉本興業の“関係”をもっと疑問視すべきである。
(伊勢崎馨)
最終更新:2019.12.01 01:19
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