川崎殺傷事件「不良品」発言こそ松本人志の本質だ! 過去にも同じ発言、社会や弱者への決定的な想像力の欠如

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フジテレビホームページより


 川崎の殺傷事件に関して松本人志が口にした「不良品」発言が大きな批判を浴びている。

 すでに、さんざんニュースなどでも散りあげられているが、改めて紹介しておこう。問題になったのは、6月2日放送『ワイドナショー』(フジテレビ系)での松本のこんな発言だった。

「僕は人間が生まれてくるなかでどうしても不良品っていうのは何万個に一個(あると思う)。これは絶対に僕はしょうがないと思うんですよね。それを、何十万個、何百万個にひとつぐらいに減らすことはできるのかな?っていう、みんなの努力で。まあ、正直、こういう人たちはいますから絶対数、もうその人たち同士でやりあってほしいっすけどね」

「不良品」「何万個」など人間をモノ扱いするこの言い方は「生産性」発言の杉田水脈に匹敵する酷さだが、もっと問題なのは、松本が犯罪を生み出す複雑な要因、背景について何もわかってないことだ。

 犯罪は社会状況と密接に関係しており、個人の資質だけに還元されるものではない。生育環境などによる影響も大きく、生まれつき犯罪者になる人間とならない人間が「何万個に一個」の確率で生まれるなどというのは、何の科学的裏付けもないまったく間違えた認識だ。優生思想にも通じる差別思想と言っていいだろう。

 案の定、松本の発言は大炎上した。しかも、同じ時間帯に爆笑問題の太田光が『サンデー・ジャポン』(TBS系)で、この事件について「特定の病気っていうわけではなくて、こういう思いに駆られることって誰しもがあって」と、自分の過去の体験を紹介しながら、社会への絶望を抱えた人たちに希望を語りかけたことから、「太田とは対照的」という批判も殺到している。

 実際、松本の発想は太田と対照的に、犯罪者を「異物」扱いするものでしかない。松本は放送直後、ツイッターに〈凶悪犯罪者は人として不良品。ひきこもりが不良品?誰の意見?〉と綴り、『ワイドナショー』で使った「不良品」という言葉は、今回の事件を起こした容疑者個人のことを指したものであると弁解したが、だとしても「“不良品”として扱われてもいい人間がいる」という差別的思想にかわりはなく、なんの弁明にもなっていない。

 実は、松本は過去にも同様の発言をしている。2017年に、神奈川県座間市のアパートの一室から男女9人の切断された遺体が発見され、殺人や死体遺棄などの疑いで男が逮捕された事件を扱ったときである。

 この事件を扱った17年11月5日放送『ワイドナショー』でも松本は「残念ながら教育とか、育て方とかを超えた存在。人間を工場で例えるなら、何千、何万個に1個出て来る不良品なんでしょうね。そいつがたまたま座間に住んでいた」と発言している。

 ようするに、「不良品」という言葉は今回たまたま出てきたものではなく、彼の思想の根底にあるものなのだ。

松本人志「不良品」発言を批判せずに乗っかった堀潤と古市憲寿

 しかし、今回の『ワイドナショー』ではもうひとつ、松本人志の本質が現れた発言があった。それは、この松本の「不良品」発言を受けた、他の出演者とのやりとりのなかで起きた。

 あまり批判されていないが、この日の『ワイドナショー』では、松本だけでなく、堀潤、古市憲寿というコメンテーターもひどかった。「不良品」発言に異を唱えるどころか、その発言に乗っかって、「不良品」をどう捜査するかという議論まで展開していたのだ。

 松本の「不良品」発言のあと、まず、堀潤がこんな話を始める。

「松本さんが言ったことって超クリティカルなポイントで、アメリカでもテロを未然に防ぐことっていうのは捜査当局も自信をもっているんですよ。前後の文脈が分かるから。でも、なにかしら突発的に起こる、しかも心に負担が強いられている状況で起きるものに関しては事前にリストアップして踏み込んで、でもなにもやっていない状況で未然に逮捕するのかっていうと、それは極めて人権を損害する行いだと。ただ一方でそれを放置していたときに多数の犠牲者が出る。じゃあ、この天秤どうなっているんだというのは、まだねしっかりと本音で議論してないと思うんですよ。でも、じゃあどうすればいいんだっていうのは恐れずに議論していくべき。やっぱり沈黙している社会は犠牲者を生むし、だから、勇気ある議論を(するべき)」

 松本による「不良品」発言は誰が聞いても問題発言以外のなにものでもないのだが、堀潤氏はそれを批判するどころか、松本が言うところの「不良品」的な人を「なにもやっていない状況で取り締まる」という議論をすべきといっさいの批判なしで言い出したのだ。

 古市憲寿も同様だった。「不良品」発言に何の疑問も挟まず、堀潤の議論を引き取る形で、こう語った。

「犯罪を防止するためにどこまで人権を侵害してもいいのかっていう議論はあり得ると思うんですね。すごい監視社会にして、ちょっとでも犯罪を起こしそうな人に関しては、もうあらかじめ予防的に拘禁できるようにしちゃうのか。それとも、そんなことは絶対無理だからやめておいて、『自由にしましょう。自由である程度の犯罪はしょうがないと思いましょう』って、どっちも難しいじゃないですか、どっちを選ぶにしても」

 古市はいつものどっちもどっち論で、一方に与しない風を装っていたが、犯罪多発か予防拘禁か、という二者択一のアジェンダを設定していること自体、犯罪防止のために人権侵害していいという方向に議論を誘導しているとしか思えない。

松本人志が放送作家の受けた不当捜査に激怒し、予防拘禁を批判! だが…

 まったくいつものことながら『ワイドナショー』という番組の悪質さには辟易とさせられるが、しかし、このあと、意外な展開が起きた。堀、古市のこうした予防拘禁議論に、他でもない松本人志がこんなエピソードを紹介する形で異を唱えたのだ。

「この番組のやってる作家のね、僕とよく一緒におる奴、まあ不審者なんですよ。見るからに。で、近所でちょっと嫌な事件が起こったんですよ。警察が来てDNAとって行かれたって。それ聞いたときに腹立って。『いや、それお前、絶対とらせたらアカンし!』って思うんですよ。いまも思ってるんですけど、でも、そこまでしないといけないこともあるのかって思ってしまうよね」

『ワイドナショー』にも携わる松本の知り合いの放送作家が、ただ「見た目が怪しいから」という理由だけで警察にDNAを採取されたのだという。これが事実なら、予防拘禁にも通じる人権侵害捜査がすでに横行しているということであり、松本の憤りも主張も真っ当なものだ。

 しかし、ここで疑問なのは、知り合いの放送作家への不当捜査にこんな真っ当な怒りの声をあげた松本が、一方では、犯罪者を「不良品」扱いして異物を排除する主張を繰り広げていたことだ。松本は自分の「犯罪者=不良品」という思想が、放送作家に降りかかった不当捜査につながっていることに気づいていないのか。

 いや、そうではないだろう。むしろ、松本はもともと犯罪防止のためなら人権侵害したっていい、という立場だ。「共謀罪」について議論した『ワイドナショー』(2017年5月21日放送回)のなかで「やっぱり冤罪も多少、そりゃそういうこともあるのかもしれないですけども、なんか未然に防ぐことの方がプラスの方が僕は多いような気もする」と語っている。

 にもかかわらず、知り合いの放送作家がDNAをとられたことにそこまで怒りを見せたのは、ようするに彼が「仲間」「身内」だったからにすぎない。

 自分や自分の身の回りが権力から不当な扱いを受けたら、人権や言論の自由を主張するくせに、自分と関係のない弱者のことや、自分から遠い世界の話になると、平気で人権をないがしろにして、神目線で秩序維持のためにしょうがない、などとうそぶく。

 自己矛盾もいいところだが、しかし、実はこれこそが、松本人志の最大の問題点なのではないか。松本の問題は、右派とか保守とかいうような大層なことではなく、他者や社会への想像力が決定的に欠如していることなのだ。だから、権力者の単純で乱暴な主張に簡単に騙されてしまうし、犯罪者も自分と地続きの人間であるということをまったく理解できずに「不良品」扱いしてしまう。

 そういう意味では、今回の川崎事件での発言は、松本の本質をもっともよく表しているものなのだ。そして、それは同時に、この大物お笑い芸人が報道や社会問題にコミットする資格がないことの証明でもある。

最終更新:2019.06.04 11:09

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