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竹田恒泰『中学歴史 検定不合格教科書』の間違いが酷い! 大日本帝国憲法はワイマール憲法を参考…ワイマールは30年後なのに
トンデモ・ベストセラー!
『中学歴史 平成30年度文部科学省検定不合格教科書』(以下、不合格教科書)なる本がいま、Amazonでベストセラーになっているのをご存知だろうか。
タイトルの通り、昨年度の文部科学省教科書検定に申請して「不合格」となった「教科書」がベースになっているというのだが、実は、この本をつくったのは、あの“ネトウヨのアイドル”こと竹田恒泰。版元である令和書籍は最近設立された教科書会社で、その社長もやっぱり竹田サンだ。
昨年度の教科書検定に関しては、朝日新聞デジタルが今年の3月26日付で、申請があった小学校の教科書164点がすべて合格したと伝えるとともに、1点だけ申請のあった中学校教科書が、教科用図書検定調査審議会から「重大な欠陥がある」と不合格判定をする旨の事前通知を受け、申請を取り下げたことを記事にしていた。
文科省は実質的に「不合格」となった教科書の出版社名など、具体的な情報を公開してこなかったが、それこそ、竹田サンが「国史教科書」と題し、中学校の社会教科(歴史分野)で申請したシロモノ。そして、この“出来損ないの教科書”を一般向けに売り出したのが、いまAmazonで売れている『不合格教科書』の正体なのだ。
もう、出版にいたる経緯からしてキナ臭いが、読んでみると、実際に戦前の「国史」教育を意識したトンデモ本だった。たとえば、一般的な日本史の教科書では、旧石器時代から古墳時代までを「原始・古代」として土器等の発掘物や古代中国の史書などをもとに概説する。ところが、『不合格教科書』が第一章にもってくるのは「神代・原始」。つまり、天地開闢の日本神話(ファンタジー)からスタートするのである。
これだけでもクラクラしてくるが、さらに読んでいくとグッタリするのが、とても教科書とは思えない誤字脱字や初歩的ミス、誤謬の多さだ。
たとえば、『不合格教科書』では、1882年に渡欧した伊藤博文について〈ドイツのワイマール憲法などを参考に憲法について学びました〉と書かれているのだが、これはウソ。伊藤らによる大日本帝国憲法制定に影響を与えたのはプロイセン憲法だ。というか、ワイマール憲法は当時まだ生まれてすらいない(だいたい、直後に〈ワイマール憲法とは、第一次世界大戦に敗北したドイツ帝国が崩壊したあとに制定されたドイツ憲法のことです〉と自ら解説している時点で誤り気がつきそうなものだが……)こんな初歩的な間違いを犯すって、普通に考えてヤバくないか。
他にも、昭和天皇について〈〔前略〕病に伏してしまわれ、そのまま御恢復になることなく、昭和六十四年一月九日に崩御あそばされました〉とあるが、事実ではない。昭和天皇の崩御は1989年1月7日の早朝だ。仮に単なる誤植だとしても、民族派や天皇絶対主義者が見たら烈火の如く怒りそうな間違いではないか。
まあ、こうした誰が見てもわかる間違いについては、さすがの竹田サンもマズいと思ったのか、自身のブログで「正誤表」を公開しているのだが、それ以外にも問題は山積。とりわけ明治以降の記述は、大日本帝国の国体思想を擁護し、侵略の事実を矮小化するような誘導が各所になされている。いくつか紹介しよう。
たとえば、日本が不平等条約である日韓修好条規締結に利用した江華島事件(1875年)。『不合格教科書』は〈ついに日本の艦艇が朝鮮の砲台から砲撃を受ける江華島事件が起き、日本は強い態度で開国と謝罪を求めた結果、明治九年(一八七六)に日朝修好条規を締結しました〉と書いている。これだけ読むと、何か「無抵抗な日本側が朝鮮側から攻撃を受け、自然に軍事衝突となった」かような印象を受けるだろうが、歴史学的には、事件前から武力的威嚇を行っていた日本軍軍艦による挑発が衝突の原因というのが通説である。
先の戦争を「勝ってもおかしくない戦争」と主張する“お花畑脳”
教育勅語(1890年発布)に対する評価も過剰だ。『不合格教科書』ではわざわざ1ページ半のコラムを設け、いわゆる「12の徳目」について〈そうです、このような生き方は、先人たちの教えだったのです。先人たちが良き伝統を残してきたから今の日本があると言えるのです〉などと賞賛。加えて〈しかし、教育勅語はこのような美徳を実践するように国民に命令する箇所はありません。それどころか、天皇自ら実践すると宣言しています〉などと解説する。典型的な教育勅語の礼賛だ。
戦前の教育勅語を現代に復活させようと目論む極右勢力は、きまって「教育勅語は『親孝行せよ』『夫婦は仲良くしろ』などと当たり前の良いことが書いてある」と主張する。だが、教育勅語を読めばわかるが、そうした「徳目」はすべて〈天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ〉すなわち「永遠に続く天皇の勢威を支えよ」にかかっている。12番目の〈一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ〉(ひとたび皇国に危機が迫ったならば、忠誠心を発揮してその身命を捧げよ)というのもそうで、つまり“おまえたちは天皇を中心とした神国日本の臣民であり、その身と心を天皇に捧げよ”というのが、教育勅語の本質である。
もっとも、上に挙げたのはほんの一部で、他にも「どんな脳ミソで書いたのか?」と聞きたくなるような記述は枚挙にいとまがない。なかでもヒドいのは “先の戦争は日本が勝てた戦争だった”と大々的に主張していることだろう。「対米戦争に勝算はあったのか」というコラムのなかで、このように書いている。
〈日本とアメリカは国力を比較すると、圧倒的にアメリカの方が大国です。しかし、日米の海軍力を比較すると日本もそれなりの力を持っていたことが分かります。〉
〈無論、国力が異なるので長期戦になったら不利ですが、短期か中期であれば、互角どころか、有利に戦える可能性があったのです。
戦後になって「勝てるはずがない戦争」といわれることがありますが、兵力差などから分析すると、短期戦あるいは中期戦なら「勝ってもおかしくない戦争」、もしくは「勝たないまでも負けなかった戦争」であると言えます。〉
いったい何を言っているのだろう。「うまくやればアメリカに勝てていたはず」とか「もし日独伊が連合国に勝利をおさめたら戦後日本はこうなっていたはず」というような物語をしばしば「架空戦記」と呼ぶが、それは言うまでもなく歴史学ではない。ファンタジーである。義務教育の教科書に載せられるものではない。
だいたい、「勝ってもおかしくない戦争」だったらなんだと言うのか。戦争は、あまりにも多くの人々の生命と生活、自由と人生を犠牲にする。日本人だけではない。植民地支配した国々もそうだ。日本の「皇軍」は民間人を含む大量の人々を殺し、奪い取った。そこから、戦後日本は「もう戦争はしたくない」という人々の切実な思いとともに歩んできた。
竹田版歴史教科書の執筆者は竹田恒泰本人と竹田研究会の学生
はっきり言うが、「勝ってもおかしくなかった」などとして戦争の正当化を図ろうとするのは、まさしく、わたしたちが生きる現在までの“日本の歴史”を否定することだ。“お花畑”もたいがいにしてほしい。
もっとも、この『不合格教科書』における「対米戦争に勝算はあったのか」については、文科省からその全体について根拠資料の提出を求められたという(その他39点についても根拠資料を出すよう求められている)。同書の巻末には、文科省からの「検定申請図書に係る検定審査不合格の理由の事前通知」が掲載されており、そこに不合格の理由が書かれているので、一部を紹介しておく。
〈学習する上で必要と思われる諸資料が極端に少なく、資料に基づき考察することが非常に困難である。〉
〈特定の時代や題材に偏った構成となっており、全体として調和がとれていない。〉
〈学習した内容を活用してその時代を大観し表現する活動に関する記述が見られないなど、我が国の歴史の大きな流れを各時代の特色を踏まえて理解させるには不十分である。〉
文科省はこのような指摘をしたようだが、いや、一般論以前の問題だ。竹田恒泰が送り出そうとしている「国史教科書」は、初歩的な誤りが多く見当たるのはもちろん、日本の歴史を神話に求めたり、侵略戦争の矮小化ないし正当化を図るなど、義務教育であつかう教材としてあり得ないほど低レベル。不合格は当然だろう。
というか、こんなレベルで本当に竹田サンは文科省の検定に通るとでも思ったのだろうか。実際、執筆者の項目を見てみると、竹田サンが「主筆」で、その他の4人の執筆者はみな「竹田研究会学生部」の学生。歴史学の専門家は一人もいない。マジでなめてんのか?と聞きたくもなっている。
ここまでくると、商魂たくましい竹田サンのこと、このトンデモ教科書の申請計画自体、はなから『不合格教科書』として売り出すための単なる“箔付け”“ネタづくり”なのでは……。そのあまりにヒドい出来を目の当たりにすると、そんな気すらしてくるのである。
しかし、『不合格教科書』の前書きでは、同書の売り上げを費用にして、今後も「国史教科書」の制作を続けて検定合格を目指すとしているが、さて、どうだろう。“極右仲間”優遇で知られる安倍政権が続いていれば、こんなトンデモ教科書でもそのうち合格しそうなところが、恐ろしい。
(編集部)
最終更新:2019.06.22 10:45
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