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渡辺謙が東京五輪の東北無視を「復興五輪のはずなのに経済五輪になっている」と批判!桜田発言だけじゃない五輪の人命軽視
渡辺 謙『誰? WHO AM I?』(ブックマン社)
桜田義孝五輪担当相の失言問題は、一転してマスコミ批判の問題へと変わり始めている。「全文を読めば印象が変わる」「マスコミの情報操作だ」などと擁護の声が出ているのだ。
しかし、先日本サイトでも指摘した通り(桜田五輪担当相の池江選手への無神経発言は安倍政権の五輪至上主義が生んだ! 斎藤工主演映画の五輪描写にもクレーム)桜田五輪担当相の失言問題は、単に言葉尻をあげつらっただけのものではない。
桜田五輪担当相による「日本が本当に期待している選手ですから、本当にがっかりしています」「一人リードしてくれる選手がいると、みんなその人につられて全体が盛り上がりますからね。そういった盛り上がりが若干下火にならないか、心配しています」といった、アスリートを単なる「コマ」にしか見ていない発言には、安倍政権のグロテスクな本音が集約されている。
安倍政権はこれまで国民に対し、オリンピックのために自由や財産を捧げさせ、自己犠牲を強いる五輪至上主義を露骨に押し進めてきた。
その最たるものが、東北への仕打ちだろう。招致段階では東日本大震災からの復興をテーマとした「復興五輪」というお題目がつけられていたが、いまではそのテーマは完全に忘れ去られている。
この現状に憤りの声をあげているのが、俳優の渡辺謙だ。渡辺は宮城県気仙沼市でK-portという名前のカフェを開くなど被災地復興活動に力を入れているが、2019年2月11日付朝日新聞DIGITALのインタビューでこのように語っている。
「2020年の東京五輪だって、復興五輪のはずなのに経済五輪になっているところが気になります。日本が復興していく姿を世界に見せていくんだというところに端を発しているはずなのに、経済効果だけを考えるオリンピックになっている気がします。東京だけ盛り上がって、東北が全然そっちのけっていうかね。遠い国の話みたいな感じなんじゃないかなあ」
渡辺の指摘するとおり、招致段階での「復興五輪」というお題目が完全に忘れ去られているだけでなく、経済効果重視と五輪至上主義の結果、「復興五輪」どころか、オリンピックは復興を妨げる原因ともなっている。五輪関連の建設ラッシュなどのせいで労務単価が上がり、東京の工事費は高騰しているからだ。
2015年9月25日付毎日新聞の報道によれば、〈工事原価の水準を示す「建築費指数」(鉄筋コンクリート構造平均)は、05年平均を100とすると今年7月は116.5。東日本大震災前は100を下回っていたが、五輪決定後の13年秋から一気に上昇〉したという。挙げ句、〈復興工事が集中している被被災地では人手不足に加え、建築資材費の高止まりにより採算が合わず、公共工事の入札不調が相次〉いでいるというから、五輪開催がむしろ被災地の復興を妨げているのだ。
渡辺謙と同じく、東北を置いてきぼりにしてオリンピックの盛り上がりに酔いしれる状況に疑問の声をあげているのが明石家さんまだ。
さんまはオリンピックの開催が決まった直後、2013年9月14日放送の『MBSヤングタウン土曜日』で「いや、だからでも、福島のことを考えるとね……」と切り出し、このように語った。
「こないだも『福島から250キロ離れてますから大丈夫です』とかいうオリンピック招致のコメントはどうかと思って、やっぱり。俺までちょっとショックでしたけど、あの言葉はね」
さんまがショックだったと言っているのは、同年9月4日に東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の竹田恒和理事長がブエノスアイレスでの記者会見で語った言葉だ。まるで福島を切り離すかのようなこの暴言に、さんまは「『チーム日本です!』とか言うて、『福島から250離れてます』とか言うのは、どうも納得しないコメントやよね、あれは」と不信感を隠さない。
明石家さんま、有森裕子も東北復興無視する東京五輪を批判
さらに、さんまは、安倍首相はじめ招致に躍起になる人々から“お荷物”扱いを受けていた福島に、こう思いを寄せた。
「福島の漁師の人にインタビューしてはったんですけど、『7年後のことは考えてられへん』と、『俺ら明日のことを考えるのに精一杯や』って言わはったコメントが、すごい重かったですよね。だから、あんまり浮かれて喜ぶのもどうかと思いますけどもね」
東北のことを無視した東京オリンピックに対する怒りの声は、当のアスリートからも出ている。
バルセロナ、アトランタ五輪のメダリストである元マラソン選手の有森裕子氏は、2017年6月17日放送『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)にゲスト出演した際、「あまりにも“オリンピックだからいいだろう”“だからいいだろう”“だからこう決めるんだよ”とあまりに横柄で。なぜこうまで偉そうになっちゃうんだろう。社会とずれる感覚を打ち立てて物事を進めている。横柄だし、雑だし傲慢」と、五輪至上主義を強引に押し付ける政府のあり方に疑問を呈しつつ、このように語っている。
「そもそもなぜ東京五輪を招致したのか。一番大切なのが、復興だったはずです。スポーツによって、日本を元気に変えよう。日本に大きな災害があって、オリンピックを呼ぶことで復興させられるんだと、最たる手本になる国になる。そのつもりで私もブエノスアイレスでロビー活動をしました。でも蓋を開けたら全然いま違う。復興どころか、どこを見ているんだろう。結局何をやろうとしているんだろうというのが正直あります。どこか不安で、反抗したくなるような、やらなきゃいい、返上すればいいという感情を促してしまう。すごく残念です」
「復興五輪」のテーマが完全に忘れ去られているという思いは、東北に暮らす多くの人がもっているものだ。河北新報社とマーケティング・リサーチ会社のマクロミルが、東北6圏と首都圏を対象に実施したアンケートでは、「「復興五輪」の理念は明確か」の質問に63.6%が「明確でない」と答え、また、「復興に役に立つか」の質問にも52%が「役に立たないと思う」と答えている(2018年3月11日付河北新報ONLINE NEWS)。
東京オリンピックは招致以来、安倍政権や利権をもつ大企業の手によって、政治や経済のために利用され尽くしてきた。
コンパクト五輪を目指していたはずが予算はどんどん膨れ上がり、参加者にブラック労働を強いるボランティアの扱いは結局変わらぬまま。また、オリンピックにおけるテロ対策を名目に共謀罪を強行採決させた。一時は、オリンピックを理由に海外ではとっくに時代遅れとなっているサマータイムの導入まで強引に押し進めたのも記憶に新しい。
東京五輪が近づき五輪批判がタブー化するなか、勇気ある渡辺謙の五輪批判
五輪のために、実際に命が失われる事態まで起きている。2017年には、新国立競技場の地盤改良工事で施行管理をしていた23歳の男性が過労自殺している。彼が自殺する1カ月前の時間外労働は200時間を超えていたという。しかも人命に関わる重大事態が起きているにもかかわらず、安倍政権はそれを改善する気もない。今年の4月から残業時間の上限規制が始まるが、安倍政権はそこから運輸と建設への適用を猶予する方針を固めている(これらの業種での上限規制は2024年4月より適用)。この猶予期間が設けられた背景には、東京オリンピックに向けての人手不足を予測した業界による要請があると報じられている。東京オリンピック直前にもなれば、運送や建設の分野でさらにひどい過重労働を強いられる人が出てくる可能性は高いだろう。
さらに、東京オリンピック招致を巡る贈収賄疑惑における、JOCの竹田恒和会長に対するフランス司法当局の調べはいまでも続いている。
しかしその一方で、安倍政権が標榜する五輪至上主義は日本社会の隅々にまで行き渡っており、「オリンピックの悪口を言う奴は国の事業に協力しない非国民」といったムードが漂いつつあり、五輪が近づくごとに「オリンピック批判」のタブー化はますます進行している。
そうした言論状況にあって、今回の渡辺謙の発言は非常に貴重で意義のあるものだ。「芸能人の政治的発言」が批判されがちな日本だが、世界を舞台に活躍する渡辺はこれまでも、政権批判につながる問題にも臆することなく発信してきた。
「核兵器禁止条約」に向けた交渉を2017年にスタートさせる決議に対して日本が反対した際には〈核を持つ国に追従するだけで意見は無いのか。原爆だけでなく原発でも核の恐ろしさを体験したこの国はどこへ行こうとしているのか、何を発信したいのか〉とツイートし、また、安保法制の際にも〈一人も兵士が戦死しないで70年を過ごしてきたこの国。どんな経緯で出来た憲法であれ僕は世界に誇れると思う、戦争はしないんだと!複雑で利害が異なる隣国とも、ポケットに忍ばせた拳や石ころよりも最大の抑止力は友人であることだと思う。その為に僕は世界に友人を増やしたい。絵空事と笑われても〉とつぶやいて戦争反対の思いを明確に発信していた。
今回、渡辺謙が発した「復興五輪」に対する思いは、もっと広く伝わるべきものだ。東北や多くの国民の生活をないがしろにしたまま東京オリンピックが開かれるとするなら、東京オリンピックとは一体なんのためのもの、誰のためのもなのか。現状では、安倍政権と利権をもつ者の、国威発揚と懐を満たすために利用するだけの醜いイベントでしかない。このまま来年の夏を迎えたとして、その後には何が残るのか。
莫大な税金をかけた空虚な大型施設が残されるだけで、何の意味もないものになってしまうだろう。そんなものであれば、東京オリンピックなど開かれないほうがいい。
(編集部)
最終更新:2019.02.17 10:34
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