裁判・法律に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
橋下徹が岩上安身リツイート裁判で矛盾を追及され逆ギレ!「こんな質問は無意味」「あなたにはわからない」と
橋下氏はTwitterでも岩上氏を批判(橋下徹公式Twitterより)
3月27日、大阪地方裁判所。原告本人として証言台に立った橋下徹氏は、被告席へ向けて、吐き捨てるようにこう言った。
「こんな質問は無意味。あなたには組織を運営したことがないからわからないですよ」
4月7日に投開票された大阪W首長選は、大阪維新の会の松井一郎と吉村洋文が立場を入れ替えて当選、同日の地方選議会選でも維新の会は議席を伸ばした。その選挙のまっただ中、“維新の生みの親”である橋下氏が起こした裁判がハイライトを迎えていたことをご存知だろうか。
橋下氏に訴えられたのは、インターネット報道メディア「IWJ」を主宰するジャーナリスト・岩上安身氏だ。以前、本サイトでもお伝えしている(
https://lite-ra.com/2018/01/post-3754.html)ように、この裁判は2017年12月、橋下氏が、Twitter上で第三者のツイートをリツイート(RT)した岩上氏を相手取り、名誉を傷つけられたとして100万円の損害賠償等を求め提訴したものだ。
そしてこの3月27日に大阪地裁で行われた第6回口頭弁論で、いよいよ橋下氏と岩上氏本人が出廷。法廷での全面対決が行われたのである。本サイト記者も裁判を傍聴した。
当日10時頃、大阪地裁の大法廷にあらわれたスーツ姿の橋下氏は、時折、小声で代理人と話したり、憮然とした表情を浮かべていた。午前中に行われた証人尋問から、弁護士でもある橋下氏が代理人を通さず、自ら尋問を行うという“異例”の光景が随所で見られた。
さらに、午後の本人尋問では、岩上氏に対し直接「(取材メモ等を)出すんですか!出さないんですか!」などと声を張り上げる場面も。一方で橋下氏への反対尋問では、被告側弁護団が橋下氏の主張の“矛盾”を追及するなど、両者が火花を散らす展開となった──。
こうした法廷での模様は後に譲るとして、訴訟の経緯を簡単におさらいしておこう。
この裁判で注目すべき主なポイントは、(1)第三者のツイートを単純RTする行為が名誉毀損に当たるのか、(2)元ツイート内容の真実性ないしは真実相当性、(3)訴訟自体が批判言論の萎縮を狙った「スラップ裁判」と認定されるかどうか、だ。
訴状などによると、岩上氏は2017年10月29日、自身のTwitterアカウントで〈橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!〉との第三者のツイートをRT。岩上氏自身はコメントを一切つけず単純にシェアする形のRTだった。岩上氏は「検証報道の必要性を感じ」て「すぐに取り消した」というが、RTから約1カ月半後、橋下氏側は内容証明等の事前通告を一切せぬまま、いきなり訴状を送りつけた。
原告・橋下氏側は「リツイートの摘示する事実は全くの虚偽」であり、岩上氏のRTによって「社会的信用性を低下させられた」「精神的苦痛を受けた」などと主張している。他方の被告・岩上氏側は、「意見表明を名誉毀損と一方的に決めつけ、意見表明を止めなければ金銭請求する」ものとして、相手の言論を封殺することが目的の典型的なスラップ訴訟(訴権の濫用)の「手口」であると反論している。
たしかに、橋下氏側の訴状や陳述書には不可解な点が多い。たとえば、原告側は元ツイートの内容について、「他者を自殺に追い込むまでのパワーハラスメントを行う人物であるとの印象を与える」として社会的信用性の低下を訴えているのだが、一方で、名誉回復措置としての謝罪訂正文掲載などは一切求めず、100万円と弁護士費用のみを要求している。
また、元ツイートの内容を巡っては、橋下氏が府知事時代の2010年10月、府職員(当時、商工労働部経済交流促進課の参事)が水死体で見つかったことが深く関係しているのだが、「橋下府政下での複数職員の自殺」という事実自体は、これまで週刊誌や新聞等いくつものメディアが報じてきたものだ。
それらの報道によると、自殺した参事は2009年9月5〜8日の日程で行われた橋下府知事の台湾訪問に携わっており、残された遺書には「仕事上の課題・宿題が増え続け、少しも解決しません」「もう限界です。疲れました」などと書かれていたとされる(裁判のなかでは、岩上氏側が大阪府による参事自殺に関する調査報告書の開示を求めるも、裁判所は大阪府に開示を認めない決定を下した)。
また、当時の橋下府知事自身も記者団に対し「ご遺族の方には本当に申し訳ない。職員が責任感を持ってもらったがゆえに、全部背負ってしまったと思う」「(日程変更の)判断は間違ったとは思わないが、こまやかな配慮にかけていたことは否めない」(読売朝日新聞大阪版10年12月15日付)などと語っていた。そうしたことから、複数のメディアが、参事の自殺に橋下知事訪台をめぐる府庁内トラブルが影響を与えているのではないかとの見方をしたのである。
ゆえに、元ツイートの真実性・真実相当性が争われたこの裁判でも、当時の知事訪台をめぐる「方針決定の過程」が問題となった。そして、被告側弁護団が橋下氏の主張の“矛盾”を追及したことから、冒頭の場面へと繋がる。
台湾訪問決定をめぐる橋下徹の主張と議事録に大きな矛盾
もともと、裁判所に提出した陳述書のなかで橋下氏側は“訪台中に台湾政府要人とは会わない”という「方針」は、大阪府の意思決定機関である「大阪府戦略本部会議」で事前に機関決定されていたことであり、「大阪府戦略会議において、副知事や幹部たちと協議を重ねてきました」「私は大阪府戦略本部会議において入念に時間を重ね、大阪府知事の台湾訪問の方針をつくったのであり、その方針を、現場の一職員の判断で覆すということを認めるわけには絶対にいきませんでした」などと繰り返し述べてきた。
橋下氏の申述書によれば、訪台時に初めて台湾の経済担当大臣との面会がセッティングされていることを知り、「ありえない」「絶対に認めるわけにはいかない」との心境になったという。また、帰国後に開かれた「大阪府部長会議」において「大阪府戦略本部会議で決めた方針について、担当部局の細部にまで意思共有ができていないことの問題点を指摘」し、「叱責と言われれば、そうかもしれませんが、それは組織上の注意として当然の範囲です」と述べている。
ところが、である。裁判の被告側反対尋問のなかで、岩上氏はこの主張の矛盾を暴露した。岩上氏側は、橋下氏が議論のうえ機関決定したと主張してきた「戦略本部会議」と「部長会議」の議事録を丹念にチェックし、そこにまったく議題として取り上げられていないことを確認したと発言。それだけでなく、提訴後には大阪府へ直接取材し、府の担当者から「戦略本部会議で訪台について話し合われたことは一度もなく、決定もされていません」「非公開にしている議事録などなく、すべて公開しています」「部長会議についても同様です」と、橋下氏の主張を根底から覆す回答を大阪府から得たというのだ。
本サイトも後日、あらためて大阪府に取材した。たしかに岩上氏側が言うように、「戦略本部会議」にかんしてHPで公開しているもの以外の「議事録」は存在せず、「台湾訪問について、戦略本部会議および部長会議で意思決定されたという実績はない」(政策企画部企画室政策課担当者)との回答だった。なお、当時の訪台方針の決定の過程についても確認を求めたが、「知事の海外出張の関連文書については、所定の保管期限5年を過ぎたものは廃棄されるため当時の詳細はわからない」(商工労働部成長産業振興室国際ビジネス・企業誘致課担当者)とのことだった。
当然、橋下氏への反対尋問では、この決定過程をめぐる主張の“矛盾”が厳しく追及された。すると、橋下氏は訪台方針の決定時期は「はっきりしない」と言葉を濁し、さらに“訪台記載がない議事録”についてこう煙に巻いたのである。
「これは外交マターなので、非公開になっているのかはわからない」
「議事録には残っているはず。ただ、公開されているかはわからない」
しかし、繰り返すが、こうした橋下氏の曖昧な発言は、岩上氏側が取材の上、確認をとった大阪府の回答とまったく矛盾するものだ。
矛盾を追及された橋下徹は「こんな質問は無意味」と逆ギレ
そこで再度、岩上氏側の代理人から「方針を決定した会議」の正式名称を訊かれ、橋下氏が吐いたのが「あなたには組織を運営したことがないからわからないですよ」とのセリフだ。その姿はまさに、マスコミの記者を「勉強不足」「わかっていない」などと面罵した首長時代を彷彿とさせるものだった。
さらに、閉廷の直前には、橋下氏は「岩上氏から謝罪があれば訴訟しなかった」「知事権限で(訪台は)やった」などとこれまでとは違う発言を口にした。前述の通り、訴状において原告は岩上氏に謝罪を求めていなかったにもかかわらず、である。
結局、被告原告双方の本人尋問はかみ合うことなく、参事自殺をめぐる真相も明らかにならなかったが、この裁判ではもうひとつ、看過できない証言が橋下氏本人の口から飛び出した。
実は、裁判所に提出した書類によれば、橋下氏は元ツイートの投稿主に対しては提訴していない。また前述のように、参事自殺と橋下知事訪台時のトラブルを結びつけた記事はいくつも存在している。たとえば「フライデー」(講談社)2011年10月28日号は、「大阪府幹部職員が爆弾証言「私の同僚は橋下徹府知事に追い込まれて自殺した!」」なる見出しで掲載。同じ記事は講談社のニュースサイト「現代ビジネス」にも転載され、2019年4月現在でも公開されたままになっているが、これに対しても裁判も起こしていなければ、削除要請もしていないのだ。
であれば、なぜ橋下氏は単純RTした岩上氏をだけを提訴したのか。明らかに不可解だ。傍聴メモから、岩上氏側による橋下氏への尋問中のやり取りを紹介しよう。
岩上側「2011年10月23日の『現代ビジネス』には『橋下徹府知事に追い込まれて自殺した』とあります」
橋下氏「僕に『追い込まれて自殺した』は虚偽ですね」
岩上側「講談社に削除要請はされているのですか。提訴は」
橋下氏「してません。裁判もないです」
岩上側「岩上さんへの対応と講談社への対応が違う」
橋下氏「その記事は2011年のものですよね。僕が政治家時代の話。政治家時代にはいろいろ書かれましたが、公人ですから、よほど限度を超えていたもの以外は法的対応を控えてました」
岩上側「インターネット上で今も公開されていますが、放置するのですか」
橋下氏「しかたがない」
岩上側「仮に岩上さんが『現代ビジネス』の記事をRTしたとしたらどうなりますか」
橋下氏「(その記事は)匿名の関係者に取材するなどしている。問題のツイートとは違う」
二重基準にしか聞こえないが、「政治家を辞めた今となっては私人」であり、「自分はなんの権力ももたない」などと強弁を続ける橋下氏。 念のため事実を補足しておくと、橋下氏は政治家時代に「新潮45」(新潮社)2011年11月号に精神科医でノンフィクション作家の野田正彰氏が寄せた「大阪府知事は『病気』である」という記事に対し名誉毀損で提訴している(2017年2月に最高裁が上告を棄却し、橋下氏の敗訴が確定)。
橋下徹は“リツイートを岩上自身のツイートと勘違い”していたと自ら証言
だが、さらに呆れたのは、提訴のタイミングをめぐって尋問されたときのことだ。橋下氏は自らに関して“名誉毀損に当たりそうなツイートを事務所がリサーチしている”と証言したのである。
岩上側「ネットメディアもチェックしているのですか? そのなかにIWJも含まれていますか」
橋下氏「メディアは全部チェックしているはずです」
岩上側「事務所からの報告というのは、元ツイートが岩上さんにRTされたということの報告?」
橋下氏「いや、岩上氏のツイートとして(報告を受けた)」
岩上側「第三者のRTだということは、実際に見た段階でわかったということですか」
橋下氏「(そのときは)岩上さんのツイートだと思いました」
ようするに、事務所のスタッフに橋下氏に関するツイートを随時チェックさせ、報告を上げさせているというのだ。しかも、橋下氏が言うには、理解しがたいことに、当初はRTではなくツイートだと誤認していたらしいが、もし、単純なRT行為に対して名誉毀損が成立するとすれば、同じRTをした複数のアカウントのなかから恣意的に選ぶことが可能となる。実際に今回、橋下氏はそのようにして岩上氏だけを提訴した。それもRTを削除した後に、だ。
いずれにせよ、批判勢力を吊るし上げ、言論人やメディアを名指しながら罵倒して大衆を煽動するやり方は、もともと橋下氏が政治家時代から繰り返してきた手法である。しかも、橋下氏は「政界引退」を表明した後も、大阪維新の会の法律顧問を務め、安倍首相や菅義偉官房長官と会食を繰り返している。依然として、橋下氏が強い政治的影響力を有しているのは衆目の一致するところだ。
これでは、政治的影響力を持つ人物に対する批判的な報道だけでなく、一般の人々の表現の自由までもが相当に萎縮してしまうだろう。裁判所には慎重な判断を望みたい。
(編集部)
最終更新:2019.04.19 01:03
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