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安倍首相が三谷幸喜監督の映画試写会に登場し対談、政治風刺も手がける三谷監督がなぜ?“アベ友”中井貴一が仕掛人か
安倍晋三Twitterより
10月召集予定の秋の臨時国会で、ついに憲法改正案の提示をめざす安倍首相。9月に予定されている内閣改造での小泉進次郎議員の閣僚入りもほぼ決定とみられており、内閣支持率を上げて一気に改憲へ持ち込む計画だ。
そして、その計画の一環として、安倍首相は先日も自分のPRのために“芸能界利用”に出た。
というのも、安倍首相は11日、東京・有楽町にある東宝本社でおこなわれた三谷幸喜監督の最新作『記憶にございません!』の試写会に登場。さらに試写会後には三谷監督と懇談までおこなったのだ。
この『記憶にございません!』はフジテレビ開局60周年を記念した映画で、9月13日に全国公開されるもの。ストーリーは、国民から嫌われ、史上最低の支持率を叩き出した総理大臣・黒田啓介が記憶喪失となり、金と権力に目がない悪徳政治家から善良で純朴な普通の「おじさん」に変貌する……というコメディ作品で、主人公の総理大臣を中井貴一が演じるのだという。
記憶喪失になるから『記憶にございません!』というタイトルなのだろうが、それにしたってどうしても思い返されるのは、柳瀬唯夫・元首相秘書官のこと。柳瀬氏は加計学園の獣医学部新設をめぐる今治市職員らとの面会について、国会で「お会いした記憶はまったくございません」「記憶にほんとうにございません」などと連発。その後、「本件は、首相案件」と書かれた愛媛県文書が出てくるなど外堀が埋まり、しぶしぶ面会の事実を認めた。ようするに、安倍首相を庇って「記憶にございません!」を連呼し、国民を欺いたのだ。
しかし、そんな事実を安倍首相はまるで無視。映画鑑賞後におこなわれた三谷監督との懇談の様子を、メディアはこんなふうに伝えた。
〈鑑賞後に三谷氏から感想を問われた安倍氏は開口一番、「記憶にございません」と答え、周囲の笑いを誘った〉(朝日新聞デジタル11日付)
〈首相は鑑賞後に懇談した三谷監督に「(現実とは)全く別世界だから、楽しんだ」と感想を語った〉(時事通信11日付)
〈三谷作品ファンという安倍首相は終始笑顔で、「中井さんのもっと悪い首相が見たかった」と逆リクエストも〉(サンケイスポーツ12日付)
さらに、三谷監督が「ムッとしなかったですか」と尋ねると、安倍首相は「一瞬しましたけど」と笑いながら回答したといい、「(映画を見て)何か身につまされるみたいなことは?」という質問には「(映画の首相が記憶をなくす前の)悪い総理の時代に、消費税を上げるというのがちょっとこう、かすったなと」と語ったという(前出・朝日新聞より)。
余裕しゃくしゃくの姿勢でニコニコと会話を楽しむ首相──。無論、安倍首相はこの試写会後、さっそくSNSに三谷監督と談笑する写真や握手を交わす写真をアップ。メディアも笑顔で映画の感想を述べる安倍首相と三谷監督の様子を無批判に取り上げたのだった。
ウンザリするような光景だが、これが支持率アップのためのPRであることは疑いようもない。今年に入って安倍首相はTOKIOや大泉洋、高畑充希といった芸能人と会食してはその模様をSNSに投稿。関ジャニ∞の村上信五のインタビューに応じたり、はたまた官邸に吉本新喜劇メンバーを招いたりで、そのたびに大きな話題となってきた。ようするに、タレントを利用し、自分の好感度アップのためのPRに勤しんでいるのだ。
三谷映画には「こんな人たちに」演説を彷彿とさせるシーンもあるのに
実際、今回の試写会出席も、今月2日に代官山の高級イタリアン「リストランテASO」で中井貴一をはじめ、奥田瑛二や笹野高史と会食した際、この映画の話題となり、安倍首相が鑑賞を希望したことがきっかけだったという。
中井といえば、安倍首相とは成蹊大学の同窓で、熱烈な安倍応援団だった津川雅彦とともに安倍首相と会食を繰り返してきた、津川亡きいまは芸能界きっての“アベ友”。つまり、自身の主演作を安倍首相のPRにまんまと差し出したというわけだ。
憲法改正を全面に押し出す安倍首相と、そのための好感度アップの活動に手を貸す俳優──。恐れていたことが着々と進行していると言わざるを得ないが、今回、もっともガッカリさせられたのは、そこに三谷幸喜までもが乗っかったことだろう。
三谷は、低支持率の内閣の立て直しに田村正和演じる首相が奮闘するコメディドラマ『総理と呼ばないで』(フジテレビ/1997年放送)の脚本など、これまでも政治コメディ作品を手掛けてきた。なかでも、1992年初演の舞台『その場しのぎの男たち』では1891年に起こった大津事件をめぐる明治政府の要人たちの「その場しのぎの」利己的なふるまいを描き、初演・再演時には「現政権を思わせるリアリティがある」と評されたこともある。
実際、今回の『記憶にございません!』にも、安倍首相と重なるシーンはある。たとえば、中井演じる総理は、市民に向かって「このクソ野郎が!」と叫び、その際に市民に投げ込まれた石に頭をぶつけて記憶喪失になる。──このシーンで想起するのは、2017年の東京都議選の街頭演説で、「辞めろ」コールが起こるなかで安倍首相が「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」と市民に言い返し、指差したあの場面だろう。
しかも、安倍首相との懇談の場でも、三谷監督はこんなふうに語ったという。
〈映画での記憶喪失の原因は、消費税増税などに怒った国民が投げた石に頭を直撃されたため。そんな設定を意識してか三谷氏は「安倍首相に見てほしかった」(と話した)〉(前出・サンケイスポーツ)
安倍首相を皮肉った映画が結果的に安倍首相のイメージアップに
つまり、あきらかに三谷監督は、安倍首相を意識した上で本作をつくったと思われるのだが、危険を感じずにはいられないのは、それが結果的に安倍首相の「イメージアップ」に転換してしまうことだ。本作では、記憶喪失になったことで中井演じる総理は政治と向き合うようになり、国を変えたいと心を新たにしてゆくという。ようするに、「良い総理」になるのである。
そして、三谷本人も、本作の製作が発表された際に、こんなコメントを寄せている。
「政治風刺がしたいわけではありません。あえて言うなら政治ファンタジーでしょうか」
市民を指差して、自分を批判する市民を「こんな人たち」と呼んで分断をはかるという独裁丸出しの事実を想起させるシーンを埋め込みながら、「政治風刺がしたいわけではない」「政治ファンタジー」をつくったと述べる三谷監督。──とてもじゃないがファンタジーに昇華させるわけにはいかない現実をファンタジーにすることで、それは結果として現実の悪政を矮小化し、現実に悪政をおこなっている政治家の好感度を上げてしまうのではないか。
現に、三谷監督は今回、映画のPRを超えて安倍首相のPRに利用されることをわかっていながら、試写会後の懇談に応じ、がっちり握手まで交わしている。「政治ファンタジー」作品の宣伝が、すでにリアルな政治・権力に組み込まれてしまっていることの意味を、はたして三谷監督はどう考えているのだろう。
三谷氏は2011年に作・演出を手掛けた舞台『国民の映画』で、ナチス政権下における映画人たちの反骨が描かれていたなどと高い評価を受けた。しかしいまの状況は、まさに自身が権力に利用される映画人になってはいないか。
メディアも一体となって無批判に繰り出される安倍首相の政権PR。大衆娯楽に接近する権力の恐ろしさについて、もはや受け取る側が警戒するしかないのだろう。
(編集部)
最終更新:2019.08.13 02:04
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