台風被害の後手後手対応と避難所の劣悪環境が国会で議論も…安倍首相は“自治体任せ”で知らんぷり、「十分機能を果たした」

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15日、参院予算委員会での安倍首相(参議院インターネット審議中継より)


 全国で55河川・79カ所で堤防が決壊し(本日午前5時の情報)、少なくとも1万4000棟以上の住宅が浸水被害を受けた台風19号。朝日新聞デジタル本日付記事によると、13都県で計約4500人が避難生活を強いられているというが、今回の災害でも対応の遅れが目立っている。

 というのも、上陸から4日が経過した本日、政府は2019年度予算の予備費約7億1000万円の支出を決定。予算は「プッシュ型」支援の強化に充てられ、〈被災各地の避難所に水や食料、段ボールベッド、仮設トイレなどを送る〉という(共同通信)。

 繰り返すが、すでに被害に遭った被災者が避難しはじめて約4日も経っているというのに、この決定は、いまだに段ボールベッドや仮設トイレなどが行き渡っていないということを示している。

 実際、前述した朝日新聞デジタルの記事によれば、千曲川の堤防が決壊した長野県長野市の避難所では、両ひざに人工関節を入れている障害をもつ人が〈マットに敷いた布団で寝ている〉といい、さらに長野県では〈夜間の冷え込みが厳しくなり、毛布を何枚も体に巻き付けたり、暖房をかけた車の中で寝る被災者が出始めている〉という。記事は、長野県の災害対策本部が〈被災者の健康管理に留意するほか、段ボールベッドの配備やプライバシー確保策などを検討している〉とまとめられている。

 避難所におけるプライバシー確保の問題は、阪神・淡路大震災のころから課題としてあがってきたが、東日本大震災を経てもなお、熊本地震や昨年の西日本豪雨でも万全の体制はとられなかった。つまり、豪雨や強大な台風による災害が起こる頻度は高まっているというのに、避難生活を支援する体制づくりがまったく進んでいないのである。

 安倍政権による災害対応の杜撰さ──。それは、昨日15日におこなわれた参院予算委員会における安倍首相および武田良太防災担当相の答弁からもはっきりとした。

 たとえば、質問に立った国民民主党の森裕子議員が、東京都台東区の避難所からのホームレス締め出し問題に言及し、安倍首相も武田防災担当相も事実確認さえおこなっていないことが判明。また森議員は「まったくなっていない」と厳しく指摘し、その上で、「スフィア基準についての政府の見解は」と問いただした。

 スフィア基準(「人道憲章と人道対応に関する最低基準」)は災害の際や紛争時の避難所の国際基準であり、「世帯ごとに十分に覆いのある生活空間を確保する」「1人あたり3.5平方メートルの広さで、覆いのある空間を確保する」「最適な快適温度、換気と保護を提供する」「トイレは20人に1つ以上。男女別で使えること」といったことが最低基準とされている(大前治「自然災害大国の避難が「体育館生活」であることへの大きな違和感」/「現代ビジネス」2018年7月10日付)。いずれをとっても、日本の避難所における実態とはかけ離れたものであり、日本の避難所が国際基準より明らかに下回るものなのだということがよくわかるが、この基準に対する「政府の見解」を問われた武田防災担当相は、こう述べたのだ。

「ご指摘のスフィア基準は、災害や紛争の影響を受けた人びとへの人道支援の基準を表しているものと承知しております。避難所の生活環境を考えるときにたいへん参考となるものでありまして、平時から避難所を開設する自治体に対してもそのことは周知をしております。……はい」

 なんと、武田防災担当相は「自治体には周知している」と言うだけで、答弁を終わらせてしまったのである。ようするに、安倍政権の姿勢は「基準は知ってるけど自治体に任せている」というものなのだ。

2日間でテント、ベッド、エアコン、トイレを避難所に行き渡らせたイタリアとの差

 昨日の質疑では森議員も言及したが、じつは国会では、スフィア基準のほか、イタリアの避難者支援についてたびたび取り上げられてきた。

 イタリアは約3000人が死亡した1980年のイルピニア地震を教訓として災害対応を見直した“災害対応先進国”であり、朝日新聞2018年8月5日付記事によると、2016年のアマトリーチェ地震では発生から数時間以内には国や地方に登録しているボランティアが約1000人が被災地に入り、地震発生から約半日後にはボランティア団体が避難所に5000人に食事を提供できるキッチンカーを配備。このボランティア団体では、会社員が災害でボランティアとして出動した際、その間の賃金は国が会社に補償するという。さらに、〈家族単位で避難できる大型のテント、ベッド、エアコン、トイレなども各地に備蓄があり、2日間でおおむね行き渡った〉というから驚きだ。

 一方、日本人は体育館でお風呂も入れず、プライバシーもなく雑魚寝状態で寝泊まりすることを当たり前のように受け入れている。何度も大きな災害を経験しながら、避難所の様子は一向に変わることはない。とくに東日本大震災では、避難生活で体調を崩して死亡した「災害関連死」と認定された人は3700人にものぼり、熊本地震でも200人を超えた。東日本大震災の教訓が活かされていない証拠だ。

 そのため、国会でもイタリアのような対応がとれないかとたびたび言及され、たとえば今年2月15日の衆院本会議でも、イタリアを視察したという立憲民主党の高井崇志議員が、安倍首相に対して、こんな提言をおこなっていた。

「イタリアでは、災害発生から24時間以内に、被災を免れた近隣の自治体が、備蓄されたテント、ベッド、簡易トイレを大型トレーラーに積んで100人体制で被災地へ向かい、避難所の設営から運営まですべてを担います。日本とイタリアの最大の違いは、イタリアは、日本の人口の半分にもかかわらず、700名の専任職員からなる市民保護省があり、さらに、22の州ごとに地方支分部局があることです。
我が国の防災組織は、内閣府に100名ほどの組織があるのみで、その職員の多くは兼務であり、頻繁に人事異動で入れかわります。与党のなかにも防災省を提唱する方はたくさんいらっしゃいますが、イタリアのように専任職員による防災省を創設する考えはないか、総理に伺います」

イタリアと同じような組織づくりを提案されても安倍首相は「必要性は低い」と一蹴

 日本の災害避難者が国際基準を明らかに下回る劣悪な環境に置かれる現状を考えれば、イタリアのように防災組織の抜本的見直しが必要なのはあきらかだ。しかし、この提言に対し、安倍首相の答弁は、まったく危機感のないものだった。

「行政府の防災や危機管理への対応に関しては、内閣総理大臣の指揮のもと、内閣官房や内閣府が中心となって、省庁横断的な取り組みをおこなってきております。現在の枠組み自体については、最近の大規模災害に際しても十分な機能を果たしたものと認識しており、新たに統一的な組織を設置する必要性は低いと考えております」

 前述したように災害関連死は熊本地震でも200人を超えている。西日本豪雨でもプッシュ型支援でミスマッチが起こったり、深刻な浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備町のある避難所では簡単な間仕切りさえ設置されたのは避難所の開設から約1週間後だ。それでも、安倍首相は「現在の枠組みで十分な機能を果たした」と言い、抜本的な見直しはおこなわないと明言したのである。

 安倍首相がこうした姿勢をとりつづけるかぎり、災害大国・日本では、「雑魚寝が当たり前」の劣悪な避難環境の姿は変わることはない。昨年の西日本豪雨と同様、初動が完全に遅れた台風15号を含め、安倍政権による災害対応の問題には、もっと徹底した追及が必要だ。

最終更新:2019.10.16 07:44

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